薬物事件 [公開日]2018年2月2日[更新日]2025年5月19日

薬物事件を取り締まる法律の種類と刑罰

薬物事件を取り締まる法律の種類と刑罰

薬物犯罪は、その依存性質から一度手を出してしまうとなかなか抜けられなくなる犯罪です。
中毒になった被疑者は、たとえ刑罰を受けたとしても何度も薬物犯罪で逮捕されるというケースが非常に多いです。

なお、一概に薬物といっても、覚せい剤、シンナー、大麻など様々です。
今回は、主要な薬物犯罪の内容と罰則を解説いたします。

1.薬物事件の種類

「薬物禁止法」などという名称の法律が存在するわけではありません。
薬物犯罪については「薬物四法」「薬物五法」という言葉があります。

薬物四法とは、以下の代表的な薬物を禁止する4つの法律です。

  • 覚せい剤取締法
  • 大麻取締法
  • あへん法
  • 麻薬及び向精神薬取締法

これらに以下の1つを足したものを「薬物五法」と言います。

  • 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等に関する法律

このように、現行法では使う薬物ごとに適用される法律が異なります。

「薬物を使ったところで、誰にも迷惑はかけていないのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、これらの薬物が禁止されるのは社会の安全や風紀を守るためです。
薬物が乱用されると、社会全体が大きく衰退します。薬物を利用した人は働けなくなるので生産性が低下しますし、中毒状態となれば病院患者も増え、最悪の場合死に至ることもあります。

薬物犯罪は、個人が心身をむしばまれるだけではなく、社会全体が損害を受ける犯罪行為なのです。

2.薬物四法(五法)が禁止する内容

一般に、薬物の関連で禁止される行為は六種類あります。
ここで重要なのは、禁止される行為が薬物によって異なるという点です。たとえば、覚せい剤はあらゆる行為が広く禁止されていますが、大麻では「使用」は禁止されていません。

  • 輸出入
  • 製造
  • 栽培
  • 譲渡・譲受
  • 所持
  • 使用

以下では、それぞれの法律が禁止している内容・罰則についてご紹介します。

(1) 覚せい剤取締法

覚せい剤取締法違反は、いわゆる覚せい剤を取り締まる法律です。覚せい剤とは、フェニルアミノプロパン、フェニルメチルアミノプロパンという成分を含んでいる物質です。シャブ、エス、スピードなどと呼ばれることもあります。

覚せい剤は非常に依存性が高く、瞳孔を大きくする、血圧を挙げるなどの特徴を備えています。乱用を続けると、幻覚、幻聴、歯が溶けるなどします。

覚せい剤取締法は、覚せい剤そのものだけではなく、覚せい剤の原料(エフェドリンなど)の輸出入や製造、譲渡や所持使用などの行為も規制対象です。

禁止行為 罰則
輸出入、製造 非営利目的の場合:1年以上の有期懲役
営利目的の場合:無期又は3年以上の懲役刑。1000万以下の罰金が併科される可能性がある
譲渡、譲受、所持、使用 非営利目的の場合:10年以下の懲役
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金を併科される可能性がある。
原料の輸出入、製造 非営利目的の場合:10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。情状により500万円以下の罰金を併科される可能性がある
原料の譲渡、譲受、所持、使用 非営利目的の場合:7年以下の懲役刑
営利目的の場合:10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金を併科される可能性がある

(2) 大麻取締法

大麻取締法は、無資格者による「大麻」の取扱いを禁じる法律です。大麻は大麻草のことで、マリファナ・ハッパと呼ばれることもあります。

大麻も依存性があり、心拍数の増加、吐き気や幻覚、異常行動などの症状を引き起こします。また、乱用を続けると知能が低下するなど、脳を蝕むようになります。

大麻取締法には「使用罪」がありません。日本において、大麻草の茎は麻織物に、種子は七味唐辛子に使用され続けています。大麻には有害性がほとんどない部位があるため、大麻草の中でも、成熟した茎や種子は規制の対象となっていないのです。
ただ、栽培や所持罪があるので、使用する人は通常これらの罪で取り締まられることになります。

禁止行為 罰則
輸出入、栽培 非営利目的の場合:7年以下の懲役
営利目的の場合:10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金が併科される可能性がある
譲渡、譲受、所持 非営利目的の場合:5年以下の懲役刑
営利目的の場合:7年以下の懲役刑。200万円以下の罰金を併科される可能性がある
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(3) あへん法

あへん法は、あへんの取扱いを規制する法律です。あへんとは「ケシ」「ケシガラ」によって生成した薬物です。
あへんの場合「ケシ」についての犯罪か、「ケシガラ」についての犯罪か、「あへん」についての犯罪かによって、刑罰の内容が異なります。

なお、法律上、あへんの「使用」行為については「吸食」と表記されており、あへんの「製造」行為については「採取」と表記されています。

禁止行為 罰則
ケシの栽培 非営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金が併科される可能性がある
ケシガラの輸出入 非営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金が併科される可能性がある
ケシガラの譲渡、譲受、使用、所持 非営利目的の場合:7年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金が併科される可能性がある
あへんの輸出入、製造 非営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金が併科される可能性がある
あへんの譲渡、譲受、所持 非営利目的の場合:7年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金が併科される可能性がある
あへんの使用 7年以下の懲役刑

(4) 麻薬及び向精神薬取締法

麻薬及び向精神薬取締法は、麻薬や向精神薬を規制する法律です。

ア 麻薬

禁止される「麻薬」は、ヘロイン、コカイン、モルヒネやMDMAなどの依存性の強い薬物です。麻薬の原料となる植物(マジックマッシュルームなど)についても規制が及びます。
刑罰は「ヘロイン」と「ヘロイン以外の麻薬」に分けられており、ヘロインの場合に刑罰が重くなります

また、麻薬原料となるマジックマッシュルームなどの栽培についても、刑罰が適用されます。

禁止行為 罰則
ヘロインの輸出入、製造 非営利目的の場合:1年以上の有期懲役
営利目的の場合:無期又は3年以上の懲役刑。1000万円以下の罰金が併科される可能性がある
ヘロインの譲渡、譲受、所持、使用 非営利目的の場合:10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金を併科される可能性がある
ヘロイン以外の麻薬の輸出入、製造 非営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金を併科される可能性がある
ヘロイン以外の麻薬の譲渡、譲受、所持、使用 非営利目的の場合:7年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金を併科される可能性がある
麻薬原料の輸出入・製造 非営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上の有期懲役刑。500万円以下の罰金を併科される可能性がある
麻薬原料の譲渡、譲受、所持、使用 非営利目的の場合:7年以下の懲役刑
営利目的の場合:1年以上10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金を併科される可能性がある

イ 向精神薬

向精神薬とは、人の「中枢神経系」にはたらきかけて、精神活動に影響を与える薬物です。一般的には精神医学や精神薬理学において使用されます。

医学的な研究や医師が処方するのであれば問題はありませんが、一般人が勝手に使用するとさまざまな問題が発生するため、これが禁止されます。

向精神薬については、「譲受」や「使用」は処罰の対象になりません。また、譲渡目的での所持のみが処罰対象であり、単純所持は処罰の対象になりません。

なお、「使用」について、法律上は「使用」ではなく「施用」と表記されています。

禁止行為 刑罰
向精神薬の輸出入、製造 非営利目的の場合:5年以下の懲役刑
営利目的の場合:7年以下の懲役刑。200万円以下の罰金が併科される可能性がある
向精神薬の譲渡、譲渡目的の所持 非営利目的の場合:3年以下の懲役刑
営利目的の場合:5年以下の懲役刑。100万円以下の罰金を併科される可能性がある

3.薬物で逮捕された場合

薬物犯罪で逮捕されたときには、いくつか他の犯罪類型とは異なる注意点があります。

たとえば、薬物は「被害者なき犯罪」です。したがって、不起訴処分や執行猶予判決を得るために有効な手段である、「被害者との示談成立」を検察官や裁判官にアピールできません。
そこで、「薬物依存の状態を絶対に克服する」という強い気持ちを持つところから始めるべきです。

薬物の入手ルートをきちんと打ち明ける、薬物専門の医療機関で治療を受けたり回復支援施設(ダルク等)へ入所したりするなど、「決して薬物に二度と手を出さない」という姿勢を検察官や裁判官に強くアピールしていくことが大切です。

現在、薬物犯罪で不起訴処分になるのは極めて困難です。
しかし、初犯であって、かつ営利目的のない単純使用・所持などの場合であれば、たとえ公判請求されて刑事裁判になったとしても、弁護士のサポートさえあれば執行猶予で終わる可能性が高いです。

4.薬物事件も弁護士にご依頼ください

以上のように、ひとくちに「薬物事件」と言っても、様々な種類の薬物があり、該当法や刑罰は様々です。
時には法律で明確に禁止されていない薬物が「脱法ドラッグ」として横行している可能性もあります。

もしも薬物事件を犯してしまったという方やそのご家族は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士までご相談ください。

薬物事件の逮捕後の流れには多くの注意点がありますが、泉総合法律事務所の代表弁護士は刑事弁護の経験が豊富で、薬物事件の弁護についても徹底的なサポートが可能です。
弁護士が早期から尽力すれば、最終的には不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得に繋がるかもしれません。

初回のご相談は無料となっておりますので、実刑や前科を免れるためにも、ぜひお早めにご連絡ください。

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