少年事件 [更新日]2025年8月25日

少年事件における家庭裁判所調査官の役割

少年事件における家庭裁判所調査官の役割

少年が事件を起こした場合、成人が事件を起こした場合とは異なる手続きが採用されています。
その手続きでは、家庭裁判所の「調査官」が重要な役割を担っています。

この記事では、少年事件における家庭裁判所調査官について解説します。

1.少年事件とは?

少年事件とは、20歳未満の者が犯した非行事件を言います。
少年とは20歳未満の者を言うのですが(少年法2条1項)、これは以下のように区別されます。

  • 犯罪少年・・・14歳以上で犯罪を犯した少年
  • 触法少年・・・14歳未満で刑罰法規に触れる行為を行った少年
  • 虞犯少年・・・素行不良が見られ将来犯罪を犯すなどの恐れがある少年

少年事件について、詳しくは以下のページをご覧ください。
少年事件解決の流れと弁護士依頼の重要性

2.家庭裁判所調査官とその役割

家庭裁判所調査官とは、家庭裁判所で取り扱われる家事事件・少年事件について調査する者をいいます。

少年事件においては、最終的に家庭裁判所が少年の保護処分について決定します。
家庭裁判所が保護処分の内容を決めるには、これに先立って、①「非行事実の調査」と、②「要保護性の調査」が行われる必要があります(少年法第8条)。

①「非行事実の調査」とは、本当にこの少年が非行事実を行ったのか否か、行ったとしたらどのような非行内容なのかを調べることです。
②「要保護性の調査」とは、少年が非行事実を克服して成長・発展を遂げるには、どのような援助(保護)を与えたら良いのかを調べることです。

この少年をめぐる様々な調査は「社会調査」とも呼ばれ、この調査業務を行うのが家庭裁判所調査官です。

家庭裁判所が少年の処分を決定するにあたって、少年の罪責だけでなく、少年の「家庭及び保護者の関係、境遇、経歴、教育の程度及び状況、不良化の経過、性行、事件の関係、心身の状況」(少年審判規則11条1項)、少年の周囲の「家族及び関係人の経歴、教育の程度、性行及び遺伝関係等」など様々な情報を集める役割を担うのが家庭裁判所調査官なのです。

以上の特徴から、家庭裁判所調査官には、法律の知識だけでなく、心理学、人間行動諸科学、教育等の様々な知識が要求されます。

家庭裁判所調査官は、少年やその保護者と面接し、背景事情について調査を進めていきます。また、家庭裁判所に少年の処遇に関して意見を述べたり少年審判に出席したりします。

家庭裁判所調査官になるためには、裁判所職員採用総合職試験に合格して、家庭裁判所調査官補として採用される必要があります。そして、約2年間の研修を経て家庭裁判所調査官として任官されます。

3.少年事件の流れ

家庭裁判所調査官がどのようなシーンでどんな役割を果たすのかについては、少年事件の流れを知っておく必要があります。

以下では、犯罪少年を念頭に置いて少年事件の流れを簡単に説明します。

(1) 事件の発生から家庭裁判所調査官の調査開始まで

少年が犯罪を犯した場合、捜査機関は捜査を開始します。場合によっては逮捕・勾留されて取り調べを受けることもあります。

警察は捜査の結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があると思料した場合には、直接に家庭裁判所へ事件を送致しなくてはならず(少年法41条)、死刑・懲役刑・禁錮刑にあたる犯罪の嫌疑があると思料したときは、検察官へ事件を送致します(少年法40条、刑事訴訟法246条)。
検察官は、犯罪の嫌疑があると考えた場合、事件を家庭裁判所に送致しなければなりません(法42条。全件送致主義)。

これらの事件の送致を受けた家庭裁判所は、少年を少年鑑別所に収容するか否かを判断します。
少年を少年鑑別所へ収容することを観護措置といいます。

観護措置は、後に行われる家庭裁判所の審判のために、少年を観察し、指導することを主目的とします。収容期間は2週間から4週間です。
その間に、少年鑑別所による鑑別と並行して、家庭裁判所調査官は、少年の日常生活の様子、精神状態、犯行の経緯等の事情を調査します。また、同時に少年の保護者等も調査を受けます。

【弁護士は調査官との面談が可能】
少年に弁護士がついている場合は、弁護士も調査官と面談を行うことができます。
弁護士が調査官と面談を行う場合は、調査官が考えている少年の問題点や処分についての意見の見込みなどを聴き取ることがあります。
弁護士が調査官から指摘された少年の問題点の解消に向けた活動を行い、その結果を踏まえてさらに調査官と面談を行うなどすることが少年に対する処分の軽減につながる場合もあります。

少年鑑別所に入る基準|生活・期間などわかりやすく解説

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(2) 少年審判以降

家庭裁判所は、少年を少年審判に付するか否か(つまり少年審判手続を行うか否か)を決定します。その際には、家庭裁判所調査官の調査結果が参考にされます。

家庭裁判所調査官は、調査の結果や少年の処分に関する意見を書いた「少年調査票」という書類を作成し、裁判官に提出します。
裁判官は、少年に対する処分を決定するに当たって、調査官の意見を重要視します。

審判手続の出席者は、裁判官、家庭裁判所調査官(主に要保護性を調査する専門職)、書記官、付添人(弁護士)、少年、保護者等です。

審判手続では、少年は裁判官や家庭裁判所調査官から犯行の動機や反省の有無、今後の生活等について質問を受けます。また、少年審判では同伴している保護者にも質問がされます。
質問が終わると、少年や付添人は意見を述べることができます。

そして、最終的に家庭裁判所により処分が出されます。

なお、最初の審判では結論を出さずに、「試験観察」といって、一定の期間、家庭裁判所調査官に少年の行動を観察させて、その経過を見た上でもう1度審判を開いて少年の最終処分を決めるという中間的な処分がされることもあります。

4.まとめ

少年事件における家庭裁判所の審判のためには、家庭裁判所調査官の調査が非常に重要なものとなってきます。実際、多くの場合で調査官の意見がそのまま裁判官の処分に反映されてしまいます。

少年本人や保護者は、調査官との面談の際、よくコミュニケーションをとって自分の考えなどを積極的に伝え、十分な反省や更生に向けた意欲があることなどの少年にとって良い事情があるのであれば、可能な限りそれが伝わるようにした方がよいです。

付添人となった弁護士は、裁判官だけでなく家庭裁判所調査官とも意見を交換し、調査官の調査では不十分な情報を提供したり、保護者・担任教師・雇い主らに働きかけて社会復帰の環境を整えその結果を調査官に伝えたりして、少年に有利な保護処分となることを目指します。

少年にとってより良い処分を得るためにも、少年事件では弁護士に相談し付添人の依頼をすることをおすすめします。

少年事件における付添人の役割

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