被害届・告訴・告発の違いとは?取り下げたら不起訴になるのか

刑事事件に関わるニュースなどでよく耳にする「被害届」「告訴」「告発」。いずれも警察や検察に対して事件の存在を知らせ、適切な捜査や処罰を求める行為ですが、それぞれに意味や効果が異なります。
本コラムでは、被害者が事件を届け出る「被害届」、処罰を望む意思を示す「告訴」、そして第三者からの意思表示である「告発」のそれぞれの特徴や役割を解説します。
1.被害届、告訴、告発について
(1) 被害届とは?
「被害届」は、犯罪被害を受けた当事者(被害者)が、「このような事件による被害を受けました」という事実関係を捜査機関に届け出る制度です。
この届出により犯罪被害の発生を捜査機関に認知させることで、捜査の必要性を知らせるという役割があります。
警察は、目撃者などからの通報を受けて現場に駆けつけるといったケースでない限り、被害届が出て初めて事件を認知することが多いです。よって、捜査を開始してほしい場合は、原則として被害届を出す必要があります。
逆に言うと、被害者から被害届が出ていない場合は、(殺人、強盗等の重大犯罪は除くとして)警察としては犯罪の捜査をしないことが多いといえます。
警察が被害届により捜査を開始して犯人を特定した場合、被疑者に犯罪の嫌疑があり、逃亡や証拠隠滅の恐れがある場合には被疑者を逮捕します。

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(2) 告訴・告発とは?
刑事訴訟法第230条に定められている「告訴」は、犯罪の被害を受けた者(被害者)などの告訴権者が、警察官や検察官といった捜査機関に対し、発生した犯罪事実について報告を行い、犯罪者の処罰を求める意思表示をする手続きを指します。
たんなる事実の申告に過ぎない被害届と異なり、告訴には一定の法的な効果が伴います。
告訴は、「告訴状」という書面形式で捜査機関へ提出する方法と、直接口頭で伝える方法の両方が認められています。
告訴を行える告訴権者については、被害者本人に加え、被害者の法定代理人が該当します。
未成年者が犯罪被害に遭った場合を例に挙げると、本人による告訴が行われなくても、法定代理人である保護者が代わりに告訴手続きを取ることが可能です。ただし、法定代理人が被疑者やその配偶者に該当する場合には、被害者の親族による告訴が認められています。
被害者が亡くなっている状況では、被害者が明確に反対の意思を示していない場合に限り、配偶者、直系親族、兄弟姉妹による告訴が可能となります。

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一方の「告発」とは、被害者や告訴権者でない第三者が犯罪事実を申告し、捜査や起訴してほしいと意思表示することを言います(刑事訴訟法239条)。
2.被害届、告訴、告発の違い
3つに共通しているのは、どれも「捜査機関に対して被害内容を申告する」という点です。
逆に異なる点は、犯人の処罰を求める意思表示の有無です。
被害届の場合、被害者が「こういった事件の被害に遭った」という事実を警察署へ届け出ますが、そこに「犯人を処罰してほしい」という意思表示はありません。よって、速やかに捜査を開始しなければならないといった法的効果が捜査機関に生じません。
一方、告訴や告発の場合、被害事実を申告するだけでなく、犯人の処罰まで求めるものであり、これを受けた捜査機関は速やかに捜査を開始しなければなりません。
告訴と告発の違いですが、告訴は被害者本人または告訴権者(法定代理人や親族)が行うものです。
一方、告発は被害者や告訴権者ではない第三者が行うものである、という点で異なります。
相手に処罰を求める強い意思がある場合や、確実に捜査を進めてもらいたい場合には、被害届よりも告訴が有効な手段となり得ます。
一方で、利害関係のない第三者でも社会的な正義の観点から犯罪を指摘できるのが告発、ということです。
3.告訴・告発と起訴の関係
被害者からの告訴がないと検察が起訴することができない犯罪のことを「親告罪」と言います。
しかし、全ての罪が親告罪に該当するわけではありません。
親告罪に該当する代表的な罪としては、過失傷害罪、名誉棄損罪、侮辱罪、器物損壊罪、更には親族間の窃盗罪、詐欺罪、横領罪などがあります。
これらの罪であれば、告訴の有無がそのまま起訴されるかどうかに直結するため、速やかに被害者との示談を取り付けて告訴を取り消してもらえれば、起訴されないで済みます。
一方、親告罪に該当しない罪の場合、告訴の有無が起訴に影響を及ぼすことなく、あとは検察官の判断に委ねられます。仮に告訴の取り下げが行われても、必ずしも起訴を免れるわけではありません。
なお、2017年(平成29年)の刑法改正により、不同意わいせつ罪、不同意制性交等罪などの性犯罪の多くが親告罪から削除されました。
つまり、示談などにより告訴を取り下げてもらっても、必ずしも全ての犯罪が不起訴で終わるというわけではないのです。
非親告罪の場合、不起訴を獲得するには示談以外の弁護活動も重要になってきます。

[参考記事]
親告罪とは?非親告罪との違いをわかりやすく解説
4.まとめ
先述の通り、被害届の場合は処罰意思が伴いませんので、当然ながら「被害届が出されたから必ず逮捕・起訴される」ということはありません。あくまで捜査機関に事件の存在を知らせる役割にとどまります。
さらに言えば、告訴・告発をされたら全ての事案で起訴をされる、というわけでもありません。最終的には、検察官が事件の性質や被疑者の状況を踏まえ、起訴の必要性を判断します。
そのため、制度の違いを正しく理解し、状況に応じた適切な対応方法を選ぶことが重要です。
被害届や告訴・告発への正しい対応方法を理解しておくことで、万一刑事犯罪を犯してしまった際にも、どのように対処するべきかを判断しやすくなります。
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