交通事故 [公開日]2018年5月11日[更新日]2025年5月7日

ひき逃げの罪|必ず逮捕・起訴されるのか?

ひき逃げの罪|必ず逮捕・起訴されるのか?

ひき逃げ(轢き逃げ)事故を起こすと、単なる人身事故(過失運転致死傷罪)にとどまらず、警察官・警察署に事故を報告する義務を怠る「報告義務違反」、被害者を助けなかった「救護義務違反」、二次的な交通事故被害を防ぐ措置をとらない「危険防止措置義務違反」にも当たるため、被疑者は相当に重く処罰されます。

実際に車を運転していて人を轢いてしまったら、気が動転してしまい、恐怖心もあってその場から走り去ってしまうというケースは多いです。
あるいは、人を轢いてしまったこと自体に気づかないというケースもあるかもしれません。

今回は、このようなひき逃げ事故の罪(刑罰)と、逮捕されてしまった場合の正しい対処方法について解説します。

1.ひき逃げの罪

(1) 自動車運転処罰法違反

まず、ひき逃げは自動車運転処罰法違反として、「過失運転致死傷罪」に問われます(第5条)。
「過失運転致死傷罪」では、運転上必要な注意を怠って人を死傷させた者は7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされています。

自動車運転処罰法とは?交通事故事件で適用される法律

[参考記事]

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(2) 危険運転致死傷罪

飲酒運転や高スピードの信号無視、無免許など、極めて危険な方法で運転しひき逃げを起こした場合は、過失運転致死傷罪より更に重い「危険運転致死傷罪」とされるでしょう。
この場合、人を負傷させた場合は15年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役に処せられます。

なお、アルコール、薬物、病気によって正常な運転に支障が生じるおそれがあり、そのおそれを知りながら運転し、実際に正常な運転ができず死傷事故を起こした場合は、「準危険運転致死傷罪」として処罰されます。
準危険運転致死傷罪では、人を負傷させた者は12年以下の懲役に、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処せられます。

危険運転についての刑罰は、どちらも罰金刑はないため、起訴されれば確実に公判請求(裁判)となります。

(3) 救護義務違反

交通事故を起こしたら、運転者はすぐに車を降りて負傷者の有無を確認し、負傷者がいたら応急処置をして、救急車を呼ぶなどの適切な対応をしなければなりません(道路交通法72条1項前段)。

ひき逃げという行為は、交通事故の当事者に課せられたこの「救護義務」に違反する行為と言えます。

なお、道中を急いでいるなどの理由で「後で戻ってこよう」と思いながらその場を立ち去った場合にも、やはり救護義務違反です。
交通事故を起こしたら、必ずその場で停車して、適切な対応をとらなければなりません。

救護義務違反の罰則は、10年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑です。

(4) 報告義務違反

交通事故を起こした当事者は、警察に対する事故の報告義務も負います。
その際、以下の事項を警察に申告しなければなりません(通常は電話を受けた警察官が質問をしてくれますので、申告内容について過度な心配は不要です)。

  • 事故が発生した日時、場所
  • 事故における死傷者の数、負傷者の負傷の程度、損壊した物と損壊の程度
  • 事故に関係する車両等の積載物
  • 事故について現状講じた措置

ひき逃げは、当然ながらこの報告義務違反にもなります。
報告義務違反の罰則は、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金刑です。

(5) 危険防止措置義務違反

交通事故の当事者には、危険防止措置義務も課されます。

たとえば、交通事故現場に散らばったものなどを片付けたり、車を端に寄せたり、発煙筒を焚いたり三角表示板を置いたりして後続車に事故を知らせる行為など、後続車などによる二次的な交通事故被害を防ぐ措置をとる義務です。

危険防止措置義務違反の罰則は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。

(6) 併合罪加重について

このように、ひき逃げ事故を起こしたときには、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷罪・危険運転致死傷罪・準危険運転致死傷罪)と、道路交通法上の違反行為(救護義務違反・報告義務違反・危険防止措置義務違反)の両方が成立します。そして、この2つの犯罪は「併合罪」という扱いになります。
併合罪とは、確定判決を経ていない2つ以上の犯罪行為がある場合に、刑罰を加重することです。

併合罪加重を行う場合、ルールは以下の通りとなります。

  • 懲役刑の場合、長い方の罪を1.5倍とする
  • 罰金刑の場合、合計額を限度とする

これを基に計算すると、たとえば、過失運転致死傷罪のひき逃げの場合は、「15年以下の有期懲役刑、200万円以下の罰金刑」です。
危険運転致死罪の場合は、「30年以下の懲役刑」です。

2.ひき逃げの逮捕・起訴率

(1) ひき逃げで逮捕されるきっかけ

ひき逃げをしたら、少なくとも一度はその場からは逃げ切ってしまうことが多いです。
よって、ひき逃げで現行犯逮捕されることは少ないですが、後日に検挙されて逮捕される可能性は大いにあります。

令和6年版の犯罪白書によると、ひき逃げ事件(救護義務違反)の発生件数は、令和3年以降増加し続け、令和5年は前年比203件(2.9%)増の7,183件でした。
そして、全検挙率は、令和5年で72.1%でした。死亡事故に限ると、検挙率はおおむね90%を超える高水準で毎年推移しているようです。

つまり、ひき逃げ事故を起こすと、特に被害者が死傷したときには検挙される可能性が非常に高いことがわかります。

ひき逃げ事故を起こしても、警察は以下のような捜査方法を行い証拠を揃えますので、逮捕されずに逃げ切ることは難しいです。

  • 事故当時の周囲の目撃証言
  • 道路上や駐車場内の防犯カメラ映像
  • ひき逃げ現場の近くの車両のドライブレコーダー

当初からひき逃げをせずにきちんと被害者を救護することが大事ですが、もし逃げてしまった場合には早めに自首することが大切です。

【参考】ひき逃げ事件 発生件数・検挙率の推移(犯罪白書・令和6年版)

(2) ひき逃げの逮捕・起訴率は高い

ひき逃げは、自動車運転過失致死傷罪であれ危険運転過失致死傷罪であれ、犯行態様の悪質性から(死亡事故でなくとも)逮捕・勾留される可能性が高いと言えます。
特に、ひき逃げ犯は現実に一度事故現場から逃げていますので、逮捕(身体拘束)をしなければ再び逃亡すると思われても仕方ないでしょう。

そして、ひき逃げは重大な交通事故犯罪とされ、近年では交通事故の厳罰化が図られていますので、基本的には厳しく処罰されると考えるべきです。

とはいえ、被害者の死傷結果や運転者の過失の程度、事故態様、民事賠償の有無や見込みなどによって、適用される刑罰や処分は大きく異なってきます。

たとえば、被害者が軽傷で、運転者の過失の程度も軽く、示談が成立していれば、不起訴にしてもらえたり、罰金刑で済む可能性もあるでしょう。
これに対し、被害者が重傷であったり、飲酒運転、無免許運転などがあったりすれば、初犯でも実刑判決を受ける可能性が高くなります。

3.ひき逃げ事件の弁護について

最後に、ひき逃げの被疑者の方ができる事件への対処法と、弁護士ができる弁護活動について解説します。

(1) 自首をする

ひき逃げは、できるだけ早く自首することをお勧めします。

一度逃げ切れたとしても、被害者が死亡しているケースや重傷を負っているケースならば、高い確率で検挙されます。
その場合、後日に突然逮捕されるので何の準備もできません。更に、逃げていたということで情状も悪くなり、重い刑罰が適用される可能性が高くなります。

これに対し、事件や犯人が発覚する前に出頭すれば「自首」が成立し、刑罰を減軽してもらえる可能性があります。身柄拘束されることを見越して、自主前に身辺整理をすることもできるでしょう。

(2) 反省し、誠実に取り調べを受ける

被疑者がしっかり反省していれば、そのことが良い情状となって刑事処分が軽くなる可能性があります。

具体的には、被害者に対して謝罪文を書いたり、検察官や裁判所に反省文を提出したり、裁判の被告人質問で自分の反省の気持ちを供述したりすべきです。

このような対応は、弁護士を通して行うことがおすすめです。
弁護士は、文書の内容についてアドバイスができるだけでなく、被疑者の謝罪文・反省文を代理で被害者や検察に渡したり、弁護士本人が被疑者の方の言い分をまとめた供述調書を作成したりすることもできます。

また、取り調べを受ける際に注意するべきこと等も詳しく説明できます。

特に、ひき逃げ事件では、接触した感覚がないという点について、「接触の可能性もあると思いました」「接触をしていることがわかったはずだと今言われれば、そうかもしれないと思います」などという「未必の故意」を認めるような調書の記載をされると不利になります。
このような取り調べに関するアドバイスも、弁護士ならば確実に行うことができます。

(3) 被害者との示談交渉

被疑者の方は、多くのケースで任意保険会社に加入しており、「保険会社に任せておけば、被害者にはお金を払ってくれるだろう」と思うケースもあるようです。

しかし、加害者側の保険会社が行う被害者との示談は、あくまで民事賠償問題の解決だけを目指した交渉で、被害者から宥恕(※)を得ることを目的としていません。
また、任意保険会社任せにしているという事実は、被害者の方にとっても印象が良い物ではないでしょう。保険会社は示談金の金額を低額に抑えようとする傾向もあり、被害者の方の怒りを増幅させてしまう事案も多いです。
※「宥恕(ゆうじょ)」とは寛大な心で許すとの意味で、「処分を望まない」「寛大な処分を望みます」などの記載を「宥恕文言」と言います。

更に、保険会社は格別早期の示談成立に熱心ではないので、示談に時間がかかります。その間に、被害者の方が逮捕・起訴となる可能性も0ではありません。

そこで、ひき逃げの加害者は、保険会社の示談代行を待つまでもなく、刑事弁護を担当する弁護士に代理人を依頼をした上で示談交渉をするべきです。
(加害者側が示談金を支払えば、後で保険会社に補てんを請求することができます。)

ただ、ひき逃げされた被害者は、通常加害者に対して強い怒りを抱いており、被疑者やその家族からの示談の申し入れは拒否をすることが多いです。
更に、警察や検察は、被疑者等に被害者の個人情報や連絡先を教えることはありません。

しかし、弁護士であれば、被疑者の代理人として、検察官などに被疑者の方の連絡先を開示してもらうようお願いすることができます。被害者としても、「弁護士ならば」と安心して連絡先を提示してくれることが多いので、そのまま示談交渉にも応じてくれる可能性が高いです。

弁護士が実際に示談交渉をするときには、適正な示談金額を定め、被害者の心情に寄り添いながら示談の成立を目指します。
そして、示談が成立したときには、被害者の方から先述の宥恕文言をとりつけられる可能性も上がります。

事故の様態などによっては、早期に示談を成立させることにより、不起訴処分を獲得できる可能性も0ではありません。
また、仮に起訴された場合でも、判決前に示談が成立してきちんと民事賠償を終えられたら、執行猶予がつく可能性が高くなります。

なお、被害者との示談が成立しない場合や、判決までに間に合わない場合などには、「贖罪寄付」によっても反省の気持ちを示すことができます。

(4) 故意がなかった場合の主張

ひき逃げ事故を起こしたとき「対象が人であると気づかなかった」という方がいます。
この場合、救護義務違反の「故意」がないとして、犯罪の成立が否定される可能性があります。

ただし、警察官に「人だとは思わなかった」と申告したからといって「では、故意がないということですね」ということにはなりません。
ひき逃げで故意を否定するためには、「一般の社会通念上、ひいたものが人であると気づかなくても当然」な状況が必要です。

たとえば、白昼に住宅道路を歩いていた人をひいてしまったら、普通は相手が人であることに気づくものですから、「気づかなかった」と言っても通用しません。

一方、夜中に幹線道路や高速道路上で人が寝ていた場合などには、運転者はまさか人が寝ているとは思わないのが通常でしょうから、故意が否定される可能性があります。

4.ひき逃げは泉総合法律事務所までご相談を

本コラムで解説をしたのは刑事的な責任と民事的な責任(損害賠償)のみですが、ひき逃げ事故を起こすと、免許の点数も大きく加点されます。

日本の運転免許制度では、免許の点数が一定以上になると、免許停止になったり免許取消になったりします。
ひき逃げをすると、一回で免許が取り消され、前歴がない人でも欠格期間が3年になります。

ひき逃げ事故を起こしてしまったならば、まずは自首を検討し、早期に刑事弁護人を選任して被害者対応を行うことが、刑事責任を軽くするために大切です。

弁護士法人泉総合法律事務所では、ひき逃げを含めた交通事故(人身事故)の刑事弁護に大変力を入れており、不起訴処分や執行猶予処分をとりつけた実績も多数ございます。
人身事故を起こしてしまった場合には、どうぞお早めにご相談ください。

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