誹謗中傷 [更新日]2025年8月28日

名誉毀損罪・侮辱罪とは?不起訴処分に向けた弁護活動

名誉毀損罪・侮辱罪とは?不起訴処分に向けた弁護活動

Warning: Attempt to read property "post_type" on null in /home/izumilawnet/izumi-law.net/public_html/wp-content/themes/izumi-law/izumi-common-inc/izumi-common-extra-functions.php on line 49

刑事事件では、本人にそのつもりはなく軽い気持ちで行ったとしても、思わぬところで被疑者となってしまいます。
名誉毀損罪侮辱罪などはその典型でしょう。

これらは「誹謗中傷」ともいわれ、インターネット上(SNS、匿名掲示板等)での芸能人や一個人に対する罵詈雑言などは昨今の社会問題となっています。

人は、他人・世間からの評価を受けながら社会生活を送っています。
その評価の高低は、当人の日常生活や社会活動に大きな影響を与えますから、「不当に評価を貶められない利益」は法的保護に値します。刑法は、この利益を侵害する犯罪として、名誉毀損罪と侮辱罪を規定しています。

以下では、名誉毀損罪・侮辱罪の内容と、訴えられてしまった場合の弁護活動について解説します。

1.名誉毀損罪について

(1) 名誉毀損の成立要件

名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損すること」によって成立します(刑法230条1項)。法定刑は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
名誉毀損罪の客体(侵害の対象)は人の「名誉」です。「名誉」とは、人の価値に対する社会的評価をいいます。

人の価値には、行為や人格に関するものに限らず、身体的・精神的資質、政治的・学問的・芸術的能力、容貌、健康、職業など社会において価値があるとされているものの一切が含まれます。
ただ、経済的な支払能力は、信用毀損罪(233条)の保護法益とされていますので、ここにいう名誉には含まれません。

「その事実の有無にかかわらず」と規定されているので、事実が真実であるか否かにかかわりなく犯罪が成立します。

①「公然」とは?

「公然」とは、不特定又は多数人の認識し得る状態をいうとするのが判例(最判昭36.10.13刑集15・9・1586等)です。

すなわち、不特定の者が認識し得るのであれば少数の不特定者でもよく、また、多数の者が認識し得るのであれば特定された多数人でもよいのです。

さらに事実を摘示した相手が特定かつ少数人であっても、そこから不特定または多数人に伝播する可能性があるときも「公然」であるとするのが判例です(最判昭和34.5.7刑集13・5・641等)。

インターネット上で誹謗中傷が行われたケースでは、多くの場合、この公然性の要件を充足するでしょう。

②「事実を摘示」とは?

「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を低下させるおそれのある具体的事実を指摘・表示することをいいます。

このような事実である限りは、必ずしも悪事醜行に限らず(大判大7.3.1刑録24・116)、また、前述のとおりその真否を問いません。たとえ公知の事実であっても、まだ事実を知らなかった者が知ることになる可能性がある以上、これに含まれます(大判大5.12.13刑録22・1822)。

事実を摘示する方法には特に制限はなく、口頭、文書・図画、身振り等のいずれでもかまいません。

事実は、事実そのものとしてではなく、風聞、噂、伝聞等の形で表示されても同じです。

③「名誉を毀損」とは?

「名誉を毀損」するとは、人の社会的評価を低下させるおそれのある状態を作出することをいいます。
現実に社会的評価が低下したことは必要ではありません(大判昭13.2.28刑集117.141)。現に社会定期評価が低下したかを証明することは困難ないし不可能だからです。

【死者の名誉毀損】
死者の名誉を毀損する行為については、虚偽の事実を摘示した場合のみ罰せられます(230条2項)。歴史的評価の対象として、真実に基づく批判を許す趣旨です。虚偽の認識が必要ですから、誤って虚偽の事実を摘示して死者の名誉を毀損しても名誉毀損罪は成立しません。
ただし、名誉毀損行為の時点で被害者が生きていた限り、名誉毀損をした後に被害者が死亡したとしても、死者の名誉毀損の問題ではありません。生者に対する名誉毀損罪として扱われ、当該事実が虚偽でなかったということのみでは免責されません。
なお、名誉毀損罪ではこのように死者の名誉に関する特別の規定を置いているのに対し、より軽い侮辱罪では格別の定めを置いていません。死者の名誉は侮辱罪の保護対象に含まれないと解されます。

(2) 名誉毀損罪となる具体例

名誉毀損罪に該当すると判断された事例としては、以下のようなものがあります。

フランチャイズ飲食業を運営する株式会社○○食品について、「インチキFC○○粉砕!」「○○で食事をすると、飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります」「まともな企業のふりしてんじゃねえよ」などとネット上のホームページに掲載した事案(最高裁平成22年3月15日決定

ネット上の「こんな人間に腹が立つ」という名称の掲示板に、「馬鹿教師」という題名で、被害者である教師の実名をあげたうえ、「教育者であるのに校則を知らない」「うそをうそで塗り固める」と記載した事案(大阪高裁平成16年4月22日判決

ネット上のホームページに、被害者である弁護士某について、「某は、数年前、自分の息子にテレクラをやらせ、男性関係で悩んでいる女性を探し出させて、弁護士としての自分のクライアントを獲得していたという」などと記載した事案(福岡地裁平成14年11月12日判決

2.侮辱罪について

侮辱罪は、「事実を摘示しなくとも、公然と人を侮辱する」ことによって成立します。法定刑は1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です(※2022年に法定刑が引き上げられました)。

この犯罪も、名誉毀損罪と同様に、人の社会的な評価を保護するものであって、被害者の名誉感情を保護するものではないとするのが判例です。したがって、名誉感情を有しない幼児・精神病者も被害者に含まれますし、相手方の名誉感情を害することを要しません(前掲大判大15.7.5)。

「事実を摘示しなくとも」とは、「事実を摘示せずに」の意味であり、この点で名誉毀損罪と区別されるとするのが判例(大判大15.7.5刑集5・303)です。
つまり、「侮辱」とは、具体的事実を摘示しないで、人の社会的評価を低下させるような抽象的判断(侮蔑的表現)を不特定または多数人の認識できる状態にすることをいいます。

侮辱罪も名誉毀損罪も社会的評価を低下させる行為を処罰するものではありますが、具体的な事実を摘示する行為の方が評価が下がる危険が大きいことから、名誉毀損罪の方が重く処罰されます。

侮辱の方法には、特に制限はありません。
例えば、「Xは馬鹿だ」「Xは浮気者だ」「X社は悪徳企業だ」などと多衆の前で言った場合には侮辱罪が成立します。

これに対し、「Xは毎回テストで0点ばかりとっている馬鹿だ」「Xは今も浮気をしている浮気者だ」「X社は、欠陥商品を売りつけている悪徳企業だ」という各表現は、具体的な事実の摘示を含みますから、侮辱罪ではなく名誉毀損罪の対象です。

3.名誉に対する罪のまとめ

名誉に対する罪のまとめ

4.名誉毀損罪・侮辱罪の弁護活動

もともと名誉に関する罪で起訴される人数は少なく、起訴された場合も公判請求ではなく略式起訴(公開の法廷で裁判が行われない)が多いと指摘されています。

そして、よほど悪質でなければ、告訴の有無にかかわらず逮捕されることも稀です。

しかし、仮に起訴された場合、略式手続を経て罰金刑が科された場合でも前科がつきます。
裁判とならなくても前科がつくということですので、被疑者としては略式起訴であっても起訴を免れたいと思うでしょう。

罪を犯した事実があっても、検察官の裁量により起訴されない場合(不起訴となった場合)には、その罪が前科として残ることはありません。
そして、不起訴を勝ち取れるケースの多くは、弁護士が代理人となって被害者と示談交渉し、示談を成立させたことによるものです。

被害者との示談では、多くの場合、示談金の支払いと引き換えに被害者が告訴を思いとどまるよう頼んだり、すでになされた告訴を取り下げたりすることを約束したりする内容となります。

しかも、名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪(起訴するには被害者の告訴がなければならない犯罪)ですので、検察官は被害者の告訴がなければ起訴することはありません。したがって、被害者の告訴がなければ、不起訴処分で終わることになります。

被害者に対する誠意ある謝罪と慰謝の措置を講じることで、早期に示談が成立すれば、被疑者に有利な処分結果が出ることが期待できるのです。

5.まとめ

本人に大きな悪気がなくても、名誉毀損罪や侮辱罪で警察に検挙され、逮捕されてしまうことがありえます。
また、刑事事件化されなくても、被害者から民事訴訟を提起され損害賠償請求(慰謝料請求)を請求される可能性もあります。

インターネット上の誹謗中傷で訴えられたらどうすれば良い?

[参考記事]

インターネット上の誹謗中傷で訴えられたらどうすれば良い?

誹謗中傷事件を自分自身で対応するのは限界があります。他人に誹謗中傷をしてしまったという方は、お早めに弁護士にご相談ください。
被害者と示談することで不起訴になり、前科がつくことを免れることができる可能性があります。

刑事事件コラム一覧に戻る