国家資格・公務員 [公開日]2020年8月21日[更新日]2025年6月2日

公務員が不祥事を起こし逮捕されたらどうなるのか?

公務員が不祥事を起こし逮捕されたらどうなるのか?

公務員の方が痴漢、盗撮、不同意わいせつなどの刑事事件(不祥事)を起こした場合、「バレて免職になってしまうのでは?」「実名報道をされて職場にいられなくなるのでは?」と心配になる方も多いでしょう。

確かに、公務員の場合は民間企業の従業員以上に社会の風当たりが強いだけでなく、厳格な法律で動いている職場からの制裁を覚悟しなくてはなりません。

今回は、公務員(国家公務員、地方公務員)が刑事事件を起こし逮捕・罰金刑となってしまった場合にどうなるのか、職場を解雇される可能性があるのか等をご説明いたします。

1.公務員が逮捕されたら周囲にバレる?

(1) 職場にすぐにバレる可能性は低い

まず、公務員が刑事事件で逮捕された場合、会社の女子トイレで盗撮をした等、本人が職場で罪を犯したわけではない限りはすぐに職場に知られる可能性は低いです。

ただし、逮捕後に勾留が続き長期間の身体拘束になると、欠勤が多くなるわけですから、知られる可能性も高くなります。
職場に知られないように家族が上手に連絡するなどしても、長期間の欠勤の原因を問われて事件について話さざるを得ないことになるかもしれません。

一方、逮捕されずに在宅事件となった場合には、通常通り出勤することも可能であるため、職場にバレる可能性は低くなります。
罰金刑についても、これが職場に連絡されることはないため、罰金を支払ってしまえば発覚することもないまま事件が終了することもあります。

とはいえ、上記のような身体拘束や、下記で説明する実名報道などにより発覚する可能性もありますので、安直な考えは危険です。

(2) 実名報道のリスクはある

一般に、逮捕されたからといって必ず実名報道が行われるわけではありません。
しかし、公務員の場合、職業柄不祥事があれば報道すべきとする警察の判断があり、報道される可能性は一般の場合よりも高くなります

実名報道がなされた場合には、ご自身だけでなく家族や親戚などにも影響が出ることがあります。
実名報道で近所に犯罪が知れ渡ってしまい嫌がらせを受けるケースや、最近ではネットで住所や電話番号などが特定されてしまい被害を受ける可能性もあります。

このような被害を受けないようにするためには、弁護士に依頼して実名報道を避けるよう関係機関に働きかけることが重要です。

2.公務員の処遇の内容(免職・懲戒など)

公務員が刑事事件を起こした場合、任免権者である国や地方公共団体が取り得る対応は次の4種類です。
まずは、それぞれの処遇の内容を確認していきます。

①失職
②懲戒(懲戒免職を含む)
③分限免職
④休職

なお、刑事事件に対して法的にはどの段階でも懲戒処分が可能です。刑事手続のどの段階で、どのような懲戒処分をするかは、国や地方公共団体の裁量によって決まります。

(1) 失職

失職とは、公務員が「欠格事由」に該当するに至った場合、当然に職員の身分を失うことです。

欠格事由について、国家公務員は「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」は当然に失職すると定めており(国家公務員法76条、同38条1号)、地方公務員も同様です(地方公務員法28条4項、同16条)。

つまり、例えば懲役2年の実刑判決が確定した場合は服役して刑期が終了するまでの間が欠格であり、執行猶予付き判決が確定した場合は執行猶予期間が終了するまでの間が欠格です。

失職は、後に説明する懲戒免職処分や分限免職処分と異なり、任免権者による行政処分として職を奪われるのではなく、当然に離職の効果が生じ、国や地方公共団体の裁量の入る余地はありません。

国家公務員が失職した場合には、退職手当の全部または一部を支給しないことができます(国家公務員退職手当法12条1項2号)。
地方公務員については各条例が定めており、例えば東京都では、国家公務員と同様の規定がおかれています(東京都「職員の退職手当に関する条例」17条1項2号)。

(2) 懲戒

懲戒とは、非違行為のあった職員に対する制裁として行われる処分です。

国家公務員に対する懲戒処分の種類は、①戒告、②減給、③停職、④免職と法定されています(国家公務員法82条1項柱書)。地方公務員も同様です(地方公務員法29条1項)。
各処分の内容は、国家公務員では人事院規則、地方公務員では各条例(例:東京都「職員の懲戒に関する条例」)に定められています。

国家公務員・地方公務員に関する懲戒事由は、次のとおり法定されています(国家公務員法82条1項、地方公務員法29条第1項)。

①国家公務員法もしくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合
②職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合
③国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

(3) 分限免職

分限免職は、任命権者の裁量で「官職に必要な適格性を欠く」と判断した場合に行われるものです(国家公務員法78条、地方公務員法28条)。

本人に対する非難や制裁の性格を有しない処分なので、例えば、病気で職務遂行に堪えない場合や、人員削減の場合も分限免職が行われます(国家公務員法78条各号、地方公務員法28条1項各号)。この場合は退職手当は全額支給されます。

制裁ではないので、公務員が刑事事件を起こした場合には、分限免職にはならないと思うかもしれません。しかし、先述の通り分限免職事由の中には、「その他その官職に必要な適格性を欠く場合」(国家公務員法78条3号、地方公務員法28条1項3号)が規定されているので、刑事事件を起こしたことを理由として分限免職が行われるケースもあります。
刑事手続が起訴や判決に至っていない段階での分限免職処分も許されます。

(4) 休職

休職とは、職員の身分を保持したまま、職員を職務に従事させない処分です。「停職」と類似しますが、停職は制裁としての懲戒処分であるのに対し、休職は制裁の意味を有しない分限処分の一種です。

国家公務員が刑事事件に関して起訴された場合は、その事件が裁判所に係属している間、休職とすることができ、その期間中は無給・減給とされることが原則です(国家公務員法79条2号、80条2項、同4項)。

地方公務員の場合も、刑事事件に関し起訴された場合は休職とすることができ(地方公務員法28条2項2号)、国家公務員の場合と同様の内容が各条例で定められています(例:東京都「職員の分限に関する条例」第4条3項、第5条)。

3.公務員の刑事処分

では、公務員の方が逮捕され、起訴されたり罰金刑を受けたりした時は、上記のうちどのような処分が待っているのでしょうか。
刑事処分についてケース別にどのような処分の可能性があるのかをご説明します。

(1) 逮捕された場合

公務員である方が逮捕された場合、この時点で「職を失うのでは?」と不安になる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、逮捕の時点で失職することはありません。

公務員の場合、失職や休職となるケースについては法律に規定があります。

国家公務員法76条では、「職員が第三十八条各号の一に該当するに至つたときは、人事院規則に定める場合を除いては、当然失職する。」と規定しています。
同法、38条第1号では、刑事事件での例について「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」と定めています。

地方公務員に関しても、地方公務員法16条第2号にて、同様に規定があります。
つまり、逮捕されただけで当然失職となることはないということです。

ただし、逮捕の段階で失職の可能性がないというだけであり、その後の刑事処分次第では失職や懲戒処分の可能性が十分にあります。

(2) 起訴された場合

検察官などの捜査の結果として起訴が決定した場合には、起訴休職となってしまいます(国家公務員法79条第2号、地方公務員法28条2項2号)。
期間としては、起訴された日から判決確定日までとなります。

休職となった間も給料は出ますが、大幅にカット(60%まで支給)されてしまいます。

なお、略式起訴(罰金刑)の場合は、起訴休職になることはありません。
しかし、罰金刑により懲戒処分を受ける可能性はあります。

(3) 有罪判決を受けた場合(執行猶予、罰金を含む)

懲役刑・禁固刑を受けた場合には、欠格による失職となります。

地方公務員の場合は、勤務する都道府県により、「過失かつ執行猶予付き判決」であれば、失職しないケースもあります。例えば、東京都の職員の分限に関する条例8条1項では、情状により失職しないケースもあります。
ただし、失職する都道府県もあるため、地方公務員の場合は場所によって取り扱いが異なると考えるべきです。

罰金刑であった場合は、懲戒処分を受ける可能性があります(国家公務員法82条)。
懲戒処分の種類としては、重い順に、免職(懲戒免職)、停職、減給、戒告とあり、どの処分が下されるかについては犯罪の動機や行為態様、結果、これまでの処分歴・職務態様、他の職員及び社会に与える影響など様々なことが考慮された結果、総合的に判断が下されます。

なお、これに加えて刑事罰も受けることを忘れないようにしましょう。

失職は、「禁錮以上の刑に処せられ」たことが欠格事由ですから、禁錮・懲役・死刑の判決が確定した段階でなければ失職しないことが明らかです。

(4) 不起訴の場合

軽微な犯罪であり、初犯である場合などは、示談成立などにより不起訴の可能性も十分にあります。
しかし、不起訴となった場合でも懲戒処分の可能性は残ります

それぞれの処分については、人事院が国家公務員・地方公務員別に処分例をまとめているため、一部をご紹介します。

  国家公務員(※人事院) 地方公務員(※東京都)
窃盗 停職、免職 停職、免職
横領 停職、免職 停職、免職
傷害 減給、停職 停職、免職
痴漢 減給、停職 停職、免職
盗撮 減給、停職 停職、免職
酒気帯び帯運転 減給、停職、免職 停職、免職

全体的にみて、地方公務員の方が処分が重い傾向にあるようです。特に学校職員の場合は、重い処分が下される傾向にあるようです。

不起訴処分のうちでも、「起訴猶予」は有罪の見込みを前提にあえて起訴しないものですから、任免権者としても、犯罪事実があったものとして懲戒に踏み切る可能性が高いです。
これに対し、不起訴処分の理由が「嫌疑なし」のときは、人違いや犯罪の証拠がない場合ですから、任免権者が懲戒に踏み切る可能性はほとんどありません。

他方、不起訴処分の理由が「嫌疑不十分」の場合は有罪判決を得るに十分な証拠が足りない場合です。しかし、証拠が足りないなら懲戒されることはないと考えることはできません。
刑事裁判で有罪を見込める証拠が足りなくとも、民事訴訟、行政訴訟で犯罪事実があったと証明できる可能性のある証拠があれば、任免権者が懲戒処分に踏み切る可能性もあるわけです。これは理屈のうえでは無罪判決を得た場合も同じです。

また、最終的には不起訴となったとしても、勾留されていれば長期間の身体拘束となります。
逮捕から勾留請求まで3日、勾留決定が続くと最大で20日間家に帰れません。そうなると、職場を休まなければいけないため、生活への影響も大きくなります。

4.刑事事件が職場にバレないようにする方法

刑事事件で逮捕された場合でも、職場にバレなければ処分を受けることはありません。
では、職場にバレないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。

(1) 弁護士に早期に依頼する

まず必要なことは、逮捕されたらできるだけ早い段階で弁護士に依頼することです。

弁護士に依頼することにより、弁護活動を開始することができます。取り調べ時のアドバイスや早期釈放のために尽力することはもちろんですが、実名報道されないような働きかけをすることも弁護活動の一環です。

将来的な処分の可能性をできるだけ避けるためには、弁護士による弁護活動が必須です。

(2) 早期釈放を目指す

逮捕されたら、早期の釈放を目指すのが社会生活復帰に向けて非常に重要です。

早期釈放のために、まず、起こしてしまった犯罪行為に被害者がいる場合にはできるだけ早く示談を成立させることが重要です。

示談が成立すれば、早期釈放や不起訴の可能性も高まるため、職場にバレない可能性も高まります。
逮捕されてしまうとご自身で示談をすることは難しいので、弁護士が代理人として示談交渉を行います。

また、勾留されないことも重要です。
先にお話しした通り、勾留されてしまうと原則として10日間、逮捕から最大で23日間、家に帰ることができません。こうなると、職場になぜ休むのかについて説明が必要になり、そのまま刑事事件が発覚してしまう可能性が出てきます。

このように、公務員の方が不祥事で逮捕されてしまった場合には早期に弁護活動開始が必要です。
早めに動けば、その分職場への影響も回避できる可能性が高まります。

(3) 不起訴を目指す

仮に有罪判決となってしまった場合には「前科」がつき、公務員を失職する可能性が高いといえます。
例外的に失職しないこともありますが、この場合でもキャリアへの影響は避けられないと言えます。

仮に職を失った場合には、次の就職先を探さなければいけません。
しかし、この場合も失職した理由を問われることがあり、内容を伝えるとなかなか就職先が見つからないという問題に直面する可能性はあります。

よって、罰金刑や執行猶予といった減刑を求めるより、まずは不起訴を目指すことが第一です。
痴漢・盗撮・窃盗など、比較的軽微な刑事犯罪の場合は、示談成立により不起訴となり懲戒処分を受けずに済む可能性もあります。

5. 公務員の懲戒処分事例

最後に、公務員に対する懲戒処分の事例をいくつか紹介します(年月は処分発令月)。

なお、懲戒処分では、懲戒処分をするか否か、いかなる処分内容を選択するかにつき、任命権者に裁量があるため、任命権者による不統一が生じることは避けなくてはなりません。

そこで、国家公務員法の場合、人事院が通達によって「懲戒処分の指針」を定めています。これにより、犯罪類型ごとに適用となる懲戒処分の種類が挙げられています。
参考:人事院「懲戒処分の指針について

1:強制わいせつ罪|不起訴で減給
令和元年9月| 国家公務員・男性37歳(減給12月 10分の1)
知人の女性にわいせつな行為を複数回行い、検察庁に「強制わいせつ罪」で書類送致され不起訴処分となった。

2:窃盗罪 停職2ヶ月
平成23年11月| 国家公務員・男性24歳(停職2月間)
某大学校内で、1万9千円相当の革靴を窃取した(刑事処分は不明)。

6.公務員が不祥事で逮捕されたら弁護士に相談を

このように、公務員が不祥事で刑事事件を起こしてしまった場合には、職場に知られるリスク、失職・休職などの懲戒処分、実名報道による被害、キャリアへの影響など、さまざまなデメリットが生じる可能性があります。仮に失職しなかった場合でも、減給処分などがあり生活面で苦労するかもしれません。出世を目指していた方にとっては大きな痛手となります。
公務員の方が刑事事件を起こしてしまった場合は、何よりも、これを「事件化させない」ことが重要です。

不利益を最小限に抑えるために、逮捕されたらできるだけ早く弁護士に依頼する必要があります。

警察の捜査が始まる前に、弁護士が被害者と交渉をして示談を成立させ、被害届や告訴状の提出を思いとどまってもらうことができれば、事件の存在自体を発覚させずに円満に終了させることができます。こうなれば、職場に知られることも懲戒処分を受けることもありません。

また、既に逮捕されてしまった場合でも、示談によって、勾留による長期の身体拘束を阻止し、起訴猶予処分を獲得する可能性が高まり、懲戒処分を受けたとしても、処分を軽くすることが期待できます。
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