刑事弁護・裁判 [更新日]2025年10月15日

刑事事件で容疑を否認し続けるとどうなる?

刑事事件で容疑を否認し続けるとどうなる?

誰もが「容疑者は容疑を否認しています」というニュースをみたことがあると思います。
実際、逮捕・勾留されてしまったけれど、「事情聴取で容疑を否認し続ければ釈放されるのではないか?」などという気持ちになる方もいるでしょう。

罪を犯し逮捕・勾留されたにも関わらず容疑者が容疑を否認することは、その被疑者にとって利益となるのでしょうか?それとも不利益となるのでしょうか?
また、実際に罪を犯しその容疑を認めている場合でも、取り調べに対して虚偽の供述をし、事実でない内容が供述調書に録取され、後にそれが虚偽であることが発覚したケースでは、容疑者にとってどのような不利益をもたらすのでしょうか?

1.事実でない容疑は認めてはいけない

まず、あなたが罪を犯した事実がない、つまり無実であれば、何があっても容疑を認めてはいけません
取調官から、容疑を認めれば「軽い処分で済む」「すぐに釈放してやる」などと言われても、それを信じてはいけません。

一旦虚偽の自白をし、その内容を録取した供述調書(自白調書)をとられてしまうと、後にその内容が事実でないと明らかにすることは至難の業です。身に覚えのない犯罪で処罰されてしまいますので、絶対におすすめできません。

2.犯行が事実であるときの否認の判断

他方、現実にあなたが罪を犯し、身に覚えのある容疑で身柄拘束された場合は、素直に自白するべきかどうか慎重に考える必要があります。
どのような対応をとるべきか、弁護士と接見して助言を得るべきです。

(1) 容疑を否認するメリット

逮捕状は、捜査機関から提出された証拠に基づき、犯罪の嫌疑と逮捕の必要性を裁判所が審査したうえで発布されますから、何らの証拠もなく逮捕されるという事態は考え難いことです(もちろん人違いなど、証拠があってもその評価を誤っているケースはありえます)。

ただ、逮捕は「捜査」、即ちこれから証拠を探し集める活動をするために行うものですから、この段階では、起訴するに足る証拠がないケースはもとより、勾留請求するに足る証拠もないケースは珍しくありません。
その場合には、否認を貫き通せば、勾留請求されずに釈放されたり不起訴処分となったりする可能性はあります。

(2) 証拠が明らかなときに否認するリスク

逆に、逮捕の段階からかなりの証拠を集められているケース、自白が不要なほどの決定的な証拠を握られているケースでは、容疑を否認し続けることで以下のような不利益を生じる可能性があります。

勾留される可能性が高まる

勾留とは、逮捕に続く長期(原則10日間、最大で20日間)の身体拘束です。
容疑が明らかな証拠があるにも関わらず容疑を否認し続ける場合、検察官・裁判官に罪証隠滅をするおそれや逃亡のおそれが推認されてしまうことが多々あります。容疑を否認していることそれ自体は勾留を認める要件とされていませんが、やはり否認により勾留される可能性は高まります。

勾留の要件については次の記事をお読みください。

勾留とは?勾留要件・期間・流れ・対応策を解説

[参考記事]

勾留とは?勾留要件・期間・流れ・対応策を解説

反省していないと思われる

捜査機関が犯罪に関する明らかな証拠を押収している場合に容疑を否認すると、当然のことですが反省をしていないと判断されます。
すると、検察官が起訴するか否かを判断する際に、否認していることを不利な事情として考慮し起訴をする可能性が高くなってしまいます。

また、裁判においても同様で、犯罪事実が明らかであるのに容疑を否認していると、量刑が重くなります。又、保釈も認められにくくなります。

被害者との示談ができない

犯行が事実であるなら、不起訴処分を得たり量刑を軽くしたりするために、被害者との示談を成立させることが重要です。

しかし、示談は被害者に犯行を謝罪して、その許しを得ることですので、容疑を否認し続けるなら示談交渉をする余地がありません。

刑事事件の示談の流れ|示談をするメリット・効果とは?

[参考記事]

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(3) 証拠が明らかなときに「黙秘」を続ける影響

このように、明らかな証拠があるのに否認をすると不利益を受けるという事情は、黙秘権を行使した場合にも当てはまります。

憲法38条は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」としており、国民に黙秘権を保障しています。
さらに刑事訴訟法第198条2項は、容疑者は取り調べの際に、利益不利益を問わず自己の意思に反する一切の供述をする必要がないと定めています。

このように、黙秘権行使は必ずしも否認と一致しません。犯罪事実を認めた上で供述を拒否することも自由だからです。

さて、このように憲法と法律で保障された黙秘権の行使を容疑者に不利益に扱うことは、本来違法となります。
しかも、明らかな証拠がある場合に黙秘権を行使すると、事実上は否認と同様に受けとめられ、反省していないとの印象を抱かれてしまい、勾留により身体拘束が長くなったり、量刑上の不利益を受けたりする危険があります。

この点、捜査機関も裁判所も同じです。
裁判官は「自白すれば有利に扱うだけで、黙秘を不利に扱うわけではない」と説明をすることが通常ですが、それは詭弁だという強い批判もあります。

黙秘権が保障されていると言っても、実態はこのように不当な扱いを受けることが多いですから、黙秘するか否か、いったん始めた黙秘の態度を貫くか否かは、弁護人と十分に打ち合わせをして方針を決めるべきです。

黙秘権とは?黙秘権を行使するメリット・デメリット

[参考記事]

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3.供述調書に嘘を記載させるとどうなる?

供述調書とは、取調官が作成する、被疑者・被告人・第三者(参考人)の供述を録取した書面です。

供述調書は、刑事事件の手続上、重要な証拠として取り扱われ、その記載内容は「①起訴・不起訴の判断」「②起訴後の裁判における有罪・無罪の判断」「③有罪判決の量刑判断」に大きな影響を与えます。
もっとも、先述の通り被告人には黙秘権があるため、供述を拒否できます。また、調書を作成しても署名又は押印を拒むことができます。

刑事訴訟法197条
第3号 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
第4号  前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
第5号 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

検察官が起訴・不起訴の判断をする際、被疑者の供述を録取した書面は無条件に判断の資料となります。
したがって、供述調書に虚偽の事実が記載されていると、事実でない犯罪で起訴されることになりかねません。

他方、これを起訴後の裁判で証拠とするには、被告人の署名又は押印があることを前提としたうえで、次の(A)(B)(C)(D)に該当する場合に限ります。

(A)証拠とすることに被告人の同意がある場合(326条1項)
(B)被告人に不利益な事実の承認を内容とする場合(322条1項本文)
(C)特に信用するべき状況下で供述された場合(322条1項本文)
(D)他の供述の証明力を争う証拠とする場合(328条)

捜査段階で嘘の供述をして、それが供述調書に記載され署名・押印をしてしまえば、上の(B)(C)(D)のように、被告人が証拠とすることに反対したとしても、検察側は裁判の証拠として提出することができるのです。

署名・押印があることで、たしかに被告人が語った内容であることが担保されていますから、「実は、あれは嘘でした」と言っても裁判官に信用されることはまずありません。したがって、真実ではない事実に基づいて処罰されてしまう危険があります。

では、嘘の供述を行い、供述調書に記載された内容が虚偽であると明らかになった場合はどうでしょうか?

被告人が公判で無罪を主張するなど事実を争っていた場合、検察側は虚偽内容の供述調書を証拠申請し、「被告人は捜査段階で嘘をついていたことが判明した人物である。今も嘘をついている可能性は高い。」と主張すると思われます。
いずれにしても、嘘の供述調書を残すことは、有利には作用しないのです。

なお、証拠偽造罪(刑法104条)は「他人の刑事事件に関する証拠」を偽造した場合を処罰するので、容疑者本人が虚偽の事実を述べて調書を作成させても該当しません。また偽証罪(刑法169条)は「宣誓した証人」が主体なので、これにも該当しません。

4.取り調べを受ける際の注意点

このように、逮捕後の取り調べにおける否認・黙秘については、事案ごとに慎重な判断を要します。
とはいえ、いずれのケースであっても、容疑者は以下のことに注意すべきです。

(1) 嘘はつかない

上に説明したように、嘘をつくことは基本的にデメリットにしかなりません。
取り調べにおいて供述するかどうかは自由ですが、積極的に嘘をつくことはしないようにするのが無難です。

(2) 供述調書の内容をしっかり確認する

先述のように、取調官から「供述調書の内容が正しいか否か」の確認を求められますが、無条件に署名・押印をする前に、内容が自分の供述を反映しているかどうかしっかり確かめることが大切です。
もし、供述記載内容に誤りがあればこれを訂正してもらい、足りない部分があればこれを加えてもらうよう求めるべきです。

絶対に、不正確な内容の供述調書に署名・押印してはいけません

(3) 弁護士の助言を受ける

被疑者・被告人には弁護士依頼権があります。そのため、取り調べに不安があるならば、何を話すべきか等の細かい点を弁護士に相談するべきです。

自分一人で捜査機関に対応するのには限界があります。弁護士は被疑者の味方です。依頼者に対し、容疑を否認・黙秘するべきか否かの助言等、被疑者を全力でサポートしてくれます。

刑事事件に強い弁護士の選び方|弁護士選びのポイントとは?

[参考記事]

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5.まとめ

身に覚えのある犯罪の明らかな証拠があるにもかかわらず、取り調べにおいて容疑を否認するのは、あまりお勧めできません。
また、取り調べで積極的に嘘をつくのは、百害あって一利なしです。

もっとも、取り調べにおいて否認するべきか、黙秘すべきか、事実を話すにせよ何を話すべきか、最終的な判断に困る場合が多いと思います。
その場合は、刑事弁護士と接見・相談して、具体的な助言を得るべきです。

逮捕された方やその家族の方は、なるべく早い時点で刑事事件に強い泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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