不同意わいせつ罪を否認する場合|冤罪主張と示談のジレンマ
不同意わいせつ罪は、密室など第三者の目の届かない場所での発生が多いです。
同意の有無などをめぐって当事者の言い分が対立した場合、被害者の供述が信用され、加害者とされる者が冤罪に巻き込まれる危険が拭えません。
実際には不同意わいせつ罪にあたる行為をやっていない場合でも、被害者との示談を進めることがあります。
これは、犯行を否認しつつも、身体拘束の長期化・起訴・有罪判決といった現実的な不利益を免れるための一種の妥協策です。
ただ、否認と示談は矛盾する行為ではないか?犯行の自認とならないか?というジレンマもあります。
このコラムでは、身に覚えのない不同意わいせつ罪の嫌疑を受けた場合の対処法、否認しつつ示談することの是非、示談するときの注意点、弁護士の役割などについて解説します。
1.不同意わいせつ罪「やっていない」「冤罪だ」と主張できるか?
(1) 最初から明確に不同意わいせつ罪を否認するべき
不同意わいせつ罪(刑法176条)の嫌疑を受け、任意出頭を要請されたり、逮捕されたりした場合、身に覚えがないならば、当初から「やっていない」「冤罪だ」とハッキリ主張するべきです。
最初に曖昧な供述をすると、後に犯行を否定しても、「一貫性がない供述」「供述が変遷している」として信用されず、起訴や有罪判決に結びついてしまいます。
(2) やっていない不同意わいせつ罪の代表的な例
不同意わいせつ罪を「やっていない」という代表的な例は、次のようなものです。
- 被害者が被害を受けたと主張する日時には、自分は別の場所に居た
- 被害者と同室していたが、わいせつな行為(性的な行為)は一切していない
- 性的な行為に、被害者は積極的に同意していた
- 性的な行為に被害者が積極的な同意を示したわけではないが、不同意わいせつ罪の成立要件である同意しない意思の形成・表明・貫徹を困難とする行為や状況(刑法176条1項柱書、同1号〜8号)は存在しなかった
不同意わいせつ罪を「やっていない」として犯罪の成立を否認するパターンは、他にも様々なものがありますが、いずれにしても、最初から犯罪を否認し、真実を明確に主張することが重要です。
2.冤罪を避けるための正しい取り調べ対応
嫌疑があれば、任意出頭でも、逮捕・勾留でも、被疑者として捜査機関の取り調べを受けます。
その際、主に次の点に注意して対応することが必要です。
- 事実と異なる内容が記載された供述調書への署名・指印は拒否する権利があります
- 読み聞かせられた供述調書の記載内容に事実と異なる点があれば、訂正を要求し、応じないときは署名・指印を拒否します
- 「素直に認めれば、軽い処分で済む」「認めないと、いつまでも出られないぞ」などの言葉を決して信用してはいけません
- 黙秘権の行使が可能です。理由は不要で、有利な事情、不利な事情を問わず、一切の供述を拒むことができます。
- 取調官による威圧的・高圧的な言動、暴力、供述の強要に対しては、黙秘権を行使するとともに、弁護士との面会を要求し、弁護士から違法な取調べに抗議してもらいます
3.やっていない不同意わいせつ罪での示談とは
(1) 示談は罪を認めたことになるのか?
事実の不同意わいせつ罪で逮捕されても、示談が成立すれば、身柄が早期に解放されたり、不起訴となったりする可能性が高くなります。
他方、不同意わいせつ罪をやっていないという場合、「示談することは、罪を認めたことになり、却って不利にならないか?」という疑問を持たれるでしょう。
確かに、不同意わいせつ罪を否認しながら示談をすると、それが罪を認めた間接的な証拠と評価されてしまう場合もあります。
そこで、不利な評価を受けてしまう事案か否かの見極めと、不利な評価を回避する示談の方策をとることが重要です。

[参考記事]
不同意わいせつ罪で示談しないとどうなる?示談を拒否されたら
(2) 示談をするべきではない否認事件
一般論として、不同意わいせつ罪をやっていないのであれば、示談をするべきではありません。
特に、前述したパターンのうち、「1.被害を受けたという日時に、自分は、別の場所に居た」という場合や、「2.被害者と同室していたが、わいせつな行為は一切していない」という場合は、完全な人違いか虚偽の被害申告ですから、むしろ謝罪するべきは被害者側であって、当方から謝罪をする理由がありません。
これらの場合に示談をするのは、自己の主張を撤回するに等しく、決してお勧めできません。
(3) 示談も検討に値する否認事件
他方、「3.性的な行為に対し、被害者は積極的に同意していた」「4.性的な行為に、被害者が積極的な同意を示したわけではないものの、同意しない意思の形成・表明・貫徹を困難とする行為や状況は存在しなかった」という場合は、示談を検討する余地があります。
これらの場合は、少なくとも性的行為の事実はあるのですから、相手が同意していたか否かの真偽はさておき、何らかの不満・不安を感じさせたというなら、その点について謝罪し示談を成立させるのです。
(4) やっていない不同意わいせつ罪における示談書の記載例
示談で最も重要なことは、示談書に(1)被害者側が加害者を宥恕(ゆうじょ=寛大な心で許すの意味)し、(2)被害届や告訴を取り下げることを明記してもらうことです。
これが成功すれば、不起訴処分を得たり、身体拘束期間を短縮できたりする可能性が高くなります。
ただし、この場合の示談書の文言には、工夫が必要です。
最低限必要な条項のみを記載した例を示します。
【示談書(例)】
甲(被害者)と乙(加害者)は、2026年×月×日、東京都〇〇区〇〇1−1−1所在の××ホテル505号室内において、乙が甲の身体に触れた行為(以下、「本件行為」という)につき、本日、次のとおり合意した。
1、乙は本件行為につき、甲に迷惑をかけたことを真摯に反省し、甲に対して謝罪する。
2、乙は、本件行為をめぐる問題の解決金として、乙に対し、金○○万円の支払義務があることを認め、同金員を、本日、甲に対して支払い、甲はこれを受け取った。
3、甲は、乙の謝罪を受け入れ、乙を宥恕し、本件行為に関する被害届および乙に対する刑事告訴を取り下げる。
4、甲と乙は、甲と乙の間には、本示談書に記載された事項以外、何らの債権債務もないことを相互に確認する。
以上
2026年×月×日
甲:住所・氏名(押印)
乙:代理人弁護士 住所・氏名 (押印)
(5) 示談書のポイント・注意点
1 示談の対象となる行為・被害は何か
この例では、加害者乙が被害者甲の身体に性的な行為をおこなったことは事実として認めているので、これを、本件行為(乙が甲の身体に触れた行為)と表現し、この行為を対象として、被害者に「迷惑をかけたことに対する謝罪」と「解決金」を支払う内容としている点がポイントです。
決して、不同意わいせつ罪を行ったと認めた訳ではありません。
2 双方の言い分の対立点を明確に記載するべきか
この点、例えば「乙が甲の身体に触れた行為に対する甲の同意の有無をめぐり、甲は同意を否定し、乙は同意の存在を主張しているが、甲乙は、この紛争を本示談の成立によって解決することに合意した」というように、あえて主張の対立点を明示し、乙が犯行を認めたわけではないことをハッキリさせることを勧める意見もあります。
たしかに、そのような文言の記載を被害者甲が了承してくれるなら、その方が望ましいでしょう。
しかし、このように対立点を明示してしまうと、結局、甲の主張が容れられていないことが際立ってしまい、甲に示談を拒否され、示談交渉が失敗に終わる危険性が高くなってしまいます。
3 宥恕文言を得るために、あえて当方の主張を控える工夫
最も重要なことは、宥恕文言の記載ある示談書を手に入れることですから、例文のように、あえて当方の主張を控えて曖昧な表現にとどめ、拒否されないよう工夫するべきです。このような現実的な対応は、刑事事件の経験が豊富な弁護士であってはじめて可能となります。
なお、対立点を明示しなくとも、例文のように、「乙が甲の身体に触れた行為」としか表現していない場合、不同意わいせつ罪を認めたわけではないことは、法律家(弁護士・検察官・裁判官)であれば、容易に理解できますから心配無用です。
また「解決金」という名目は、「示談金」「慰謝料」「見舞金」でも構いません。「迷惑をかけたこと」という表現も、「不快感を与えた」「精神的被害を与えた」でも構いません。
4.無実を明らかにするための客観的証拠と弁護活動
(1) 検察官の立証責任と不同意わいせつ罪の現実
刑事訴訟では、犯罪事実を立証する責任は検察官にあり、検察官が合理的な疑いを容れない程度に立証できないときは無罪です(憲法31条、刑訴法336条)。
しかし、不同意わいせつ罪の事件は、多くの場合密室で発生し、犯行時の状況を明らかにする動画や目撃証言が存在しません。よって、被害者の供述に重きが置かれやすい傾向があり、「一貫している」「迫真的である」「虚偽を述べる理由がない」などの抽象的な理由付けで信用性が認められ、有罪判決を受けてしまう場合があるのです。
検察官が起訴・不起訴の判断を行う時点でも同じ危険があります。
ただ検察官は、有罪判決の見込みのない事件の起訴はしません。「有罪になるかどうかわからないけれど、一応起訴してみよう」ということはないのです。
嫌疑があっても、有罪をとれるだけの証拠が揃っていないと判断すれば、嫌疑不十分として不起訴処分となります。
そこで、被疑者・被告人側としては、被害者の供述内容の信用性に疑問をもたせる客観的な証拠を集めることが、不起訴処分、無罪判決を勝ち取るために重要となります。
(2) 不起訴・無罪を勝ち取るための客観的証拠の例
例えば、次のような客観的証拠です。
- 犯行現場に居なかったことを示すスマホの位置情報や、別地方に出張中であったことを示すビジネスホテル・新幹線乗車券の領収書など
- 犯行現場のホテルの部屋へ仲睦まじく入室・退室する様子を記録した防犯カメラの映像
- 性的行為への同意を示唆する、事件前後のLINE、SNS、メールのやりとり
事案に応じてどのような証拠を探し集めておく必要があるかを判断し、ただちに収集活動を開始できるのは、刑事事件の弁護人となれる資格を有する弁護士だけです。
5.弁護士への早期相談を
やっていない不同意わいせつ罪の疑いをかけられた場合は、
①取り調べに対抗して否認を貫き
②被害者の供述の信用性を崩す客観的な証拠を集め
③事案によっては、不同意わいせつ罪を否認したままで、被害者との示談を成立させることも検討に値します。
特に逮捕された場合、これら活動を行う期間は逮捕から23日間しかありません。検察官は、逮捕から23日間の期間内に起訴しない限り、釈放しなくてはならないからです。
このため、不起訴処分を得る戦いは短期決戦であり、弁護士の力が必要です。
身に覚えのない不同意わいせつ罪の疑いをかけられた場合は、できだけ早く、弁護士に相談されることをお勧めします。

