万引きの刑事弁護全般

1.万引きとは?
万引きとは、皆さんご存知のように、スーパーやデパート、コンビニ等の小売商店などから商品代金を払わず無断で持ち出す行為を言います。
このような万引きは、刑法235条、243条により窃盗罪、窃盗未遂罪として処断されます。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
刑法243条
第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条3項の罪の未遂は、罰する。
万引きの手口としては、自動化レジで商品の一部を支払い、残りの未精算の商品とともに店外に持ち出す手口が増えているように思います。
万引きの原因としては、金銭的な事情から換金目的で万引きしたり、自己使用目的で万引きしたりする場合だけではなく、経済的余裕があるものの様々なストレスから万引きをしてしまう場合、万引き行為を悪いことと知りながら自己をコントロールできずに万引きをしてしまう場合(このようなケースを「クレプトマニア(窃盗症)」と言います)などがあります。
クレプトマニア(窃盗症)については、本サイトのコラムで詳しく説明しておりますので、以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]
クレプトマニア(万引き癖)の特徴と治療法
2.万引き行為発覚とその後の流れ、捜査当局の対応
(1) 万引き行為発覚後の流れ
万引き行為の多くは常習的に行われます。これは、初回やその後の数回は警備員などによる検挙を警戒し、周囲に注意しながら万引き行為をすることが通常ですが、その後は犯行態様が大胆となって警備員らに発覚・検挙されるからです。検挙された万引き行為以外に余罪が多数あるケースは多いです。
同じ店舗で複数回万引きし、それが特に高額商品の場合には、被害店舗の店員が高額商品の紛失に気づき、防犯カメラ映像で確認して万引き行為をしている人物を特定します。
高額商品でない場合であっても、防犯カメラ映像から万引きらしい行為があればその人物に注意を払います。
その後、同一人物が来店したら警備員が警戒し、同一人物の動きを監視してその人物の動静を探ります。そして、店舗から出た時点(支払いの意思がないことを確認できた時点)でその人物に声をかけて警備員室に同行し、そこで被害商品の確認し、その人物に対する簡単な事情聴取を行い、警察に通報する流れとなります。警察官が駆け付けて、最寄りの警察署に連行して検挙となります。
警察署に連行となってからですが、警察の取り調べで万引き行為を認めていれば、多くはその日のうちに家族などが身元引受に来て釈放となります。
身元引受人がいない場合、警察は警察車両で被疑者の自宅へ送っていき、そこに住んでいるかどうかを確認して解放となります。
(2) 逮捕、勾留の場合
警備員の目撃証言や防犯カメラ映像などの証拠があるにもかかわらず万引き行為を認めない、つまり否認している場合は、逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れありとして逮捕となります。
逮捕後3日以内に検察官の取り調べがあり、そこでも否認した場合には検察官は裁判所に対して通常10日間の勾留を請求し、裁判所も通常勾留決定します。
否認以外でも、弁護士泉義孝の経験では、「被疑者は犯行を認めているものの、近くに家族がおり、その家族との共犯を警察に疑われた」ケースで被疑者が逮捕され、かつ10日間の勾留となったケースがあります。
また、同様に犯行を認めていた場合で、同一店舗で常習的に複数回万引きをしかつ被害金額が起訴(公判請求)される程度の多額で換金目的が疑われたケースにおいて、逮捕されたケースもあります。
※このケースでは検察官が勾留請求したものの、初犯であることもあって裁判所が勾留請求を却下し釈放されました。
万引きは犯罪の中では重くないと見られるでしょうが、逮捕、さらに勾留されることがあります。絶対に万引きは行わないでください。
3.万引き事案における検察官の処分
検察官は警察から事件の送致(証拠書類や被疑者の身柄の送致)を受けて、逮捕(身柄事件)の場合にはさらに10日間の勾留請求をするか釈放するかを判断します。
検察官が勾留請求した場合には、裁判所が勾留決定をするかどうかを判断・決定します。
逮捕(身柄事件)でなければ、在宅事件として警察から送致された証拠関係(書類送検)を精査して処分を決定します。
(1) 示談取付けによる不起訴の可能性
弁護士が被疑者から弁護依頼を受けて被害者との示談を取り付ければ、多くの場合で不起訴となりますが、同種前科が複数ある場合には示談を取り付けても刑事罰(主として罰金刑)が下される可能性があります。
万引きの場合は、被害者が小売店で、多くは規模の大きい会社でしょうから、示談の取付けは厳しいのが現実です。
もっとも、弁護士泉義孝の経験では、コンビニでフランチャイズ店の場合にはその店舗のオーナーの判断となることが多く、その場合には示談を取り付けられることが多いと言えます。
(2) 起訴(公判請求)の可能性
弁護士泉義孝の経験上、万引きの同種の前歴が複数あって示談を取り付けられない場合でも、被害金額が多額でなく換金目的でもなければ、起訴(公判請求)とはならず、略式起訴による罰金刑となる場合が多いと思います。
では、同種罰金前科1犯の場合はどうでしょうか。被害金額や犯行の悪質性の程度、常習性、換金目的かなどによって異なってきますが、弁護士泉義孝の経験上はもう一度略式起訴による罰金刑が少なからずあると受け止めております。
最近ご依頼の万引き事案では、同種罰金前科1犯で今回も数千円と金額は多くなく換金目的でもなかったので、略式起訴よる罰金刑の可能性があると判断できたものが、大変残念ながら起訴(公判請求)となりました。
ちなみに、本件は初犯であることや犯行の原因となった持病の治療の専念などが評価されて、執行猶予付きの有罪判決となりました。
4.万引き事案における弁護内容
万引きで警察に検挙・立件された場合、その処分を決定するのは警察から事件送致を受けた検察官です。その検察官から不起訴処分を取り付けるには示談を取り付けることが唯一の効果的な弁護方法と言っていいと思います。
もっとも、被害金額が少額で被疑者が十分反省し再犯の可能性がないと検察官が判断した場合には、初犯であれば検察官が起訴猶予処分にしてくれることもあります。
示談ができず検察官が起訴(公判請求)した場合には、犯行の原因が何かを把握して、それに応じて対策(例えば病的なものが原因であれば心療内科などでの治療を進めるなど)し、また、被疑者本人が十分反省していることを証拠化したり、身元引受人となる家族の協力を取り付け実行に移してもらうなどの弁護活動を行います。
クレプトマニアの可能性が疑われる事案では、クレプトマニア専門医による入院治療などを受けて主治医のクレプトマニア専門医による診断書、意見書(鑑定書)を書いてもらうことになります。この場合には多くは入院を要するため公判日程の調整が不可欠となります。
5.終わりに
一般には万引きは重くない犯罪と受け止められ、また、比較的容易に行える犯罪ですが、安易に考えて万引きを行えば、その代償は極めて大きなものがあります。
また、万引き事案は常習性が多い犯罪でもあります。
そこで、刑事弁護は立件された万引き事案の刑罰を軽くする、できれば不起訴にすることだけでなく、万引き事案の再犯防止をどう取り組んでいくのかと言う視点から取り組む必要があります。
その点も念頭に入れて十分対応できる弁護士にご相談・ご依頼されることをお勧めします。