刑事弁護・裁判 [更新日]2025年10月17日

依存症が原因の犯罪について|痴漢・盗撮・のぞき・薬物など

依存症が原因の犯罪について|痴漢・盗撮・のぞき・薬物など

寝食を忘れて仕事や趣味などに没頭する人のことを「あの人は依存症だ」などと言うことがありますが、精神疾患としても「依存症」という病名があります。

依存症は、内容によっては正常な社会生活が送れなくなり、犯罪に手を染めるリスクがある病気なので、正しく対処する必要があります。

今回のコラムでは、

  • 依存症とはどのような病気なのか
  • 依存症による犯罪の刑事手続きはどうなるのか
  • 依存症の治療方法

について弁護士が解説します。

1.犯罪を繰り返す原因となる依存症

もともと依存症は、常習的な犯罪などの問題行動への対処法として、精神医学の観点から研究が進められてきました。

現時点でWHOの疾病分類により依存症と定義されているのは、以下の4類型です。

  • 物質依存:「アルコール」「薬物」
  • 行為依存:「ギャンブル」「ゲーム」

さらに、依存症に類似した病態として、以下のものが知られています。

  • 窃盗症(クレプトマニア)
  • 摂食障害
  • 性嗜好障害(性依存症・パラフィリア・窃視症)

これらのうち、刑事事件となることが多い依存症は次のようなものがあります。

(1) 薬物依存

精神に作用する薬物への依存症です。
覚醒剤大麻、あへん、コカイン、シンナー、MDMAなど違法薬物のほか、処方薬や市販薬の中にも依存性があるものがあります。

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(2) 窃盗症(クレプトマニア)

万引きを含む窃盗行為は、一般的に「貧困で物を買うお金がない」「盗む対象となる物が欲しい」等といった合理的な説明のつく単純な動機・理由から行われます。

しかし、クレプトマニアによる万引きは、そのような単純な動機・理由では合理的な説明がつかない犯行です。
クレプトマニアは、万引きなどの窃盗行為の衝動を抑止できず、「スリルを味わいたい」などの理由から反復的に窃盗行為をしてしまう精神疾患です。

万引き行為が犯罪であること、見つかれば刑罰を受けることを理解し、万引きを止めたいと思っているにもかかわらず、万引きをしたいという衝動・欲求を抑えて行動することができないのです。

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(3) 性嗜好障害

通常の性的関係以外の方法によって、性的興奮を得るための行動を繰り返してしまう精神疾患です。
具体的には、痴漢や下着などの窃取、盗視(のぞき)、盗撮などという行動にあらわれます。

痴漢・盗撮

性嗜好障害では、性的衝動のコントロールが効かず、意志に反して痴漢や盗撮をしてしまいます。
痴漢を繰り返している場合でも、痴漢が悪いことだと認識はしており、もう痴漢をするのはやめたい!と考えているのです、

特に「盗撮」は、犯罪行為の中でも特に常習性が高い類型として知られており、再犯率も非常に高くなっています。

窃視(のぞき)

「窃視症」とは、自分が他人から観察されているとは思いもよらない人が衣服を脱ぐ・裸でいる・性行為をするなどの姿を見ることによって、病的な性的興奮を感じる状態をいいます。

窃視症の人は、観察対象と直接話したり、性的な接触を持ったりすることは基本的に求めない反面、隠れた場所からこっそり「覗く」という行為に興奮を覚えます。覗き行為に対する衝動が非常に強く、一種の依存症的な状態に陥っているのです。

以下の要件をいずれも満たす場合には、窃視症と診断されます。

  1. 警戒していない人の裸、衣服を脱ぐ行為または性行為を見ることに関する、強烈な性的空想、衝動または行動が、少なくとも6か月以上反復していること
  2. 性的衝動を実際に行動に移しているか、またはその性的衝動や空想のために、著しい苦痛または対人関係上の困難が生じていること

2.依存症による犯罪の刑事手続き

刑事事件の実務では、犯罪の原因が依存症ということだけで刑事責任が免除されることはなく、通常の刑事手続きの流れ通りに捜査・裁判が行われます。
しかし、適切な刑事弁護を行えば、依存症を主張することで刑が減軽される可能性は十分にあります。

(1) 依存症に責任能力は認められるか

依存症による犯罪では、責任能力が争点化します。
責任能力とは、犯罪行為を非難するために必要とされる能力で、「事物の是非や善悪を判断する能力」と「その判断に従って行動を制御する能力」から判断されます。

精神の障害によってそのいずれかが完全に欠けた状態であれば「心神喪失」として無罪に、いずれかが著しく減退した状態であれば「心神耗弱」として刑が減軽されます(刑法39条)。

しかしながら、実際のところ、裁判所は依存症による心神喪失や心神耗弱を認めない傾向にあると言われています。裁判所は、ちょっとした障害で刑事処罰を免れることがないよう、抑制的な運用をしていると言えます。

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(2) 再犯防止策で量刑が考慮される可能性

裁判所や捜査機関は、依存症についてまったく理解がないわけではありません。
むしろ、依存症であるならば、再犯防止策についてどのように考えて行動しているのかという点が重視される傾向があります。

依存症の方は、刑罰により再犯を抑制することは難しいです。
よって、依存症が原因で繰り返していると思われる場合の量刑判断では、「再犯防止の具体的な取り組みをしているかどうか?」が大きなポイントとなります。

依存症による犯罪は、刑罰ではなく治療という選択肢を積極的に提示することがより重要といえるのです。

もちろん、窃盗などにより被害が生じている場合は、被害弁償や示談を行うことも重要です。
示談したい

3.依存症の治療方法

(1) 薬物療法

一部の依存症では、投薬によって欲求や快感を減退させる治療法があります。
しかし、これはあくまで衝動を抑制する補助的なものであり、依存症を完治させることはできません。

例えば、窃視症は投薬による治療を行うことが一般的です。
窃視症の原因はストレスによる場合も多いため、抗うつ薬の一種である「SSRI」を服用して、ストレスを緩和することで性衝動を抑え込むことを試みます。

また、SSRIの服用の効果が現れず、症状が重度であると判断される場合には、男性ホルモンであるテストステロンの血中濃度を低下させて、性衝動を直接抑え込む薬が処方されるケースもあります(リュープロレリン、酢酸メドロキシプロゲステロンなど)。

効き目の強い薬ほど副作用も強いため、医師と相談しながらどの薬を服用するか決定しましょう。

(2) 心理療法による治療

依存症の治療を専門としている病院では、以下のような心理療法の治療プログラムが準備されています。
薬物療法と並行して心理療法を行うことも有効ですので、詳しくは心療内科の医師に相談してみましょう。

集団精神療法

同じ悩みを抱える人達が集まって、それぞれが抱える問題を話し合い、自分の心の問題点を認識し、これを克服するための方法を模索する治療法です。
同じ悩みを持つ集団で行うことによって、共通する問題を再認識できより良い解決手段を発見できるだけでなく、他の人の克服方法を参考にする、孤独感を解消できるなどの効果があります。

民間の自助グループへ参加することも有効です。

認知行動療法

認知行動療法は、認知のゆがみを正していく治療法です。
依存行動のトリガーとなる認知パターンを認識した上で、別の認知パターンや行動に置き換えて回復を図ります。

例えば、痴漢常習者などの性嗜好障害は、女性に対するゆがんだ認識を持っている例が多いです。

「痴漢をされた女性がじっとしているのは、嫌がっていないからだ」
「むしろ女性も望んでいる」
「露出の多い服装で誘っている」
「満員電車に乗っているほうが悪い」

このような自分の頭の中にある考えが、客観的な事実とは違っていることを認識させて修正していきます。

内観療法

例えば、「母親にしてもらったこと」「母親にしてあげたこと」「母親に迷惑をかけたこと」をじっくりと時間をかけて思い出す作業を継続的に行います。
これにより、自分が大切にされていた存在であること、母親からしてもらうばかりで未熟であること、これまでの自分の行動の問題点を自覚させます。

これは、決して道徳・倫理を押しつけるためのものではなく、自己を客観的に観察し分析してもらうことが目的です。

条件反射療法

例えば、痴漢の常習者は、痴漢をして性的な快感を得られたという経験が積み重なることで、「電車内で女性を見ると痴漢をして快感を得たい欲求が生じる」という「条件反射」が強化されていき、思考や理性で欲求を抑えることができなくなります。
これを治療するには、次のような訓練を行います。

例えば、電車内で女性を見かけたら、「私は、今、痴漢をできない。できないが自分は大丈夫だ。」などと自分で決めたキーワードを発しながら、痴漢ができないように両手のひらをぐっと握りしめるなどの、(自分で決めた)動作を行います。この訓練を何度も繰り返すのです。

これは、電車内で女性を見かけたという状況に対する、「痴漢行為をしたくなる」という条件反射を、「痴漢をできない。大丈夫と言いながら両手のひらを握りしめる行為を行う」という条件反射に置き換えていく作業です。

このような訓練から始まり、最終的には、痴漢をしたくなる欲求それ自体を抑えることを目指します。

(3) カウンセリング

依存症の治療法としては、心理カウンセラー・心療内科医・精神科医などによるカウンセリングも一般的に用いられています。
盗撮等を繰り返してしまう自分の行動に悩んでいるということを専門家に相談して意見を聞くだけでも、気分が楽になって症状が改善することがあります。

なお、カウンセリングを通じて、上記の「認知行動療法」が取られることがあります。
間違った認知に対してカウンセラーが間違いを諭したり、必要に応じて間違った行動に対するペナルティを設定したりして、認知のゆがみを矯正していきます。

(4) 日ごろの習慣を変える

病院での治療プログラム等以外でも、日常生活の習慣を変更することで犯罪を防ぐことは可能です。

例えば、混雑した車両に乗らない、電車やバスに乗ったら両手を挙げる、これらに乗るにしても一人ではなく事情を知る家族・同僚・友達と共に乗るなどの習慣を付けることが挙げられます。

それでも痴漢や盗撮の欲求を抑えられない場合は、可能であれば電車やバスの利用をやめて、自家用車・バイク・自転車などの移動手段を用いるべきです。

4.依存症による犯罪の刑事弁護は泉総合法律事務所へ

性依存症は病院に行って適切な治療を受けることが何より重要ですが、これを自分一人で改善するのは困難です。
実際、ご自身の病的な性向について、実際に事件を起こして逮捕されるまで気がつかないというケースが多々あります。

逮捕をきっかけにして更生を目指すことは非常に大切です。
しかし、実際に逮捕された事件について重い刑事処分を受けてしまうと、社会復帰が遅くなり、その間に溜めたストレスを原因として、再び犯罪に及んでしまうというケースが少なくありません。

もし依存症で逮捕されてしまった場合には、その事件について重い刑事処分を回避するため、一刻も早く弁護士にご相談ください。

弁護士は、被害者との示談や反省文作成のサポートなどを通じて、依頼者に対して寛大な処分が行われるよう、弁護活動に尽力いたします。
刑事弁護に熱心な弁護士であれば、性依存症の改善方法も助言してくれます。

その結果として、検察官や裁判官に反省その他の良い情状が伝われば、不起訴処分執行猶予付き判決などが得られる可能性が高まります。

泉総合法律事務所では、依存症による犯罪を繰り返してしまい、これから更生を目指したいという方を全力でサポートいたします。
逮捕された場合には、すぐに刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。

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