タバコの不始末・ポイ捨ての火事で逮捕|放火罪・失火罪

タバコの不始末やポイ捨ては、火災の発生原因となります。
不注意によるものであれ、火事が発生すると財産だけでなく他人の命までも奪う危険があります。よって、刑法ではタバコの不始末等による火事について刑事罰を設けています。
本コラムでは、タバコの不始末・ポイ捨てについて成立する犯罪について説明します。
1.タバコの不始末による火事で成立する犯罪
タバコの不始末等により火事が発生した場合、成立する犯罪は以下のものです。
(1) 失火罪
タバコの不始末等による火事で成立する可能性が最も高い罪は失火罪です。
刑法116条
1項 失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。
2項 失火により、第109条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
失火とは、過失により火事を発生させてしまうことを言います。例えば、タバコの不始末やポイ捨てをし、その残り火が原因で火事になってしまった場合です。
刑法108条に規定する「物」とは、犯人以外の人が住んでいる住居や建造物と、現時点で犯人以外の人が中にいる住居や建造物です(現住建造物等)。
他人の所有に係る109条に規定する「物」とは、犯人以外の人が住んでおらず、かつ、現時点で犯人以外の人が中にいない住居や建造物で、かつ、犯人以外の者が所有する物です(非現住建造物等)。
つまり、犯人だけが住居としていたり、犯人だけが現時点で中にいたりする場合は109条の対象となりますから、自分が一人で暮らしている家が失火により燃えた場合でも失火罪は成立します(他人所有であれば116条1項、自己所有であれば116条2項が成立します)。
もっとも、一人暮らしでも、失火時に友人が家にいた、又は家族共に暮らしているといった事情がある場合には、他人が現にいる・他人が現に住んでいる場合に該当しますから、現住建造物等として116条1項の失火罪が成立します。
また、失火が重過失による場合、重過失失火罪が成立します。
重過失とは、火事が起きることを容易に予見できたのに危険な行為をしてしまったというように、注意義務違反の程度が著しい場合を指します。例えば、ガソリン等の燃えやすいものの傍で喫煙し、タバコをポイ捨てした結果火事になってしまった場合には重過失失火罪が成立します。
さらに、例えばボイラーマンのように火気を取り扱うことが業務である場合は、業務上失火罪となります。
刑法117条の2
第116条又は前条第1項の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、3年以下の拘禁刑又は150万円以下の罰金に処する。
(2) 過失致死傷罪
刑法209条 過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
刑法210条 過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。
刑法211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の拘禁刑若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。
失火により、燃えた家の住人や周囲の人に怪我を負わせてしまったたり、死に至らしめてしまった場合には、過失致死傷罪が成立します。
また、それが重大な過失による場合や業務による場合は、重過失致死傷罪や業務上過失致死傷罪が成立し、重罪となります。
(3) 放火罪
失火罪は、火事になることについて故意がない場合に成立します。
故意があれば「放火罪」として重く処罰される可能性があります。
ただし、故意とは積極的に結果の発生を意図する場合に限らず、「結果が発生してもかまわない」という場合にも認められます(未必の故意)。
そこで、火事を起こすつもりではなくとも、タバコの不始末・ポイ捨て時に「周りにある物に引火して火事になるかも。それでもいいや。」などとの認識があった場合には、放火罪が成立する可能性があります。
刑法108条の現住建造物等放火罪は現に犯人以外の人がいる、犯人以外の人が住んでいる住居等に火をつけた場合に成立します。それ以外の住居等で他人所有のものを燃やしてしまった場合には、刑法109条の非現住建造物等放火罪が成立します。
刑法108条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する。
刑法109条
1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の拘禁刑に処する。
2項 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
刑法上、物を道路に捨てる行為を処罰する規定はありません。そのため、ポイ捨て行為は、それにより他人に火傷させるなどの害を与えない限り、罰則が科されることはありません。
もっとも、都道府県や市区町村の条例で、タバコのポイ捨てや歩きたばこに罰則を科している場合があります。例えば、東京都大田区の「大田区屋外における喫煙マナー等に関する条例」では、「公共の場所に吸い殻等を投棄すること」を禁止し、違反者に対する区の指導に従わなかった者は1万円以下の過料に処するとしています(同条例5条、11条、13条)。
その地域でポイ捨てをした場合には、たとえ失火等具体的な害を与えなくとも、処罰されることがあるので注意しましょう。
2.火事の発覚と逮捕されるまで
火事は目立つので、発生したらすぐに消防車・救急車が駆け付けるものです。
火事が鎮火した後、発生原因が調査されることになります。これがタバコの不始末等によるものの場合、タバコの残骸や周囲の防犯カメラの映像から、犯人が割り出されます。
そして、後に被疑者と思われる方のところへ警察が来て事情聴取、場合によっては逮捕されることになります。
逮捕は必ずされるわけではなく、証拠隠滅の可能性があるか、逃亡の恐れがあるかなどを踏まえ、逮捕の必要性があると判断された場合になされます。
逮捕されると、2~3日身体拘束され、更に勾留(逮捕に続く身体拘束)されると10日以上は外に出られなくなります。

[参考記事]
勾留とは?勾留要件・期間・流れ・対応策を解説
3.タバコの不始末等による火事の刑事弁護
最初に述べた通り、タバコの不始末・ポイ捨てによる火事は失火罪が適用され、50万円以下の罰金が科されることがあります。場合によっては過失致死傷罪や放火罪に問われる可能性がある他、民事上の損害賠償責任も発生し、建物や財産の損害(場合によっては数千万円から億単位の損害)賠償を求められることがあります。
もし、失火や放火により逮捕された・起訴されそうだという方は、刑事事件に詳しい弁護士へ弁護活動を依頼し、釈放や不起訴・執行猶予付き判決を目指すことをお勧めします。
失火罪を含めた刑事事件の弁護で最も重要なのが、被害者との示談交渉です。
弁護士は、法的知識に基づいて適正な損害額を算定した上で、依頼者の方の経済状況に応じた金額・分割払いなどの条件で交渉します。示談が成立すれば民事訴訟を回避できるだけでなく、検察官や裁判官に対して被害回復への誠意を示すことができ、起訴猶予や罰金の減額などの刑事処分の軽減につながる可能性が高まります。
また、弁護士は示談成立以外の情状弁護活動も行います。
具体的には、反省文の適切な作成指導、被害回復に向けた具体的取り組みの証拠化、今後の再発防止策の立案などを通じて、依頼者の情状を良くするための弁護活動を展開します。これらの活動により、略式起訴での処理や罰金額の減額が実現される場合があります。
さらに、過失の程度や因果関係の立証など、法的な争点を整理して最適な弁護策を考えられるのも弁護士の強みです。不当に重い責任を負わされることを防ぎ、被疑者の利益を最大限に守ることができます。
火災の事案では初動対応が極めて重要です。早期の弁護士相談により結果が大きく変わる可能性があるのです。
4.まとめ
放火罪・失火罪は、他人に多大な損害を与えうる犯罪です。タバコを吸う際には、不始末等に気を付けましょう。
もし、過失とはいえ火事を起こしてしまい逮捕されたら、お早めに泉総合法律事務所の弁護士へ相談することをお勧めします。