セクハラ [公開日]2018年1月17日[更新日]2025年5月26日

セクハラで被害届を出されて逮捕されることはある?

セクハラで被害届を出されて逮捕されることはある?

職場での勤務中に女性部下に対して性的な嫌がらせをしたり、忘年会や新年会、歓迎会、送別会などの席で酔った勢いで女性の身体を触ってしまったり、下ネタを話してしまったりすると、「セクハラ」に該当して問題になることがあります。

たかがセクハラ、と考える方もいるかもしれませんが、最近は性的言動に関する社会の目も厳しくなっています。
犯罪に該当するような行為ならば、セクハラでも逮捕されてしまうこともありうるので注意が必要です。

今回は、冗談のつもりで行った言動であっても「セクハラ」となり、刑事事件になったりしてしまうケースについて、刑事事件に詳しい弁護士が解説いたします。

1.セクハラとは?

セクハラと言えば、一般的に会社での「労働トラブル」だと思われていることが多いです。
しかし、社会的に「セクハラ」と呼ばれる行為が刑法などに触れる危険性はあり、その場合には刑事責任の問題が生じます。

(1) セクハラとはどんな行為なのか

セクハラとは「セクシュアル・ハラスメント」のことであり、日本語にすると「性的嫌がらせ」です。
セクハラを言われて思い浮かぶのは「男性上司から女性部下への性的な嫌がらせ」が典型かもしれませんが、正式には被害者・加害者ともに性別は関係ありません。また、セクシャルハラスメント自体は職場内に限るものではありません。

「嫌がらせ」ですから程度も内容も様々ですが、男女雇用機会均等法(※雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)では次のとおり定めています。

第11条1項
①職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること
②当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること

このように、男女雇用機会均等法は、職場における被害を防止する対応策を雇用主に義務づけています。
この法律は、職場内でのセクハラを防止・対応する施策を企業に求めるものに過ぎず、セクハラを禁止する法律ではありませんが、どのような行為がセクシャルハラスメントとなるかを考える上では参考にはなります。

男女雇用機会均等法のセクハラ規定は、「職場のセクハラ」に関するものですから、「職場において行われる性的な言動」という要件が付されています。しかし、セクシャルハラスメントは職場内に限るものではありませんから、ポイントになるのは「性的な言動」かどうかです。

例えば、以下のような言動は、性的な言動と評価されます。

  • 異性との性生活について尋ねる
  • 性的な冗談を言う、からかう
  • 食事やデートにしつこく誘う
  • 自分の性的な体験談を聞かせる
  • 性関係を強要する
  • 許可無く身体に触る

また、セクシャルハラスメントが「嫌がらせ」である以上、「相手の意思に反する」ことが要件となることは当然です。
性的な言動といえども、相手の真意に基づく同意があるなら、何ら咎められる理由はありません。

実際には、被害者の内心だけでなく、当該性的言動が社会的な許容範囲を超える内容かどうかが問われなくてはなりません。
もっとも、現在では性的言動に対する社会の目は非常に厳しいものがあり、一昔前のように「冗談だ」「傷つけるつもりはなかった」「嫌がっているとは思わなかった」などの言い訳は裁判所では通用しなくなっています。

(2) セクハラの種類

厚生労働省の指針(※)では、職場内でのセクシャルハラスメントを次のふたつのタイプに分けています。
※「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」

対価型セクハラ

職場で性的な言動を行ったときに労働者が拒否したことを理由として、解雇や降格、減給などの不利益処分を行うことです。

たとえば、女性の従業員に性関係を強要したところ、拒絶されたために解雇したケースなどが該当します。

環境型セクハラ

性的な言動によって就業環境を不快なものとしたために、労働者の労働遂行に支障を発生させるパターンです。

たとえば、上司が性的な発言を繰り返すので、部下が苦痛に感じて仕事をする意欲をなくしてしまった場合などが該当します。

上司が職場に女性のヌードのポスターを貼ったために、部下が苦痛に感じて業務に専念できなくなったケースなどもこのパターンです。

(3) セクハラの民事責任

職場においてセクハラの事実が認定されれば、雇用主は加害者に対して労働契約上の懲戒処分(懲戒解雇など)を発動できますし、被害者は加害者に対して不法行為責任(民法709条)を根拠に慰謝料を請求することが可能です。
また被害者は、加害者の雇用主に対して使用者責任(民法715条)を根拠に慰謝料請求をすることも可能です。

また、前述した職場での対価型セクハラで、被害者が解雇、降格、減給などの処分を受けたならば、これらの処分は無効となります。

もちろん、セクハラ行為が慰謝料などの民事責任を発生させるのは、職場におけるセクハラに限られません。相手の意思に反する性的言動を行い、被害者に精神的な損害を生じさせる性的な言動である限り、職場の内外、仕事上の関係を問わず、違法な不法行為となります。

2.セクハラで成立する犯罪

刑法を含めた法律に「セクハラ罪」は存在しません。
しかし、当該セクハラ行為が、以下のような刑法を含む各法律の刑罰規定に違反する行為であるならば、立派な犯罪行為となります。

罪名 具体例 刑の重さ
侮辱罪 具体的な事実を伴わず、「〇〇さんは浮気性」などと公然と侮辱した 1年以下の懲役、禁錮、30万円以下の罰金・拘留・科料
名誉毀損罪 「〇〇さんは取引先の□□さんと不倫している」など具体的な事実を拡散した 3年以下の懲役、禁錮、50万円以下
強要罪 食事やデート、性的な関係などをしつこく要求した、あるいは強迫をした
性的な事項を本人に尋ね、回答を強要した
3年以下の懲役
不同意わいせつ罪 宴会などで酔っ払い、同僚や部下の女性に無理矢理キスをした
上下関係を利用して脅し、服を脱がせたり身体を触ったりした
6月以上10年以下の懲役
不同意性交等罪 被害者をホテルに連れ込み同意なしに性交渉をした 5年以上20年以下の懲役
公然わいせつ罪 不特定多数の人の目に触れるような場所でセクハラをした 6月以下の懲役、30万円以下の罰金・拘留・科料
迷惑防止条例違反 部下の女性の服の上から身体を触った
同僚女性に抱きついた、胸やお尻を触ったり揉んだりした
※都道府県ごとに異なる

なお、犯罪に当たらない場合でも、民事上の責任を追及されたり、就業規則に違反して懲戒処分を受けたりする可能性は大いにあるということが前提となりますのでご注意ください。

※拘留とは1日以上30日未満刑事施設に収容される刑、科料とは1,000円以上1万円未満を徴収される刑です。
※罰金の下限の額は1万円です。

3.具体的なセクハラの事例と刑事責任

(1) 性的な経験談や恋愛経験について尋ねる

性的な事項を本人に尋ねること自体は犯罪に該当しませんが、質問への回答を強要した場合「強要罪」に該当するケースが考えられます。
強要罪は未遂罪も処罰されますので、質問に答えなかったとしても、強要未遂罪の成立がありえます。

なお、強要罪における「脅迫」には、経済的不利益に関する害悪の告知が含まれます。したがって、例えば「契約更新や人事評価などで不利益を与える」「職場に居づらくさせてやる」などと告げることも脅迫にあたるといえます。

職場の雑談の中でこのような話題が出たに過ぎない場合は、害悪の告知がなされていないので、犯罪は成立しないと考えられます。
逆に、雑談であっても害悪の告知がなされている限りは強要罪の可能性があります。

(2) 性的な噂を流布する(言いふらす)

噂の内容によっては「侮辱罪」や「名誉毀損罪」に該当する可能性が考えられます。

侮辱罪は、「〇〇さんはスケベ」などと、具体的な事実は指摘しないものの、公然と否定的な評価を下して人を侮辱した場合に成立します。
名誉毀損罪は、「〇〇さんは取引先の□□さんと不倫している」と具体的な事実を公然と示した場合に成立します。

いずれも、特定の少数にとどまらず拡散する可能性があれば、侮辱や名誉毀損をしたことになります。

一方、どんなにひどい冗談であっても、それが個室での発言で、不特定または多数に広がる可能性がないような場合は、(セクハラには該当したとしても)侮辱罪や名誉毀損罪は成立しないと考えられます。

なお、言いふらされた内容が人の社会的評価を低下させるおそれがない場合は、罪にはなりません。例えば、「〇〇さんは妊娠した」「お互いに独身の〇〇さんと△△さんは結婚を前提に付き合っている」というような例です。
もちろん、これらがプライバシー侵害として、民事上慰謝料請求の対象となる危険性があることは別論です。

(3) 自身の性的経験談を話す

そのような話をしただけであれば、犯罪に当たることはないと考えられます。
しかし、性行為場面や裸体の画像を見せた場合は、公然わいせつ罪になる可能性も考えられます。

(4) 性的な関係を強要する

不同意わいせつ罪」や「不同意性交等罪」またはその未遂罪となる可能性があります。例えば、以下の手段を用いて性的な関係を強要した場合が考えられます。

  • 仕事上の不利益な処分を匂わせて脅迫する
  • 抵抗を力づくで抑えつけたり、羽交い絞めにして胸を強く掴んだりして暴行する
  • 飲酒による酩酊状態や寝込んだ状態に乗じる
  • 地位や日頃の信頼関係を利用して、心理的に抵抗ができない状態であることに乗じる

なお、実際にわいせつ行為や性交等まで至らなかった場合でも、暴行や脅迫という手段を実行した時点で未遂罪となります。

(5) 不必要に身体へ接触する

相手の身体に同意なく触れる行為は、たとえ性的な部位を触る行為でなく、強い力を加えなくとも、それ自体有形力の行使ですから、「暴行罪」となる可能性も考えられます。

性的に恥ずかしいと感じるような部位に触った場合は、「不同意わいせつ罪」となる可能性があります。

(6) 食事やデートへ執拗に誘う

このような誘いが脅迫などを伴えば、「強要罪」に該当する可能性があります。

また、拒否しているのに何度もしつこく誘った場合は、「ストーカー規制法」に該当することも考えられます。

(7) わいせつな画像を掲示・表示する

「公然わいせつ罪」に該当する可能性があります。

会社のオフィスのように当該会社の従業員という特定の人しかいない空間であっても、多数人が目にする可能性がある場合は、「公然」と認められるケースがあり得ます。
少人数か大人数かは、明確な基準はないので、一概にはいえないところがあります。

(8) ファーストネームや「ちゃん」付け、呼び捨てで呼ぶ

呼ばれる側の意に反する場合はセクハラに当たる可能性もあり、ビジネスマナーとしても残念なケースですが、このような呼び方が犯罪に当たる可能性はありません。

ただし、人前で「デブ」などと身体的な特徴をあげつらったあだ名で呼ぶ行為は「侮辱罪」となる可能性があります。

4.セクハラで逮捕された場合の流れ

セクハラ行為が犯罪に該当すれば、逮捕されることがあるのは当然のことです。
いくら軽い犯罪だろうと考えても、被害者が警察に被害届を提出すれば、逮捕の可能性は否定できません。

では、セクハラで逮捕された場合、その後どのような刑事手続きの流れになるのでしょうか?

(1) 身柄拘束される

罪の重さや罪状などにもよりますが、刑事犯罪で検挙されるとそのまま警察に逮捕されるケースがあります。
逮捕をされると、警察の留置場内に身柄拘束されることとなります。

警察官は逮捕後48時間以内に、被疑者の身柄を検察官に送付しなければなりません。
検察官は被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に、裁判所に勾留請求するか釈放するかを判断しなければなりません。

被害が軽微で、被疑者の身元が明らかな場合などには、勾留請求されずに釈放されることもあります。
一方、検察官が勾留請求をして裁判官がこれを認めた場合、被疑者の身柄は留置場内に引き続き拘束されることになります(=勾留)。

勾留期間は10日間ですが、10日では捜査が終了しない場合、さらに最大で10日間勾留延長される可能性があります。
つまり、起訴前の身柄拘束期間は逮捕から最大で23日です。

23日も身柄拘束され欠勤となれば、通常の会社員の場合は解雇されてしまう可能性があります。
そうでなくても、セクハラによる逮捕は会社に知られている可能性が高く、会社の就業規則に違反して処分されたり、退職や転勤を余儀なくされたりするケースが少なくありません。

不利益を避けるには、被害者と示談交渉を行い、身柄拘束を早めに解いてもらうことが何より重要となります。

(2) 起訴される

勾留期間が満期になる前に、検察官は、被疑者を起訴するか不起訴にするのか決定しなければなりません。

最終的に起訴されると、高い確率で有罪となってしまいます。
悪質な不同意わいせつや不同意性交等罪が成立した場合などには、実刑判決を受けてしまうおそれも高くなります。

実刑・罰金などの有罪判決を受けると前科がついてしまうので、今後の人生において大きな影響を受けてしまうことがあります。

5.セクハラで逮捕された場合の対応

セクハラで逮捕された場合、重要なことは早期に身柄を解放してもらうことです。
また、前科を避けるためには起訴されないようにする(不起訴を勝ち取る)ことも大切です。

どうしても起訴を避けられないなら、実刑判決を受けないようになるべく刑を軽くする方法を検討すべきです。

そのために重要となるのが、被害者との「示談」です。示談とは、加害者と被害者が交渉をして、示談金の支払いと引き換えに被疑者を宥恕してもらえるよう合意することです。
宥恕(ゆうじょ)とは、「許す」ことで、「処罰を望まない」などの宥恕文言を示談書に記載することで、被害者の処罰感情が無くなったことを明らかにしてもらうのです。

示談をすれば、被害が金銭賠償され、かつ被害者が処罰を希望しなくなったという意味で、被疑者にとって有利な事情として評価され、検察官が不起訴処分にとどめてくれる可能性が高まるのです。
仮に、起訴されてしまったとしても、示談が成立したら、最終的な判決において有利な情状として斟酌されます。結果として、罰金刑になったり執行猶予がつく可能性が高まります。

さらに、逮捕された最初期の段階で、早々に示談を成立させることができれば、勾留されない、勾留されても延長はされないといった、早期の身柄解放を実現できる可能性もあります。

懲戒処分を免れなくても、今後の生活のためにも刑事事件に関する不利益は少しでも小さくするべきです。

セクハラの場合、逮捕されていないケースでは、加害者本人が自分でも示談交渉ができると思うかもしれません。
しかし、セクハラの被害者は、怒りや恐怖心から加害者との直接の交渉に応じないことが通常です。

また、加害者が不用意に被害者に接触することは、脅迫、罪証隠滅、お礼参りを疑われ、却って逮捕されてしまう危険があります。
後の公判で、犯行後も執拗に被害者とコンタクトをとろうとしていたなどと指摘されたら、裁判官の心証は最悪になってしまいます。

そこで、セクハラで効果的に示談交渉を進めるためには、弁護士に対応を依頼すべきです。

被害者の怒りが強く、示談に応じてもらえないと思われるようなケースでも、弁護士が介入することによって事態を収拾できることも少なくありません。

6.セクハラの加害者になってしまったら弁護士にご相談を

性犯罪での示談交渉の経験豊富な弁護士であれば、被害者の怒りや恐怖心に配慮しながらも迅速に示談交渉を進め、不起訴を獲得するために必要な示談書を確実に作成します。これにより、早期に不起訴決定を獲得できる可能性があります。

泉総合法律事務所は、セクハラ事案のみならず、痴漢や盗撮など、各種の性犯罪に対応している刑事事件に強い弁護士事務所です。ケースに応じた最適な対処方法をアドバイスいたします。
突然の逮捕で困惑されている加害者の方やご家族様、刑事告訴すると言われてお困りの方などは、どうぞお早めにご相談ください。

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