刑事弁護・裁判 [公開日]2018年5月11日[更新日]2025年5月16日

執行猶予とは?執行猶予付き判決後の生活について(仕事、旅行)

執行猶予とは?執行猶予付き判決後の生活について(仕事、旅行)

刑事犯罪で起訴され、裁判で懲役刑た禁錮刑の有罪判決の言渡しを受けた場合でも、直ちに刑務所に入ることなく社会内での更生の機会が与えられることがあります。

刑の執行に猶予が付き、すぐには刑務所に入らないで済むケースは「執行猶予付き判決」と呼ばれます。
(※一方、直ちに刑務所に入らなければならない場合が「実刑判決」です。)

今回は、執行猶予付き判決の概要と、言い渡された後の生活(職業に制限はあるのか、旅行はできるのか等)について、弁護士が解説します。

1.執行猶予とは?

(1) 執行猶予がつくケース

執行猶予とは、被告人に有罪判決が下された際、一定期間その執行を猶予し、その期間中に再度罪を犯すなどすることなく無事に期間を経過したときには、刑の言い渡しの効力を失わせ、実際には刑罰を受けることがなくなるという制度です。犯人の自覚に基づく改善更生を図ることに目的があります。

前科のない被告人に執行猶予が付される可能性があるのは、「懲役又は禁錮3年以下の自由刑」「50万円以下の罰金刑」の場合です(刑法25条1項)。これらを超える刑期の自由刑、超える金額の罰金刑は執行猶予の対象外です。また、拘留、科料も執行猶予の対象外です。
(自由刑とは、受刑者の身体を拘束することで自由を奪うものをいい、日本においては懲役、禁固、拘留のことです。)

加えて、執行猶予が付くか否かは、その情状により裁判所の裁量で決まります。

この場合の情状とは、犯行動機・目的・犯行態様・被害程度などといった犯罪行為それ自体に関する情状だけでなく、反省状況・示談成立の有無などといった犯行後の事情も総合します。

その上で、犯情が軽微で、刑の執行を猶予することによって自主的な更生が期待できると判断できる場合に、執行猶予が認められます。

また、前科のある被告人に執行猶予付きの判決をするには、上に加えて、以下のどれかの場合に該当する必要があります。

  • 前科が罰金刑・拘留・科料であった場合(刑法25条1項1号)
  • 前科が執行猶予付きの判決で、その執行猶予期間が経過している場合(刑法27条)
  • 前科が実刑判決で、刑の執行の終了(または刑の免除)の日から5年が経過している場合(刑法25条1項2号)

なお、執行猶予といってもあくまで有罪判決ですので、当然前科はつきます。
ただし、猶予期間を過ぎれば、判決の効力は失効し(刑法27条)、有罪判決は法的になかったことになります。

【刑の一部の執行猶予制度とは?】
裁判所が宣告した刑期の一部だけに執行猶予を付す「一部執行猶予制度」(刑法27条の2)というものもあります。例えば、「被告人を懲役3年に処する。その刑の一部である懲役1年の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に処する。」という判決が確定すると、まず猶予されなかった2年の懲役刑の執行を実際に受けて服役します。その服役が終わった後に、猶予された1年の執行猶予期間が2年開始されます。
執行猶予が取り消されることなく、2年の猶予期間(保護観察)が経過すると、1年分の執行はされないことになります。

(2) 執行猶予の期間

執行猶予の期間は1年以上5年以下の範囲(刑法25条1項)と決まっています。その期間、社会内で誠実に暮らしてもらうことを期待して、罰金の納付や刑務所に収監することを猶予するということになります。
期間は、上記の範囲内で裁判所の裁量に委ねられています。

なお、執行猶予の期間が長ければ長いほど犯情が悪質であるかというと、必ずしもそうではありません。

猶予期間の長短は、言い渡された刑の軽重に比例する必要はなく(大審院昭和7年9月13日判決・大審院刑事裁判例集11巻1238頁)、例えば、必ずしも犯情が悪くなくとも、「犯罪に流れやすい被告人の性格を考慮して、再度の犯罪に手を染めることを長く防止する観点から、むしろ被告人のためにあえて長期の猶予期間を言い渡す」ことも珍しくはありません。

(3) 執行猶予中に事件を起こしたら

執行猶予期間中に何らかの刑事事件を起こし、禁錮刑・懲役刑の実刑判決となった場合には、執行猶予が取消されて刑務所に収容されます(執行猶予の必要的取消し)。

つまり、もしA罪の執行猶予期間内にB罪を犯し、B罪に対し実刑判決を受けた場合には、前回のA罪の執行猶予は取消しとなります。A罪が自由刑判決であったなら収監されることになり、A罪が罰金刑であったなら納付しなければなりません。

さらに、執行猶予中の犯罪だということが重視され、B罪についても厳しい判断(多くの場合は実刑判決)がなされます。
A罪が自由刑であったときは、A罪の刑期とB罪の刑期が合算された長い期間、服役することになります。

なお、猶予期間経過後に犯罪を犯した場合でも、過去に執行猶予付き有罪判決を受けた事実があることはすぐに判明します。当然、起訴・不起訴などの判断や量刑上の判断にあたって、不利な事情として考慮される危険があります。

【再度の執行猶予とは】
執行猶予中に罪を犯して有罪判決を宣告される場合でも、「情状に特に酌量すべきものがあるとき(刑法第25条2項)」には、もう一度だけ執行猶予付き判決の言い渡しができる、と定められています。これが「再度の執行猶予」です。再度の執行猶予判決の場合には、執行猶予は保護観察付きとなります(見出し3を参照)。
しかし、一度執行猶予としてやり直す機会を与えられたにも関わらず、再び罪を犯してしまったわけですから、この規定によって再度の執行猶予付きの判決を受けることは容易ではありません。
また、再度の執行猶予を言い渡すには、初回の執行猶予判決で保護観察に付されておらず、言い渡す懲役刑・禁錮刑の期間が1年以下の場合に限定されています。初回と異なり、罰金刑は再度の執行猶予の対象外なのです。

2.保護観察付きの執行猶予について

執行猶予付きの判決では、「保護観察」といって、執行猶予中に保護観察官や保護司の方からの指導監督を受けることを義務づけられる場合があります。

これは、繰り返し罪を犯している人や、何らかの理由で家族等だけでの監督では社会内での更生が困難と判断された場合につけられます。

保護観察が付された場合には、定期的に保護観察官等との面接が実施されます。
また、覚せい剤など薬物事件の場合には、再犯防止のための特別なプログラムの受講や、簡易薬物検出検査なども実施されます。

保護観察付きの執行猶予期間中に、再び犯罪を犯して有罪判決を受けた場合には、単なる執行猶予判決と異なり、再度の執行猶予判決の制度はなく、必ず実刑判決になります(刑法25条2項但書)。

3.執行猶予中の生活

(1) 職業制限・資格制限

執行猶予付き判決により、医師や弁護士、教員などの一部の資格が取消されたり、当然に失われたりすることがあります。

また、執行猶予中は一部の資格を取得することができなくなったりします。どの資格が取得できないか等は資格により異なりますので、当該試験の担当機関に問い合わせてみましょう。

なお、公職選挙法や政治資金規正法違反の犯罪によって公民権を停止される場合以外は、執行猶予中であっても選挙権を失うことはありません。

(2) 海外旅行・海外出張

執行猶予中の生活について、保護観察処分に付されていない限りは、どこかへ行ってはいけないという制限はありません。
ただ、海外に出国する際には問題が起きる可能性があります。

まずパスポート(旅券)の発給を受けられるか否かが問題ですが、旅券法によると、自由刑の執行猶予期間中の者は、外務大臣の裁量によって発給を拒否できると定められています(旅券法13条1項4号)。
ほとんどの場合で問題なく発給されますが、保護観察処分に付されている者は、一定の住居に居住する義務を課され(更生保護法50条1項4号)、転居や7日以上の旅行は保護観察所の許可を得なくてはなりませんから(同50条1項5号)、保護観察所の意向により発給されない場合もあります。

さらに、執行猶予中の者が海外渡航した場合にその入国を認めるか否かは、渡航先の国次第です。

短期間の観光旅行などではビザが不要である国が多くありますが、渡航先がビザを必要とする場合には、ビザの取得の際に犯罪歴証明(最寄りの警察署で発行してもらいます)を提出することがあります。
執行猶予中であることを理由にビザをもらえない場合もあれば、ビザはもらえたもののいざ渡航先に着いてから入国審査で入国を拒否されるというケースもあります。

渡航先国家の方針は世界情勢やその国の国内情勢にも左右され、常に同じではありませんから、こればかりは正確に予測をすることは困難です。

【執行猶予とビザの取得】
泉総合法律事務所の弁護士も、大使館に前科者のビザの取得について何度か確認したことがあるのですが、答えは決まって「ケースバイケースです」でした。そのため、どういう罪が影響するかはなんとも言えません。今までの経験では、薬物の売人といった特殊なものでなければ、問題は生じない印象があります。どちらにせよ、執行猶予中には海外出張が困難になりますので、そのような仕事の場合には影響があるかもしれません。
なお、ビザの申請は多くは会社で取り付けるかと思いますが、ビザの必要書類に犯罪歴証明があると、それを会社に提出してのビザ取得となりますので、過去の犯罪が会社に判明してしまうことがありえます。

(3) 執行猶予が周囲にバレる可能性

教職員、大企業会社員、公益企業社員(私鉄、電力、ガス会社など)、医師、歯科医師、弁護士など公的資格者、重大事件などの場合には、テレビなどマスコミ報道されることが多くなります。
また、最近は、インターネット独自のニュース報道などで、従来ならば報道されなかったと思われる刑事事件も報道されるようになってきています。

しかし、マスコミによる報道などがない限り、執行猶予の有無を問わず、有罪の判決を受けたことが周囲に伝わることはありません。
また、一般の民間会社には前科・前歴を調べる手段はありませんので、執行猶予中に再就職の活動をする場合も、自ら申告しない限り、執行猶予中の身であることが知られてしまうということも考えにくいです。

例外は公務員です。国家公務員も地方公務員も、禁固や懲役などの自由刑の有罪判決の確定は失職事由ですので、判決が確定すれば検察庁から被告人の職場に対し連絡がなされ、失職します。

また、前科の内容は検察庁から市区町村に連絡され、通称「犯罪人名簿」に登録されますので、執行猶予期間中の者が公務員として就職しようとする際には、就職希望先の官公署から市区町村に対して前科の有無について照会が行われます。
ここで前科が明らかとなる場合があり、その場合当然に就職は拒否されます。

4.不起訴を目指すなら泉総合法律事務所へ

以上のように、執行猶予つきとはいえ、起訴されて有罪判決を受けると様々な制限が設けられてしまいます。
したがって、まず起訴を回避する(不起訴にする)ことが重要です。

もっとも、起訴されてしまったとしても執行猶予付き判決を得れば、ある程度の社会生活を今まで通り営むことができます。起訴をされても諦めず、執行猶予付き判決を目指しましょう。

不起訴や執行猶予付き判決のためには、早い段階からの被害者との示談など、適切な刑事弁護が重要です。
刑事事件を起こして逮捕されてしまった場合には、刑事弁護の経験が豊富な泉総合法律事務所の弁護士・泉義孝にご相談ください。

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