大麻で逮捕された!必ず懲役刑になるのか?

警視庁によると、令和5年(2023年)中の大麻事犯の検挙人員は6,703人でした。
この年は、大麻事犯の検挙人員が初めて覚醒剤事犯の検挙人員を上回ったとされています。
特に、若い世代(30代未満)に大麻が蔓延していると報道されています。芸能人や歌手、バンドマンの大麻使用がニュースとなるケースも珍しくありません。
大麻取締法では、輸出、輸入、所持、栽培、譲受、譲渡等が禁止されています。大麻取締法違反が明らかになれば、逮捕・勾留されるのが通常です。
特に薬物事犯は、そのまま刑事裁判にかけられ前科がついてしまう可能性が非常に高いです。
刑事事件の逮捕から起訴までの身柄拘束時間は、勾留延長も含めれば最大で23日に及びます。
ここまで勾留が長引けば、解雇されたり、退学を余儀なくされたりする危険もあります。
この記事では、大麻の所持等で捕まってしまった場合、被疑者やその家族の方が知っておくべき知識を解説致します。
1.大麻で逮捕後の刑事事件の流れ
刑事事件で逮捕された後の流れは以下の通りです。
刑事犯罪で逮捕後は、検察官が「勾留の必要なし」と判断すれば釈放され、在宅にて捜査が行われることがあります。
しかし、大麻に関する事件は、逮捕・勾留されることが通常です。
在宅での捜査が認められるのは、被疑者に逃走や証拠隠滅の危険がないケースのみです。
しかし、大麻に限らず、薬物事犯は「①証拠薬物の隠滅が容易であること」「②入手先という共犯者が存在すること」から、証拠隠滅や共犯者との口裏合わせの危険性が高いと認識されているため、釈放が認められることは少ないです。尿検査に時間を要することも、勾留が続く要因の一つです。実際、一名の大麻所持者が逮捕されることで、芋づる式に共犯者が検挙されることもあります。
また、逮捕後の面会についても「①薬物という証拠が住居に隠されている可能性が高く」「②家族も共犯者である場合や、共犯者を知っている可能性もある」ことから、裁判官が弁護士以外の者との面会・物の授受を禁止することが通常です(刑訴法81条)。
一般的には、捜査が進み住居の捜索を実施するなどして残りの大麻が押収され、また、家族の関与の疑いが薄れてきた段階で、弁護士が裁判官に対して、配偶者や両親などに限って面会禁止を解除するよう求める「面会禁止の一部解除」を申立てることになります。裁判官がこれを受け入れることで、被疑者はようやく家族と面会することができるようになります。
2.大麻所持罪の刑罰
輸出入、栽培
非営利目的の場合:7年以下の懲役刑
営利目的の場合:10年以下の懲役刑。300万円以下の罰金が併科される可能性がある
譲渡・譲受、所持
非営利目的の場合:5年以下の懲役刑
営利目的の場合:7年以下の懲役刑。200万円以下の罰金を併科される可能性がある
(1) 大麻の所持で不起訴になる可能性
大麻に関する事件の中でも、最も多いのは大麻の所持罪です。大麻所持罪の法定刑は、5年以下の懲役(第24条の2第1項)です。
営利目的の場合は、7年以下の懲役又は情状により200万円以下の罰金が併科されます(第24条の2第2項)。
したがって、原則として大麻所持は罰金刑だけを科すことはできないので、起訴されると必ず公判請求される(裁判となる)ことになります。
しかし、大麻事犯でも必ず常に起訴されるというわけではありません。
検察統計によると、2019(令和元)年における大麻取締法違反事件において、起訴された人員数は2,863人、起訴猶予となった人員数は1,587人とされています。
起訴猶予は、犯罪の証拠があり起訴すれば有罪が見込める場合であっても、様々な情状から検察が起訴を見送ることを言います。つまり、合計4,450人のうちの1,587人が起訴猶予ということですから、35.6%は起訴猶予だったと言えます(※2019年「検察統計・8表・罪名別被疑事件の既済及び未済の人員)。
したがって、起訴猶予を目指した弁護活動を行えば、公判請求(裁判)を回避できる可能性もあるのです。
ただ、被害者のいない薬物犯罪では、被害者との示談という手法は使えません。
そこで、示談の代わりに弁護士会などが行っている贖罪寄付を行うこともひとつの手立てとなります。
また、本人に罪の自覚や反省がなく、再犯の危険があると判断されてしまえば起訴されてしまう可能性が高くなります。
そこで、仮に被疑者が大麻所持を軽い犯罪と考えているのであれば、決して軽い犯罪ではないことを弁護士が説明し、被疑者に罪の自覚を持ってもらいます。
被疑者の家族にも、大麻事犯の重大性を弁護士から説明して理解してもらい、今後、被疑者が再度大麻に手を染めないよう、再犯防止・社会復帰に向けてしっかりと監督・サポートしていく覚悟を決めてもらいます。
そして、弁護士は検察官に対し、直接の面談や意見書の提出を通じて、「再犯の危険がないこと」「あえて公開法廷で裁かなくとも更生できること」と示し、起訴を思いとどまるよう説得します。
【大麻の「使用」は違法ではない】
大麻について、日本では古来から大麻を宗教的儀式のために吸引したり、薬草として用いたり、その繊維を衣服に利用したりするなど、大麻を貴重な資源として活用してきた文化がありました。現在でも、海外では医療用に大麻の部分的使用が行われています。日本においても大麻草の茎は麻織物に、種子は七味唐辛子に使用され続けています。
このような大麻を活用する実際上の必要性があり、しかも、後述のとおり、大麻には有害性がほとんどない部位があるため、大麻草の中でも、成熟した茎や種子は規制の対象となっていません。
つまり、大麻草の茎や種子を所持したり、譲受したりすることは処罰されません。
(2) 有罪判決でも執行猶予がつくケース
大麻所持で起訴された場合、被疑者がしっかりと反省しており、初犯でかつ営利目的でなければ、ほとんどのケースで執行猶予がつきます。逆に、個人使用ではなく営利目的が認定されれば、実刑の可能性が多いです。
営利目的か否かの認定にあたっては、大麻の所持量の多さが関係してきます。大麻を大量に所持して売りお金を得ていた場合には、間違いなく営利目的とされます。
とは言え、「執行猶予がつくなら安心だ」と思うことは大きな間違いです。
大麻所持の場合、初犯時の執行猶予判決で軽く考えてしまい、再び大麻に手を出してしまうケースが多いのです。
しかし、再度捕まったときには、もう一度執行猶予判決を得ることは非常に難しくなります。
執行猶予期間中に再犯してしまい、更に再度の執行猶予を得られない場合は、最初の執行猶予も取り消され、1回目の懲役刑に2回目の懲役刑が合計された期間、服役しなくてはならないのです。
つまり、最初の刑が懲役1年半・執行猶予3年だった場合に、執行猶予期間中に大麻所持で懲役2年の判決が確定すれば、合計3年半もの長い間、刑務所で拘留されることになります。
3.大麻事件における刑事弁護
薬物事件における刑事弁護では、弁護士の経験がものを言います。
弁護士は、被疑者やその家族から刑事弁護を承った際、以下のような刑事弁護活動を行い、不利益を最小限に抑えるよう尽力します。
(1) 早期釈放を目指す
先述の通り、大麻事件の場合はほとんどのケースで逮捕・勾留という身体拘束をされます。
被疑者が身柄を拘束されている場合には、まずは早期の身柄解放を目指すことが大切です。長期の身体拘束は被疑者にとって大きな負担になるだけでなく、解雇や退学のリスクも発生するからです。
そのため、弁護士は以下の弁護活動を全力で行います。
- 被疑者の家族の身元引受書や上申書、意見書を提出して釈放を働きかける
- 勾留の必要性がなくなったと言える事情について説明し、勾留を取り消してもらうよう要求する(準抗告)
一般的に大麻事件では、弁護士による準抗告が認められるのも容易ではありません。
大麻の「所持」事件で初犯であれば、弁護士が身元引受人を用意し、しっかりとした意見書を準備して請求をすれば釈放が認められる可能性も0ではありません。
なお、起訴後の保釈については、弁護士のサポートにより多くのケースで認められると言えます。
(2) 十分に反省していることをアピールする
大麻取締法違反は、被害者なき犯罪です。したがって、不起訴処分や執行猶予判決を得るために有効な手段である、「被害者との示談成立」を検察官や裁判官にアピールできません。
ですので、「薬物依存の状態を絶対に克服する」という強い気持ちを持ち、再犯の可能性がないということをアピールすることが大事です。
大麻取締法違反は、他の犯罪に比べて再犯率が高いです。
しかし、だからこそ自身の「絶対に更生したい」「人生をやり直したい」という確固たる決意が必要で、このような姿勢を検察官や裁判官に強くアピールしていくことこそが、最終的には不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得に繋がります。
他にも、「被疑者をきちんと監督していきます」といった誓約書を被疑者のご家族に書いてもらい、検察官や裁判官に提出することも有効です。
さらに、薬物専門の医療機関での治療を受けたり、回復支援施設(ダルク等)へ入所したりすることで、大麻依存からの脱却を図ることもおすすめします。
医療機関での診断書やカルテ、回復支援施設の入所を証明する書面を検察官や裁判官に提出することで、今後の更生を強くアピールして行きます。
このような取り組みは、ご自身の今後の更生のためにも有益な処置です。
4.大麻で不起訴処分・執行猶予を目指すなら弁護士へ
泉総合法律事務所の代表弁護士である泉は、大麻所持を含む薬物事件の弁護経験も豊富です。
国家資格者の大麻所持被疑事件で、連日接見して弁護活動を行うことで、嫌疑不十分で不起訴を勝ち取ったこともあります。
大麻所持でご家族が逮捕されてしまった方、逮捕されるのではないかとご心配な方は、刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所にどうぞご相談ください。