刑事弁護・裁判 [更新日]2025年10月6日

「弁護士なし」の刑事裁判は可能?弁護士をつけないとどうなるか

「弁護士なし」の刑事裁判は可能?弁護士をつけないとどうなるか

刑事事件で正式裁判となった場合、「弁護士費用が払えないから、自分だけで刑事裁判を受けよう(弁護士なしで裁判をしよう)」と考えている方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは制度上、また現実的に可能なのでしょうか。

以下においては、刑事裁判では弁護人をつけなくても良いのか、弁護人なしの場合にデメリットはあるか等ついて解説します。

なお、以下では、刑事訴訟法は「法」、刑事訴訟規則は「規」と略記します。

1.刑事裁判で弁護人をつけないことは可能?

捜査段階(起訴前)では、弁護人を選任するかどうかは被疑者の自由となっていますので、被疑者が弁護人をつけることを望まない限り、被疑者に弁護人がない状態で捜査手続が進められても法律的には問題がないことになります。
※なお、捜査段階で勾留請求された被疑者・勾留状が発布された被疑者が希望すれば、裁判官は国選弁護人をつけなくてはなりません。

しかし、起訴後で下記に該当する場合は、原則として、被告人に弁護人がなければ裁判手続を行うことができません。これを「必要的弁護事件」と呼びます。
この場合、被告人が私選弁護人を選任しなければ、裁判所が職権で国選弁護人を付することになります(法36条)。

  • 法定刑に死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮がある事件を審理する場合(殺人罪、強盗罪、窃盗罪など)
  • 公判前整理手続又は期日間整理手続を行う場合
  • 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件を審理する場合
  • 即決裁判手続に係る公判期日を開く場合

上記以外の場合には、被告人が弁護人のつくことを望まない限り、被告人自らが刑事訴訟の当事者として弁護人のない状態で裁判を受けることができます。これを「任意的弁護事件」と呼びます。

なお、弁護士白書(2018年度)によりますと、地方裁判所・簡易裁判所共において、ほぼ100%近くの割合で刑事弁護人がついています(※「地裁・簡裁における刑事弁護人(被告人段階)選任率の推移(国選・私選別)」 弁護士白書(2018年版)93頁)。

一方で、刑事弁護人を選任せず公判に臨む被告人もわずかながらいます。

被告人が自ら弁護人を選任しない、あるいは国選弁護人の選任の請求もしない理由としては、被告人が弁護士費用を払えないからということも勿論あるでしょう。
それ以外でも、事実関係等に全く争いがないため、弁護人を選任する必要がないと被告人が判断したケースもあると思われます。

もっとも、弁護人がついていない場合、裁判官は「必要と認めるとき」には、職権で国選弁護人をつけることができるので、現実の裁判では、被告人が国選弁護人の選任を希望しない場合でも、ほとんどの場合、職権で国選弁護人を付しています。ですから前述の統計のとおり、ほぼ100%近く弁護人がつく結果となっているのです。

2.弁護人なしの裁判のデメリット

一方、弁護人をつけずに裁判に臨むと以下のようなデメリットが生じます。

(1) 手続きの手間がかかる

被疑者・被告人には、いずれの段階でも刑事訴訟法上多くの重要な権利が与えられています(接見交通権、勾留理由開示請求権、保釈請求権等)。
その権利を行使するためには、申し立て・請求といった手続をとらなければならないことがあります。

留置場や拘置所内には、各手続の書式や記載見本が備えられており、被疑者・被告人自身が申請書類などを作成して裁判所等に提出すること自体は可能です。
しかし、実際に各種の刑事手続を的確に行うには、専門家である弁護人の力が必要なことは言うまでもなく、この点で弁護人がついていないのは大きなデメリットといえます。

(2) 不利な立場となり厳刑となる恐れがある

通常、被疑者・被告人本人は法律知識に乏しいです。しかも、犯罪の嫌疑を受け、身体を拘束されて、心理的・肉体的に大きな負担を背負っています。
他方で、検察・警察は強大な国家組織で、強制的な捜査を行う広範な権限を持っており、被疑者・被告人に対して圧倒的に有利な立場にいます。

そこで憲法、刑事訴訟法は、被疑者・被告人に各種の防御権を保障しました。そして、これらの権利を活用するには弁護人による弁護が必要です。
被疑者・被告人に弁護人がついていなければ、被害者と示談をしたり、事実関係を争ったり、有利な法的主張をしたりすることが困難になるので、十分に防御活動が行えません

結果的に、本来ならば不起訴も望める事例で起訴されてしまったり、裁判で厳しい判決が出されたりするなどの不利益を被ることになってしまいます。

 

上記のように、弁護人無しで刑事手続きを進めることは、被告人にとって多くのデメリットがあります。
したがって、弁護人のつかない裁判は控えた方が得策と思われます。

3.弁護士費用がなく弁護人をつけられない場合

「弁護人なし」の場合の唯一の利点は、弁護士費用がかからないということだと考える方がいます。
しかし、これは間違いです。何故なら、国選弁護を利用すれば、多くの場合で費用はかからないからです。

国選弁費用は「訴訟費用」として、裁判所が判決でその全部又は一部を被告人に負担させることになりますが、被告人が貧困のために訴訟費用を納付することができないことが明らかな場合は負担させないことができます。

多くの場合、被告人に資力があるかどうかは裁判の証拠(例えば身上調書)から明らかですから、例えば逮捕・勾留で職を失って収入がなくなったような場合には、国選弁護費用を負担させないという判決内容となります。
また、判決で訴訟費用を負担させられても、その判決が確定した後20日以内に裁判所に対して「訴訟費用執行免除の申立」を行えば、費用の全部又は一部が免除されます。

仮に国選弁護費用を負担することとなっても、一般的な自白事件の場合、通常は8万円程度ですので、弁護人抜きで裁判を受けるデメリットと比較するほどの大きな負担ではありません。

とはいえ、この国選弁護人はあくまで裁判所が選んだ弁護士であるため、「被告人とどうしても気が合わない」「やる気が感じられない」などのトラブルが発生しがちです。

国選弁護人がやる気なし?解任を申し出たい場合はどうすればいいか

[参考記事]

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これに対し、被告人が自分で弁護士を選び、刑事弁護をしてもらう契約をした弁護士「私選弁護人」は安心感があります。

なお、刑事事件の弁護士費用を一度に払うことができないという場合には、分割払いが可能な事務所を選んで依頼することもひとつの方法です。
泉総合法律事務所のリーズナブルな費用形態につきましては、以下のページをご覧ください。
弁護士費用のご案内

4.まとめ

刑事事件で裁判になってしまった場合、被告人が弁護人なしで裁判をするメリットとしては「弁護士費用の節約」しかありません。
しかし、その弁護士費用も、国選弁護人を使えば大きな負担にならないのが通常です。

刑事手続において弁護人の存在は非常に重要なものなので、できる限り弁護士に依頼するようにしましょう。

泉総合法律事務所は、刑事事件に強い弁護士が代表を務めております。
刑事事件・裁判の弁護活動には多くのノウハウがございますので、もし被疑者・被告人になってしまったという方は、是非一度無料相談をご利用ください。

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