刑事弁護・裁判 [公開日]2026年6月2日

「証言拒絶権」とは?黙秘権との違い、証人として呼ばれた時の対処法

「証言拒絶権」とは?黙秘権との違い、証人として呼ばれた時の対処法
弁護士 泉義孝
監修 弁護士 泉 義孝
所属:第二東京弁護士会
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例えば、あなたの夫が犯罪者(被疑者)として起訴され、刑事裁判にかけられたとしましょう。夫は、「犯行時刻には自宅にいた」とアリバイを主張しています。

この場合、妻は、検察官から「夫が外出していた事実を証言してほしい」と要請されたり、逆に弁護士から「夫が在宅していた事実を証言してほしい」と依頼されたりして、「証人」として出廷を求められることがあります。
また、裁判所から、証人として出頭するよう召喚されるケースもあります。

自分の証言次第で夫が有罪となるか否かが左右されるとしたら、大変悩むのは当然です。
このようなケースでは、必ず証言をしなくてはならないのでしょうか?

実は、このような場合、妻には、証言を拒絶する「証言拒絶権(証言拒否権)」があります。

この記事では、「証言拒絶権とはどのような権利なのか?」「黙秘権との違いは何なのか?」という疑問に加え、証人として呼ばれた場合の正しい証言拒絶権の行使方法などについて解説します。

1.証人には「証言する義務」があることが原則

刑事訴訟法は「裁判所は、この法律に特別の定のある場合を除いては、何人でも証人としてこれを尋問することができる」と定めています。
つまり、誰でも証人として証言し、裁判に協力する義務(証言義務)を課せられているわけです。

【国民の証言義務を認めた判例】
最高裁は、刑訴法143条は一般国民に証言義務を課しており、この証言義務は、国民が司法裁判の適正な行使に協力すべき重大な義務だとしました(最高裁昭和27年8月6日判決

ただ、法律上の例外として、この義務が免除され、証言を拒否する権利が認められる場合があります。それが次の3つです。

  • 自己負罪拒否特権(憲法38条1項)
  • 黙秘権(刑訴法311条1項)
  • 証言拒絶権(同146条〜149条)
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2.自己負罪拒否特権と黙秘権について

(1) 自己負罪拒否特権とは

憲法は「何人も、自己に不利益な供述は強要されない」と定めています。これが「自己負罪拒否特権」です。

自分に不利益な事実の供述を強要する行為は、人間性に反して個人の尊厳を害し、自白の強要を許容して拷問や冤罪による人権侵害を生み出してきた歴史があるからです。

自己負罪拒否特権は、憲法が何人に対しても保障する人権ですから、国籍や法的立場に左右されません。日本国民・外国人を問わず、「被疑者」「被告人」はもとより、「証人」に対しても保障されます。

(2) 黙秘権とは

1 一切の供述を拒否できる黙秘権

憲法の自己負罪拒否特権をさらに進め、自己に不利益な供述か否かにかかわらず、一切の供述を拒否できる権利が「黙秘権」です。「供述拒否権」とも呼ばれます。

刑訴法は、捜査を経て起訴された「被告人」について、「終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる」(刑訴法311条1項)とし、一切の供述を拒否できる「黙秘権」を定めています。

また、未だ起訴されていない捜査段階の「被疑者」についても、その身柄拘束の有無を問わず、「取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない」(同198条2項)と定め、被告人と同様に「黙秘権」を保障しています。

2 黙秘権が保障される理由

黙秘権は、憲法の自己負罪拒否特権をさらに拡大した権利と位置づけられることが一般です。
被告人・被疑者は犯罪の嫌疑を受けているので、自己に不利益な内容しか供述を拒めないとするなら、供述を拒むことが却って捜査機関の疑いを深め、自白強要を誘発し易くなるからです。

もっとも、刑事訴訟の手続きは、検察官と被告人・弁護人が対等な当事者として、互いに主張し合い、証拠を提出し合って攻防し、中立な第三者として裁判所が判断を下す「当事者主義訴訟」制度を採っています。

ですから、対等な立場である被告人や、今後その立場となるであろう被疑者に対し、内容の利益・不利益を問わず、一方的に供述義務を課すことはできないことは当然だという見解も有力です。

3 黙秘権の行使方法

黙秘権には、特別な行使方法はありません。個別の質問毎に、回答に応じる質問と応じない質問を選ぶこともできますし、一切の質問に回答しないこともできます。また、供述しない理由を説明する必要もありません。

黙秘権とは?黙秘権を行使するメリット・デメリット

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3.証言拒絶権(証言拒否権)

自己負罪拒否特権は誰にでも保障される権利、黙秘権は被疑者・被告人に保障される権利でした。
これらに対し、「証人」に保障されるのが「証言拒絶権」です。「証言拒否権」とも呼ばれます。

証言拒絶権が認められるのは、次の3つの内容についてだけです。

  1. 自己が刑事責任を問われる場合(刑訴法146条)
  2. 近親者等が刑事責任を問われる場合(同147条、148条)
  3. 業務上の秘密の場合(同149条)

(1) 自己が刑事責任を問われる場合

証人は、自己が刑事訴追を受けたり、有罪判決を受けたりする恐れのある証言を拒否できます。

これは、誰にでも保障される自己負罪拒否特権を、証人について具体化したものです。

(2) 近親者等が刑事責任を問われる場合

証人は、自分と一定の身分関係がある者が刑事訴追を受けたり、有罪判決を受けたりする恐れのある証言を拒否できます。

これは自己以外の者が刑事責任を問われる場合の証言拒否を認めるもので、近親的な情誼(※)を考慮した立法政策として、証言義務の例外を認めたものです(前出の最高裁昭和27年8月6日判決)。
※「情誼(じょうぎ)」とは、人間関係における思いやりの心や、親愛の情などを指します。

対象となる身分関係は、次のとおりです。

  • 自己の配偶者、3親等内の血族もしくは2親等内の姻族または自己とこれらの親族関係があった者
  • 自己の後見人、後見監督人または保佐人
  • 自己を後見人、後見監督人または保佐人とする者

ただし、共犯または共同被告人の一人または数人に対し、この身分関係がある者でも、他の共犯または共同被告人のみに関する事項については、証言を拒むことはできません。

例:AとBが窃盗罪の共同正犯として起訴された裁判において、Aの妻Cが証人として出廷した場合、証人Cは、Aに関する事項の尋問に対する証言は拒むことが許されますが、身分関係のないBのみに関する事項の尋問に対する証言を拒むことはできません。

(3) 業務上の秘密の場合

特定の職業にある者(過去に、その職にあった者も含む)は、その業務上委託を受けたため知り得た事実で、他人の秘密に関する事項については証言を拒むことが許されます。
これは、当該業務上の秘密を保護するための制度です。

特定の職業とは、医師・歯科医師・助産師・看護師・弁護士(外国法事務弁護士を含む)・弁理士・公証人・宗教の職であり、これらの職業に限定されます(前出の最高裁昭和27年8月6日判決)。

ただし、次の各場合は例外として、証言拒絶権は認められません。

  • 秘密の主体である本人が承諾したとき
  • 証言拒絶が、被告人のためのみにする権利の濫用と認められるとき(被告人が秘密の主体である本人の場合は除きます)

(4) 証言拒絶権の行使方法

証言拒絶権を行使する場合は「夫が刑事訴追を受ける危険があるからです」「業務上の秘密に該当するからです」など、拒む事由(理由)を示さなくてはなりません

拒否の事由を示さずに証言を拒否すると制裁を受ける場合があります(詳しくは後述)。

4.証言拒絶権の安易な判断は危険な理由

裁判所から、証人として出廷するように呼び出された場合、自分だけの判断で出頭しなかったり、出頭しても宣誓や証言を拒否したりすることはお勧めできません。
裁判所から、刑事罰を含む制裁を加えられてしまう危険があるからです。

(1) 証言拒絶権があっても裁判には出頭し宣誓する必要がある

証言拒絶権がある場合でも、証人は、個々の質問に対して証言を拒絶できるだけであり、証人となって質問されること自体を拒否することはできません。

それゆえ、証人として裁判所から召喚されたにもかかわらず、証言拒絶権を理由として出頭を拒否したり、出頭しても宣誓を拒んだりすれば、裁判所から10万円以下の過料の制裁を受けたり、刑事罰として1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑を受けたりする危険があります。

刑事罰を受ければ、前科となってしまいます。

(2) 証言拒絶権は虚偽の証言を許すものではない

「証言を拒絶できるのだから、嘘を証言しても構わない」と考えてはいけません。証言拒絶権は、あくまでも証言義務を免れる権利であって、虚偽の証言を許すものではないからです。

たとえ証言拒絶権がある場合でも、拒絶権を行使せずに、証人がすすんで自己の記憶に反する内容を証言すると、偽証罪として、3月以上10年以下の拘禁刑で処罰されます。

虚偽告訴罪(誣告罪)の構成要件と事例について

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(3) 正当な理由のない証言拒絶権行使で制裁を受ける危険

証人として尋問を受けた際に、個々の質問に対して証言拒絶権を行使することにもリスクが伴います。正当な理由のない証言拒絶権の行使と判断されると、裁判所から10万円以下の過料の制裁を受けたり、刑事罰として1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑を受けたりする危険があります。

具体的には、次のような場合です。

  1. 証言拒絶権がないにもかかわらず、証言を拒んだ場合
  2. 拒む事由を示さずに証言を拒んだ場合
  3. 虚偽の事由を示して拒んだ場合

そもそも、証言拒絶権が認められるか否かの判断それ自体、最終的には裁判所が判断する法律問題ですので、一般の方が正確に判断することは困難です。
自己流の判断をする前に、弁護士に相談して法的判断につき助言を得るべきです。

5. 「黙秘権」と「証言拒絶権」の違いまとめ

最後に、「黙秘権」と「証言拒絶権」の主な違いを表としてまとめておきますので、ご参考にしてください。

「黙秘権」と「証言拒絶権」の違いまとめ

6.証人となる場合は弁護士に相談を

証人となるよう依頼や呼び出しを受けたら、まずは弁護士に相談するべきです。

証言拒絶権が認められる可能性があるケースでも、勝手な判断で不適法な対応をしてしまうと、最悪、刑事処分を受ける危険性もあります。
弁護士に相談し、証言拒絶権が認められる場合か否か、証言拒絶権を行使するべきか否かにつきアドバイスを得るべきです。

また、弁護士に相談すれば、証言する際の注意事項や証言内容についても助言を受けることができますし、出廷の際に同行してもらうことも可能ですので、証人となることへの心理的な負担も軽減できます。

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