軽犯罪 [更新日]2025年9月5日

軽犯罪法と刃物|凶器携帯の罪について

軽犯罪法と刃物|凶器携帯の罪について

キャンプや野球をするために外出する際、刃物・バット等を持ち歩くことになるかと思います。
しかし、刃物やバットなどは「凶器」に当たり、これを携帯する行為は軽犯罪法で規制されています。

それでは、上記のような娯楽に使うケースでも軽犯罪法違反となり、警察官に逮捕されてしまうことがあるのでしょうか?

ここでは、軽犯罪法で規制される行為の中でも、特に皆さんの身近で発生しうる「凶器携帯の罪」について説明します。

1.軽犯罪法とは

軽犯罪法は、その名の通り比較的軽微な犯罪を規制する法律です。殺人や強盗等、刑法で裁かれるような悪質な犯罪については規定されていません。

軽犯罪法に違反した者は、拘留又は科料に処されます(軽犯罪法1条柱書)。
なお、犯罪者の情状によっては刑が免除されたり、拘留と科料が併科されたりする場合があります(軽犯罪法2条)。

拘留とは、1日以上30日未満の拘禁で、科料は1000円以上1万円未満の罰金刑です。

軽犯罪法全般については、以下のコラムで詳しく解説しています。

軽犯罪法違反は誰でも起こし得る!違反行為の刑罰を解説

[参考記事]

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2.軽犯罪法の凶器携帯の罪

凶器携帯の罪は、軽犯罪法1条2号で規制されています。
「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた」場合に成立します。

(1) 規制される凶器の種類

凶器携帯の罪で規制している凶器は、主に、刃物や鉄パイプ等です。
「刃物」とされているのみで、刃渡り何センチ以内等の制限はありません。そのため、小さいナイフも本罪が規制する刃物に該当します。

また、「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」とは、折りたたみナイフ、バット、木刀、メリケンサック、ヌンチャク、警棒、強力な催涙スプレーなどがこれにあたる可能性があります。

このように、人を殺傷する危険性がある物は全て凶器にあたると解されるのです。

(2) 「隠して携帯」の意義

凶器携帯の罪は、凶器隠匿、つまり凶器を隠し持っていた場合に成立します。そのため、ナイフやバットを堂々と持ち歩いていた場合には凶器携帯の罪は成立しません。

また、凶器を携帯した者に、凶器を隠しているという認識が必要です(※)。
例えば、知らないうちに誰かが鞄の中にナイフを入れ、その鞄を知らずに持ち歩いていた場合には凶器携帯の罪は成立しません。

※もっとも、裁判例の中には、隠している認識だけでは足りず、隠すことについて積極的意図が必要としたものがあります(広島高判平成29年3月8日)。

(3) 「正当な理由」とは?

(1)(2)に該当する場合でも、凶器携帯に正当な理由がある場合は罰せられません。

正当な理由」とは、「器具を隠匿携帯することが、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合」を言います。これに該当するか否かは、「当該器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様及び周囲の状況等の客観的要素と、隠匿携帯の動機、目的、認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断すべき」とされています(最判平成21年3月26日)。

例えば、主婦が刃物店でカッターナイフやはさみを買ってから家に持ち帰ること、野球をするために自宅から野球場までバットを持ち歩くこと、業務上の必要から大工が鋸を持ち歩くことは、正当な理由があるとされます。

包丁やバットのように、それ自体はそもそも人の生命身体を攻撃することを目的とする道具ではない場合は、日常の社会生活を送るうえで不相当ではない目的の持ち歩きであれば、通常は正当と評価されやすいのです。

これに対し、もともと攻撃や防御を目的とする道具の場合は、正当な理由の判断は厳しくなり、上記のような諸事情が細かく問われることになります。

裁判例では、護身用に小型の催涙スプレーを持ち歩くこと(上記最判)、武術の練習のためにヌンチャクを持ち歩くこと(上記広島高判)には、正当な理由があるとされていますが、これらは、その事案における具体的な諸事情のうえで正当と判断されたものであって、一般化できるものではありません。

例えば、上記最判の裁判官補足意見では、「本判決は、飽くまで事案に即した判断を行ったものであり、催涙スプレーの隠匿携帯が一般的に本号の罪を構成しないと判断したものではない」「これといった必要性もないのに、人の多数集まる場所などで催涙スプレーを隠匿携帯する行為は、一般的には『正当な理由』がないと判断されることが多い」とされています。

従来からナイフや催涙スプレーなどを「護身のために」携帯することは正当な理由にあたらないと理解されてきましたが、上の最高裁や広島高裁の判断も、この理解を変更するものではないのです。

2023年には、鮮魚店の店主が十徳ナイフを(災害時などに備えて)隠し持っていた事件で、大阪高裁が「十徳ナイフは人に対する使用で重大な害を加える危険性が認められるものであること」「そのような危険性が認められるものを、漠然とした目的で携帯することは犯罪を未然に防ぐための法の趣旨からみて相当とは言えないこと」として有罪判決を出しました。

3.刃物の携帯で成立するその他の犯罪

刃物を携帯した場合に成立する可能性があるのは、軽犯罪法の凶器携帯の罪だけではありません。

例えば、人を殺すため又は強盗をするために刃物を持ち歩いた場合、殺人予備罪(刑法201条)や強盗予備罪(刑法237条)が成立する可能性があります。
また、2人以上で、他人の生命や財産等を害する目的で刃物を準備して集合した場合は、凶器準備集合罪(刑法208条の2)が成立しえます。

また、刃体の長さ6センチメートル以上の「刃物」を正当な理由なく持ち歩くと、銃刀法違反が成立する可能性があります。

銃刀法が規制している対象は、刃体の長さが6センチメートルを超える刃物以外に、鉄砲(拳銃・小銃・ライフル、エアガンなど)、刀剣類(刃渡り15センチメートル以上の刀や槍、刃渡り5.5センチメートル以上の剣など)です。

4.凶器携帯の罪で逮捕される?

凶器を携帯した場合には、逮捕されてしまう可能性はあります。
もっとも、身体拘束されるか否かは、逮捕の必要性があるか否かで決せられます。

逮捕の必要性があるか否かは、被疑者に逃亡の恐れがあるか、又は、罪証隠滅の恐れがあるか等を基準に判断します。

例えば、被疑者が容疑を否認していたり、住所が不定だったりするほか、被疑者が暴力団構成員で、対立団体との抗争という組織的な犯罪行動の一環として凶器を所持していたりした場合には、罪証隠滅・逃亡の恐れがあると判断され、逮捕されることが多いです。

反対に、凶器携帯の罪でも銃刀法違反でも、逮捕の必要性がないと判断されれば逮捕はされません。

ただ、罪証隠滅の恐れや逃亡の恐れがなくても、現行犯逮捕は許されます。
刃物を手に握り商店街を歩いた場合や、職務質問で刃物の携帯が判明した場合などには、周りの人の生命や身体を守るためも刃物を提出させることができます。これに素直に従わなければ、現行犯逮捕が行われることがほとんどです。

5.まとめ

軽犯罪法違反で起訴・有罪となった場合、拘留や科料という軽い刑罰であっても、前科がついてしまいます。
一方、刃体の長さ6センチメートルを超える刃物を携帯していた場合や、刀剣類を所持していた場合は、銃刀法違反で2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金となる可能性もあります。

「たかが軽犯罪法違反」「理由があって刃物を持ち歩いていたが、理由を話せば分かってもらえるはず」と高を括るのはいけません。

軽犯罪法で警察から呼び出しを受けた場合や、身内が逮捕されてしまった場合は、すぐに刑事弁護に強い泉総合法律事務所の弁護士へご相談ください。

6.凶器携帯の罪に関する実際の質問

  • Q.キャンプ途中のナイフ所持で書かされた誓約書の効力は?

    キャンプに行く途中で買い物に行きましたが、そこで職務質問を受けました。

    リュックに入れて所持していたキャンプ用のナイフ(モーラナイフ)と十徳(ビクトリノックス)を見られ、正当な理由を問われましたので、「買い物を済ませてキャンプ(野営)に行く」と言いましたが、途中で買い物は正当な理由にはならないと言われ、買い物するときナイフは自宅に置いておけの一点張りでした。
    それから、警察署まで連れて行かれ取り調べを受けました。

    結果的に、「起訴することは難しい」と警察署の上司らしき人物の一声がかかりこの件は無かったことになりました。
    ただ、誓約書に「今後、買い物をする時ナイフは携帯しません」と書かされました。食材や飲み物など、キャンプ用品を買う場合もダメだと言われました。

    つまり、家を出る前にすべてを用意して、最後にナイフ類を積み込んで出発しろと言われました。

    現実問題、遠出のキャンプ時、飲み物は買いますし、トイレにも行きますし、キャンプに関係ない物も買う場合もあります。
    この誓約書の「キャンプに行く途中の買い物をしません」という文言は有効なのでしょうか?

    また、今後また途中で買い物している時に捕まったら、次は逮捕されるのでしょうか?

    A.誓約書は有効で、正当な理由が必要だと思われます。

    弁護士泉は、過去に2回、ナイフや催涙スプレーの所持で軽犯罪法違反容疑で検挙された事案を弁護したことがあります。
    一つは現行犯逮捕、もう一つは逮捕されない在宅事件でしたが、いずれも正当理由があることを主張して不起訴・不送致で終わりました。

    今回の誓約書で「キャンプに行く途中の買い物をしません」という文言を書いたとしても、その時点で所持に正当な理由があれば問題ないと思われます。しかし、矛盾を指摘されることはあるでしょう。

    また、今回のことは前歴として記載されている可能性があり、次回同様なことがあれば問題視されるのではとも思います。

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