刑事裁判の証人として呼ばれたらどうすればいい?

窃盗事件や暴行事件などの刑事犯罪が発生し、そこに自分が居合わせた場合などには、「証人」として裁判に呼ばれることがあります。
もし、刑事事件の証人として呼ばれた場合、証人として裁判で何をすれば良いのか分からず不安になることでしょう。「そもそも出廷を拒否したい」という方もいると思われます。
本コラムでは、証人として刑事裁判に呼ばれた場合にどうすればいいか?どのような準備をすれば良いのか?を解説します。
なお、刑事裁判(公判請求)について、詳しくは以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]
公判請求とは?裁判の流れ、略式請求との違いを解説
1.刑事裁判の証人とは?
(1) 証人とは?
裁判は「証拠」に基づいて進められます。
証拠は、人証・物証・証拠書類に分類されます。
犯行の凶器や盗まれた被害品など、その物の存在自体や形状などが証拠となるものが「物証(証拠物)」で、法廷で展示されます。
供述調書など、その書類の記載内容が証拠となるものが「証拠書類」で、法廷で朗読されます。
最後に、その人の口頭での話の内容が証拠となるものが「人証」で、法廷で尋問などを受けることになります。
人証には、鑑定人や通訳人なども含まれますが、人証のうち「自らが体験した事実」を供述する「証言」を提供する者を「証人」と呼びます。
(2) 刑事裁判で証人が呼ばれるケース
多くの場合、事件の目撃者や被害者は、捜査段階で警察官・検察官の取り調べを受け、その供述を内容とした供述調書が作成されています。よって、検察官はこれらを証拠書類とすれば十分のように思われます。
しかし、その供述調書を証拠として採用することに弁護人が同意しない場合には、検察官は供述した者に対する尋問による取り調べを請求します。
また、弁護側が証人の取り調べを請求するケースとしては、例えば「無罪を争っている場合のアリバイ証人」「罪を認めている自白事件において被告人に対する今後の指導監督を誓約してくれる情状証人」などが典型的です。
【情状証人とは?】
証人の中にも「情状証人」というものがあります。情状証人とは、起訴された被告人について、再度罪を犯さないようにきちんと監督することを裁判官の前で証言する人のことを言います。
被告人が自分の犯した罪について認めている場合、被告人は、なるべく刑罰を軽くしたり、執行猶予がつくような判決を求めたりすることになります。裁判所は、被告人の反省の態度や、裁判が終わった後に実社会の中で更生させていくことが適当かどうか、再び犯罪を行う可能性(再犯可能性)がないかなども踏まえて刑罰の内容を決めます。
そこで、被告人の弁護人は、情状証人に裁判所に出廷してもらい、裁判官の前できちんと被告人の監督を行うという内容を話してもらうことを考えるのです。
情状証人は、今後被告人が再び罪を犯さないよう監督することに適している人、例えば、同居の親族、親しい友人、勤務先の上司や社長など、その被告人にとって最適な人にお願いすることになります。
2.公判期日における証人の流れ
証言する当日の証人の行動については、事前に検察官または弁護人から詳細な説明があります。
とはいえ、それ以前に不安を感じている方が多いと思われますので、以下に紹介します。
(1) 尋問の予行演習
裁判当日の尋問では、証人は反対尋問にさらされます。弁護人や検察官からしても、証人が必ず申請側の意図に沿った供述をしてくれるとは限りませんから、実際に期待どおりになるかどうかは蓋をあけてみないとわかりません。
そこで、検察官は申請した証人を事前に呼び出して、尋問の予行演習を行い、検察官の意図どおりの証言をしてくれるかどうかチェックします。これは証人テストと呼ばれ、事案によっては何度も繰り返される場合があります。
なお、証人テストを受けることは義務ではありませんから、拒否することができます。
弁護人も、裁判当日までは証人と念入りに打ち合わせを行うのが通常です。
(2) 証人尋問まで待機
裁判所には証人待合室がありますので、当日、証人は自分の証人尋問の番までそこで待機します。
しかし、場合によっては傍聴席で自分の証人尋問の番まで裁判を見ていることもできます。
ただし、他に証人がいて、自分より先に証人尋問を受けている場合は、先の証人の証言を聞くことはできないので、退席して証人待合室で待つことを求められます。
(3) 書類の記入
待機している間に、証人出頭カードと宣誓書を渡されます。
証人出頭カードには、住所・氏名・生年月日・職業を記載し、日当(一日当たり8,000円以内)を受け取るかどうかを記載します。
次に、宣誓書に署名・押印をします。宣誓書とは、「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」と記載された書面です。
(4) 宣誓
自分の証人尋問の番になったら、法廷で裁判官の指示に従う必要があります。
まずは、証言台の前に立ち、住所・氏名・生年月日・職業を尋ねられますので、これを明らかにしなければなりません。これは、人違いではないことを確かめるためです。
次に、宣誓書を読み上げることによって、宣誓を行います。
宣誓には定型文があり、証人は証言に先立って、「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。」という宣誓文を朗読することが求められます。
宣誓をしたにも関わらず嘘をつくと偽証罪となり罰せられます(詳しくは後述)。
(5) 尋問
宣誓が終わったら、尋問が始まります。尋問は証言台の前に座って行います。
尋問の順序は、検察側の証人は検察官から、弁護側の証人は弁護人から行われます。検察側証人は被告人に不利な証言、弁護側証人は被告人に有利な証言を期待されていると言えます。
質問は一問一答です。これらの質問事項に対する答えが「証言」として証拠になりますので、質問をよく聞いて、具体的に答えましょう。
質問の意味が分からなかったり、聞き取れなかったりした場合は、「もう一度、言ってください」「(当該質問は)こういう意味ですか?」などと聞き返してもかまいません。
ただし、議論の場ではないので、質問者に対して関係ない自己の意見を主張したり、事件の争点について議論をふっかけたりすると制止されます。
次に、相手方から反対尋問がされます。反対側から質問された事項についても丁寧に答えましょう。
そのあと、さらに再尋問、再反対尋問と、検察官・弁護人から交互に質問がされます。
検察官と弁護人からの尋問が終わったら、裁判官や裁判員から質問されることもあります。
すべての質問が終わったら、裁判官から「これで終わりです」と告げられます。その後は帰宅しても、傍聴席で裁判の続きを見ていてもかまいません。
3.証人となること(出頭・宣誓・証言)は拒否できる?
(1) 出頭の拒否はできない
刑事訴訟法143条は、「裁判所は、この法律に特別な定めがある場合を除いては、何人でも証人としてこれを尋問することができる」と定めています。
これは、原則として、だれでも証人として証言することによって司法に協力する義務があることを定めた規定です。
証人は、検察官または弁護人が裁判所に「同行」することが一般です。しかし、同行が期待できない場合、裁判所が証人に出頭を命じることができ、正当な理由なく出頭しない(召喚に応じない)ときなどは勾引すること(身柄を拘束して連れてくること)もできます。
以上より、出頭の拒否は現実的に難しいと言えます。
証人が正当な理由がなく出頭しないときは、①訴訟における秩序違反として裁判所の裁量で10万円以下の過料などに処せられたり、②司法作用の妨害に対する刑事処分として1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処せられたりします。
前者①は刑事罰ではありませんから前科とはなりませんが、後者②は刑事罰ですので有罪判決を受けると前科となってしまいます。
(2) 宣誓の拒否はできない
刑事訴訟法154条は、「証人は、この法律に特別の定めがある場合を除いて、宣誓をさせなければならない」と定めています。
特別な定めとは、知的・精神的障害があって、宣誓の意味を理解できない場合(宣誓無能力者)の場合などに限られます。
正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、①訴訟における秩序違反として裁判所の裁量で10万円以下の過料などに処せられたり、②司法作用の妨害に対する刑事処分として1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処せられたりします。
ただし、例外的に「証人が宣誓の趣旨を理解することができない場合」には、証人は宣誓を拒むことができます(刑事訴訟法155条1項)。
(3) 証言拒絶権が認められるケース
上記の通り、出頭・宣誓を拒める場合はほとんどありません。
しかし、証人尋問を受けるにあたって、個別の質問に対して、証言を拒否することができる場合はあります。
自己負罪拒否特権
憲法38条1項には、「何人も自己に不利益な供述を強要されない」とされています。これを自己負罪拒否特権と言います。
刑事訴訟法146条では、その質問に正直に答えると自分が刑事訴追を受けるおそれがある、有罪判決を受ける恐れがあるという場合には証言を拒絶することができると定めています。
なお、刑事訴訟法規則122条により、証言を拒む場合には、「訴追を受ける恐れがあるから」「職業上の秘密に当たるから」など、拒む理由を示さなければならないとされています。理由を告げずに拒否すると、160条の過料の制裁を受ける場合があります。
近親者の刑事責任に関する証言
自分ではなく、自分の近親者(配偶者、3親等内の血族もしくは2親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があった者)や、自分の後見人、後見監督人、保佐人、もしくは、自分が後見人、後見監督人、保佐人をしている場合の本人が刑事訴追を受けるおそれ、有罪判決を受けるおそれがある回答をしなければならないような質問に対しても、証言を拒否できることになっています(刑事訴訟法147条)。
これは、憲法上の自己負罪拒否特権として保障された権利ではなく、その趣旨を法律で特に拡張したものです。
職業上の秘密
医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法律事務弁護士を含む)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又は、これらの職に在った者は、業務上委託を受けたため、知りえた事実で他人の秘密に関するものについては、原則として証言を拒むことができます(刑事訴訟法149条)。
これは、これらの人が職務上守秘義務を負っているためです(刑法134条)。
4.偽証罪とは
裁判に証人として呼ばれた場合、ご自身の記憶に従って誠実・正直に証言をしなければなりません。
もし証言の際に嘘をついてしまうと、「偽証罪」に問われてしまうおそれがあるので注意が必要です。
偽証罪とは、「宣誓したのに、自分の記憶と異なることを述べる」犯罪で、3月以上10年以下の拘禁刑になります。
偽証罪の成立要件は、以下のとおりです。
- 民事裁判・刑事裁判を問わず「証人」であること
- 証人が民事訴訟法・刑事訴訟法に基づく「宣誓」をしたこと
- 証人が「記憶に反した虚偽の陳述」をしたこと
- 証言が虚偽であることにつき、証人の「故意」が認められること(記憶に反した証言を意図的に行ったこと)
このように、偽証罪はあくまで「宣誓」をしたにもかかわらず嘘をついた場合(自分の記憶と異なることを述べた場合)に成立するものです。
そのため、証人尋問の前に宣誓書に署名・押印をし、宣誓書を読み上げて宣誓をすることは、とても重要なことです。
証人が偽証罪に問われないようにするためには、証言に臨む前の準備と心構えが大切です。
例えば、弁護人や検察官と主尋問の練習をするほか、当日反対尋問へ臨む際には、尋問者の質問を落ち着いて咀嚼し、あくまでも自分の知っている範囲でのみ証言をするという姿勢をとることを意識しましょう。
尋問者の誘導に乗ることなく、知らないことは「知らない」、記憶にないことは「記憶にない」と正直に伝えることが大切です。
5.出頭する上での留意点
(1) 服装は清潔感があるものにする
証人の服装には決まりはありません。どんな格好でもかまいません。
ただし、特に弁護側の情状証人の場合は、できればスーツなどで清潔感のある服装が望ましいです。
だらしない服装ですと、本当に被告人を指導監督できるのか?と疑われてしまいます。
(2) 準備するものを揃えておく
身分証明書
本人確認をされることがありますので、免許証やパスポートなど身分証明書を準備しましょう。
印鑑
宣誓書に押印するためには印鑑が必要です。シャチハタ以外であれば、認め印でかまいません。
印鑑を忘れると、指で印を押すことになります。
旅費・日当・宿泊料
証人は、旅費(交通費)・日当・宿泊料を請求することができます。
旅費・日当・宿泊料の計算方法は、「刑事訴訟費用等に関する法律」などによって決められています。
なお、証人の旅費等は訴訟費用になります。訴訟費用は、裁判所の裁量で国庫負担になることも被告人負担になることもあります。よって、それ以上の謝礼を被告人に要求する権利はありません。
なお、情状証人が旅費等を請求しても、実際に払うのは被告人になる可能性もありますので、近親者などは旅費等の請求を放棄するのが一般的です。
6.まとめ
刑事裁判の証人として呼ばれた場合、原則として出頭し、宣誓・証言しなければなりません。
真実を発見し、正しい裁判をするために、証人尋問はとても重要なものであり、必要不可欠なものです。
刑事事件の証人となる機会があった場合には、当日慌てないためにも、この記事をぜひ参考にしてください。