余罪とは?警察の捜査内容や逮捕・起訴への影響

万引き、痴漢、盗撮等の犯罪で逮捕された被疑者の中には、逮捕の原因となった当初の犯罪以外にも余罪があるケースがあります。
そして、場合によっては余罪の存在が刑事手続きに影響を及ぼすこともあります。
被疑者としては、余罪が自身の処罰にどんな影響を及ぼすか、余罪を話すべきか黙秘するべきか、気になることでしょう。
今回は「余罪」が及ぼす刑事事件への影響等について解説します。
1.余罪とは?
そもそも「余罪」とは、捜査段階においては逮捕・勾留の基礎となった被疑事実以外の犯罪事実、起訴後の公判段階においては起訴された事実以外の犯罪事実のこと言います。
例えば、盗撮で被疑者を現行犯逮捕した後に取り調べた結果、過去にも盗撮をしていた事実が明らかになった場合、この新たに明るみに出た犯罪は「余罪」となります。
余罪は前科と何が違うの?と考える方がいると思います。
前科とは、有罪判決を受けた経歴を言います。つまり、捜査対象となったり、起訴されたりしただけでは足りず、更に有罪判決を経て初めて前科となります。つまり余罪は、後に前科となる可能性を秘めていますが、前科とは異なる概念です。
刑事手続きにおいては、前科・余罪共に、これがあることで被疑者が不利益に取り扱われることがあります。
2.余罪が判明するケース
ある犯罪行為を行い逮捕された場合、その者の余罪が判明することがあります。
(1) 取り調べに際する被疑者の自白
ある被疑事実で検挙された場合、警察官や検察官等の捜査機関から取り調べを受けます。
その際に、「他にも何か犯罪をしたのではないか」といった旨の質問・確認がされることがあります。
そこで被疑者が余罪について供述することで、余罪が明らかになります。
(2) 警察の捜査活動
犯行の目撃者が警察署に通報して、または被害者が被害届を出すことにより、近隣で事件が発生したことが明らかになった場合、警察の捜査活動が行われます。
例えば、同種の窃盗や放火事件が近隣で多数発生している場合、捜査機関は、犯人が同一人物なのではないかと推認して捜査活動をすることが通常です。そこで集めた証拠により、別件で捜査対象になっている者が犯人として浮かび上がってくる場合があります。
また、盗撮や窃盗は再犯率が高い犯罪ですので、警察や検察がしっかりと捜査を行い他にも余罪がないかチェックされることが通常です。
よって、盗撮で逮捕された場合、被疑者の家宅を捜索したところスマホ等のデータに別の盗撮画像が入っていた(あるいはスマホやパソコンを押収し、証拠となるデータを復元した)ということも多いです。この時には、余罪の盗撮事件についても追及されることになります。
3.余罪が及ぼす影響
余罪を考慮して被疑者を不利益に扱うことは、原則として許されません。
しかし、場合によっては余罪が被疑者に何らかの影響を及ぼすことがあります。
(1) 勾留される可能性が高まる
逮捕とそれに続く勾留は、必ず行われるわけではありません。これらは身体拘束された者の人権を侵害する行為ですので、「逃亡の恐れ」や「罪証隠滅の恐れ」がある等、必要がある場合にのみ行われます。
そして、余罪があるからといった理由だけで被疑者を逮捕することはできません。
もっとも、逮捕に続く勾留の判断に関しては、余罪が考慮されることがあります。なぜなら、余罪の有無は逃亡・罪証隠滅の恐れを判断する1つの重要な事項だからです。
何度も犯罪を繰り返しているならば、「今釈放すると、また犯罪行為をするかもしれない」と懸念されるのは仕方がないこととも言えます。
したがって、余罪の存在が疑われる等の理由から勾留されたり、勾留が延長されるといったことは、実際上あります。
しかし、例えば窃盗罪で勾留請求されたのに、余罪の暴行罪を理由に勾留を認めることは出来ません。
考慮される犯罪は、逮捕されている犯罪事実に関連する同種犯罪に限られるのです。
(2) 起訴される可能性が高まる
起訴か不起訴の判断に際しては、犯罪の重大性、被害回復の状況、被疑者の反省や情状の有無、示談が成立しているか等の事情以外に、余罪の存在が考慮される場合もあります。
実際、立件されている事件が複数件ある場合、逮捕・勾留による身体拘束の後、公判請求されて刑事裁判になる可能性は高くなります。
例えば、窃盗罪で逮捕・勾留された被疑者を、余罪である別の窃盗罪を理由に起訴することがあり得ます。
しかし、起訴に値しない窃盗罪を、余罪である不同意わいせつ罪を理由に起訴するのは許されません。
(3) 重い刑罰が科される可能性がある
日本の刑事司法では有罪率が非常に高いので、起訴された場合のほとんどが有罪判決になります。これは、検察官が有罪となり得る証拠を十分に押さえた上で起訴をするためです。
有罪判決による刑罰の重さは、法定の範囲内で裁判所が決めます。
裁判所は、被告人の量刑を決める審理に際して、被告人の余罪を考慮して、量刑の判断をすることができる場合があります。
しかし、これは被告人が争っていない同種犯罪に限られる例外的な措置です。したがって、窃盗罪で有罪となった被告人を、起訴されていない殺人罪や、容疑を否認している不同意わいせつ罪の存在を理由に重く処罰することは許されません。
また、逮捕・勾留は、被疑事実毎に行われます(事件単位の原則)。そのため、ある窃盗罪の容疑で逮捕・起訴された後、余罪についても逮捕・起訴されることがあります。この場合、当初起訴された事実に加え、余罪についても裁判が行われます。
そうすると、裁判になる犯罪事実は2つあることになるので、被告人の負担も増し、また、二つの罪で起訴されているため、より重い刑罰に科される可能性があります。
4.余罪について話すべきか?
犯罪行為の疑いをかけられている被疑者は、「黙秘権」といって、捜査機関や裁判所の質問に対し供述を拒否する権利を有しています。
したがって、被疑者は捜査機関等から余罪について質問されても、否認・自白せず、一切の供述を拒否することができます。
しかし、黙秘権を行使することが被疑者にとって必ずしも有利な結果になるとはいえないケースもあります。
余罪について黙秘権を行使することによって生じうるメリット・デメリットを確認した上で、慎重に検討する必要があります。
(1) 余罪を黙秘するメリット
余罪を黙秘するメリットは、余罪についての刑事責任・追求を免れる可能性があることです。
捜査機関に余罪の存在を知らない場合、黙秘をすれば当然ながら余罪がバレることはありません。
また、余罪の存在を知られていても、黙秘することによって起訴するに足りる証拠の収集を阻止できれば、やはり刑事責任を免れることができます。
(2) 余罪を黙秘するデメリット(=自白するメリット)
余罪について追及されたときに黙秘権を行使すると、警察・検察は「反省していない」「余罪を隠している」と判断し、取り調べが苛烈になったり、勾留請求・勾留延長請求されて身柄拘束期間が長くなったりする可能性があります。
特に、自白がなくとも余罪の嫌疑が明らかなケースでは、黙秘が不利な材料として斟酌される可能性が高まります。
例えば、逮捕時に押収されたスマホや家宅捜索で押収されたパソコンから盗撮とみられる画像や動画が発見されれば、自白しなくとも余罪の嫌疑は明白です。それにも関わらず黙秘すれば、検察官には「反省していない」と判断されてしまいます。
一方、余罪を進んで自白すれば、本罪の捜査と並行して余罪の捜査もある程度早く進み、本罪と余罪を裁判において同時に審理される可能性があります。
そうなると、別々に裁判を受けるよりも通常は量刑が軽くなりますし、事件の終了も早くなります。

[参考記事]
黙秘権とは?黙秘権を行使するメリット・デメリット
以上より、余罪を自白することのメリットとデメリットを天秤にかけてどちらを選択するべきかは、正直に言えば「賭け」になります。
余罪について話すべきか否かを決めるのはあくまでも被疑者本人ですが、弁護士は、余罪を認めなかった場合・認めた場合のそれぞれの見通しを判断材料として提供し、アドバイスすることが可能です。
5.まとめ
余罪がある状態で逮捕されたならば、弁護士に依頼して緻密な弁護方針を練ることが重要です。
余罪が発覚している場合には、被疑事実についての被害者と示談するだけでなく、余罪の被害者と示談することも重要になってきます。
余罪が発覚していない場合には、犯行を捜査機関に申告した方が良いのか、それとも黙っていた方が良いのか、非常に判断が難しいです。この判断は、刑事事件に精通した弁護士に相談し、メリット・デメリットを把握してから対応するのが最も合理的です。

[参考記事]
盗撮で逮捕されたら余罪も発覚する?どこまで捜査されるのか
犯罪を犯した方、余罪がある方は、早急に弁護士にご相談ください。
6.余罪の追求に関する実際の質問
-
Q.万引きの余罪で逮捕されることはありますか?
コンビニで万引きをして、現行犯で捕まりました。お店の方と話をして、商品引き取りと料金の支払い、出禁となりました。寛大にも被害届は出さないとのことで、その場での逮捕は無かったですが、警察に話をして、署で始末書と写真撮影を行いました。
警察では、再犯をしたら逮捕・起訴の可能性は十分にある。仕事も失う可能性があるし、絶対に二度としないようにと忠告され、私も二度としないと誓い両親と共に帰宅しました。心から後悔してます。
ただ、今後は二度としないと誓ったものの、過去に他の店舗でも何度か万引きを行っており、その余罪も警察の方に話しました。
「被害届が出ない以上これ以上警察としては動かないし、証拠がないと何もしない」と言われましたが、もしこの件の被害届が将来的に後から出された場合は、この余罪により逮捕されるのでしょうか?A.余罪で逮捕される・前科となる可能性は低いです。
本件においては、「被害届が出ない以上これ以上警察としては動かないし、証拠がないと何もしない」との警察の言葉を信じてよろしいと思います。
今まで被害届が出なかったわけですから、今後も出す可能性は低いです。とは言え、店側の棚卸などで不足があって過去の防犯カメラ映像を調べるなどにより万引きが店側に発覚したら、店側が警察に被害届を出す可能性は否定できません。
ただし、質問者の方を犯人として特定できるかの問題はあります。仮に被害届が警察に出されても、事案から言えば任意の呼び出し、取り調べとなり、逮捕はないと思われます。
今回の警察の取り調べにおいて、質問者の方が余罪も申告しているのであれば、現時点で余罪の追求はないと判断して良いでしょう(断言ではありません)。