器物損壊の弁護

器物損壊罪とは?

器物損壊罪は、他人の物を損壊させたとき、または傷害させたときに成立する犯罪です(刑法261条)。本罪には他人が所有する「物」すべてが含まれます。動産であると不動産(建造物を除く)であるとを問いません。

「損壊させた」は、単純に何かを壊すという物理的な行為だけでなく、書籍に尿をかけたり、衣服に精液をかけたりといったその物の価値を著しく損なわせる行為についても該当するとされます。
過去、食器に放尿した行為について、食器の効用を喪失させるものだとみなし、器物損壊罪の成立を認めた判例があります。

「傷害させた」は、相手のペットに対する殺傷行為などが典型例です。
しかし、動物を殺傷する行為は、いわゆる動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)違反として、器物損壊罪よりも重く処罰されます。

例えば、殺傷した場合は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金刑(同法44条1項、4項)、動物に外傷が生ずるおそれのある暴行を加えるなどの虐待行為を行った場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金刑(同条2項、4項)に処せられます。

また、殺傷行為だけにとどまらず「池から魚を逃がす」「飼っていた鳥を隠す」といった“動物を逃がす・隠匿する”といった行為も器物損壊罪に当たる可能性があります。

以下のような行為が「器物損壊」にあたります

  • 相手が大切にしていた壺を故意に割った
  • 相手の車の窓ガラスを金属バットで割った
  • 相手が飼っていた犬を逃がした
  • 相手の家の壁に落書きや張り紙をした
  • 店舗の食器にわざと放尿した
  • 他人の土地を掘り起こした

なお、刑法261条の器物損壊罪が成立するのは、258条(公務所で使用、保管中の文書・電磁的記録)、259条(権利義務に関する他人の文書・電磁的記録)、260条(他人の建造物、艦船)に定めた物を壊す行為以外の物を壊す・傷害するケースです。
これらの対象物については、公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄罪、建造物等損壊罪といった別個の犯罪が成立し、261条の器物損壊罪は該当しません。

器物損壊罪の刑罰

器物損壊罪の刑罰は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料(刑法261条)です。

一般的に、器物損害罪の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。

  • 損壊結果の程度(重大か軽微か)
  • 示談の有無、示談金額
  • 被害弁償の有無、被害弁償額
  • 損壊行為の態様(悪質性、計画性など)
  • 損壊行為の動機
  • 被害者側の事情

器物損害は、被害の程度が軽ければ微罪処分・不起訴で済む可能性があります。
微罪処分で済まなかったとしても、初犯であれば公判請求(刑事裁判)になることなく、略式手続での罰金になるケースが多いです。

同種の前科が多数あるような場合には、公判請求されて検察官から懲役を求刑されることがありますが、その場合であってもよほど行為内容が悪質でなければ執行猶予となるでしょう。

ただし、同じ被害者に対して執拗に行為を繰り返していた場合には、その点を重視され厳しく判断されます。

また、この類型の事件には、隣近所とのトラブルが事件の発端となっているケースもあります。そのような場合、仮に示談をせずに不起訴で済んだ場合でも問題の根本は解決してはいないことになり、再度同じようなトラブルに見舞われる可能性があるでしょう。

安易に考えず、弁護士を介して示談交渉し、問題の根を断つべきです。

なお、故意ではなく過失で損壊した場合、器物損壊罪は成立しません。なぜなら、器物損壊罪には過失犯を処罰する規定がないからです。
つまり、器物損壊罪が成立するには、わざと他人の物を壊そうとする“故意”が必要なのです。「ついうっかり壊してしまった」という場合、器物損壊罪が成立することはありません。

また、未遂に終わった場合でも、器物損壊罪は成立しません。器物損壊罪には未遂犯を処罰する規定がないからです。
したがって、実際に物が壊れたなどの結果が発生していないかぎり、器物損壊罪は成立しません。

器物損壊罪の時効

器物損壊罪は被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法264条)。

被害者が告訴できる期間(告訴期間)は、犯人を知った日から6ヶ月です(刑事訴訟法235条本文)。
また、器物損壊罪は3年で公訴時効にかかるため、その期間が経過すると検察官から起訴される可能性はなくなります(刑事訴訟法250条2項6号)。

器物損壊罪の弁護方針

器物損壊罪は、刑法で定められている罪のなかでは、法定刑の範囲を見ても比較的軽微な部類と言えるものです。
しかし、「器物損壊罪は軽い犯罪だ」「逮捕まではされないだろう」というのは誤解です。

前述のとおり、器物損壊は親告罪です。
よって、器物損壊罪では、被害者の方に謝罪し、その物の損害を弁償し、さらには慰謝料を支払うことなどによって示談を成立させ、告訴状を提出しないようにしてもらい(もしくは取り下げてもらう)、検察官に不起訴処分にしてもらうことが重要です。

被害者との示談成立を目指す

器物損壊の示談交渉においては、壊してしまった物の被害弁償を行うことがとても大切になります。

ただ、当事者同士ですと、罪を犯してしまった人と被害者との間に人間関係の問題や感情的対立が生じているケースが多々あります。

たとえば、騒音やゴミ出しの仕方などでトラブルになっていた近隣住民がいて、その腹いせにその方の自転車を壊したり、ペットに危害を加えたりしたようなケースです。
このような場合、お互いに感情的になってしまい、冷静な話し合いが行えない可能性もあるため、示談交渉は経験豊富な弁護士に任せた方が良いでしょう。

示談交渉では、損壊行為に及んでしまったという事の重大さを理解し、深く反省することも大事です。
被害者に対して十分に謝罪すると共に、必要があれば謝罪文や反省文を作成し、被害者、検察官、裁判官にその書面を提出して反省している姿勢をアピールしていきましょう。

→ご相談内容「示談したい

早期釈放を目指す

器物損壊罪の場合、身体拘束を受けることは多くはないでしょう。
しかし、仮に在宅事件とならず被疑者が身柄を拘束された場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を行います。

まず、勾留請求をしないよう検察官に対して要求します。家族の身元引受書、上申書、弁護士意見書を提出して「逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れがないこと」を検察官に訴えることで釈放されることがあります。

それでも勾留請求されてしまった場合には、勾留決定しないよう裁判官に要求します。勾留による被疑者や家族の不利益の重大性を伝えるために、家族の身元引受書、上申書、弁護士意見書を裁判官に提出して働きかけます。
なお、検察官よりも裁判官の方が釈放に前向きなことが多く、否認事件や重大事件以外であれば釈放が実現することが多いといえます。

それでも勾留決定が下されてしまった場合には、勾留決定を取り消してもらうよう裁判官に対して要求する、いわゆる「準抗告」を行います。準抗告では、別の裁判官が勾留決定した場合に、3名の裁判官からなる裁判所に勾留決定の取り消しを求める裁判を提起します。

泉総合法律事務所ではこれまでに、器物損壊事件における勾留阻止、身柄解放の実績が多くありますので、どうぞご安心ください。

→ご相談内容「釈放・保釈してほしい

器物損壊などの刑事事件は泉総合法律事務所へ

器物損壊罪を犯した場合には、民事上の損害賠償責任を負うだけでなく、刑事上の責任も負う可能性もあります。

器物損壊事件だけでなく、泉総合法律事務所は様々な刑事弁護経験・示談交渉経験が豊富で、事務所の弁護士全員が積極的に刑事事件の弁護に取り組んでおります。示談交渉は早期の着手が重要となりますので、お早めに泉総合法律事務所にご相談ください。