教員(教師)が盗撮で逮捕された場合のリスクと対処法

教員が盗撮(特に、しかも自分の職場である学校の女子トイレや更衣室などにカメラを設置するなど)したことが発覚し、逮捕されるケースは跡を絶ちません。
教員が盗撮で逮捕された場合、仕事や教員免許はどうなるのでしょうか?また、保護者に知られたり、実名報道されたりする危険はどの程度あるのでしょうか?
この記事では、教員(教師)が学校での盗撮で逮捕された場合に生じるリスクと、その対処法を説明します。
1.盗撮は何罪?
盗撮は「性的姿態等撮影罪(=撮影罪)」として処罰されます。
刑法には盗撮罪という犯罪は存在せず、過去には都道府県ごとの迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反で処罰が決定していましたが、2023年に「性的姿態撮影等処罰法」が施行され撮影罪として厳罰化したことになります。
撮影罪の刑罰は、「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」です。
この法律では、「正当な理由がないのに、ひそかに、性的姿態等のうち、人が通常衣服を着けている場所において(不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたものを)撮影する行為」が、未遂も含めて処罰されます。
同法の禁止する盗撮行為の典型は、「座っている女性のスカートの中の下着を撮影しようとする行為ないし撮影しようとした未遂行為」「女性用更衣室や女性用トイレにスマートフォンや小型デジカメなどを設置して女性の下着姿を撮影する行為ないし撮影しようとした未遂行為」です。
学校も盗撮行為が禁止されている場所のひとつです。
また、実際に撮影を完了していなくとも、撮影のためにカメラなどの撮影機器を人に差し向ける行為や機器を設置する行為も禁止対象ですので、学校の部室、更衣室、トイレなどにカメラを仕掛けた場合は、それだけで違法となります。
これに対して、およそ女性の下着姿以外の女性(正確には男女問いません)を無断で撮影しようとする行為は、各都道府県の迷惑行為防止条例で禁止されています。東京都の場合は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」があります。
とはいえ、盗撮行為のほとんどは女性の下着を撮影するものですから、性的姿態撮影等処罰法に違反し撮影罪に問われることになります。

[参考記事]
「盗撮」とはどこから?カメラを向けた、設置しただけで犯罪なのか
2.盗撮で解雇されるケース
では、教師による盗撮が発覚した場合、職場である学校を解雇されてしまうのでしょうか?
(1) 盗撮で「禁錮以上の刑」に処せられたとき
盗撮で「禁錮以上の刑」に処せられた者は、校長及び教員となることはできません(学校教育法第9条1項)。
「禁錮以上の刑」とは禁錮刑、懲役刑、死刑を指します。
「処せられた」とは、懲役刑の有罪判決を受け、その判決が確定した場合です。
したがって、たとえ執行猶予付き判決で実際には刑務所で服役しないで済んだとしても、実刑判決が確定した以上、校長及び教員となることはできません(教員免許は失効します)。
公立学校では当然に失職し、私立では解雇事由(懲戒解雇事由・普通解雇事由)となります。
(2) 盗撮で不起訴・罰金刑になったとき
では「禁錮以上の刑」に処せられたとき以外の場合、すなわち①起訴猶予となった(不起訴)場合、②罰金刑となった場合は、どうなるのでしょうか?
公立学校と私立学校に分けて説明します。
①公立学校
東京都の公立学校を例にとりましょう。
地方公務員法では、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」に、懲戒処分として「戒告」「減給」「停職」「免職」をなしうると定めています(地方公務員法29条1項3号)。
これを受けて、東京都教育委員会では、「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」を定めて、懲戒処分の基準を明らかにしています。
これによると、「痴漢行為・盗撮等の迷惑防止条例違反」は「免職」が標準とされています。
懲戒処分の内容は、最終的には個別事情に応じて総合判断される建前となっていますが、盗撮の場合、もっとも重い「免職」が原則扱いとなっているのです。
公立学校の教員が懲戒免職となった場合は、同時に教員免許も失効します(教育職員免許法10条1項2号)。
なお、懲戒処分と刑事処分はまったく別個の手続ですから、教育委員会は盗撮の捜査や裁判が継続中で判決の結論が出ていない間であっても、独自に事実を調査・判断して、懲戒処分を行うことが可能です(例:東京都「職員の懲戒に関する条例」第5条、国家公務員法第85条)。
②私立学校
私立学校の教員が、盗撮で①起訴猶予、②罰金刑となった場合は、その学校法人における就業規則に定められた懲戒規定にしたがって、懲戒処分の対象となります。
この場合の懲戒内容は就業規則の規程次第ですが、一般的には、「戒告」「減給」「降格」「出勤停止」「論旨解雇」「懲戒解雇」などとなっています。
懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となりますが(労働契約法15条)、教員の盗撮の場合は懲戒解雇が相当であり、有効な解雇とされる可能性が高いです。
なお、私立学校の教員が懲戒解雇を受けた場合、教員免許は取り上げられてしまいます(教育職員免許法11条1項、10条1項2号)。
3.盗撮をした教員が背負うリスク
(1) 教員免許を失う
教員免許については既に説明しましたが、ここでまとめておきます。
①盗撮で禁錮以上の刑の有罪判決が確定したときは、たとえ執行猶予でも教員免許は失効します(教育職員免許法第10条1項1号、第5条1項3号)。
②盗撮で不起訴(起訴猶予)または罰金刑となった場合でも、公立学校の教員が懲戒免職となったときは教員免許は失効します(教育職員免許法10条1項2号)。私立学校の教員が懲戒解雇となったときは、教員免許は取り上げとなります(同法11条1項、10条1項2号)。
教員免許は、失効または取り上げから3年で再取得は可能ですが(同法5条1項4号、5号)、再就職できるかどうかは別問題です。
(2) 盗撮が保護者にバレる
教員の盗撮が保護者にバレるかどうかは、ケースバイケースです。
勤務先と無関係な(電車内や店舗内などでの)盗撮が発覚しても、事実を素直に認め、盗撮の前科前歴がなければ、逮捕まではされないか、仮に逮捕されても比較的早期に釈放されて勤務先に犯行が露見しない可能性が高いです。
その場合は、保護者にバレることも通常ありません。
他方、学校内での盗撮が発覚すれば、当然、学校に知れます。
学校が事実を知りながら保護者への報告・説明を怠れば、「隠蔽」と非難されますから、盗撮の事実は必ず保護者に知られることになります。
(3) 実名報道される
盗撮が実名報道されるかどうかは「運」と言わざるを得ないです。
どのような犯罪を報道するか、実名を報ずるか否かについては、その基準を定めた法律はなく、個々の報道機関が独自に判断をしているに過ぎません(少年犯罪を除く)。
昨今、盗撮を含め、教師による性犯罪は残念ながら日常茶飯事ですから、ニュースバリューがあるわけではありません。
それでも、その日に格別他のニュースネタがなく、紙面を埋める必要性がある場合などには実名報道されてしまうこともあります。
逆に、たまたま他に重大事件や有名人の結婚報道などがあれば、実名どころかまったく報道されないケースもあります。
なお、弁護士を依頼したからといって、必ず実名報道の危険を回避することはできません。
もちろん、弁護士から報道機関に対して実名報道をしないよう要望を申し入れることは可能ですが、報道機関がこれに従う義務があるわけではないのです。
4.教員が盗撮で逮捕された場合に弁護士へ相談すべき理由
教員が盗撮で逮捕された場合や、盗撮事件が発覚した場合には、真っ先に刑事弁護に強い弁護士に相談して刑事弁護を依頼するべきです。
(1) 早期の示談交渉が可能
弁護士に依頼をすれば、直ちに示談交渉をスタートすることが可能となります。早期に示談が成立することによって、被疑者にとって有利な結果が期待できます。
学校での盗撮で、被害者が生徒などで面識があり、その保護者の連絡先がわかっていても、盗撮した教員本人やその家族などが直接に連絡をして示談を申し入れることは避けるべきです。
何故なら、被害者の生徒、その保護者は、盗撮犯に対する嫌悪感・恐怖感・不信感・強い怒りから、通常は直接のやりとりを拒否するからです。
仮に連絡に応じてくれても、感情的な対立を招来して、余計に問題をこじらせてしまう危険もあります。
しかし、弁護士ならば代理人として被疑者(加害者)の反省態度や謝罪の意向を被害者に伝えることができます。
被害者も、「弁護士にだけなら」という条件付きで示談交渉に応じてくれることが多いです。
学校での盗撮で逮捕されてしまえば、学校に隠すことはできませんから、盗撮が事実である以上、懲戒処分を免れることはできません。
それでも、弁護士によって被害者との示談を成立させることができれば、刑事処分自体を軽くできる可能性が高まります。
なお、職場の学校とは無関係な場所での盗撮の場合、通常は被害者と面識もなく連絡先もわかりませんが、捜査機関はまず連絡先を教えてはくれません。
しかし、弁護士がつけば、捜査機関は被害者の意向を確認して弁護士に連絡先を教えてくれる可能性があるので、その場合は示談交渉を開始することができます。学校外での盗撮事案ならば、早期の示談成立により学校に盗撮事件自体を露呈しないように終わらせることもできるかもしれません。
なお、たとえ盗撮で逮捕・勾留されても、早々に示談を成立させることができれば、逮捕から最長23日間という勾留期間の途中で釈放されることも期待できます。
(2) 早期釈放、不起訴獲得に向けた活動
刑事弁護人として弁護士を依頼すれば、懲戒解雇などの懲戒処分を回避できるとは限りません。
しかし、懲戒処分と刑事処分は別個のものです。
懲戒するか否か、どのような懲戒内容とするかは、公立学校では教育委員会、私立学校では学校法人の理事会が判断することです。
ただ、別個の手続とはいえ、懲戒の判断にあたって刑事処分の内容が斟酌されることがほとんどです。
検察官が示談成立を有利な事情として考慮すれば、刑事処分については不起訴処分となる可能性や、起訴されたとしても書類上の手続で裁判所が罰金刑を命ずる略式起訴で終えられる可能性もあります。
したがって、弁護士に依頼し示談をまとめることで、少しでも軽い刑事処分を受けることが、懲戒内容を軽減することにもつながるのです。
逆に言えば、被害者との示談が成立しなければ、長期の身体拘束をされてそのまま解雇されたり、起訴されて正式裁判・実刑判決を受けたりするリスクがあり、かつ懲戒処分の内容も厳しいものになる可能性が高くなります。
5.まとめ
教員が盗撮行為を行うことは言語道断と言えますが、しっかりと反省して再出発を目指すことが大事です。
早期に弁護士を依頼して、軽い処分にとどめてもらえるように誠実に対応をしましょう。
泉総合法律事務所は、盗撮・痴漢などの事件について、多くの被疑者の方をサポートしてきた実績が豊富です。
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