痴漢で不起訴を目指す方法とは?

痴漢をして現行犯逮捕された場合、例え逮捕後に釈放され在宅での捜査になったとしても、それで安心してはいけません。
身柄事件でも在宅事件でも、痴漢で検挙された後に何も対策をせず放置していると起訴されて前科がついてしまう可能性が高いです。
前科がつくと、将来の生活に様々な不利益が生じます。
しかし、日本の検察官は証拠が十分に出揃ってから起訴をしますので、起訴されて仕舞えばそこから無罪を勝ち取るのは困難です。
よって、前科を避けるためには、検察官に「不起訴処分」としてもらう必要があります。
本記事では、痴漢の被疑者が不起訴処分を獲得し、前科を回避する方法について、長年痴漢弁護を経験してきた弁護士が解説します。
1.痴漢で起訴されるとどうなる?
痴漢は刑事犯罪であり、以下のような犯罪が成立します。
- 迷惑防止条例違反
各都道府県が独自に定める条例で、電車・バスなど公共の場所での比較的軽微な痴漢行為が該当します。 - 不同意わいせつ罪(刑法176条)
悪質性が高い痴漢行為は不同意わいせつ罪で立件されます。たとえば、着衣の下に手を入れて直接性器を触ったり、特定の人物に対しストーカー的に痴漢行為を繰り返したりしたケースです。
迷惑防止条例違反の刑罰は都道府県ごとに異なりますが、おおよそ同じような内容になっているでしょう。
例えば、痴漢行為についての東京都迷惑防止条例における刑罰は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金刑(常習犯の場合は一年以下の懲役又は百万円以下の罰金)です。
一方、不同意わいせつ罪の刑罰は、六月以上十年以下の懲役刑です。
初犯の場合、迷惑防止条例違反の痴漢で、素直に犯行を認めていれば、ほとんどの場合に略式起訴での罰金刑となるでしょう。
「略式起訴」とは、公判(裁判)がなく、書面審理だけで罰金刑を命ぜられる起訴の手続です。
しかし、略式であっても起訴は起訴で、罰金刑であっても有罪判決です。罰金刑でも前科がついてしまうので、「起訴自体を避ける」ことが重要となります。
一方、不同意わいせつ罪には罰金刑はありません。執行猶予がつく可能性はありますが、起訴されれば裁判となり懲役刑が言い渡されることになります。
起訴されて前科がつくと、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
- 会社に知られ解雇される
- 学校に知られ退学処分を受ける
- 一部の職業・資格が制限される
- 就職活動に悪影響が出る
- 海外旅行では一部の国で入国が拒否される可能性がある

[参考記事]
痴漢は何罪になる?刑罰と逮捕後の流れを解説
2.痴漢で不起訴になる方法
不起訴の種類には、「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」という3つがあります。
実際に痴漢をしており現行犯逮捕をされてしまったならば、「起訴猶予=犯罪を犯したことを裁判で証明できるが、今回は起訴を見送るという判断」にしてもらう必要があります。
起訴猶予になるには、「被害が軽微である」「示談ができて被害者も許してくれた」「社会的制裁を既に受けている」「深く反省している」などの諸事情を検察官に考慮してもらわなければなりません。
この中で最も重要なのは、被害者との示談です。
初犯の場合は、被害者と示談ができれば、(よほど悪質な痴漢事案でない限り)ほとんどのケースで不起訴処分を勝ち取ることができるでしょう。
一方、同種前科がある場合や不同意わいせつと言える悪質な痴漢の場合、示談の成立だけでは不起訴としてもらえないこともあります。
このような場合は、反省文を提出する、性依存症の治療機関を受診する、家族の協力体制を構築するなど、反省と真摯な努力の姿勢を示して、情状をよくしていかなければなりません。
このような努力は、仮に起訴されてしまったとしても、起訴後の量刑上で有利な事情として考慮されます。
刑期が短くなったり、執行猶予判決を得られたりする可能性が高くなりますので、何もせずに放置することは絶対にやめましょう。
3.被害者との示談を進める方法
近年は性犯罪が厳罰化し厳しい目で見られるとはいえ、特に痴漢や盗撮などの比較的軽微な性犯罪では、被害者のプライバシー保護の観点から、起訴・不起訴にあたって被害者の意向を尊重する運用がとられています。
そこで、痴漢で検挙されたならばすぐにでも被害者との示談を行い、示談書を作成し検察官や裁判官に提出することが重要です。
(1) 被害者に連絡をして示談交渉を開始
被害者と示談を進めるためには、まずは被害者の連絡先を知らなければなりません。
痴漢事件の場合、被疑者は被害者の連絡先などの情報を知らないことがほとんどでしょう。
よって、被害者の連絡先を知るには、警察官、検察官に確認して教えてもらう必要があります。
しかし、刑事事件においては、警察・検察が被疑者自身やその家族に被害者の連絡先を教えることはありません。
被疑者と被害者が直接連絡を取り合うことは更なるトラブルを生む可能性が高いですし、何より報復や再犯のリスクがあると考えられるからです。
そこで、弁護士の出番です。被疑者から刑事弁護を依頼された弁護士が、代理人として警察官や検察官に連絡を入れることで、「被疑者やその関係者には決して情報を漏らさない」という前提で、被害者の連絡先の開示を受けられることがあります(もちろん、この場合は被害者の同意が必要です)。
被害者の連絡先がわかったら、示談交渉を開始します。
→示談したい
なお、どうしても被害者の承諾を得なれないならば、例え弁護人であっても被害者の連絡先を知ることができませんので、この場合は贖罪寄付などで反省の気持ちを見せることになります。
(2) 示談の条件などについて折り合いをつける
示談の際には、示談金の支払いのほか、あらゆる条件をつけることがあります。
例えば、痴漢事件の場合は「今後被害者と同じ時間帯の電車に乗らない」「通勤ルートが同じならば被疑者側は今後別のルートを使う」などが考えられます。被害者と被疑者が同じ地区に住んでおり利用する駅が重なるならば、引っ越しなどの条件も視野に入れる必要があるかもしれません。
これらの条件について、被疑者の方が実現可能な範囲で折り合いをつけ、示談の成立を目指します。
なお、痴漢の示談金相場は、犯行容態や被疑者の資力にもよりますが、迷惑防止条例違反の場合はおよそ20万円〜50万円程度のケースが多いようです。

[参考記事]
痴漢の示談金相場はいくら?示談交渉の流れとポイント
(3) 示談書・意見書を作成し、検察官に提出する
双方が条件について合意して示談が成立したら、示談書を作成します。
また、通常は示談書とは別に被害者の署名押印のある「被害届取下書」を交付してもらいます。これを警察署に提出して、被害届を取り下げます。
つまり、もし被害者が被害届を出していたら、示談金の支払と引き換えに被害届を取り下げる合意も行うことができるのです。
弁護士が作成する示談書の中には、通常「宥恕文言」という、被害者の罪を許すという意味合いを持つ文言を盛り込み、これによって被害者の処罰感情がなくなったことを明らかにしますが、同時に被害届を取り下げる旨の記載も盛り込むことで、もはや事件化しない意思であることをハッキリとさせることができます。
示談書を入手することができたら、これを検察官に提出して、不起訴処分が相当であることを伝えます。
このとき、事案の内容によっては弁護士の意見書も提出します。

[参考記事]
痴漢で逮捕されるケース|逮捕された後の流れはどうなるか
4.痴漢行為で逮捕されたら弁護士にご相談ください
痴漢行為によって検挙・逮捕された場合、その後の起訴を回避するためには弁護士に刑事弁護を依頼する必要があります。
不起訴処分を獲得するためには、早急に被害者と示談を進め、検察官に対して不起訴処分を促す必要があるのですが、この示談交渉は弁護士に依頼をしなければ実現が不可能とも言えます。
また、仮に逮捕・勾留で身体拘束されている場合、刑事手続きの早い段階に示談が成立することで、「被疑者を身体拘束して捜査を進める必要性に欠ける」と判断され、釈放とされることも多いです。
確実に不起訴処分を獲得するためには、刑事事件に強い弁護士事務所に依頼することが大切です。
泉総合法律事務所は、痴漢事件の取り扱いが多数あり、実績も多い弁護士事務所です。ぜひ、代表弁護士の泉義孝にご相談ください。