公務員・教員が痴漢で逮捕されたら?懲戒免職・停職・退職金への影響
痴漢行為は犯罪であり、各都道府県の「迷惑防止条例違反」や「不同意わいせつ罪(刑法176条)」として逮捕されてしまいます。
後者は、痴漢行為が長時間に及ぶなどの特に悪質な場合に適用されます。
都条例違反の法定刑は、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(8条1項2号)、不同意わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑です。
そして、公務員や教員による痴漢行為は、このような刑事罰以外にも、様々な不利益を受ける可能性があります。
国民は、公務員や教員に高い倫理観を求めているため、痴漢で逮捕されれば、一般民間企業のサラリーマンよりも、実名で報道されたり、職場に発覚して厳しい処分を受けたりするリスクは高く、キャリアに致命的な事態となる可能性があります。
このコラムでは、公務員・教員が痴漢行為で受ける各種の不利益について説明し、これを回避する対策についても解説します。
1.痴漢による懲戒免職・停職の可能性
まず、痴漢行為をした公務員・教員は、懲戒処分を受ける可能性があります。
(1) 懲戒処分とは
国家公務員、地方公務員が不正行為(非違行為)を行うと、その責任が追及され、制裁処分を受けます。これが「懲戒処分」です(国家公務員法82条1項、地方公務員法29条第1項)。
懲戒の対象となる事由は
①法令等に違反する行為
②職務上の義務違反や職務懈怠
③全体の奉仕者たる地位にふさわしくない非行行為
です。
懲戒処分の種類は、①戒告、②減給、③停職、④免職の4種類です。
(2) 痴漢はどのような懲戒処分となるか
1 痴漢への標準的な処分を定めた「指針」
具体的に、どのような事由に対しどのような処分を下すかは任命権者の裁量ですが、不公正・不統一とならないよう、国・各自治体の「指針」で標準的な処分例が定められています(※)。
これによると、公共の場所または乗物における痴漢行為は、国家公務員は「停職」または「減給」が標準的な処分です。
地方公務員では、例えば東京都の場合「免職」または「停職」が標準的な処分とされています。
痴漢行為が「不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪)」に該当する場合には、例えば東京都では「免職」が標準的な処分とされています。
※:国家公務員:「懲戒処分の指針について」人事院事務総長発:平成12年3月31日職職-68、最終改正令和2年4月1日職審-131)
※:地方公務員の例:東京都:「懲戒処分の指針」(令和4年11月11日改正)
2 痴漢への懲戒処分の内容
免職(懲戒免職)は、公務員の身分を奪うことです。処分から2年間は欠格事由となり、国家公務員や処分した地方公共団体の公務員にはなれません(国公法38条2号、地公法16条2号)。
停職は、職員の身分を有したまま職務に従事させず無給とすることです(国公法83条2項、東京都「職員の懲戒に関する条例」4条2項、3項)。
停職期間は、国家公務員の場合、1年以下。地方公務員の場合は各自治体の条例によりますが、例えば東京都では6ヶ月以下です。
減給は、国家公務員の場合、1年以下の期間、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を、給与から減じます(人事院規則12-0第3条)。
地方公務員の場合は自治体の条例によりますが、例えば東京都では、減給期間は6ヶ月以下です。
【指針は目安に過ぎない】
指針は、あくまで標準的な目安に過ぎません。実際の処分は、具体的な事情を総合的に考慮し、職員の過去の行動や日頃の勤務態度、不正行為の態様に照らし、より重い処分となることがあります。各指針には、考慮される代表的な事情、重い処分となる事情、軽い処分となる事情が明記されています。

[参考記事]
痴漢で職場を解雇されるケースはある?懲戒解雇について解説
2.公務員の痴漢が公表・実名報道される可能性
国家公務員の場合、免職・停職処分は公表が原則です。
ただし、被害者のプライバシーを侵害する恐れ等があるときは、全部、一部の公表を控える場合もあります(人事院事務総長発「懲戒処分の公表指針について」平成15年11月10日総参-786)。
地方公務員の場合、例えば東京都では、社会に及ぼす影響の著しい事案は公表が原則です。ただし、やはり国家公務員と同様の例外があります(前記の東京都「懲戒処分の指針」)。
国家公務員でも地方公務員でも、懲戒を受けた個人が識別できない内容で公表することを基本としますが、事案の内容に応じ別途の取扱いとされる場合があります。
例えば、東京都の場合、免職は、氏名などの個人情報を公表する場合があるとしています(前記の東京都「懲戒処分の指針」)。
【匿名で公表された事案】
東京都中央区職員(40歳代・福祉保健部所属)通勤途中の電車内において、女性に痴漢行為をしたとして都迷惑防止条例違反の疑いで逮捕され、不起訴処分となるも、本人への聴取により痴漢行為が確認されたため、停職5月の懲戒処分(令和7年7月29日付)
※職員の懲戒処分について|2025年9月5日プレスリリース

[参考記事]
痴漢で逮捕後、実名報道されることはあるの?
3.その他公務員の痴漢犯罪が発覚した場合のリスク
(1) 起訴されて欠格(失職)となる可能性
痴漢行為で検察官によって起訴され、拘禁刑以上の有罪判決(執行猶予判決を含む)が確定すれば、公務員の資格を失う「欠格」事由に該当します。
よって、当然に職員の身分を失う「失職」となります(国公法76条、同38条1号、地公法28条4項、同16条1号)。
(2) 退職金を失う可能性
公務員が懲戒免職となると、退職手当の全部または一部が不支給となる場合があります(国家公務員退職手当法12条1項1号、東京都「職員の退職手当に関する条例」17条1項1号)。
退職金が支給されるか否か、一部不支給の内容は、様々な事情を考慮して決定されます。考慮事情は例えば、次の事情です(国家公務員退職手当法施行令17条、東京都「職員の退職手当に関する条例」17条1項)。
考慮される事情の例
- 職員の職務、責任、勤務状況
- 非違行為の内容、程度、経緯
- 非違行為後の言動
- 公務の支障、公務への信頼に及ぼす影響
ただし、懲戒権者の裁量が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を付与した目的を逸脱して、権限を濫用したと評価される場合には、その判断は違法となります。
一般論としては、退職金が全部不支給となるのは、その公務員の過去の功績を全部抹消してしまうほどの著しい非行行為があった場合に限られます(例えば、地方公務員の酒気帯び運転につき、退職金の全部不支給決定を取り消した裁判例として、福岡高裁平成26年5月30日判決・LEX/DB文献番号25504247)。
(3) 教員免許を失うリスク
教員が、拘禁刑以上の刑の有罪判決(執行猶予判決を含む)を受けると、教員免許は失効します(教育職員免許法10条1項1号、5条1項3号)。
不起訴(起訴猶予)や罰金刑で済んだ場合でも、公立学校の教員では、全体の奉仕者にふさわしくない非行として懲戒処分の対象となり得ます。その処分内容が「免職」となると教員免許も失効します。
私立学校の場合も、通常は、就業規則の懲戒事由に該当するでしょう。
もっとも重い懲戒解雇となれば、やはり教員免許を失います(同免許法11条1項、10条1項2号)。
4.リスクを回避する方策
ここまで説明した各リスクを避けるには、①職場への発覚を防ぎ、②不起訴処分を得ることが大切です。
(1) 長期の欠勤で職場に発覚する危険
痴漢行為で逮捕されても、「面識のない被害者に対する単純な電車内での痴漢行為」のように、特に加害者の身分を確認する捜査上の必要がなければ、警察から職場・学校に連絡されることはありません。
しかし、逮捕・勾留されれば、最大で23日間にわたり身体拘束を受け、勤務できなくなります。
当然、欠勤の理由を職場に説明せざるを得ず、長期になるほど事実を隠すことは困難になります。
したがって、逮捕をされてしまっても、できる限り早期の釈放を目指す必要があります。
具体的には、「逮捕後の勾留(10日間)を阻止すること」「その後も、さらなる勾留の延長(プラス10日間)を阻止すること」です。
(2) 早期の示談で懲戒処分を回避
そのために重要なことは、被害者との示談を成立させることです。
ただ、通常、痴漢行為の被害者は加害者との面識はなく、その連絡先は不明で、捜査機関は加害者やその家族に連絡先を教えてくれません。
弁護人として弁護士がつくことによって、捜査機関は、はじめて被害者側の了承を得て、連絡先を弁護士に教えてくれます。こうして示談交渉を開始することが可能となります。
被害者との示談が成立すれば、加害者による証拠隠滅や逃亡の危険はなくなりますから、もはや身体拘束の必要性もなくなり、長期間の拘束を避けることができます。
欠勤が長期とならず、職場に事実が発覚しなければ、懲戒処分を回避できます。
(3) 示談成立で起訴を回避
また、示談の成立は、
①加害者が真剣に反省していること
②示談金を支払って被害者を慰謝し、被害が回復していること
③被害者の処罰感情が薄くなっているか、もはや処罰を望んでいないこと
などを示すものとなります。
このため検察官が、あえて起訴して刑罰を与える必要性がないものとして不起訴処分(起訴猶予)とする可能性が高くなります。
不起訴となれば、欠格による失職は回避できます。

[参考記事]
痴漢で不起訴を目指す方法とは?
公務員、教員が痴漢行為で逮捕された場合は、できるだけ早く示談を成立させて、各種のリスクを受けないよう、早い段階から弁護士を選任することがおすすめです。
5.公務員の方の痴漢犯罪は弁護士へ相談を
公務員や教員による痴漢行為は、厳しい刑事罰だけでなく、懲戒免職や停職といった重い処分、退職金の減額、実名報道など、キャリアに致命的な打撃を与えます。
高い倫理観を求められる立場だからこそ、一般の会社員以上に迅速かつ慎重な対応が必要です。
もし痴漢で逮捕・捜査の対象になってしまった場合は、一刻も早く弁護士へご相談ください。弁護士であれば、被害者との示談交渉を速やかに進めて不起訴処分を目指すとともに、職場への発覚を防ぐ、あるいは処分を最小限に抑えるための的確なサポートが可能です。

