刑事弁護・裁判 [更新日]2025年10月14日

刑事事件の示談の流れ|示談をするメリット・効果とは?

刑事事件の示談の流れ|示談をするメリット・効果とは?

刑事事件の被疑者(加害者)となってしまった場合、痴漢・盗撮・窃盗など被害者が存在する事件ならば、被害者と示談をすることは非常に重要な意味を持ちます。
「示談」とは、被害者と加害者が話し合いを行い、損害賠償・慰謝料などの条件について合意することです。刑事事件で示談が成立すると、早期釈放・刑の軽減・不起訴の獲得など、処分結果に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、示談交渉は被害者の感情への配慮が必要であり、適切なタイミング・進め方を理解しておくことが重要です。
本コラムでは、刑事事件で示談を行うメリット・効果から、示談の具体的な流れ、注意すべきポイントまで詳しく解説します。

1.刑事事件で示談をするメリット

(1) 減軽・不起訴処分の可能性が高まる

最も大きいと言えるメリットは、刑事処分に良い影響を与える可能性があることです。

示談が成立すると、検察官が起訴・不起訴を判断する際に有利な事情として考慮されます。特に初犯で被害が比較的軽微な事件の場合、示談成立により不起訴処分となる可能性が高まります。

不起訴となれば前科がつかないため、その後の社会生活への影響を最小限に抑えることができます。
特に、痴漢・盗撮などの比較的軽微な性犯罪、暴行、傷害、窃盗、器物損壊などの事件では、示談成立が量刑の重要な判断材料となります。

起訴後でも、示談が成立していることは量刑判断において有利な情状として評価されます。被害者への謝罪・賠償を果たしたことが認められ、執行猶予判決を得られる可能性が高まったり、実刑となる場合でも刑期が軽減されたりすることがあります。
裁判所は被害回復に尽力したことを反省の表れとして評価し、また被害者の現在の被害感情も重視するため、示談の有無は判決に大きく影響するのです。

なお、不起訴処分により前科がつかないならば、その後の就職、転職、資格取得などにおける不利益も回避できます。特に一定の職業では前科が欠格事由となる場合があるため、示談成立で不起訴処分を得ることは将来のキャリアを守ることにも繋がるかもしれません。

(2) 早期釈放の可能性が高まる

逮捕・勾留により身柄を拘束されている場合、示談成立により証拠隠滅や逃亡のおそれが低いと判断され、早期に釈放される可能性があります。

逮捕・勾留されている状態が長引くと、職場の解雇や退学のリスクが高まるため、早期釈放は非常に重要です。
仮に起訴されてしまった後でも、示談が成立していれば保釈が認められる可能性も高くなります。

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(3) 被害届・告訴などを取り下げてもらえる

示談を通じて損害賠償の問題を解決することは、あくまで民事上の責任を果たしたということになりますので、それだけで必ずしも刑事責任がなくなるというわけではありません。

しかし、先述の通り示談の成立は量刑に良い影響を与えるだけでなく、被害届や告訴状が提出されている場合にこれらを取り下げることを約束してもらえることがあります。
告訴状がなければ起訴をすることができな一部の罪状(親告罪)では、告訴や被害届を取り下げてもらえれば必ず不起訴となります。

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2.被害者との示談の流れ

刑事事件における示談交渉は、慎重に、かつ適切な手順で進める必要があります。

(1) 弁護士への依頼

示談交渉は、まず弁護士に依頼することから始まります。
例え被害者の連絡先を知っている場合でも、被疑者本人が直接被害者に接触することは、被害者に恐怖心を与えたり、脅迫と受け取られたりする危険があるため避けるべきです。
特に身体犯や性犯罪では、被疑者との接触自体が被害者に大きな精神的苦痛を与えます。

一方、そもそも被害者の連絡先を知らない場合は、被疑者は被害者にコンタクトを取ることすらできません。警察・検察は、被疑者やその家族には被害者の連絡先情報を一切公開してくれないのです。

弁護士は、警察・検察を通じて、「示談交渉のために、弁護士限りで被害者の連絡先を教えてほしい」と頼み、被害者の承諾があった場合のみ被害者の連絡先を取得できます。
被害者の意思を尊重することが大前提となるため、無理に連絡を取ろうとすることは避けなければなりません。

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(2) 示談交渉の開始

弁護士が被害者に連絡を取り、示談の意向を伝えます。この際、被疑者の反省の意思と、被害回復のために誠実に対応する姿勢を代理人として示します。
被害者が示談に応じる意思を示してくれた場合、具体的な示談条件について交渉を進めていきます。

具体的に言えば、損害賠償額(治療費、慰謝料など)を基に示談金額を協議します。被害の程度、被疑者の資力、事件の内容などを総合的に考慮して金額が決定されます。被害者の感情にも配慮しながら、双方が納得できる金額を模索していきます。

また、事案によっては「被害者が利用している電車やバスに乗らない」「被害者と鉢合わせることがないよう被疑者の通勤の時間帯をずらす」「被害者の引っ越し費用を負担する」などの条件が必要となるケースもあります。

さらに、支払い方法(一括払いか分割払いか)、支払期限、宥恕条項(被害者が加害者の処罰を望まない旨の条項)の有無、清算条項(今後一切の請求をしない旨の条項)などの条件を詰めていきます。特に宥恕条項の有無は刑事処分に大きく影響するため、これを記載してもらえるかどうかが重要な交渉ポイントとなります。
もちろん、宥恕条項の記載を拒否されることもありますが、この時は宥恕文言抜きでの示談書作成に応じてもらい、金銭的な被害は回復されたことを明確にすることが大事です。

(3) 示談書の作成・締結

合意内容が固まったら「示談書」を作成します。
口頭での合意だけでは後日トラブルになる可能性があるため、必ず示談書という形で文書化するのです。

示談書には、事件の内容、示談金額、支払方法、清算条項、宥恕条項、その他条件などを明記します。そこに双方が署名・押印することで示談が正式に成立します。
この示談書は検察官にも提出され、処分や量刑の判断材料となります。

被疑者の方は、弁護士を通じて示談書に記載された条件に従い、示談金を支払います。一括払いの場合は速やかに支払い、分割払いの場合は約束した期日を厳守することが重要です。当然ですが、支払いが滞ると示談の効力に影響が出る可能性があります。

(4) 検察官・裁判所への報告

示談書と、示談金の支払いを証明する資料(振込明細書など)を検察官や裁判所に提出します。これにより、示談成立の事実が刑事手続きにおいて考慮されることになります。

提出のタイミングは事件の進行状況によって異なるため、弁護士と相談しながら適切な時期に行いましょう。

3.示談交渉のポイント

示談交渉を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
代理人を弁護士に依頼するとはいえ、被疑者としては示談成立の可能性を高めるためにも以下の点に注意をしておきましょう。

(1) できるだけ早期に交渉を開始する

示談交渉は早ければ早いほど良いと言えます。

検察官が起訴・不起訴を判断する前に示談を成立させることができれば、不起訴処分の可能性が大幅に高まります。逮捕直後から弁護士に依頼し、速やかに示談交渉を開始することが重要です。

また、被害者側からしても、なかなか謝罪に来ない被疑者よりも、早期に謝罪・反省の意を示す被疑者の方が、示談に応じようという気持ちが起きやすいと言えます。

(2) 誠意ある謝罪の姿勢を示す

示談交渉において最も大切なのは、被疑者の真摯な反省と謝罪の気持ちです。単に刑を軽くするための形式的な示談と受け取られないよう、被害者の心情に寄り添った対応が必要です。
被疑者の方は、弁護士を通じて謝罪の意思を伝え、被害回復に真剣に取り組む姿勢を示すことが、被害者の心を動かす鍵となります。

そのために効果的なのは、被害者へ向けた謝罪文を弁護士を通して渡すことです。
謝罪文は、反省の気持ちがしっかりと伝わるよう、弁護士と相談をしながらも自分の文章で丁寧に作成するようにしましょう。

また、被害者は事件によって心身に傷を負い、怒りや恐怖を抱いています。被害者が示談交渉に応じてくれない場合でも、その意思を尊重しなければなりません。無理に交渉を迫ったり、示談を急かしたりすることは逆効果です。
被害者のペースに合わせ、時間をかけて丁寧に対応をしてもらうことが大切です。

(3) 適切な示談金額を提示する

示談金額は、被害の程度に見合った適正な金額を提示することが重要です。あまりに低い金額では被害者の納得が得られず、かえって感情を害する可能性があります。
一方で、被疑者の支払能力を超える金額では示談が成立しても支払いが滞るリスクがあります。実際に支払えなければ意味がありません。

分割払いを希望する場合は、現実的に支払い可能な金額と期間を設定します。家族の援助が得られる場合はそれも含めて検討しますが、無理な約束をして後で破綻することは避けなければなりません。支払いが確実に履行できる計画を立てることが、示談の成功率を高めます。

弁護士は類似事例の相場や被害の実情を踏まえて、適切な金額を提案します。現在の家庭の事情やご自身の支払い能力については、嘘をつかず、正直に弁護士に話すようにしましょう。

4.刑事事件の示談金相場

示談金割合の多くを占めるのは、精神的苦痛の程度に応じた「慰謝料」です。
治療費や修理費などの実費、被害者の休業損害などは、実害を計算しやすいものです。しかし、慰謝料を一律で定めることはできません。慰謝料については、被害の程度や被害者の処罰感情、被疑者の反省の度合いなどを総合的に考慮して決定されます。

よって、同じ犯罪類型でも、あらゆる要素によって示談金額は大きく変わります。
弁護士は過去の事例や裁判例を参考にしながら、個別の事案に応じた適切な金額を提案し、被害者との交渉を進めていきます。

以下では、代表的な刑事事件における示談金の相場について解説します。
ただし、これらはあくまで目安であり、個別の事情によって金額は変動することを理解しておきましょう。

(1) 暴行・傷害事件

暴行罪で被害者に怪我がない場合、示談金の相場は5万円〜30万円程度です。暴行の態様や被害者の精神的苦痛の程度によって金額は変わります。複数回の暴行や悪質な態様の場合は、より高額になることもあります。

傷害罪の示談金は、被害者の怪我の程度によって大きく異なります。軽傷の場合は30万円〜50万円程度、全治2週間から1ヶ月程度の怪我であれば50万円〜100万円程度が相場です。重傷で入院が必要な場合や後遺症が残る場合は、100万円を大きく超えることもあります。
ここに、治療費、通院交通費、休業損害などを積み上げて算定します。

傷害罪の示談金・慰謝料の相場|怪我の程度に応じて変わる?

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(2) 窃盗事件

窃盗罪の示談金は、盗んだ物の価値に慰謝料を加えた金額となります。被害品の時価に加えて、精神的苦痛に対する慰謝料として10万円〜30万円程度を上乗せするのが一般的です。

被害品を返還できるならばその実物を返還することもあり、この場合、実物の時価を差し引いて示談金を算定します。
とはいえ、一度被疑者の手に渡った物の返還を求める被害者は多くありません。店舗での万引き事件では、原則としてその商品の買い取りが必要となります。

万引きの場合は比較的少額な示談金となりますが、空き巣や侵入窃盗の場合は住居侵入を伴い被害者の恐怖心が大きいため、慰謝料も高額になる傾向があります。

なお、器物損壊罪の示談金も同様で、損壊した物の修理費用または時価に慰謝料(10万円〜30万円程度)を加えた金額となるのが相場感です。故意に壊した場合や悪質な態様の場合は、慰謝料部分が高額になることがあります。

(3) 性犯罪の場合

痴漢や盗撮などの性犯罪は、被害者の精神的苦痛が非常に大きいため、示談金も高額になる傾向があります。

大まかな相場として、迷惑行為防止条例違反の痴漢の示談金相場は20万円〜50万円、不同意わいせつ罪の痴漢の示談金相場は50万円〜100万円ほどです。
盗撮の場合は30万円〜100万円程度が相場です。被害の態様や被害者の処罰感情の強さによって金額は大きく変動します。不同意わいせつなどのより重大な性犯罪の場合は、数百万円に及ぶこともあります。

盗撮事件は、被害者の被害感情が強かったり、犯行態様が悪質(盗撮した画像をネットで拡散したなど)であったり、被害に遭ったことによって支出(引っ越しを余儀なくされるなど)したりといった事情があれば、慰謝料の金額も高額になる傾向にあります。
これまでの泉総合法律事務所の経験では、盗撮事件は20万円~50万円で示談がまとまるケースが多いと感じられます。

痴漢の示談金相場はいくら?示談交渉の流れとポイント

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盗撮事件における示談金の相場・示談方法|迷惑防止条例違反の場合

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5.刑事事件の示談交渉は泉総合法律事務所へ

示談交渉は法律的な知識と経験が必要になる高度な手続きです。
刑事事件に強い弁護士は、これまでも多くの示談交渉を経験しており、事案に応じた適切な対応方法を熟知しています。示談のタイミング、交渉の進め方、示談書の作成など、あらゆる場面で弁護士の助言を受けながら進めることが、示談成立のために重要となります。

刑事事件を犯してしまった被疑者の方、被害者の方と示談交渉をしたい方は、どうぞお早めに泉総合法律事務所にご相談ください。

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