薬物事件 [公開日]2026年5月15日

覚せい剤の刑事弁護全般

覚せい剤の刑事弁護全般
弁護士 泉義孝
監修 弁護士 泉 義孝
所属:第二東京弁護士会
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覚せい剤事件は、たとえ初犯であっても実刑判決が下される可能性があり、その後の社会生活に甚大な影響を及ぼす重大な犯罪です。

しかし、逮捕されたからといって、すべてが「終わった」わけではありません。迅速に弁護士が介入し、適切な対応をとることで、釈放や執行猶予の獲得、さらには更生への道筋を立てることが可能です。

1.覚せい剤の違法性

覚せい剤取締法では、覚せい剤の「輸出入」「製造」「譲渡」「譲受」「所持」「使用」といった行為が厳格に禁止されています(※原料についても同内容が規制されています)。

覚せい剤は、その強力な依存性と心身への毒性から、社会全体に及ぼす害悪が非常に大きいと考えられています。例えば、瞳孔を大きくする、血圧を上げるなどの特徴を備えているだけでなく、乱用を続けると、幻覚、幻聴、歯が溶けるなどします。
そのため、他の薬物事犯と比較しても罰則が非常に重く設定されているのが特徴です。

例えば、自己使用や単純所持であっても「10年以下の拘禁刑」が科され、営利目的となればさらに「罰金」が併科されることもあります。

また、覚せい剤事件は「再犯率が高い」というレッテルを貼られており、実際にその通りです。そのため、裁判所は再犯防止策が不十分であると判断すれば、迷わず実刑を選択する傾向にあります。

法律上の違法性を正しく理解すると同時に、法廷でどのように「更生の意志」と「再犯防止の環境」を証明するかが、覚せい剤事件の刑事弁護における最大の焦点となります。

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2.覚せい剤事件の刑事弁護内容

覚せい剤犯罪は、被害者のいない犯罪です。そのため、痴漢・盗撮等の性犯罪や財産罪(窃盗)、傷害・暴行事件など、被害者がいる場合とは異なり、示談を取り付ける刑事弁護活動はありません。

その代わりに、公的団体へ贖罪寄付(しょくざいきふ)を行っています。
もっとも、示談と異なって、贖罪寄付をすることで執行猶予になるという大きな効果は期待できません。

贖罪寄付をどのくらいの金額でどこの団体にするかは、弁護人が検察官と連絡を取りながら行うのが通常です。

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3.覚せい剤で逮捕・勾留される可能性

覚せい剤事件は、他の軽微な刑事犯罪に比べ、逮捕およびその後の勾留(身体拘束)を受ける可能性が極めて高いのが実情です。

(1) 逮捕・勾留の可能性が高い理由

覚せい剤事件で在宅捜査(逮捕されないケース)が極めて稀な理由は、主に2点あります。

1 証拠隠滅の容易さ

薬物は水に流したり、飲み込んだりして、物理的な証拠を瞬時に破棄できてしまいます。
また、近年の薬物取引はSNSや匿名性の高いメッセージアプリを通じて行われることが多く、スマートフォンのデータ消去やアプリの削除といった「デジタル証拠の隠滅」も容易に行えてしまいます。

こうした背景から、密売人や共犯者との口裏合わせを徹底的に防ぐため、捜査機関は外部との接触を遮断する必要性が極めて高いと判断し、逮捕・勾留に踏み切るケースがほとんどです。

2 再犯の懸念

覚せい剤の最大の特徴は、個人の意志だけではコントロールできないほどの強力な「依存性」です。裁判所や捜査機関は、「釈放すればすぐにまた使用するのではないか」「手元に残っている残りの薬物を処分・隠匿するのではないか」という強い疑念を持ちます。

たとえ本人が「もう二度としない」と誓っても、客観的には「自制が効かない状態」とみなされやすいため、再犯やさらなる証拠隠滅を未然に防ぐという名目で、身体拘束が長期化しやすい傾向にあります。

(2) 「接見禁止」がつく可能性も

逮捕から約72時間以内に、裁判官が「勾留」を決定すると、さらに10日間〜20日間、警察署の留置場に拘束され続けます。
そして、覚せい剤事件において、身体拘束の長期化と並んで大きな障壁となるのが「接見禁止(せっけんきんし)」の決定です。

薬物事件は、密売人などの入手元や、一緒に使用した「共犯者」が存在することが多々あります。裁判所が「家族を介して外部の仲間と連絡を取り、証拠を隠滅する恐れがある」と判断した場合、弁護士以外の者との面会や手紙のやり取りを一切禁止する処分を下します。これが「接見禁止」です。

接見禁止がつくと、逮捕から起訴までの数週間、ご家族であっても一切顔を合わせることができません。外部との情報が遮断された閉鎖的な環境で、一人で取り調べに立ち向かうことは、想像を絶する精神的苦痛を伴います。
この孤独感から、捜査官の誘導に負けて自分に不利な供述をしてしまうリスクも高まります。

このような厳しい状況下でも、弁護士だけは制限なく本人と面会(接見)できることが法律で認められています。 立会人なしで、時間制限も受けることなく、今後の見通しや取り調べへの対策を直接伝えることができるのです。

また、弁護士は裁判所に対して「家族との面会だけは許可してほしい」という「接見禁止の一部解除」を申し立てることも可能です。

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4.覚せい剤事件の処分内容

覚せい剤事件の処分は、行為の態様(自分用か、転売目的か等)や前科の有無によって大きく変わります。

覚せい剤で逮捕された場合の刑罰と弁護活動について

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(1) 初犯の場合:執行猶予か実刑か

自分ひとりで覚せい剤を使用・所持していた「初犯」の場合、多くのケースで起訴はされるものの、適切な弁護活動を行えば、拘禁刑は数年、かつ執行猶予付きの判決を目指すことが可能です。

しかし、最近は「初犯=必ず執行猶予」というわけではありません。所持量が多量であったり、入手先を頑なに秘匿したりするなど、反省の色が見られないと判断されれば、初犯でも実刑判決が下されるリスクがあります。

(2) 再犯(累犯)の場合:実刑判決

執行猶予期間中の犯罪や、前回の刑が終わってから数年以内の再犯(同種前科がある場合)は、原則として実刑を免れることはできないと考えるべきです。

この場合、単に「反省しています」と述べるだけでは不十分です。なぜ依存を断ち切れなかったのかを分析し、「薬物依存症治療プログラムへの参加」や「身元引受人の確保」など、具体的な更生計画を裁判所に提示しなければ、刑期が長期化するおそれがあります。

再犯・累犯とは?刑罰の加重について

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(3) 営利目的の場合:高額な罰金との併科

「小遣い稼ぎのために売った」といった営利目的が認められると、刑罰は跳ね上がります。拘禁刑が長くなるだけでなく、数百万〜数千万円単位の「罰金」や「追徴金(売上の没収)」が併科されることも珍しくありません。

 

ここまでの内容は、あくまで一般的な傾向です。個別の状況(所持していた量や、逮捕時の供述内容など)によって、処分内容および最適な弁護方針は異なります。

5.覚せい剤事件の弁護活動例

海外で「このスーツケースを日本に運んでくれたら多額の謝礼を払う」と言われ、その指示通りに日本に運び込んだら、税関でスーツケースから10キログラムもの覚せい剤が発見され、逮捕されたという事案を考えてみます。

これまでに述べた通り、覚せい剤輸入罪は重罪です。しかも、10キログラムと多量であれば、すぐに刑事弁護を弁護士に依頼すべきです。

今回のケースでは、スーツケースの中身についての認識がどうであたったかが問題となります。そこで、捜査官は被疑者に「スーツケースの中身が覚せい剤であることを知っていた」と認めさせようとしてきます。
そこで、取り調べにどのように対応していくかが、非常に重要です。

取り調べへの対応は、原則「黙秘」です。捜査機関の取り調べにはすべて黙秘をしてもらい、弁護士の方で、被疑者の供述をまとめて証拠として残しておくという形になります。

弁護活動としては、
・運ぶのを依頼してきた人物から本人がどういう説明を受けたか
・その説明を聞いて本人がどう思ったか
・謝礼が高額であったか
・何ら問題もない一般的なスーツケースを運ぶ対価として妥当な範囲の金額だったか
などの点を本人から詳細に聞き取ります。

合わせて、取り調べにあたっての注意点を本人へアドバイスしたり、違法薬物との認識(故意)がなかったとの無罪主張をしたりしていきます。

(※事例内容については、実際の相談例ではございませんのでご了承ください。)

6.終わりに

覚せい剤事件への対応は、本人の反省だけでなく、周囲のサポートと専門的な法的支援が不可欠な分野です。刑事手続きは刻一刻と進行し、初動の遅れが長期の身体拘束や厳しい判決に直結しかねません。

泉総合法律事務所では、ご本人の更生を第一に考え、早期釈放や執行猶予の獲得に向けた弁護活動に全力を尽くします。
大切なご家族が逮捕され、将来に不安を感じている方は、手遅れになる前に弁護士・泉義孝にご相談ください。

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