刑事弁護・裁判 [更新日]2025年10月17日

職務質問・所持品検査って拒否してもいいの?

職務質問・所持品検査って拒否してもいいの?

「職質(職務質問)や所持品検査で呼び止められたが、拒否・無視をしてもいいの?」
これは、法律に関する疑問の中でも、とても身近なものだと思います。

中には、実際に職務質問を受け「拒否しているのにしつこい」「警察にカバンの中身を見られたくない」と感じた経験がある方もいらっしゃるでしょう。

本コラムでは、職務質問や所持品検査は拒否できるか、また、実際に職務質問されたらどうすればいいのか、所持品検査を受けた場合の正しい対処方法などを解説します。

1.職務質問・所持品検査とは?

(1) 職務質問

職務質問とは、警察官が、犯罪を犯した者・犯そうとしている者・犯罪について何か知っていると思われる者に対して停止を求め、質問をすることです。

職務質問には「警察官職務執行法」という法律の根拠があります。

警察官職務執行法2条1項「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。」

2項「その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。」

警察官は、疑いがある者に停止を求め、質問することができます。例えば、今何をしていたのか、これから何をしようとしているのかなどです。
場合によってはしつこい質問が続けられる場合もあります。それだけにとどまらず、強制にわたらない限り、警察署に同行を求めたり、緊急性・必要性が高い限定的な場面では承諾のないまま所持品を検査したりすることも可能とするのが判例です(※最高裁昭和53年6月20日判決

職務質問は、異常な挙動をするなどの「不審事由」があり、警察官が怪しいと考える者に対して行われます。薬物中毒が疑われるような挙動不審の動きをしている者や、不審物を所持しているおそれがあると見受けられる者、深夜に大勢でたむろしている場合などには職務質問が行われる可能性があります。

他方、普通に背広を着て会社に出勤している途中や、日中に散歩しているだけで職務質問が行われることは通常ありません。警職法の要求する不審事由がないからです。

もっとも、最近その地域で犯罪が多発しているといった事情がある場合には、少しの不審でも見逃さないよう職務質問が頻繁に行われる可能性があります。

(2) 所持品検査

実は、所持品検査について定めた規定は存在しません。
しかし、所持品検査は合法となる場合もあると考えられています。

最高裁によると、その根拠は、職務質問について定めた上記の警察官職務執行法2条1項にあると言います。

最高裁判所は、昭和53年6月20日に出された判決で、以下のように述べています。

「警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。」

2.職務質問・所持品検査を拒否できる?

(1) 実質的に拒否は難しいケースが多い

職務質問に応じるか否かはあくまでも任意です。その者を捕まえて強制的に取り調べを受けさせるためには、原則として、裁判官にあらかじめ令状(逮捕状)を発付してもらい、その令状に基づいて逮捕する必要があります。
そのため、職務質問に応じたくないと考える者は、これを拒否したり、無視したりできます。また、職務質問に応じないだけで、報復として逮捕されるなどということはありません。

しかし、実際に職務質問された場合に、これを拒否や無視するのは困難な場合もあります。

職務質問を拒否することによって、警察官の疑いを更に深めてしまいます。要するに、「職務質問を拒否するという事は、何かやましいことがあるに違いない」と疑われてしまうのです。

そもそも、職務質問をするという事は、不審事由があると判断され何らかの疑いを持たれているわけですから、職務質問を拒否すると警察官は中々引き下がってくれません。

また、警察官には、「停止させて質問することができる」(前記警職法2条1項)権限があるので、拒否して立ち去ろうとする者に対して、一定の引き止め行為が認められる場合があります。

その者に職務質問を受けるよう説得するのはもちろん、その場から立ち去ろうとする者の肩を掴んだり、その者が車や自転車に乗っていた場合はカギを抜くことも許される場合があります。そうなった場合、職務質問を拒否してその場を立ち去るのは非常に困難です。
※例えば、職務質問対象者の車のエンジンキーを取り上げた行為を適法とした最高裁平成6年9月16日決定

もっとも、無理矢理パトカーに乗せて警察署に連行するといったことは当然できません(上記の警職法2条3項を参照)。職務質問の際に対象者に暴行をふるったりすることも、当然違法です。

(2) 職務質問・所持品検査が違法となる場合

職務質問とそれに付随して許される所持品検査は任意捜査であり、行うには以下の要件を満たしていることが要求されます。

① 異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者
② 既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者
③ 上記①または②の者を停止させて質問する際であること

したがって、何ら犯罪の嫌疑などがない者に対する職務質問や所持品検査は、それだけで違法です。

次に、適法な職務質問の要件を満たしている場合でも、所持品検査としてはどのような行為まで許されるのかが問題となります。

まず、(ⅰ)所持品を外部から観察して、内容物について口頭で質問すること(ⅱ)内容物の開示を要求することは、当然に許されます。これらは職務質問そのものとも言えるからです。

次に、(ⅲ)例えば、バッグやポケットの外側から手で触れて内容物を確かめる行為(「フリスク」と呼ばれます)や、(ⅳ)バッグやポケットの中に手を入れて内容物を取り出す行為は、原則として、対象者の承諾がなければ許されないと考えられます。それは、任意捜査である職務質問に付随する行為と理解する以上、所持品検査も任意捜査にとどまるからです。

ただ、最高裁は前出の判例の中で、犯罪の予防鎮圧という、これも実際上の必要性から、対象者の承諾がなくとも許される例外を認めています。それは次の条件を満たす場合です。

  1. 所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度であること
  2. 憲法35条の禁止する「捜索」に至らない程度の行為であること
  3. 強制にわたらないこと

この考え方からは、まず「捜索」に該当する行為は、承諾のない限り一切禁止です。
バッグやポケットの中に手を入れて内容物を取り出す行為は明らかに「捜索」ですから、対象者の承諾なくして許容されません。

それに対して、バッグやポケットの外側から手で触れて内容物を確かめる行為は「捜索」とまでは言えないので、たとえ承諾がなくとも、強制にわたらなければ具体的状況のもとで相当と認められる限度で許されることになります。

強制にわたらないことが要件ですので、対象者が明白に拒否していれば許されません。
さらに、相当と認められる限度がありますから、不相当な長時間に及ぶ所持品検査は違法となります。

【所持品検査が違法とされた最近の事例】

・被告人が着衣の上からの身体検査は承諾したが、陰部付近を触られることまで承諾していたとは認められない場合に、警察官が服の上からとはいえ無断で陰部付近に触れた行為が実質的に無令状の「捜索」に等しいなどとして違法とされた事例(東京高判令和元年7月16日

・所持品検査の必要性も緊急性も高くなかった状況下で、便意が切迫しているためトイレに行かせてほしいという被告人に対して、トイレに行くことを阻止して、駐車場内やゲームセンター店内で排便することを余儀なくさせたうえ、所持品検査に応じないと、さらに公衆の面前で排便を続けなくてはならなくなると思わせて所持品検査に応じさせたことが、職務質問に付随した所持品検査の許容限度を大きく超える違法なものとされた事例(さいたま地判平成30年7月27日LEX/DB文献番号25561084)

・職務質問を受け移動を阻止されながらも所持品検査を拒否していた被告人が、電話で知人を呼び出し、所持するバッグを現れた知人に投げたため、4メートル先にバッグが落ちたところ、警察官が、知人の承諾を得て、そのバッグのファスナーを開けて覚せい剤を取り出した行為について、被告人の占有は未だ失われておらず、令状なしには許されない捜索であるなどとして違法とされた事例(東京高判平成30年3月2日・判例時報2393・2394合併号63頁)

3.職務質問・所持品検査を受けた場合の対処法

先述のように、警察官はしつこく職務質問を続けることがあります。たとえ急いでいるときであってもこれを拒否したり断ったりすると、かえって自分にとって不利益な事態となってしまいます。
職務質問や所持品検査に対する有効な断り方はありませんが、的確に対応することはできます。

(1) 職務質問に対してはしっかり答える

職務質問に答える義務は一切ありませんし、所持品検査を受けることを拒否することもできますが、まったく応じなければ警察官は疑念を深めてしまい、なかなか解放してもらえなくなります。
貴重な時間を無駄にしたくないのであれば、むしろ質問に答え、疑念を晴らす方が得策です。所持品検査を求められた場合も同様です。

これは、法的義務の有無の問題ではなく、「ただの処世術」と考えるべきです。

そして、質問に答えてバッグの中身なども見せたのにしつこく絡んでくる場合には、「質問には答えましたので、もう失礼します。」と、それ以上のかかわりをキッパリと断ることが有効です。

なお、警察官が引き留めようと肩に手をかけたり、腕を掴んだりした場合でも、自分から警察官の手をふり払おうとしたり、逆に警察官の腕を掴んだりしてはいけません。
このような有形力を行使することは、公務執行妨害罪の現行犯で逮捕する口実を与えることになり、高い確率で逮捕されてしまいますので、絶対にお勧めできません。

もちろん「何もやましいことはないが、バッグの中を見られたくない」と考えるならば、これまでの判例理論からしても堂々と拒否して構いません。拒否に理由は不要です。
ただ、やはり拒否は口頭で伝えるにとどめてください。

(2) 職務質問を終始録音しておく

職務質問の際に警察官が違法な行為をしていないかを後にチェックするため、スマホで録音を行うのも良い対処法です。

職務質問の内容を録音することは犯罪ではありません。また、そこから得た録音データは、後に職務質問の適法性が争点となる裁判になった場合に証拠として利用できます。

後で「違法な行為があったか否か」の水掛け論になることを防ぐために、録音をしておくことは有効な防衛手段と言えます。

(3) 弁護士を呼ぶ

職務質問を拒否した、あるいは質問に応じたのに解放してくれないという場合、ただちに弁護士に電話をするべきです。

たとえ職務質問の最中であっても、弁護士と電話で話をすることは自由ですから、警察官がこれを制止することはありません。
弁護士にその場の状況を説明して、アドバイスを受けることがお勧めです。

また、弁護士と電話がつながっているだけで警察官側も慎重になるので、強引な行為を控えさせる効果があります。

弁護士とつながっている電話を警察官に渡して直接に弁護士とやりとりをしてもらった結果、職務質問から解放されると言うケースもあります。警察官が弁護士との会話に応じる法的義務があるわけではありませんが、通常は応じるはずですから、試してみる価値はおおいにあります。

弁護士とコンタクトを取っておけば、万が一その後に任意同行や逮捕が行われた場合、弁護士の初動が早くなります。

もちろん、任意で警察署に同行した場合や、その場で逮捕されそうな場合なども、迷わずに弁護士を呼ぶべきです。
特に、もし逮捕された場合にはすぐに弁護士を呼びましょう。その逮捕が違法な場合もありますし、後に受ける取り調べの対応で困らないようにするためです。

任意同行は拒否できない?逮捕されることはあるのか

[参考記事]

任意同行は拒否できない?逮捕されることはあるのか

4.まとめ

職務質問を受けたら、やましいことがないのなら誠実に応じることが処世術です。

ただし、応じたからといってすぐに解放されるとは限りません。
なかなか解放してもらえない場合や、警察署や交番への任意同行を求められた場合、所持品検査を受けたことが発端となって事件として立件されたり逮捕されたりした場合には、すぐに泉総合法律事務所にご相談ください。

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