刑事弁護・裁判 [公開日]2017年10月24日[更新日]2025年6月24日

自首のやり方と成立要件|出頭との違い

自首のやり方と成立要件|出頭との違い

痴漢や盗撮、万引きなどの犯罪行為をしてしまい、犯行現場からは上手く逃げ切ったとします。
しかし、後から「防犯カメラの映像でバレるのでは」と不安になり、自ら警察に出頭する(自首する)べきかどうか悩むという方は少なくありません。

実際、自首をすることで刑が減軽される可能性は高いです(刑法42条)し、自首により証拠隠滅や逃走の可能性がないと判断されることで逮捕・勾留などの身体的拘束を免れる可能性もあります。
しかし、そもそも自首をしなければ捕まらない可能性もあります。そう考えれば、なかなか自首に踏み切れない方も多いでしょう。

最終的にはご自分で厳しい決断をしていただくことになりますが、その前に、自首・出頭するべきかどうかを刑事弁護の専門家である弁護士に相談してみることも考えてみてください。
また、自首・出頭の際、弁護士に警察へ同行してもらうことも大きなメリットをもたらすので、こちらもご検討ください。

今回は、刑事事件の「自首」について、刑事事件に詳しい弁護士が解説いたします。

1.自首とは?

(1) 自首の成立要件

自首とは、捜査機関が犯人を把握していない段階で、犯人が自ら警察や検察に犯罪を申告し、処罰を求めることを言います(刑法42条1項)。

つまり、自首が成立するためには、「まだ捜査機関に発覚していない」ことが必要です。これには、「犯罪事実が警察・検察などに全く発覚していない場合」だけではなく、「犯罪事実は発覚しているけれど、犯人が誰であるかが発覚していない場合」も含みます。

しかし、犯罪事実及び犯人が誰かは発覚していて、単に犯人の所在だけが不明な場合は含まれないとされています(最高裁判所昭和24年5月14日判決)。

反対に、自分が罪を犯したことが既に発覚しており、手配されている状態で警察に行っても「自首」は成立しません。

なお、申告の方法は、犯人自身がしても他人を介してもよいとされています(最高裁判所昭和23年2月18日判決)。
また、捜査機関に電話をして申告することも可能ですが、申告後は指示に従う必要があります(その場で待つ、警察署へ行くなど)。

【申告内容に嘘が含まれていたら自首が認められるか?】
では、自首の申告内容に虚偽があった場合、自主の扱いはどうなるのでしょうか?これについては以下のような判例があります。
犯人Aは、けん銃と実弾を所持し、そのけん銃を暴力団事務所に向かって発砲しました。これらはいずれも、銃砲刀剣類所持等取締法違反となる犯罪ですが、Aは発覚前に自ら警察にその事実を申告しました。ところが、Aが警察に持参したけん銃は、犯行に使用した物とは別のけん銃で、そのけん銃を使用したと虚偽の事実を述べていました。
このため裁判では、虚偽内容を含むAの申告が自首にあたるかどうかが問題となり、高裁は自首にあたらないとしました。
しかし、最高裁は、捜査機関に発覚する前に自己の犯罪事実を捜査機関に申告している以上、虚偽の事実が含まれていても、それは自首にあたると判断しました。(最高裁判所平成13年2月9日判決

(2) 自首の効果

刑法42条
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる

自首が成立しても、実際に減軽されるかどうかは裁判官の裁量次第です。

ただし、犯罪によっては自首が成立したときには、必ず刑を減軽しなくてはならないとされるものもあります。例えば、身代金目的の誘拐は、その準備を行っただけで身代金目的略取等予備罪として2年以下の懲役刑となりますが、実行する前に自首した場合には、必ず刑の減軽または刑の免除を受けることができるとされています(刑法228条の3、225条の2第1項)。

自首で刑が減軽され得る理由としては、自首している犯人は反省していると考えられることや、自首減軽の制度を作ることによって自首を促し、犯罪捜査と処罰の負担を軽減することなどが指摘されています。

2.自首と出頭の違い

「出頭」は、誰かが捜査機関に身を運ぶ物理的な行動を意味するだけの言葉です。
犯行の被害者や目撃者が事情を聴取されるために捜査機関に呼び出されて出向くことも「出頭」であり、犯人に限りません。

自首と出頭の第一の違いは、捜査機関に赴くことの要否です。

出頭とは、物理的に捜査機関に赴くことを指します。
これに対し自首は、必ずしも物理的に捜査機関へ赴く必要はありません。書面の提出や、他人を介しての申告でも自首と認められます。

第二の違いは、犯人特定の有無です。自己が犯人であることが特定されていたら単なる「出頭」です。

第三の違いは、法律上の刑罰の減軽事由であるか否かです。

前述のとおり、自首が成立したら刑の減軽を受けられる可能性があることが法定されています。
これに対し、出頭は減軽事由として法定されているわけではありません。

ただ、自首により減軽するかどうかは(特別な規定がない限り)裁判官の裁量です。裁判官は、形式的な自首の成立だけでなく、自首の動機も含め、情状に関する事実の全体を考慮して判断しますから、必ず罪が軽くなるわけではありません。

他方、単なる出頭でも、有利な事情として酌量減軽(刑法66条)の判断要素のひとつとなりますし、酌量減軽が認められない場合でも、最終的な量刑にあたって刑を軽くする方向に考慮してもらえる場合があります。

したがって、裁判官の裁量によって罪を軽くする方向に作用する可能性がある事実という点では、自首も出頭も同じと言えます。

3.自首のやり方と流れ

では、自首をした後は具体的にどのように事件が進んでいくのでしょうか。

(1) 自首前の準備

身一つで捜査機関に犯罪を申告し処分を求めに行っても、自首自体は成立します。

しかし、その日のうちに逮捕されることも考えられるので、周囲への事前の連絡や身の回りのもの・お金を準備する必要があります(警察署の留置場では食べ物や筆記用具、ノート、書籍など買い物ができるので現金を持参することをお勧めします)。

(2) 任意の取り調べをうける

自首をしても、即時逮捕されることはありません。
なぜなら、自首の場合は捜査機関に事件や犯人が「発覚する前」に警察に行っているわけですから、警察としても、「そのような犯罪が実際起こったのかどうか」「その人が本当に犯人なのか」ということについて、ある程度裏付けをとらなければ逮捕状を裁判所に請求できないからです。

そこで、自首を受けた警察は、まず、任意の取り調べに入ります(ここで捜査機関は「自首調書」を作成します)。

(3) 逮捕もしくは在宅捜査となる

裁判所は、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(特定の犯罪行為を行ったという客観的かつ合理的な嫌疑があるということ)及び「逮捕の必要性」(逃亡や証拠隠滅の恐れなど)がある場合に逮捕状を発行します。

取り調べの結果、逮捕の要件を満たした場合には、その日のうちに逮捕される可能性があります。
しかし、証拠が不十分で裏付けなどの捜査に日にちがかかる場合には、すぐに逮捕状が請求できないので、身柄拘束されずにその日は帰宅することになります。

その後の警察の捜査により逮捕の要件が揃えば、警察が逮捕状を取得して逮捕になります。

なお、軽微な犯罪で逮捕(身体拘束)の必要性がないと判断されれば、在宅事件のまま刑事手続が進むこともあります。

逮捕された後の刑事手続きの流れは、通常の手続きと同じです。
刑事事件解決の流れ

4.自首をするメリット・デメリット

(1) 自首のメリット

突然逮捕されずに済む可能性を高める

自首すると、当然のことではありますが、突然逮捕されずに済む可能性が高くなります。

自首した犯人は、逃亡や証拠隠滅の恐れが薄いと判断されて、逮捕や勾留による身体拘束を回避できる可能性があります。

仮に身柄拘束が避けられないとしても、いきなり警察に逮捕されて家族や職場に大きな心配と迷惑をかけることは避けるべきですから、きちんと家族や上司に事情を説明した上で、自分から自首した方がメリットが大きいこともあります。

刑の任意的軽減事由である

自首が成立する場合には、裁判になったときに大きく刑を減軽してもらえる可能性があります。具体的な減軽の基準は以下の通りとなっています(刑法68条)。

  • 死刑を減軽するときは、無期の懲役もしくは禁固又は10年以上の懲役若しくは禁固とする
  • 無期の懲役又は禁固を減軽するときは、7年以上の有期又は禁固とする
  • 有期の懲役又は禁固を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる
  • 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額(下限として定められている金額)の2分の1を減ずる
  • 拘留を減軽するときは、その長期の2分の1を減ずる
  • 科料を減軽するときは、その多額の2分の1を減ずる

このように刑の減軽とは、法定刑の内容や上限・下限を減じるものですが、死刑、懲役や罰金、拘留、科料、すべての刑において、相当な減軽を受けることができることがわかります。
また、酌量減軽が認められない場合でも、法定刑の範囲内で、裁判官が最終的な刑期や金額を決める際に、自発的な出頭を評価して、月数や金額を少し削ってくれるケースもあります。

しかし、条文による「自首」の効果は、減刑は任意的、つまり裁判官や裁判員の判断にゆだねられるということです。
実際、自首に該当したとしても、自首を理由に刑を減軽することが相当とは言えないとして、最終的には刑を減軽しなかった判例もあります。

しかし、例外的に自首が必要的な刑の免除になっている犯罪もあります(内乱罪・私戦予備及び陰謀罪など)。

有利な情状となる

自首したという事実は、情状においても考慮されます。
「情状」とは、有罪であると認定された被告人に対して、起訴・不起訴の判断や刑罰を決める際に考慮される一切の事情です。

情状には、犯罪の軽重、犯行の手段や方法、結果、社会的影響、動機、年齢、過去の境遇、普段の行状、前科前歴、反省の有無、謝罪や被害弁償の有無など多数の要素が含まれますが、「自首した」という事実は、反省していることを裏付ける行動としてよい情状となるでしょう。

なお、自首が成立せず「自ら出頭した」という場合であっても、やはり反省していることを裏付ける行動として、よい情状として考慮される可能性は高くなります。

量刑以外にも、身柄拘束されずに在宅捜査となったり、起訴後に保釈が認められやすくなったりするなどの効果が見込める場合もあります。犯人の情状が良ければ、あえて起訴せずに不起訴処分で済ませることもあります。

気持ちが楽になる

罪を犯して逃げている場合、気分的にはとても暗くなるものです。

まだ犯罪が発覚していなくても「いつバレるのだろう」と不安になりながら生活しなければなりません。何かあったらすぐに転居を繰り返して、逃げ続ける状態が続きます。犯罪を犯したことを後悔しながら一生を過ごすことになるかもしれません。
このような状態で生活していくのはとても辛いものです。

自首・出頭したら、このような張り詰めた生活から解放されます。たとえ留置所や刑務所に行くことになっても、ずっと気が楽でしょう。

(2) 自首のデメリット

確実に刑事処分を受ける

自首をすると確実に刑事手続のレールに乗り、処分を受ける可能性が現実化することになります。

自首をしたからといって、逮捕されない(身体拘束をされない)・不起訴になるとは限りませんので、これを目的として自首することにはリスクがあります。

なお、「ずっと逃げ続けていたら、時効が成立するのでは?」と考える方もいるかと思います。
ただ、日本の捜査機関は非常に優秀です。特に重大事件の場合、かなり高い検挙率を誇ります。捜査機関の手を逃れて何年もの間逃げ続け、確実に刑事時効を迎えるのは相当困難です。

5.自首時に弁護士が同行するメリット

(1) スムーズに自首ができる

弁護士が自首同行の依頼を受けると、弁護士が上申書を作成して捜査機関に提出します。
これによって、捜査機関は申告される犯行の概要を把握することが可能となり、自首当日の取り調べ時間を短縮できるだけでなく、自首したという事実の証拠として後に利用できます。

なお、上申書を自分で作成することはおすすめできません。不用意な記載が不利に作用する危険がありますし、自首するからといって必要以上に不利な事実や証拠を相手に与えるべきではないからです。

弁護士に相談して、簡にして要を得た書面を作成してもらうべきです。

さらに言えば、弁護士が一緒なら、捜査機関に出頭したときに取り調べ等において不当な扱いを受ける可能性も低くなります。そのようなことがあったら弁護士が抗議をするからです。

(2) 処分を軽くしてもらえる可能性が高くなる

また、上申書とは別に、弁護士の立場から捜査機関に対し、処罰を軽くするよう求める意見書も作成して提出します。このことにより、自分1人で自首するよりも、処分を軽くしてもらえる可能性が高くなります。

うまくいけば、逮捕・勾留されずに在宅捜査となり、そのまま家に帰してもらえる可能性も出てきます。

(3) 仮に逮捕されてもすぐに面会できる

自首すれば、そのまま逮捕されてしまう可能性も考慮しておかなくてはなりません。

逮捕中は家族であっても面会できませんが、自首時に弁護士に同行してもらっていれば、逮捕状が執行された後、時間をおかずに弁護士が面会することが可能です。

6.まとめ

罪を犯してしまい、いつ発覚するかと怯えているならば、自首をした方が良いケースもあります。
しかし、自首ではなくまずは被害者と示談をするべき事案もあります。

痴漢や盗撮などの性犯罪や暴力事件などは、示談が成立することにより被害届が出されずに終わることもあります。

そもそも自首すべき案件なのか、示談をするべき案件なのかは、一度弁護士に相談した方が良いでしょう。

泉総合法律事務所では、刑事事件に非常に力を入れており、警察に逮捕された後の対応・被害者との示談交渉も万全の体制で執り行っております。
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