万引きがバレなかった場合でも警察に後日逮捕される?

万引きは軽微な犯罪と思われがちで、誰もが出来心で手をつけやすいということもあり、非常に発生率の高い刑事犯罪の1つです。
また、「被害届を出しても、警察は軽微な万引き事件を取り扱わない」「捜査したとしても、万引き犯を現行犯以外では逮捕することはできない」と言われることがあるようです。
しかし、万引きがバレなかったからといって油断してはいけません。
万引きは、現行犯以外で逮捕(後日逮捕)されることもあり得ます。
本コラムでは、万引きが発覚する理由と、万引きで逮捕された場合の正しい対応方法について解説します。
1.警察は万引きを捜査しないって本当?
万引きは犯罪です。万引きの罪は、刑法235条の窃盗罪で処罰されます。
刑法第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
コンビニでおにぎり1つ盗んでも、宝石店でダイヤの指輪1つ盗んでも「財物を窃取した」ことに変わりありませんので、両者ともに窃盗罪が成立します。10年以下の懲役とあるように、万引きは長期にわたり刑務所に入る可能性のある犯罪です。「万引きなんて軽い犯罪だ」と考えるべきではありません。
とは言え、「警察は万引きを捜査しない」とよく言われます。
これは、実際は「捜査しない」ではなく「捜査できない」といった方が適切です。
その理由は、犯人を特定する証拠が残りにくいという事情や、発生件数の多さ、警察組織の人的限界のためです。
警察が認知する事件は、年に90~100万件と言われます。
このような膨大な数の事件があれば、全ての犯罪を捜査することは不可能で、認知した事件のうち優先順位が高いものから捜査を行うことになります。
万引きは比較的軽微な犯罪と判断されていますので、結果として警察は万引き事件について思うように操作できないのです。
2.万引きがバレて逮捕される場合
そうは言っても、万引きはバレなかったら大丈夫、というわけではありません。
万引きで逮捕されることが最も多いのは現行犯逮捕ですが、事案によっては後日の逮捕が行われる可能性もあります。
(1) 現行犯逮捕
現行犯逮捕についての規定は以下のようになっています。
刑事訴訟法第212条1項
現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
例えば、お店で物を鞄に入れた瞬間に他の客に取り押さえられた場合や、レジで一部の商品だけを会計した後に万引きGメン等から声を掛けられた場合には、現行犯逮捕が成立します。
現行犯逮捕は、後述する通常逮捕と異なり、一般の方でも行うことが可能です。
また、以下の場合には、現行犯に準じるものとして現行犯逮捕されます(準現行犯逮捕)。
第212条2項
左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
1号「犯人として追呼されているとき。」
2号「贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。」
3号「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。」
4号「誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。」
※贓物とは窃盗など財産犯罪の被害品です。誰何とは呼びとがめられることです。
例えば、万引きして店舗から出たけれど、気づいた店員に追いかけられ、走って逃げたが捕まってしまったという場合、準現行犯逮捕が行われます。
(2) 通常逮捕
通常逮捕とは、警察官・検察官が裁判官に令状を請求して行う逮捕です。
現行犯逮捕とは異なり、私人による通常逮捕は不可能です。また、捜査機関が勝手に被疑者を逮捕できるわけではなく、あらかじめ裁判官の審査を受け、逮捕状を発行してもらう必要があります。
通常逮捕されるのは、万引きした後に防犯カメラの映像から犯行が発覚した場合や、店員や目撃者等の証言により身元が割れた場合、万引きが発覚した時点で現行犯逮捕はされなかったが後に逮捕の必要性が生じた場合(被疑者が捜査に非協力的、逃亡・罪証隠滅のおそれがある等)などです。
(3) 万引きの通常逮捕は難しい?
上記の通り、万引きは現行犯以外で逮捕されない、というのは誤りです。しかし、万引きは現行犯以外での逮捕が難しいというのは事実です。
犯罪捜査でもっとも難しいのは、「その犯行が誰によるものか」を裏付ける証拠の発見・収集です。
例えば殺人事件では、刺し傷のある死体という被害事実の証拠があると、現場に残された凶器の指紋、犯人の衣服の繊維、唾液や毛髪等からわかるDNA、そして怨恨などの人間関係から、殺人という犯行を行った者を特定することができます。
これに対し、レジを通っていないのに棚から消失している商品があれば、万引きにあったという被害の事実は判明しますが、万引きの犯人が誰であるかがわかる証拠が残ることは通常はありません。
店側の防犯ビデオに犯行の状況や犯人の容姿が記録されているケースもありますが、その場合でも、通常は、犯人の名前や住所を特定できるわけではありませんから、犯人を捜し出すことができないのです。
このように、万引きの事実が発覚しても、犯行がいつ行われたのかが分からりづらく、犯人を特定するに足りる証拠も残らないため、基本的に犯人を割り出すことが困難です。
そのため、万引きは現行犯以外での逮捕が難しいとされるのです。
3.万引きで逮捕・勾留されるのを防ぐには
とは言え、繰り返しますが、万引きをしてその場で現行犯逮捕されなかったとしても、後に名前や住所が割れ、逮捕の必要性(逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがある場合)があると判断された場合には、警察がやってきて通常逮捕される可能性があります。
これは犯行から1週間後の場合もあれば、1ヵ月後、1年後の場合もあります。検挙までの期間は一概に言えないと考えましょう。
(1) 逮捕・勾留の影響
逮捕されると、微罪処分(事件が軽微の場合に警察官が被疑者をすぐに釈放すること)の場合を除き、2~3日間の身体拘束がなされます。その期間は仕事や学校に行くことができません。
逮捕後は、72時間以内に検察官へと身柄が送致されます。検察官は罪状を確認し、24時間以内に裁判官へと勾留請求(長期の身体拘束)をするかどうかを決定します。
勾留請求をしてこれが認められると、更に最大で20日の身体拘束(=勾留)が続きます。
万引きでは、逮捕に続く勾留をされるケースは少ないです。
しかし、被害額が甚大であったり、何度も万引きを繰り返していたりすれば、勾留となる可能性もあります。
検察官は、勾留期間中に被疑者を起訴処分にするか不起訴処分にするかを決めます。起訴された場合、保釈されなければ身体拘束(起訴後の勾留)が続く可能性があります。
勾留されず釈放となった場合も捜査は続けられて起訴・不起訴の判断が下りますが、在宅事件の場合は判断までの期間は定められていません。
起訴をされて裁判で有罪判決が出されると、前科がついてしまい将来的に様々な不利益を受けます。
(2) 万引きによる逮捕・勾留を防ぐ方法
万引きによる逮捕・勾留・起訴を防ぐには、被害者との間で「示談」を成立させることが重要です。
示談とは、被疑者と被害者が行うもので、被害額等を弁償して犯行事実を許してもらうものです。
逮捕以前に被害者との示談が成立していると、被疑者の身体を拘束して取調べ等の捜査を行う必要性がないとされる可能性が高まります。
これは逮捕・勾留されてしまった被疑者にも言えることで、勾留期間中に弁護士などに示談交渉を依頼すれば、示談成立により早期釈放となる可能性が極めて高くなります。
さらに、示談が成立すると、検察官が被疑者を起訴する可能性が低くなります。検察官は諸般の事情(初犯か、余罪はあるか、被害金額はどのくらいか、被疑者は反省しているか、被害者の処罰感情はどのようなものか等)を考慮して起訴するか否かの判断をするのですが、示談の成立という事実を被疑者に有利な事実として考慮してくれます。
もっとも、これまでに何度も万引で検挙され、罰金刑も複数科されているなどの場合は、罪状が悪質であるため仮に示談しても起訴の可能性があります。
逮捕・勾留を免れる手段として、示談以外に自首があります。逮捕・勾留は逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがある場合に行われるのですが、自ら進んで犯罪を明らかにし、上記恐れがないことを示すことで、逮捕・拘留されるのを防ぐことが可能になります。しかし、自首=逮捕・勾留されないというわけではなく、捜査機関は様々な事情を考慮して逮捕・勾留の判断をします。
もっとも、自首したという事実は、被疑者に有利な事情として考慮してくれます。
4.まとめ
万引きがバレなかったとしても、後日に通常逮捕される可能性がある以上は、早期に対応を考えるべきです。
この時、店舗側(被害者)との示談を成立できるか否が、逮捕・勾留や刑事処分などについて重大な分岐点となります。
そのため、万引きの示談交渉を考えているならば、法律のプロである弁護士に示談交渉を依頼すべきです。
刑事事件はスピードが重要と言われるように、示談の成立が遅れるにつれて、起訴され有罪になる可能性が高まります。
早期に適切な方法で示談を成立させるために、弁護士に示談の依頼をするのがベストです。
万引きをして逮捕されるか不安に思っている方は、お早めに示談経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士・泉義孝にご相談ください。