贈賄罪・収賄罪はどんな罪?違いと構成要件について

政治家や公務員による汚職事件は、時代が変わっても無くなりません。ニュースで頻繁に報じられる中、これらの犯罪の内容・処罰について詳しく理解している人は多くないでしょう。
贈賄罪は「一般人が公務員に賄賂を渡す犯罪」、収賄罪は「公務員が賄賂を受け取る犯罪」ですが、その構成要件は意外と複雑です。金銭・贈答品だけでなく、接待やサービスの優遇も「賄賂」に該当する場合がありますので、そのようなつもりがないのに賄賂罪に問われてしまった!というケースがあるかもしれません。
本コラムでは、賄賂罪(贈賄罪・収賄罪)の基本的な定義、具体的な構成要件、賄賂の範囲などを分かりやすく解説します。
贈収賄罪で警察に検挙されてしまったという方は、ぜひお読みください。
1.贈賄罪・収賄罪について(刑法)
(1) 贈賄罪とは?(刑法198条)
第198条(贈賄)
(中略)賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金に処する。
贈賄罪は、公務員に対して職務に関する賄賂を供与した、あるいはその申込み・約束をする行為を処罰する規定です。
贈賄罪の主体は一般人(民間人・民間企業)であり、公務員である必要はありません。
贈賄罪は、次で説明する収賄罪の対向犯として位置づけられています。つまり、賄賂授受という行為について、渡す側(一般人)を贈賄罪、受け取る側(公務員)を収賄罪で処罰する構造になっているのです。
賄賂と言えば受け取った側が罪だと考えられがちですが、このように送る側も罰せられるのだということを覚えておきましょう。
法定刑については、収賄罪よりも軽い刑罰が設定されています。
(2) 収賄罪とは?(刑法197条)
第197条(収賄)
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の拘禁刑に処する。(中略)
収賄罪は、公務員が職務に関して賄賂を収受する、またはその要求・約束をする行為を処罰する規定です。
この罪の主体は公務員に限定されており、国家公務員、地方公務員のほか、みなし公務員(特殊法人の役職員等)も含まれます。
収賄罪が保護する法益は、公務員の職務の公正性と社会の信頼です。法定刑は懲役のみで、罰金刑はありません。収受した賄賂は当然ながら没収されます。
(3) 贈賄罪・収賄罪の違い
収賄罪と贈賄罪の最大の違いは、犯罪主体にあります。
収賄罪は、「賄賂を受け取った側」が主体で、公務員のみが犯すことができる身分犯です。
一方、贈賄罪は「賄賂を贈った側」が主体で、誰でも犯すことができる犯罪です。
また、法定刑にも差があり、公務員としての職責の重さを反映して収賄罪の方が重い刑罰が科せられています。
なお、収賄罪には上記で解説した単純収賄のほか、受託収賄及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄及び事後収賄などの加重類型が存在しますが、贈賄罪にはこのような類型はありません。
収賄罪・贈賄罪は対向犯の関係にあるため、通常は同時に成立しますが、片方のみが成立するケース(未遂の場合等)も存在します。
2.贈賄罪・収賄罪の構成要件と成立条件
(1) 贈賄罪の構成要件
贈賄罪は、主体要件としては特別な制限はなく、誰でも犯罪主体となりえます。
客体要件は「賄賂」であり、「公務員の職務に関する不正な報酬=利益」を指します。利害関係のない公務員に金銭などを贈ったり、知人の公務員にプライベートでお金を貸したりした場合、これは賄賂とはされず、贈賄罪は成立しません。
相手方要件として「公務員」への供与等が必要ですが、供与時に相手方が公務員でなくても、公務員になることが確実視される場合には事前贈賄として処罰される可能性があります。
行為要件は「賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をすること」とされていますので、実際の供与行為のほか、申込みや約束の段階でも犯罪が成立します。
(2) 収賄罪の構成要件
収賄罪が成立するために、まず、主体要件として「公務員」であることが求められます。これには国家公務員、地方公務員のほか、法令により公務に従事する職員(みなし公務員)も含まれます。
客体要件としては「賄賂」の存在が必要で、これは職務に関する不正な報酬としての金銭その他の利益を指します。
重要なのは「職務に関し」という要件で、これは公務員の一般的職務権限に属する事項であれば足り、具体的な職務行為との直接的関連性は不要とされています。つまり、贈る側との利害関係が存在し、賄賂により相手に対し都合が良いよう取り計らうことができる関係であれば、広く「職務に関して」いるということになります。
行為要件については、賄賂を「収受し、若しくはその要求若しくは約束をすること」とされており、実際に賄賂を受け取る収受のほか、要求や約束の段階でも犯罪が成立します。
(3) 未遂犯、故意犯の扱い
例えば、公務員が賄賂の要求をしたが相手方(一般人)が応じなかった場合は収賄罪のみが成立します。
逆に、一般人が賄賂を申し込んだが公務員が拒否した場合は、贈賄罪のみが成立します。
さらに、両罪とも故意犯であり、賄賂性の認識と職務関連性の認識が必要です。
実務上は、接待や贈答の社会通念上の許容範囲を超えるかどうか、職務との関連性の程度、対価関係の有無などが重要な判断要素となり、これらの要件は個別具体的事情に基づいて総合的に判断されます。
3.賄賂の範囲
「賄賂」とは、公務員の職務に関して供与される不正な「利益」全体を指し、その範囲は金銭にとどまらず極めて広範囲に及びます。
具体的には、金銭に限らず、物品・贈答品(有価証券・チケットなど)、サービス利用の割引、接待(旅行招待、ゴルフ接待)、債務の免除、就職の斡旋、性的サービスなど、経済的価値を有するあらゆる利益が含まれます。
重要なのは、利益の形態や名目ではなく、実質的に公務員の職務に関する対価的性格を有するかどうかです。ご自身では賄賂に当たらないと思っても、その状況や経緯によっては賄賂に該当する可能性があります。
また、直接的な利益のみならず、公務員の親族や関係者に対する利益供与も、実質的に公務員への賄賂と評価される場合があります。
考慮される要素として、供与される利益の価額、供与の頻度、供与者と受領者の関係、供与の動機や目的、方法、態様、社会的地位や職務の性質などが総合的に検討されます。
例えば、年末年始の挨拶程度の菓子折りは一般的に許容されますが、高額な商品券や頻繁な接待は賄賂性を疑われる可能性が高くなります。
4.贈賄罪・収賄罪の法定刑
(1) 贈賄罪・収賄罪の法定刑の内容
収賄罪の法定刑は、「5年以下の拘禁」とされており、罰金刑は設けられていません。
一方、贈賄罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金」とされており、収賄罪よりも軽い刑罰が設定されています。
この刑罰の差は、公務員としての特別な地位と責任の重さを反映したものです。
また、収賄罪については、収受した賄賂は没収され、没収できない場合はその価額が追徴されます。贈賄罪についても同様に、供与した賄賂に相当する価額が追徴される場合があります。
収賄罪には基本的な単純収賄のほかに、以下のように「事前に請託を受けた場合」「公務員の職務に違反する不正な行為をしたり、本体行うべき職務を怠ったりした場合」など、より重い刑罰を科される加重類型が存在します。
- 受託収賄罪
- 事前収賄罪
- 加重収賄罪
- 事後収賄罪
- 第三者供賄罪
実際の裁判例における量刑は、賄賂の額、犯行の動機・経緯、職務違反の程度、社会的影響、反省の状況などを総合的に考慮して決定されます。
賄賂額が高額であったり、組織的・継続的な犯行であったりする場合、または職務違反の程度が重い場合には、3年以上の実刑判決が科されることも多くあります。
公務員については懲戒もあり、多くの場合免職処分となるため刑事罰以外の社会的制裁も重大です。
贈賄罪については、収賄罪よりも軽い処罰となることが多く、初犯の場合は罰金刑や執行猶予付きの判決となる可能性があります。
(2) 刑事弁護の重要性について
贈賄罪・収賄罪を疑われた場合、刑事事件に強い弁護士に依頼することには多くのメリットがあります。
まず、財産事件では早期の適切な対応が必要になります。贈収賄の罪は捜査機関による取り調べ・家宅捜索が行われることが多く、初期対応を誤ると逮捕・勾留のリスクが大きくなります。取り調べでの不適切な発言や証拠隠滅と疑われる行為は避けるべきです。
弁護士は、取り調べへの対応方法をアドバイスし、不当な自白の強要を防ぐことができます。
法的な専門知識があることにより、過去の判例に基づいて、個別の事案における犯罪成立の可能性を適切に判断し、最適な弁護戦略を立てることもできます。
量刑の軽減についても、弁護士は被害回復の手段を講じ、被害者の深い反省を示すなど、情状を良くするための活動を行います。これにより、執行猶予や罰金刑の獲得、実刑の場合でも刑期の短縮を目指すことができます。
5.贈賄罪・収賄罪で検挙されたら弁護士へ
近年は、企業ぐるみの組織的な贈収賄事件において、法人に対しても厳しい刑罰が科されるケースが増えており、企業の社会的責任がより重く問われる傾向にあります。
適切な初期対応を怠ると、刑事処分だけでなく懲戒処分や社会的信用の失墜など、取り返しのつかない結果を招く可能性があります。
経験豊富な弁護士へ相談することにより、リスクを最小限に抑え、可能な限りの減刑を目指す最善の解決策を見つけることができます。
もちろん、弁護士には厳格な守秘義務があり、相談内容が外部に漏れることは一切ありません。贈賄・収賄の疑いをかけられた方、捜査機関から連絡を受けた方は、一日も早く泉総合法律事務所にご相談ください。