刑事事件解決の流れ
1.逮捕・勾留
(1) 逮捕
「逮捕」とは、被疑者の身柄を拘束し、引き続き短時間の身柄拘束を継続することです。逮捕の時間は最大で72時間です。
警察は、逮捕から48時間以内に検察官に事件を送致します(送検)。
検察官は、被疑者に弁解の機会を与えたうえで、引き続き身柄拘束が必要であるかどうかを検討します。もし身体拘束が必要だと考えた場合には、送致から24時間以内に裁判所に対して「勾留請求」をします。
(2) 勾留
刑事事件で逮捕された場合、引き続き勾留(逮捕に続く身柄拘束)されてしまうことがあります。
被疑者の勾留は、長期に渡り人の身体及び行動の自由を侵害する処分であるため、刑事訴訟法は勾留の要件を厳格に定め、裁判官に慎重な判断を要求しています。
警察官からの送致を受けた検察官が被疑者を取り調べて、「引き続き身柄拘束して取調べをする必要がある」と判断した場合、「勾留請求」を裁判官に対して行います。
そのまま裁判官が勾留決定をすれば、まずは10日間勾留されます。
さらに、勾留の期限を超えてなおやむを得ない事由があると認められて勾留延長されれば、追加で最長10日(合計で最大20日間)勾留され、日常生活から完全に隔離されてしまいます。
「やむを得ない事由」とは、例えば、共犯者が複数いたり、被疑事実や押収した証拠物が多数あったり、被疑者と参考人の供述に食い違いがあったりする場合が考えられます(※最高裁昭和37年7月3日判決)。
逮捕直後から勾留請求までの数日間の留置でも、会社を解雇されることがありえます。まして10日間の勾留となると解雇はほぼ確実と言えます。

[参考記事]
勾留とは?勾留要件・期間・流れ・対応策を解説
2.刑事裁判の流れ
刑事裁判の公判では、以下の手続きの流れを経て結審します。
(1) 冒頭手続
冒頭手続は、公判の開始時に行われる手続きです。
起訴状朗読
検察官が、被告人に対する訴因(罪名と事実)を読み上げます。
起訴状朗読によって、審理の対象・犯罪事実(公訴事実)が明確になります。
黙秘権の告知
裁判長が、被告人に黙秘権を告知します。
被告人は、「終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。」(刑訴法311条1項)とされており、自己に不利益な供述か否かにかかわらず、一切の供述を拒否することが認められています。
人定質問
被告人の氏名、生年月日、住所等の確認をします。
これにより、起訴状に記載された被告人が本人であることを確認し、人違いを防ぐ目的です。
罪状認否
検察官は、起訴事実について間違いがないかを被告人に質問します。被告人は、「間違いありません」「争います」等の認否を行えます。
(2) 冒頭陳述
検察官と弁護人が、それぞれの主張の概要を述べます。
裁判官や裁判員が事件の全体像を把握するために行われる手続きと言えます。
検察官は、起訴事実をどう立証するかの計画を説明します。
弁護人は、争点や弁護方針を明らかにします。この陳述は任意ですが、特に否認事件の場合、公訴事実のどの点について争うのか、という点について陳述します。
(3) 証拠調べ手続
証拠書類・証拠物
証拠調べ手続は公判の中核をなす段階で、事件の真相を明らかにするために様々な証拠を取り調べます。
主な手続きは、証拠書類・証拠物の取調べです。
供述調書、鑑定書、現場写真、凶器等の確認をしますが、ここで証拠の信用性や証明力について双方が争うことも多いです。
証拠調べ手続きは、まず事前に提出された証拠の採否を決定し、通常は検察官立証→弁護人立証の順で進行します。
弁護人は、検察官の証拠に対して、「同意する」「不同意」「異議がある」「必要なし」といった意見を述べます。つまり、犯罪の立証責任は検察官側にあるということです。
次に、弁護人が証拠請求します。証拠請求の内容については、以下のようなものがあります(自白事件の場合)。
- 被害者から取り付けた示談書
- 本人の謝罪文
- 身元引受人になった家族などの上申書、情状証言
証人尋問
証人の出廷・人定確認後に宣誓を行い、主尋問、反対尋問、再主尋問の順で実施されます。
主尋問
証人を申請した側が最初に行う尋問です。つまり、検察側証人であれば検察官が、弁護側証人であれば弁護人が実施します。
証人から自分側に有利な事実を引き出すことが目的となります。主尋問では、「はい」「いいえ」で答えられるような質問ではなく、証人に自由に語らせる必要があります。例えば「被告人を見かけましたか」ではなく「その時何を見ましたか」という形で尋問します。
反対尋問
主尋問に続いて、証人を申請しなかった側が行う尋問です。主尋問で述べられた証言の信用性を弾劾し、自分に有利な事実を引き出すことが目的です。
反対尋問では、具体的で限定的な質問により証人を追及できます。証人の記憶違いや矛盾点を指摘し、「あなたは○○と述べましたが、実際は××だったのではありませんか」といった形で証言の信用性を争います。また、証人の人格や能力に関する事項についても一定の範囲で質問が可能です。
再主尋問
反対尋問で出てきた事項について、証人を申請した側が補充的に行う尋問です。反対尋問で攻撃された証言の信用性を回復させることが主な目的となります。
再主尋問の範囲は反対尋問で取り上げられた事項に限定されており、新たな事実について尋問することはできません。反対尋問で指摘された矛盾について合理的な説明を求めたり、誤解を解く機会を証人に与えたりします。
この後、必要に応じて再反対尋問、さらに裁判官による補充尋問が行われることもあります。
こうして、証人の証言の信用性が多角的に検討され、事実認定の精度が高められる仕組みとなっています。
(4) 被告人質問
すべての立証が終了すると、裁判長が証拠調べの完了を確認して終了を宣言し、次の被告人質問段階へ移行します。
まずは弁護人から、被告人に有利な事情を引き出します。
弁護人からの被告質問が終わると、検察官は検察官の主張を補強する質問を行います。
そして、最後に、争点の解明に必要な事項について、裁判官が被告人に対して質問します。
被告人質問において、被告人の人格や反省の程度なども明らかにされます。
(5) 検察官の論告求刑
被告人質問が終わると、検察官は証拠に基づいて「どの程度の刑を求めるか」を明らかにします(求刑)。
求刑とともに、検察官は犯行の悪質性、被告人の身上、前科前歴、被害状況、反省状況などから、量刑の妥当性などを詳細に論じます。
論告とは、証拠を総合して被告人の有罪性を論証することです。
(6) 弁護人の最終弁論
弁護人が事件や被告人について意見を述べます。弁護人による最後の弁護活動とも言える段階です。
犯罪事実について否認をするのなら、無罪を求める陳述を行います。
自白事件ならば、有罪を前提として、被告人の反省状況、被害回復、社会復帰の可能性等を主張し、刑の軽減を求める弁護を行います。
(7) 被告人の意見陳述
被告人自身が最後に意見を述べる機会です。
よく見られるのは、以下のような陳述です。
- 反省の弁、被害者・遺族への謝罪
- 今後の生活に対する決意表明
- 刑の軽減を求める嘆願
これらについては短時間で簡潔に述べることが基本ですので、事前に弁護人と打ち合わせをするというケースも多いでしょう。
被告人が意見を述べれば、それをもって刑事裁判の審理が終了となります(=結審)。
(8) 判決言い渡し
裁判官(裁判員裁判では裁判員と裁判官の合議)による最終判断として、判決とその理由が述べられます。
言い渡される判決の内容は以下のとおりです。
- 主文:有罪・無罪、刑の種類と重さの宣告
- 理由:認定した事実、適用法条、量刑の理由
- 執行猶予の有無や控訴権についての説明
- 被害者等への配慮事項がある場合はその説明
控訴しないのであれば、これで刑事裁判が終了となります。

[参考記事]
公判請求とは?裁判の流れ、略式請求との違いを解説
3.起訴されたあとの保釈請求
保釈とは、起訴されて身柄を拘束されている被告人に対し、被告人が一定の要件を充足しているときに、裁判所が、住居限定や保証金の納付を条件として、被告人の身柄の拘束を解く制度のことです。
保釈を請求できるのは、被告人本人、家族(配偶者、直系の親族、兄弟姉妹)、弁護人、法定代理人、保佐人です。
保釈制度では、被告人が罪証隠滅したり、逃亡したりするのを防ぐための担保として保釈保証金(保釈金)を納付しなければなりません。
仮に被告人が逃亡を図ったり、証拠隠滅をしたり、その他保釈条件に違反(出頭しない、住居の制限に違反する等)した場合には保釈金は没収されます。
保釈において定められる指定条件の内容としては、以下のようなものが考えられます。
- 制限住所の厳守
- 裁判所への出頭義務
- 逃げ隠れや証拠隠滅を疑われる行為の禁止
- 旅行の際には事前許可を受けること
- 特定の人物への接触禁止
保釈請求が認められれば、一定金額の保釈金を裁判所に納めることで、釈放となり、自宅に戻ることができます。

[参考記事]
保釈をわかりやすく解説|なんのためにするのか?
4.泉総合法律事務所の対応方針
泉総合では、起訴前弁護が極めて重要であると考えています。
起訴前弁護では、被疑者がどうやって供述調書に対応するかについて適切なアドバイスをしたり、被疑者ノートを差し入れて取調状況を記録したりしてもらうことで、公判(刑事裁判)に向けた十分な準備を行います。
当事務所では、この公判に向けた準備こそが大切であると考え、被疑者・被告人との接見に力を入れています。
また、被害者がいる事件の場合、不起訴処分の獲得や、早期の身柄解放を目指すべく、被害者との示談成立も大切です。
この点、当事務所では、早期から示談交渉をスタートさせることで、被疑者・被告人の方に有利な結果を導き出させるよう、全力で弁護活動を行います。