痴漢は現行犯以外で逮捕される?後日逮捕が難しい理由

痴漢行為で逮捕されるケースといえば、現場で犯行が発覚し、被害者あるいは周囲の乗客から駅員に、そして駅員から警察に引き渡されて現行犯逮捕されるという事案がほとんどです。
それでは、痴漢をしたもののその場では捕まらなかった(現場から逃走した、警察がすぐに釈放した)ケースで、後日になって逮捕状による通常逮捕がされることはあるのでしょうか?
ここでは、痴漢と後日逮捕の可能性について詳しく解説します。
1.痴漢で後日逮捕される可能性
(1) 痴漢で後日逮捕されるケースはある
痴漢の後日逮捕はあり得るのか?(現行犯以外での逮捕はあり得るのか?)についての答えは、「はい」です。
例えば、男性が電車の中で女性のお尻を触り、女性が「痴漢です」と声を出したため、慌てて逃げ出し、周りの人たちの追跡も功を奏さずに逃げ切ったとします。
しかし、逃げ切れたからもう捕まらないだろうと思っていても、警察に後日呼び出しを受け逮捕されてしまうということが実際には有り得ます。
これが、痴漢の後日逮捕のケースです。
(2) なぜ後日逮捕に至るのか?
では、痴漢の犯人が現場から逃げ切ったとしても、何故身元を特定され、後日逮捕に至るのでしょうか。
それは、以下のような証拠をもとに警察が捜査をして、被疑者の特定に辿り着いたからです。
被害者や目撃者の供述
痴漢行為が行われた証拠が被害者や周囲の供述だけで、しかも、面識のない者の犯行の場合や、犯人の顔は見てない場合など、犯人を特定できるだけの情報・証拠がない場合は、いくら被害者が被害を申告しても警察も捜査のしようがありません。
しかし、例えば(珍しいことですが)被害者の知人であったり、乗り合わせた乗客が「いつも、この電車に、○○駅から乗ってくる客だった」などと犯人特定につながる情報を提供したりすれば、実際の捜査が開始されます。
防犯カメラの映像
被害者や周囲の供述に犯人特定につながる情報がなくても、防犯カメラで犯人の映像が撮影されている可能性があれば、警察はこれを調べます。
現行犯以外で被疑者が特定される多くの理由は、防犯カメラ映像によるものです。
現在、JRの駅構内やほとんどの私鉄で、改札、エスカレータ及び階段の乗り口・降り口、エレベータの中など至る所に防犯カメラを設置しています。現在では、一部の電車内にも防犯カメラが設置されているようです。
捜査官は、この防犯カメラから入手された映像資料をもとに、被疑者の顔を特定するための捜査を行います。
つまり、入手された被疑者の顔の映像を元に、過去に痴漢行為を行い立件された者の写真リスト、運転免許証の写真、被害者や目撃者の記憶を照合し、被疑者を特定していくことが可能なのです。
SUICA等の交通系ICカードによる特定
皆さんが持っているであろうSUICAやPASMOから被疑者が特定される場合もあります。
これらのカードには個人情報(氏名、住所など)が記載されている場合があり、防犯カメラに映る改札からの出場の映像、時間、カードの出場時刻を照合することで、誰が痴漢をしたかを特定することも可能です。
2.痴漢行為で問われる罪
(1) 迷惑防止条例違反の痴漢
迷惑防止条例は、各都道府県がそれぞれで制定するものです。
例えば、東京都迷惑防止条例では、禁止される粗暴行為のひとつとして、「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。」「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。」(同条例第1項1号)としています。
痴漢行為が迷惑防止条例違反とされると、東京都の場合は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習の場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)に処されます(第8条第1項2号、第8項)。
(2) 不同意わいせつ罪の痴漢
不同意わいせつ罪は、迷惑防止条例違反よりも悪質な痴漢行為を行った際に適用される可能性があるもので、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。」と刑法176条に規定されています。
痴漢行為の場合、下着の中に手を入れる行為等、犯行態様が悪質な場合には、身体を触る行為それ自体が暴行と評価され、同意しない意思を形成すると理解されており、不同意わいせつ罪の構成要件に当てはまります。
不同意わいせつ罪では、罰金刑の設定はありません。執行猶予がつく可能性はありますが、起訴されれば拘禁刑がほとんど確定すると言えます。
実務では、衣服の上から触ったケースは迷惑防止条例違反での立件にとどめ、下着の中にまで手を入れて直接に触った場合のように悪質性の高いケースを不同意わいせつ罪で立件することが通常です。
しかし、最近では性犯罪の厳罰化や刑法改正により、着衣の上からの痴漢についても不同意わいせつ罪に問われることがあります。
二つの類型の違いについて、詳しくは以下のコラムをご覧ください。

[参考記事]
痴漢は何罪になる?刑罰と逮捕後の流れを解説
3.痴漢の後日逮捕の実例
泉総合法律事務所が弁護を受任した事件の中には、痴漢を犯した後に逃亡した際、改札口でSUICAを利用したところ、改札口の防犯カメラにSUICAを使用して駅構内から外に出る映像がキャッチされ、証拠隠滅(罪証隠滅)の恐れありとして逮捕されたというケースがありました。
これは、SUICAに氏名などの個人情報を入力していたことから、被疑者の特定、逮捕に至ったケースです。
泉総合法律事務所では、弁護の依頼を受けた後、警察官を通じて被害者の連絡先を教えていただき、即座に被害者と示談交渉を開始しました。
その結果、被害者の許しを得ることができ、示談は成立しました。
そして、示談金を支払い示談書を検察官に提出したところ、有利な事情として考慮してもらうことができ、不起訴処分となりました。
痴漢事件の具体的な弁護活動については以下のコラムで解説しています。

[参考記事]
痴漢の刑事弁護全般について
4.痴漢をしてしまったら弁護士へ相談を
痴漢は現行犯以外で逮捕されることもありますが、一度逃げてしまった痴漢の検挙数は低いと考えられています。
その理由として、まず、痴漢の被害者が捜査機関に対して被害を申告することが少ないのです。そうすると、捜査機関は痴漢事件が発生したことを知ることはないので、捜査対象となりません。
また、事件が発覚しても「人が密集した場所で起きやすい」「犯人に関する証拠が残りにくい」痴漢は、被疑者の特定が困難な場合が多いです。
しかし、絶対に捕まらないとは言い切れません。被害者が被害を申告し、上記で述べたような証拠が残っていれば、被疑者が特定される可能性は十分にあり得ます。
痴漢をしてしまった方、警察に検挙されてしまった方は、現行犯かどうかを問わず、痴漢の弁護実績豊富な弁護士・泉義孝に一度ご相談ください。