刑事弁護・裁判 [更新日]2025年9月4日

前科がつくと海外旅行に行けない?パスポートへの影響とは

前科がつくと海外旅行に行けない?パスポートへの影響とは

刑事事件を犯して起訴され有罪判決が下ると、たとえ罰金でも前科がついてしまい、今後の生活や就労に様々な悪影響が出る可能性があります。

とは言え、前科は一般の方が知ることが不可能な情報です。
警察・検察のほか、本籍地の市区町村において、前科はデータとして保管されてはいるものの、本人であっても開示できないデータです。

となると、当然ながらパスポートに前科の有無は記載されませんし、パスポートから前科が分かるような機能もありません。
よって、パスポートを見せることで犯罪歴(逮捕歴)がバレることはありません。

前科・犯罪歴の調べ方は?家族・他人に知られたくない!

[参考記事]

前科・犯罪歴の調べ方は?家族・他人に知られたくない!

しかし、犯罪歴(前科)がある人は、パスポートを取得することが困難になるケースがあります。

以下においては、前科者の海外旅行・渡航の可否について解説します。

1.前科とパスポート取得の関係

パスポート(旅券)は、日本国民が外国へ渡航する際に、日本国政府が発行して、その者の日本国籍と身分を証明し、渡航先の政府に便宜供与と保護を依頼するものです。海外から日本に帰国する際にも、有効なパスポートが必要になります。

旅券の発行権限は外務大臣及び外務大臣の指揮監督を受ける領事館が有しており、発行するか否かは、その裁量に委ねられています。

もちろん、憲法22条では海外渡航の自由が保障されていますから、外務大臣らといえども、不合理な裁量で旅券の発給を拒否することはできません。

そこで旅券法13条は、外務大臣らが旅券の発給を拒否できる場合について定めています。
したがって、たとえ前科があっても、旅券法13条1項の次の各号に該当する場合でない限り、基本的にはパスポートを取得することができます
(※下記の条文は理解し易いように一部書き換えております。)

旅券法13条1項 外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給をしないことができる。

1号 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者
2号 死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者
3号 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
4号 旅券法23条違反により刑に処せられた者
5号 旅券や渡航書を偽造したり、旅券や渡航書として偽造された文書を行使(未遂を含む)したりして、刑法により処罰されたことがある者
6号 (本記事とは無関係につき省略)
7号 外務大臣と法務大臣が協議して、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

順番に解説しましょう。

1号 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者

これは、渡航先の国での「入国拒否事由」該当者ということになります。

実務では、主に外国における犯罪により刑に処せられた者、または何らかの理由で外国から強制退去処分を受けた者について、処分の事情や今回の渡航目的などの事情を総合考慮して、旅券発給の可否を審査しています。

2号 死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者

これは現在、刑事裁判にかけられている場合や身柄拘束が予定されている者が、国外に脱出することによって、日本の刑事司法の訴追権、捜査権が害されることないように、旅券の発給を拒否できるとしたものです。
したがって、前科があるだけの者は対象外です。

3号 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者

「拘禁刑以上の刑」とは、死刑、拘禁刑のことです。

「その執行を終わるまで」の者は、通常、刑の執行のために収監されており、渡航をすることは考えられませんから、実務で本号の対象となるのは、①仮釈放を受け、まだ刑期満了を迎えていない者、または②刑の執行停止中の者(刑事訴訟法480条~482条)ということになります。

「執行を受けることがなくなるまでの者」とは、執行猶予付きの拘禁刑を受けた者で、執行猶予期間が満了するまでの者をいいます。

4号 旅券法23条違反により刑に処せられた者

これは典型的には、パスポートの不正取得をした場合や、パスポートの不正入手について共犯となった場合が該当します。執行猶予判決を受けた場合も含みます。

また、3号とは異なり、刑の執行が終わったからと言って、4号の対象からはずれるわけではありません。

ただし、執行猶予期間が満了したり、刑の執行を終えてから罰金以上の刑を受けることなく10年を経過したりして、刑の言渡の効力が失われた場合(刑法34条の2)は本号の適用対象とはならなくなります。

5号 旅券や渡航書を偽造したり、旅券や渡航書として偽造された文書を行使(未遂を含む)したりして、刑法により処罰されたことがある者

旅券や渡航書の偽造などで、公文書偽造罪、偽造公文書行使罪の刑に処せられた者です。4号と同様の取扱いとなります。

7号 外務大臣と法務大臣が協議して、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

これは海外渡航を認めることが、日本の国益を阻害する場合を想定しています。

例えば、国際的なテロ活動への参加、麻薬取引などの国際的犯罪組織への関与などが考えられます。単に前科があるというだけで本号の対象となるわけではありません。

2.前科がある場合のビザの取得

このように、パスポートを発給してもらう条件は厳しいものではありません。
しかし、首尾良くパスポートの発給を受けられたとしても、次は渡航予定の国から「ビザ」の発行を受けることが必要となります。

ビザ(査証)とは、日本人が外国への入国を希望する場合に、その国が、その日本人を入国させても問題がないかどうかを、書類や面接によって事前に審査し、審査を通過した者に与えられる証明書です。

ただし、ビザはあくまでも入国審査にあたって必要とされる条件のひとつに過ぎません。ビザの発行を受けていても、渡航先の入国審査で入国を拒否される可能性は残ります。

もっとも、日本人がある国に入国する際に必ずビザが必要となるかどうかは、その国の方針次第です。日本人と日本国を信頼して、日本人はビザ不要としてもらえる場合もあります。

実は、世界が日本に寄せる信頼はとても高く、「日本のパスポートを所持していれば、短期間の観光旅行などではビザは不要」という扱いをしてくれる国、アメリカ、韓国、台湾、オーストラリアなど、70カ国以上にも及びます(2025年9月現在)。

したがって、多くの場合、事前のビザ取得は不要です。

【入国審査で前科持ちかどうかを聞かれる?】
事前のビザの取得にかかわらす、渡航先に入国する際には、空港や港で入国審査を受けることになります。その際に、日本での犯罪歴の有無を質問する国もあれば、そのような質問はしない国もあります。
このような施策方針は、その国ごとに異なり、また時期によっても扱いが異なるので、事前に完全に予想しておくことは困難です。知識と経験の豊富な旅行代理店などに正直に相談して、現地事情を教えてもらうことが無難です。

なお、アメリカやカナダ、オーストラリアでは、薬物などの犯罪歴のある人の入国に厳しい姿勢を取っています。
特にアメリカでは(日本人のビザ不要としているため、通常はビザを取得する必要はありませんが)、逮捕歴(前歴)のある人、犯罪歴のある人には厳しい制限を設けているようです。

近年は、複数の国で、ビザ免除国の国民の入国を事前に審査する電子渡航認証システム(ヨーロッパ諸国はETIAS(欧州渡航情報認証制度)、アメリカはESTA、カナダはeTA、オーストラリアはETAS)が導入されています。
このシステムは犯罪歴がある者は利用できませんので、特に悪質な犯罪の前科がある方の入国は厳しいものがあるかもしれません。

「前科があると絶対に行けない国」「絶対に入国できない国」はなく、あくまでその国ごと、時期ごとの扱いによると考えましょう。

3.前科がなくてもビザが必要な渡航先

前科の有無に関わらず、以下の国への渡航については観光目的でも事前にビザが必要になります(2025年9月現在)。
なお、一部の国は現在日本政府(外務省)から「渡航中止勧告」「避難勧告」を発出しているため、渡航が推奨されません。事前に外務省の公式ページなどでご確認ください。

アジア圏
アフガニスタン、インド、インドネシア、カンボジア、スリランカ、チベット、パキスタン、バングラディッシュ、ブータン、ネパール、ミャンマー、北朝鮮、中国(※2025年12月31日までは免除)

中近東圏
イエメン、イラク、クウェート、サウジアラビア、シリア、バーレーン、レバノン、ヨルダン

アフリカ圏
アルジェリア、アンゴラ、ウガンダ、エジプト、エチオピア、エリトリア、カメルーン、ガーナ、ガンビア、ギニア、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、コートジボワール、シエラレオーネ、、ジンバブエ、赤道ギニア、中央アフリカ、タンザニア、チャド、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、ブルンジ、マダガスカル、マリ、南スーダン、リビア、リビアアフリカ諸国、リベリア、ルワンダ

その他
アゼルバイジャン、キューバ、トルクメニスタン、ナウル、パプアニューギニア、ベラルーシ、ロシア

4.まとめ

前科があっても、「海外旅行は絶対にできない」ということはありません。刑事犯罪による前科があっても、日本国内でのパスポート取得自体は可能なケースがほとんどです。

しかし、パスポートを取得できても、入国許可の基準は国によって異なります。一部の国では、軽微な犯罪歴でも入国審査で申告を求められたり、事前のビザ申請が必要になる場合があります。犯罪歴に対して厳格な入国審査を行う国もあります。
さらに、ビザの要否に関する規定は国際情勢や各国の政策変更により随時見直されるため、渡航前の最新情報の確認が不可欠です。心配な場合には、渡航先の在日大使館や領事館、または渡航国の入国管理局に直接問い合わせ、現在の入国要件やビザの必要性について確認するようにしましょう。

前科がある場合の不利益は海外旅行だけにとどまりません。就職活動での制限、各種資格取得への影響など、日常生活の様々な場面で影響を受ける可能性があります。

刑事事件で逮捕されてしまった場合、将来への影響を最小限に抑えるためには、早期の適切な対応が極めて重要です。
経験豊富な弁護士に相談・依頼して、事件の内容・状況に応じた弁護活動を受ければ、不起訴処分を獲得し前科を免れることができる可能性があります。また、仮に起訴されてしまった場合でも、執行猶予の獲得や刑期の軽減など、より良い結果を目指すことができます。

刑事事件は時間との勝負でもあります。一人で悩まず、お早めに刑事事件に強い泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

刑事事件コラム一覧に戻る