違法収集証拠の排除|証拠が使えない場合とは?
捜査機関は、犯罪の捜査を行う際、法令を遵守しなければなりません。
ところが、違法捜査は度々起こるのが実情です。
それでは、法令を遵守しない捜査手続で獲得した証拠は、そのまま裁判で証拠として使用できるのでしょうか?
このことについて、刑事訴訟法や憲法には、はっきりとした明文の規定はありません。
しかし、最高裁は、違法な捜査により収集した証拠は、一定の要件に該当する場合には、裁判の証拠とすることはできないとしています。
これを講学上「違法収集証拠排除法則」と呼びます。
以下では、この違法収集証拠排除法則について解説します。
1.違法収集証拠の扱いについて
例えば、極端な例ですが、警察官が令状なしに被疑者の家に立ち入り、捜索をし、発見した物を押収した場合、当該行為は憲法・刑事訴訟法が定めた手続に違反した違法な捜査となります。
ただ、全ての手続違反について証拠能力を否定してしまうと、刑事訴訟の目的のひとつである真実の発見をあまりにも困難にしてしまいます。
したがって、どの程度の違反があれば排除するべきなのか、バランスが問われることになります。
そこで最高裁は、違法に収集した証拠に該当するケースについて、
①令状主義の精神を没却する重大な違法があること
②将来違法捜査抑制の見地から証拠利用が相当でないこと
という2つの要件を挙げています。(※最判昭和53年9月7日最高裁判所刑事判例集32巻6号1672頁)
しかし、「①令状主義の精神を没却する重大な違法」「②将来の違法捜査抑止の観点」といっても、それだけでは排除の可否を決めようがなく、最高裁も事案の詳細を考慮して判断しています。
結局はケースバイケースなのですが、どのような要素を考慮するべきなのかについて、次の意見が参考になります(※安富潔「刑事訴訟法講義(第4版)」慶應義塾大学出版309頁より引用)。
- 手続違反の程度(逸脱の程度、害される利益の重要性、損害の程度など)
- 手続違反がなされた状況(緊急状況下で法の遵守が極めて困難であったか)
- 手続違反の有意性(計画性や違法性の認識の有無)
- 手続違反の頻発性(性質から繰り返し行われる恐れがあるか)
- 手続違反と当該証拠獲得との因果関係の程度(合法的な手続利用が可能で、その合法的手続による当該証拠の獲得が可能であったか)
- 証拠の重要性(当該事件の証明にどの程度重要性があるか)
- 事件の重大性(基本的には法定刑の程度や罪質が基準となるも、事件の特性や社会的関心の強弱も含む)

[参考記事]
刑事事件の証拠になるもの|物的証拠・状況証拠など
2.証拠の排除について争われたケース
(1) 被告人の承諾なしにポケットから証拠物を取り出したケース
警察官が、覚せい剤所持等が疑われる被疑者の内ポケットを、被告人の承諾なしに捜索して証拠物を押収しました。この手続きは裁判所により違法なものと認定されました。加えて被告人は、当該証拠物の証拠能力を否定するべきだと主張しました。
しかし最高裁は、先ほど述べた基準を持ち出し、①職務質問の要件が存在したこと、②所持品検査の必要性と緊急性が認められたこと、③所持品検査として許容される限度をわずかに超えるに過ぎないこと、④捜査官に令状主義に関する規定を潜脱する意図が認められないことなどを指摘して、本件では証拠能力が否定されないとしました。
(上掲、最判昭和53年9月7日)
(2) 逮捕状を呈示せず、また、内容虚偽の報告書を作成・裁判において虚偽の供述をするなどしたケース
かねてから被告人に窃盗の事実で逮捕状が発付されていましたが、警察官は逮捕状を携帯せずに被告人宅に行き、逮捕状を呈示せずに逮捕しました。同日、覚せい剤の使用が疑われる被告人に対して尿検査が実施され、被告人の尿から覚せい剤成分が検出され、その結果を記載した鑑定書が作成されました。
その5日後、この鑑定書を覚せい剤取締法違反事実の疎明資料とし、捜索差押令状が発布され、被疑者宅の捜索によって、薬物が発見・押収され、鑑定の結果、覚せい剤であることが判明し、その鑑定書が作成されました。
裁判で被告人は、令状を呈示していない逮捕手続は違法なので、違法な逮捕後に行われた尿検査と関連する証拠は排除されるべきだと主張しました。
地裁と高裁は、「(ⅰ)尿の鑑定書」だけでなく、これを資料として発布された捜索差押許可状に基づいた捜索で収集された「(ⅱ)覚せい剤」「(ⅲ)覚せい剤の鑑定書」について、すべて証拠能力を否定し、覚せい剤の「自己使用」と「所持」の両方について無罪としました。
最高裁判所は、一連の警察官の行為には、令状主義の精神を没却する重大な違法があり、証拠能力を認めることは将来の違法捜査抑止の見地から相当でないとして、尿の鑑定書を排除し、覚せい剤の自己使用を無罪とした地裁・高裁の判断を支持しました。
他方、覚せい剤とその鑑定書については、尿の鑑定書を疎明とした捜索差押許可状による捜索で収集されたとはいえ、(ア)捜索差押許可状それ自体は司法審査を経ていること、(イ)もともと発布されていた窃盗被疑事実に関する捜索差押許可状の執行も併せて実施されていたことなどから、覚せい剤及びその鑑定書の入手手続に重大な違法があるとまでは言えないとしました。
このため、地裁・高裁の各判決のうち、覚せい剤とその鑑定書の証拠能力を否定して覚せい剤所持を無罪とした部分を破棄し、審理を地裁に差し戻しました。
(最判平成15年2月14日最高裁判所刑事判例集57巻2号121頁)
3.無断録音した音声データの証拠の有効性
警察官の捜査以外にも、無断で録音した音声データが問題になることは多いです。
相手に秘密で会話内容を録音することは犯罪になるのでは?と考える方も多いのではないでしょうか。
確かに、会話当事者の承諾が全くないのに、その会話を盗聴して録音することは、当事者のプライバシー権・人格権や通信の秘密を侵害する重大な違法行為です。
そこで、例えば、最高裁の判例では、「捜査機関が電話の通話内容を当事者の同意を得ずに傍受することは、重大犯罪に関する十分な嫌疑があり、他の方法では重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの特別な事情がある場合に、裁判所の発する特別な検証許可状があることを条件に、刑事訴訟法上の強制捜査として例外的に許される」と判断していました(※最高裁平成11年12月16日決定)。
したがって、捜査機関が電話の会話を盗聴して録音したテープは、それが通信傍受法の要件を満たしておらず、令状主義の精神を没却する重大な違法がある場合には、違法収集証拠として排除され、証拠能力は認められません。
では、同様の行為が一般民間人によって行われた場合はどうなるでしょうか?
私人である会話当事者の一方が、相手方の同意を得ないで会話を録音する行為です。
この場合、侵害されるのは、せいぜい「私的な会話を相手に録音はされないだろう」という相手方の自由やプライバシーに対する期待にすぎませんから、一般的には、重要な利益を侵害したとまでははいえません。
そのため、違法とはいえず、刑事訴訟にあっても証拠能力は肯定されると解されています。
例えば、以下のような事例があり、録音テープの証拠能力が肯定されています。
- 私人Aが、殺人事件に関する被告人Xとの会話を録音した場合(松江地判昭57.2.1判時1051・162)
- 新聞記者Aが、取材の結果を正確に記録しておくため、相手方の同意を得ないで会話内容を録音した場合(最決昭56.11.20)
- 詐欺の被害を受けたと考えたAが、後日の証拠とするため、被告人Xとの会話を録音した場合(最決平12.7.12)
では、捜査機関が、会話当事者の一方の同意を得て会話を録音した場合はどうでしょうか?
この場合も、やはり相手方が侵害されるのはせいぜい期待権に過ぎませんから、重大な権利・利益を侵害するものとは言えず、刑事訴訟法上の強制処分にあたらないので、任意処分として許されます。
4.刑事事件の弁護は弁護士へお任せください
このように、違法な捜査により獲得した証拠は裁判で使用できないと判断される場合があります。
そうすると、被告人としては、捜査手続きに違法なものがあると考える場合、「収集した証拠は、違法収集証拠として排除されるべきだ」と主張したいでしょう。
しかし、捜査が違法かどうかの判断は法律のプロである弁護士でなければ困難です。
また、違法収集証拠排除の「主張」だけをしていても、被告人にとって有利な判決を得ることができません。
検察側は公判廷において捜査手続の適法性を立証するため、当該捜査を担当した警察官を証人として出廷させ、捜査手続に問題がなかった旨を証言させます。この証言を弁護人が反対尋問で切り崩せるか否かが重大なポイントになります。
ここで、弁護人の、刑事弁護における豊富な経験と実力がモノを言います。
被告人の重要な権利利益を守るためには、弁護士による適切な弁護活動が必要です。
犯罪を犯したとして捜査機関に逮捕・勾留・起訴された方は、すぐに弁護士にご相談ください。

