ストーカー規制法違反に当てはまる?どこからがストーカー行為か

好意を寄せる女性にアプローチしたいと考えた結果、その行動が行き過ぎてしまい「ストーカー行為」として立件されてしまうケースは少なくありません。
「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」は、令和3年に改正され、「つきまとい等」とされる行為の基準がより広くなりました。
今回は、ストーカー行為の定義(ストーカー行為とされる具体例)や、ストーカー規制法違反で逮捕されるケース、逮捕された場合の対処法について解説します。
1.ストーカー行為の定義
ストーカー規制法は、正式名称を「ストーカー行為等の規制に関する法律」と言い、その名の通りストーカー行為を規制する法律です。
では、「ストーカー行為」とは、どのような行為を指すのでしょうか?
ストーカー規制法では、(1)同一の特定の相手(男女問わず)に対して、(2)恋愛感情その他の好意の感情、あるいはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、(3)ストーカー規制法によって定められている「つきまとい等」や「位置情報無承諾取得等」の行為を、(4)反復することを「ストーカー行為」と定義しています(同法2条3項)。
そして、法定された「つきまとい等」の行為をして、相手に「身体の安全が害される」「住居等の平穏が害される」「名誉が害される」「行動の自由が著しく害される」不安を覚えさせてはならないとしています。
また、都道府県公安委員会は、つきまとい等や位置情報無承諾取得等を禁止した同法3条に違反する行為があった場合で、更にこれを繰り返す恐れがある場合には、その行為の禁止等を命ずることなどができます(=禁止命令等)。
以上より、例えば「駅で見つけた誰かしらを無差別に追いかける」など、誰彼かまわずつきまとう行為や、いじめられたことに対する仕返し目的でつきまとう行為はストーカーの対象外です。
ストーカー規制法による規制の対象となる行為については、以下の警視庁のHPに詳しく記載があるため、ご覧ください。
【参考】ストーカー規制法 – 警視庁ホームページ
2.ストーカー行為に該当する具体例
(1) 好意を抱く女性に対して待ち伏せ・つきまといをする行為
- 告白するため行為を寄せる女性の自宅前で繰り返し待ち伏せしていたが、女性は嫌悪感を抱いていた
- 交際相手に別れを告げられた後、「別れたくない」とつきまとい、しつこく復縁を迫った
- 元交際相手の女性に対し、同女性の勤務先周辺を自動車を運転してみだりにうろついた
なお、上記のような行為があっても、女性が情熱的なアプローチだと好意的に捉えていれば、女性には相手の行為に不安を感じていないわけですから、ストーカー行為には該当しないことになります。
(2) 好意の感情から電話やメールなどでしつこく連絡をする行為
- 同級生に「好きです」と告白し、断られても日に何十件もメールをし、無言電話をかけた
- 元交際相手の女性に対し、拒まれたにもかかわらず、SNSのメッセージ機能を利用して、メッセージを連続して送信するなどをした
- 元交際相手の女性に対し、LINEでメッセージ(わいせつな音声メッセージを含む)を5回連続して送信した
- 元保育士の男が、保育所で担当していた女児に会わせるよう、女児の母親に対し、「(女児に)会いたい」というメールを10回以上送信し、電話を200回以上かけた
(3) 怨恨の感情から本人や周囲の人を脅す行為
- 交際の申入れを受け入れてくれなければ女性やその家族に危害を加えると脅し、実際に器物損壊を起こした(反復していたと言えなければ、刑法の脅迫罪及び器物損壊罪が成立します)
- 相手から交際を断わられた腹いせに、相手やその家族を誹謗中傷するチラシをばらまいたり、インターネット上に個人情報をさらすような悪意に満ちた書き込みを何度も行った
(4) その他のストーカー規制法違反行為
この他、以下のような行為も、反復してなされていればストーカー規制法違反となります。
- 好意を寄せる女性の気を引くため、注文していない大量の宅配ピザや高額な商品を何度も女性宅に届けさせ、受け取るように求めた
- 医師の男が、女子高校生のTwitterに16回にわたり、「バス停で見ているよ」「僕のお嫁さんだよ」「県庁バス停にいれば○○に会えるのはわかっている」「○○の家ってここなんだ」「○○ちゃんの行動パターンを知り尽くしてしまった」などと行動を監視しているような書き込みを繰り返した
- 好意を持った知人女性の軽乗用車にGPSを取り付けたり、インターネットサイトに「監視している」という投稿をするなどをした
3.ストーカー規制法違反で逮捕されたらどうなる?
被疑者(加害者)が被害者に対して行なった行為が、例えば脅迫罪や強要罪、住居侵入罪、暴行罪、名誉毀損罪、不同意わいせつ罪などの刑法上の犯罪に該当する場合には、一般の刑事事件として処理されることになります。
ここでは、それらの行為を繰り返し、被疑者がストーカー規制法違反で逮捕された場合について簡単に解説していきます。
(1) 逮捕・勾留
ストーカー事件の場合、被害者の方はほとんどのケースで被疑者の方の連絡先を知っていると思われます。
よって、ストーカー事件で被害届を出された警察がそれを受理し捜査を進めると、ほどなくして被疑者が特定され、警察は検挙に至ります。
ストーカー事件の被疑者は、そのまま放置すれば今後も被害者に対しつきまとい等をするおそれがあると判断されるのが通常です。あるいは、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれがあると判断されることもあるかもしれません。
よって、警察は被疑者を逮捕し、その後の勾留の手続までとられる可能性が高いです。
そうしますと、最大72時間の逮捕に加え、最大20日間の勾留が認められることも考えられます。
ストーカー行為の内容が悪質であり、被害者の処罰感情が強ければ、そのまま起訴されてしまうと考えられます。
ストーカー行為は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。
(2) 被害者との示談交渉
一般の刑事事件であれば、被疑者・被告人の処分結果に最も影響を与えるのが、被害者との示談といえるでしょう。
ストーカー事件の場合も、相手方被害者との示談が大変重要な役割を持ってきます。
しかし、被害者は加害者に恐怖心を抱いており、被疑者と会いたくないと考えます。そのため、当事者同士の示談の成立は極めて難しいことが一般的です。
そもそも、被疑者が被害者との面談を希望することは、それ自体がストーカー行為の再現ですから、拒否されるのは当たり前です。
したがって、弁護士が被疑者の代理人として示談交渉に臨むことが必要です。
ストーカー規制法違反事件の示談交渉は、一般の刑事事件とは異なる配慮が不可欠であり、被疑者の対応はどうあるべきかについては、特にストーカー規制法違反事件に精通している弁護士に委ねるのが望ましいです。
4.ストーカー規制法違反事件もご相談ください
ストーカー規制法違反を犯すと、逮捕されるのみならず、懲役又は罰金に処せられて、前科がつくことになってしまいます。
今後の社会生活上の不利益を避けるためには、弁護士により示談を成立させ、不起訴処分を得ることが望ましいことは言うまでもありません。
ただ、ストーカー規制法違反においては、「起訴を免れた」「刑が軽く済んだ」という結果だけを過大に重視するべきではありません。
と言うのも、ストーカー行為を行ってしまう方には、「被害者は自分に好意を持っている」「自分がこのような行為に及ぶのは、そもそも被害者が悪いから」などの極端な「認知の歪み」が生じている場合が多く、一度刑罰を受けても自己の違法行為を自制できないことが往々にしてあるからです。
その後、最終的に被害者を傷つける、殺害する行為にまで行き着いてしまう悲劇的なケースは珍しくありません。
仮に一度は示談ができて軽い処罰で済んだとしても、カウンセリングにより認知の歪みを矯正するなどの根本的な対策を講じなければ、被害者と加害者の双方にとって破滅的な結末を迎える危険があります。
今、ストーカー規制法違反として立件されてしまったならば、加害者にとっては自己の暴走にブレーキをかけるチャンスです。
被害者との示談を成立させ、今後の対処方法を考えていくためにも、ストーカー行為に関する刑事弁護経験が豊富な泉総合法律事務所の弁護士 泉義孝にご相談・ご依頼ください。