令和5年の性犯罪の厳罰化について解説

近年、痴漢・盗撮・わいせつ行為など、性犯罪の報道が頻発しています。
このような傾向を受けて、2023(令和5)年、刑法の性犯罪に関する規定が大幅に改正され、処罰される行為の範囲が拡大し、厳罰化されました。
この記事では、その改正内容について順番に解説します。
1.不同意わいせつ罪の新設
(1) 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪を統合
従前の強制わいせつ罪(旧176条)と準強制わいせつ罪(旧178条1項)を統合して、不同意わいせつ罪(現176条)を新設しました。
旧法では、処罰の対象となるのは、わいせつ行為が「暴行脅迫を手段として行われた場合(強制わいせつ罪)」、または「被害者の心神喪失・抗拒不能に乗じて行われた場合(準強制わいせつ罪)」などに限定されていました。
しかし、新法ではこのような限定をなくしました。
また、法定刑は新法でも変わらず「6月以上10年以下の拘禁刑」とされています。
改正法では、被害者の性的自由(または性的な自己決定権)を守る観点から、被害者の同意・不同意の意思が重視されます。
(2) 「不同意」とは?
被害者が、「不同意」に陥る原因として、次の8類型が例示されています。
- 暴行もしくは脅迫を用いること又はそれらを受けた
- 心身や身体の障害を生じさせること又はそれがある
- アルコールもしくは薬物を摂取させること又はそれらの影響がある
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にある
- 不意打ちなど、同意しない意思を形成、表明、全うするいとまがない
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させること、又はその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがある
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮している
この8類型にとどまらず、これらに類する行為または事由も広く処罰対象となります。
他にも、「行為がわいせつなものでないとの誤信をさせ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信・人違いをしていることに乗じて性交等をした」場合も不同意性交等罪となります。

[参考記事]
痴漢の不同意わいせつ罪で逮捕された!不起訴に向けた弁護活動
2.不同意性交等罪の新設
(1) 強制性交等罪と準強制性交等罪を統合
従来の強制性交等罪(旧177条)と準強制性交等罪(旧178条2項)を統合して、不同意性交等罪(現177条)を新設しました。
旧法では、処罰の対象となるのは、強制性交等(性交、肛門性交、口腔性交)が「暴行脅迫を手段として行われた場合(性交等罪)」または「被害者の心神喪失・抗拒不能に乗じて行われた場合」(準性交等罪)などに限定されていました。
新法では、不同意わいせつ罪と同様に、8つの類型及びこれに類する行為・事由によって、不同意意思を形成・表明・貫徹することが困難な状態となった被害者に対する性交等が処罰対象とされています。
法定刑は、新法でも「5年以上の有期拘禁刑」とされています。

[参考記事]
不同意性交等罪とは?|刑法改正による変更点と構成要件
(2) 処罰対象行為が拡大
不同意性交等罪では、新たに、膣または肛門に身体の一部(陰茎を除く)や物を挿入する行為も、「性交等」に含めて、処罰対象に加わりました。
これらは、従前、「わいせつ行為」に含まれる行為とされていたものです。
さらに、旧法の下で、夫婦間の行為に、強制性交等罪・準強制性交等罪が適用されるか否か議論があり、適用を認める見解が一般的でした。
新法では、明文をもって、婚姻関係の有無にかかわらず犯罪が成立するとしました。
3.性交同意年齢(性的同意年齢)の引き上げ
旧法では、13歳未満の者に対するわいせつ行為・性交等は、その手段を問わず処罰対象とされていました。
新法では、この年齢を16歳に引き上げました。
このため、16歳未満の者に対するわいせつ行為や性交等は、原則として、手段方法を問わず、また同意の有無を問わず、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪となります。
ただし、被害者が13歳以上16歳未満の場合は、被害者の誕生日よりも5年以上前に生まれた加害者に限って処罰対象となります(年齢差要件)。
4.面会要求等罪の新設
「性的グルーミング」を防止する規定として、「面会要求罪」が新設されました。
「性的グルーミング」とは、若年者と性的行為に及ぼうとする者が、若年者と接触して懐柔する行為です。
(1) 面会を要求する行為の禁止
わいせつの目的で、16歳未満の者に対して次の行為をした者は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑となります。
ただし、年齢差要件があり、13歳以上16歳未満の者に対する場合は、5歳以上の年長者が処罰対象です。
- 威迫・偽計・誘惑を用いて面会を要求する行為
- 拒否されたのに、反復して面会を要求する行為
- 金銭その他の利益を供与したり、その申込みや約束をしたりして、面会を要求する行為
なお、結果として面会を実行した場合は、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑という、より加重された刑に処せられます。
(2) 性的姿態の映像送信を要求する行為の禁止
若年者に、自分の裸を撮影して送信しろと命ずる行為を防止する規定です。16歳未満の者に対し、一定の性的な姿態をとって、その映像を送信するよう要求した者は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑となります(182条3項)。
具体的には、次の映像です。
- 性交・肛門性交又・口腔性交をする姿態
- 膣や肛門に身体の一部(陰茎を除く)や物を挿入する姿態(挿入される姿態も含む)
- 性的な部位(性器・肛門・これらの周辺部・臀部・胸部)を触る姿態(触られる姿態含む)
- 性的な部位を露出した姿態その他の姿態
5.盗撮の厳罰化
(1) 性的姿態撮影等処罰法の新設
盗撮被害の発生と拡大を防止するため、「性的姿態撮影等処罰法」が新設されました。
従前、盗撮行為は、各地方自治体の迷惑防止条例や軽犯罪法に違反するものとして処罰されてきました。
しかし、迷惑防止条例や軽犯罪法では法定刑が軽く、抑止力が十分ではありませんでした。
たとえば、東京都の迷惑防止条例では、盗撮行為に対す刑は、「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑」、常習の場合でも「2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑」です。軽犯罪法の法定刑は、拘留または科料に過ぎません(※)。
そこで、増加の一途であった盗撮を厳罰に処すべく、特別法が作られたのです。
※:拘留は、30日未満の刑事施設拘置。科料は、千円以上1万円未満の財産刑。
(2) 性的姿態撮影等処罰法の内容
性的姿態とは、人の性的な部位(性器・肛門・これら周辺部・臀部・胸部)や、下着のうち性的な部位を覆っている部分などを指します。
たとえば、被害者のスカート内にスマホを差し入れて下着を撮影する行為は、「性的姿態等撮影罪=撮影罪」に該当し、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑となります。
性的姿態等撮影罪は未遂行為も処罰していますから、たとえば、撮影のためにトイレや更衣室にカメラを設置すれば、まだ実際に撮影に至っていなくとも犯罪となります。
盗撮行為以外にも、たとえば次の各行為は重く処罰されます。
- 盗撮画像データを提供する行為…3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑(性的影像記録提供等罪・同法3条1項)
- 盗撮画像データを不特定もしくは多数の者に提供したり、公然と陳列したりする行為…5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金刑、その両方の刑を科される場合もある(同罪・同法3条2項)
- 盗撮画像データを提供などの目的で保管する行為…2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金刑(性的影像記録保管罪・同法4条)

[参考記事]
「撮影罪」の要件・刑罰|盗撮をするとどのような罪になるのか
6.公訴時効の延長
性犯罪は、その被害の深刻さから、被害者が被害を受けた事実を明らかにするまで長い期間を要することが珍しくありません。そのため、被害者が被害を申告した時点ですでに公訴時効が完成してしまっている場合や、公訴時効までに捜査をする十分な期間が残されていない場合があります。
このような事態を避けるために、性犯罪の公訴時効期間が5年間延長されました。
たとえば、以下のようなものです。
罪名 | 公訴時効期間 |
---|---|
強制性交等罪 →不同意性交等罪 |
10年→12年 |
強制わいせつ罪 →不同意わいせつ罪 |
7年→12年 |
また、未成年者が受けた被害の申告はより困難であることから、未成年を対象とする犯罪では、時効の起算点は被害者が18歳になった時点となります。
たとえば12歳のときに不同意性交等罪の被害を受けた場合、公訴時効期間は15年ですが、18歳までの6年間はカウントされません。18歳からの15年が公訴時効期間となります(12歳時からカウントすれば合計21年の公訴時効期間)。

[参考記事]
刑事事件の公訴時効とは?何年で時効になるのか。
7.まとめ
このように性犯罪として処罰される行為の範囲は拡大し、厳罰化されています。
性犯罪は、2017年の改正により非親告罪とされ、被害者の刑事告訴がなくとも捜査して起訴できる犯罪です。
しかし、実務の運用上は、被害者の意向が最大限尊重されますから、万一性犯罪を犯してしまったならば、真摯に反省して、被害者との示談を成立させ、起訴猶予処分を得ることが重要です。
そのためには、刑事事件に注力している弁護士に弁護を依頼し、早期に被害者との示談交渉をスタートさせることが大切です。
性犯罪の被疑者となってしまいお困りならば、弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士・泉義孝にお任せください。