刑事弁護・裁判 [更新日]2025年12月2日

文書偽造の罪|構成要件・判例を解説

文書偽造の罪|構成要件・判例を解説

文書偽造罪」という言葉は、皆さん耳にしたことがあるかと思います。
文書偽造について、おそらく多くの方は、素朴に「ニセの文書を作る犯罪」と理解されていると思います。

もちろん、その理解は大筋で間違いではありません。しかし、文書偽造罪は、そう単純な内容に尽きるものではなく、様々な文書の種類、違法な行為の内容に応じて、細かく複雑に分かれています。

この記事では、そんな文書偽造罪の全般について解説します。

1.文書偽造罪の保護法益とは?

文書偽造罪を理解するためには、前提として、
①刑法が文書偽造罪で守ろうとしている保護法益とはなにか?
②どのような方法で保護法益を守ろうとしているのか?
という2点を頭にいれておくことが必要です。

(1) 文書偽造罪の保護法益(公共の信用)

刑法の文書偽造罪は、「文書に対する社会一般の信頼(文書に対する公共の信用)」を保護法益とした犯罪です。

文書に対する社会一般の信頼は、まず「誰が作成した文書か」という点に置かれます。

最終的には、文書の内容そのものが真実か否かというのが重要です。しかし、人々が文書を読むときに、いちいちその内容が真実であるか否かを詳しく調査して判断しなくてはならないならば、私たちの社会生活は麻痺してしまい、一歩も進むことができなくなります。
そこで、私たちは、文書を作成した者、すなわち文書の作成「名義人」が誰かという点に信頼を寄せるのです。

当該文書を作成する権限のある者が名義人として作成した文書ならば、一応、内容に信用性があると判断できますし、万一その内容が間違いであったとしても、名義人の責任を問うことができるからです。

このように、文書の「名義人」が誰であるかという点に、社会一般の信頼が寄せられる以上、まずは、名義が正しいこと、すなわち「名義の真正」を守ることが必要です。

このため、文章偽造罪においては、「無権限で他人名義の文書を作成すること」を「偽造」行為として、第一の処罰対象としています。

【判例】最高裁昭和59年2月17日判決
「私文書偽造とは、その作成名義を偽ること、すなわち私文書の名義人でない者が権限がないのに、名義人の氏名を冒用して文書を作成することをいうのであつて、その本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある」

(2) 公文書と私文書の違い

文書に対する社会の信頼を守るには、「その文書を作成する権限のある者が内容虚偽の文書を作成する行為(虚偽文書作成)」や、「権限のある者が作成した文書の内容に手を加えて改変してしまう行為(変造)」も禁止する必要があります。

そこで刑法では、信頼保護の要請が高い「公文書」については、これに対する偽造行為・虚偽文書作成行為・変造行為をすべて処罰しつつ、「私文書」については、原則として偽造行為・変造行為だけを処罰することとしています。

文書偽造罪では、文書を、①作成権限のある公務員(または公務所)が作成する「公文書」と、②それ以外の「私文書」に分けています。

公文書の例

公文書とは、公務員または公務所(官公庁その他公務員が職務を行う所)が、その作成権限に基づき、その作成名義人として作成する文書を指します。

【公文書の具体例】
戸籍謄本、住民票、運転免許証、納税証明書、外国人登録証明書、印鑑証明書、旅券(パスポート)、裁判所の判決書、裁判所の調停調書など

なお、図面などの「図画」は「文書」ではありませんが、公文書偽造罪では、公務員がその作成権限に基づいて作成する「図画(公図画)」も、公文書と並んで保護の対象とされています。その例としては、地方法務局の土地台帳付属の地図があげられます(最高裁昭和45年6月30日決定)。

私文書の例

私文書は、公文書以外の文書を指します。ただし、私的な文書を保護する要請は低いため、刑法では特に保護の必要性が高い私文書だけを保護対象としています。
それが、①権利義務に関する文書、②事実証明に関する文書です。

①「権利義務に関する文書」とは、権利や義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせることを目的とする文書です。

【権利義務に関する私文書の具体例】
売買契約書、借用証書、催告書、預金通帳、定期預金証書、婚姻届

②「事実証明に関する文書」とは、判例(※大審院大正9年12月24日判決・大審院刑事判決録26輯938頁)の表現によれば、「実社会生活に交渉を要する事項を証明する文書」とされますが、要は、社会生活を送るうえで必要な何らかの事実を証明する文書を広く含むものです。

【事実証明に関する私文書の具体例】
郵便局への転居届、寄付金の賛助員芳名簿、書画の箱書、私立大学の成績原簿、自動車登録事項等証明書の交付申請書、私立大学入学試験の答案、履歴書

なお、公文書偽造の場合と同じく、私文書偽造罪においても、私人の作成した「図画」(ただし、権利義務に関する図画、事実証明に関する図画)も保護対象とされています。

2.文書とは

次に、文書偽造罪が対象としている「文書」とは何かについて説明します。

(1) 保護対象としての「文書」

文書とは、「文字、その他の可視的・可読的符号により、一定期間永続する状態で、ある物体の上に意思または観念を表示したもの」(大審院明治43年9月30日判決・大審院刑事判決録16輯1572頁)とされます。

つまり、
①文字などのように見て意味を読み取ることができること
②すぐには消えないこと
③物体の上に表示されていること
④意思や観念が表示されていること
が必要です。

この定義から、文書に該当するもの、該当しないものの例をあげておきます。

【文書に該当しないもの】
・風景画(①④を満たさない)
・録音テープ、ビデオテープ(①③を満たさない)
・波打ち際の砂浜に書いた文字(②を満たさない)
・下足番の番号札(④を満たさない)

【文書に該当するもの】
・黒板にチョークで書いた文章(すぐには消えないので②を満たす)
・点字
・速記記号
・バーコード

(2) デジタルデータも文書偽造罪の保護対象

デジタルデータは、それ自体は視覚的に読み取ることができず、物体のうえに表示されているものでもないので、「文書」ではありません。
しかし、今日では、情報通信技術の進展と普及により、文書作成の元となるデジタルデータに対する信頼をも保護する必要性が高まりました。

このため、2025年5月の法改正により、刑法の文書偽造罪で保護される対象として、「文書」だけでなく、「電磁的記録文書(電磁的記録図画も含む)」が加わりました。
※「情報通信技術の進展などに対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和7年5月16日成立・同5月23日公布)

電磁的記録文書とは、文書として表示されて行使されることとなる電磁的記録を指します(155条1項2号)。この改正法の文書偽造罪に関する部分は、すでに2025年6月12日から施行されています。
※「情報通信技術の進展などに対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律の公布について(通達)」(令和7年5月23日・警察庁丙刑企発第39号)

(3) 有印文書と無印文書の違い

公文書でも私文書でも、作成名義人の「印章」または「署名」のある文書を「有印文書」、それがない文書を「無印文書」と呼びます。したがって、有印公文書、無印公文書、有印私文書、無印私文書があるわけです。

「印章」とは、いわゆる判子(ハンコ)の印影です。実印、認印、社判なども含みます。「署名」は自署だけでなく、印刷などによる記名も含まれます。

名義人の印章や署名のある文書は、それがない文書に比べてより高い信用が寄せられるため、これを偽造する行為はより重く処罰されます。

なお、印章・署名として表示されることとなる電磁記録は「電磁的記録印章」「電磁的記録署名」と定められ、有印文書と同様に扱われます。

3.文書偽造の罪について

では、刑法が定めている文書偽造に関する各犯罪の内容を個別に説明します。

(1) 公文書偽造罪(155条1項、3項)

行使する目的をもって、公文書(公図画・電磁的記録文書を含む)を偽造する行為が対象です。偽造する行為とは、作成権限のない者が、公務員・公務所の名義を勝手に使用して文書を作成することです。

「行使」とは、偽造文書を、あたかも真正な文書として、その内容を人に認識させたり、認識可能な状態に置いたりすることであり、このような目的をもって偽造することが禁止されます。

法定刑は、有印公文書のときは1年以上10年以下の拘禁刑(155条1項)、無印公文書のときは3年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金刑です(155条3項)。

(2) 公文書変造罪(155条2項、3項)

行使する目的をもって、公文書を変造する行為が対象です。変造する行為とは、作成権限のある者によって真正に作成された公文書の内容に変更を加える行為です。

法定刑は、有印公文書のときは1年以上10年以下の拘禁刑(155条2項)、無印公文書のときは3年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金刑です(155条3項)。

【有印公文書変造罪の具体例】
郵便貯金通帳の貯金受け入れ年月日の改ざん(大審院昭和11年11月9日判決・法律新聞4074号15頁)

(3) 私文書偽造罪(159条1項、3項)

私文書のうち、①権利義務に関する文書(図画・電磁的記録文書を含む)、②事実証明に関する文書を、行使の目的をもって「偽造」する行為を処罰するものです。

法定刑は、有印私文書のときは3月以上5年以下の拘禁刑(159条1項)、無印私文書のときは1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑です(159条3項)。

【有印私文書偽造罪の具体例】
夫が、市役所に提出する目的で、勝手に妻の署名押印をした離婚届を作成する行為

(4) 私文書変造罪(159条2項、3項)

私文書のうち、①権利義務に関する文書(図画・電磁的記録文書を含む)、②事実証明に関する文書を、「変造」する行為を処罰するものです。

法定刑は、有印私文書のときは3月以上5年以下の拘禁刑(159条2項)、無印私文書のときは1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑です(159条3項)。

【有印私文書変造罪の具体例】
知人に融資を申し込む際に、自己の返済能力を信用させるべく、知人に見せる目的で、自己の銀行預金の通帳に記載された金額を改ざんして金額を増やす行為

(5) 公文書・私文書に係るその他の犯罪

  • 虚偽公文書作成罪:公文書を作成する権限のある公務員が、その職務に関して、行使の目的をもって内容が虚偽の公文書を作成・変造する行為
  • 公正証書原本等不実記載罪:公務員に対して虚偽の申立をして、公的な文書に虚偽内容の記載をさせてしまう行為
  • 偽造公文書等行使罪:公文書偽造罪、公文書変造罪、虚偽公文書作成罪、公正証書原本等不実記載罪に該当する行為によって作成された公文書・公図画を行使する行為
  • 虚偽診断書作成罪:公務員ではない民間の医師が、公務所に提出するべき診断書、死体検案書、死亡診断書に虚偽の内容を記載する行為
  • 偽造私文書等行使罪:私文書偽造罪、私文書変造罪、虚偽診断書作成罪の各行為で作られた文書を行使する行為
  • 詔書偽造罪:内閣総理大臣や最高裁判所長官の任命書など、天皇陛下が作成する文書を偽造する行為など
  • 電磁的記録不正作出・供用罪:人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理に供する権利義務または事実証明に関する電磁的記録を不正に作る行為(無権限での作出や権限濫用による作出)や、こうして作られた電磁的記録を人の事務処理の用に供する行為

4.文書偽造の罪で逮捕された場合の対応

万一、文書偽造罪で逮捕されてしまった場合は、弁護士に早急に依頼するべきです。弁護士は、たとえば次のような役割を果たしてくれます。

(1) 被疑者との接見(面会)、家族や勤務先との連絡

逮捕後、身体拘束が勾留に切り替わるまでの間や、勾留後も裁判官による接見禁止処分が決定された場合には、被疑者は弁護士以外の者とは面会(接見)できません。
また、家族が面会できるのは、平日に1日1回、警察官による立ち会いのもと15分程度に過ぎません。

しかし、弁護士であれば、逮捕された日から、原則としていつでも、警察官による立ち会いなしに面会することができます。

弁護士は取り調べの対処方法や法的な権利をアドバイスし、家族や勤務先など外部との連絡役となります。

(2) 被害者との示談交渉

文書偽造罪は、文書に対する社会一般の信用を保護するものであり、それ自体は特定の被害者を予定していません。

しかし、たとえば他人になりすまして、他人名義の預金払戻証書を勝手に作成して他人の預金をおろしてしまったという場合のように、私文書偽造罪がかかわる犯罪では、実質的な被害を受けた被害者が存在する場合が少なくありません。

このような場合には、実質的な被害者と示談交渉を行い、示談金として損害の賠償金を支払うなどして示談を成立させることで、検察官による起訴を免れる可能性が高まります。

起訴された場合でも、示談の成立は量刑を軽くする事情として考慮され、執行猶予判決を得られる可能性も高まります。

一方、特定の被害者が存在しない場合は、示談という方法がとれません。その場合は、弁護士を介して「贖罪寄付」を行うことが考えられます。

刑事事件の示談の流れ|示談をするメリット・効果とは?

[参考記事]

刑事事件の示談の流れ|示談をするメリット・効果とは?

(3) 早期釈放のための意見書や資料の提出

勾留決定や勾留延長を阻止するには、被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがなく、再犯の恐れもないことを検察官・裁判官に理解してもらわなければなりません。

そのためには、例えば、良好な家族関係があり、しっかりした勤務先があることで、家族や同僚・上司による今後の監督・サポートが期待できる状況にあることなどの事実関係を、弁護士が意見書・報告書にまとめ、これらの人々の誓約書を添えて提出する方法があります。

5.まとめ

文書偽造罪は刑法の定める犯罪の中でも、一般には理解が容易でない分野です。身に覚えがないのに文書偽造罪で逮捕された場合には、捜査機関に反論するために、刑法の専門家である弁護士の助力が不可欠です。

文書偽造の事実に間違いがない場合でも、早期釈放、起訴猶予処分、執行猶予判決などを得るには、早期に弁護士による弁護活動を開始することが有益です。

6.文書偽造に関する実際の質問

  • Q.コロナ・インフルエンザ感染の偽装は私文書偽造に該当しますか?

    職場にコロナと嘘をついて、過去の自分のコロナ感染時の抗原キッドの陽性画像を送信した場合、私文書偽造に該当しますか?

  • A.私文書偽造は成立しないと思われます。

    私文書偽造とは、
    ①他人の印章、署名を使用し、または偽造した他人の印章・署名を使用して
    ②権利・義務・事実証明に関する文書や図画を
    ③行使の目的で
    ④作成使用する行為
    を言います。

    抗原キットの陽性画像は、②の事実証明に関する図画に該当すると思いますが、そもそも質問者の氏名で送信していると思いますので、①の他人の署名を使用したことには該当せず、私文書偽造は成立しないと思われます。

刑事事件コラム一覧に戻る