子どもに対するわいせつの罪|小児性愛障害の治療

「子どもに性的な行為をして逮捕された」という方の中には、少なからず「小児性愛者」がいると言われています。
小児性愛は個人の嗜好ではなく、小児性愛障害(ペドフィリア)という一種の精神障害だとされています。
逮捕や刑罰のリスクがあっても、子どもに対しての欲求を抑えられず、犯罪行為を繰り返してしまうのです。
この記事では、小児性愛障害が起こす子どもへの性犯罪についての解説と、子どもへの性犯罪で逮捕された場合の対処法について解説します。
1.子どもへわいせつ行為はどんな罪に問われる?
子ども(18歳未満)に性的な行為をしてしまった場合に問われる可能性のある犯罪は次のとおりです。
- 児童買春禁止法(児童ポルノ禁止法)違反
- 青少年保護育成条例(淫行条例)違反
- 不同意わいせつ罪
- 不同意性交等罪
近年は性犯罪、とりわけ子どもを被害者とした性犯罪に対し社会が向ける目は非常に厳しいものがあり、いずれの犯罪行為であっても起訴されてしまう可能性は高く、量刑も重くなる傾向があります。
(1) 児童買春の罪
児童(18歳未満の者)や親らに金銭や物品などの対償(経済的な対価)を渡すなどして、児童と性交や性交類似行為をしたり、児童の性器等を触ったり、児童に自分の性器等を触らせたりする行為は「児童買春罪」となり、5年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑に処せられます(児童買春・児童ポルノ禁止法4条)。
性交類似行為とは、性交に準じた口淫、手淫、肛門性交などの性的行為です。性交渉などの「交際」の対価として金銭などの「援助」をするので、「援助交際」とも呼ばれます。
これは性的虐待・搾取から児童を保護するための法律なので、たとえ児童の同意があっても犯罪となります。

[参考記事]
児童買春・援助交際の罪|逮捕される?
(2) 児童ポルノ禁止法違反
児童ポルノ禁止法では、児童ポルノの定義について「写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」とされています(法2条3項)。
「児童の姿態」とは、以下のようなものを言います。
- 児童を相手にしている、または児童同士による性交や性交類似行為(肛門性交、口淫等)
- 他人が児童の性器等を触る行為や児童が他人の性器等を触る行為(但し、性欲を興奮させ又は刺激するもの)
- 衣服の全部や一部を着けない児童の姿で、殊更に児童の性器やお尻、胸などを強調、露出した姿(但し、性欲を興奮させ、刺激するもの)
児童ポルノ法は、児童ポルノに関わる多くの行為(製造、販売、提供、所持、保管、運搬、輸入、輸出、公然陳列など)を処罰対象としています。
規制内容 | 罰則 |
---|---|
①自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持、画像データの保管 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
②特定かつ少数の者に対する児童ポルノの提供、画像データの送信 | 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
③特定かつ少数の者に対する児童ポルノの提供目的での児童ポルノの製造・所持・運搬・輸出入、画像データの保管 | 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
④児童に姿態をとらせた上で画像を撮影しての児童ポルノの製造(目的を問いません。) | 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
⑤盗撮による児童ポルノの製造(目的を問いません。) | 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 |
⑥不特定又は多数の者に対する児童ポルノの提供、画像データの送信、又は児童ポルノの公然陳列 | 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科 |
⑦不特定又は多数の者に対する児童ポルノの提供目的や公然陳列目的での児童ポルノの製造・所持・運搬・輸出入、画像データの保管 | 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科 |
⑧日本人による外国での、不特定又は多数の者に対する児童ポルノの提供目的や公然陳列目的での児童ポルノの輸出入 | 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科 |
年齢が18歳以上の人が相手であれば、ポルノ画像を作成したり買春行為をしたりしても、この法律で処罰されることはありません。

[参考記事]
児童ポルノ禁止法とは?児童ポルノと児童買春の規制
(3) 淫行条例違反
各自治体は、青少年(18歳未満の者)とのみだらな性的行為を禁じる青少年保護育成条例、通称「淫行条例」を制定しています。
東京都の淫行条例では、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」とされ、違反すると2年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑が課せられます(同条例第18条の6、第24条の3)。
「みだらな性交又は性交類似行為」とは、①青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交・性交類似行為、②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交・性交類似行為を指します(参考①警視庁「淫行」処罰規定|参考②最高裁昭和60年10月23日判決)。
つまり、18歳未満の者を誘惑したり、単に自己の性的欲望を満足させる対象として扱ったりする性的行為は「みだらな」性的行為として処罰対象とされているのです。
18歳以下の者にお金を渡さずに性交渉等をすると、暴行・脅迫や同意の有無を問わず、淫行条例となるケースがほとんどだと考えましょう。
(4) 不同意わいせつ罪(刑法176条)
不同意わいせつ罪が成立するのは、次の場合です。
- 13歳以上の者に暴行・脅迫を用いて、わいせつな行為をした
- 13歳以上16歳未満の者と同意の上でわいせつな行為をしたが、行為者(被疑者)が5歳以上年長
- 13歳未満の者に、わいせつな行為をした(暴行・脅迫の有無は問わない)
わいせつな行為とは、被害者の性的な羞恥心を害する行為です。
よくあるケースだと、「相手が嫌がっているにもかかわらずキスをした」「強引に抱きつき、相手の胸をさわった」などの行為が不同意わいせつ行為に当たります。
13歳未満の被害者については、その同意があっても犯罪が成立します。
不同意わいせつ罪では、6月以上10年以下の懲役刑に処せられます。

[参考記事]
痴漢の不同意わいせつ罪で逮捕された!不起訴に向けた弁護活動
(5) 不同意性交等罪(刑法177条)
不同意性交等罪が成立するのは、次の場合です。
- 13歳以上の者に、暴行又は脅迫を用い性交等(性交、肛門性交、口腔性交)をした
- 13歳以上16歳未満の者と同意の上で性行為をしたが、行為者(被疑者)が5歳以上年長
- 13歳未満の者に性交等をした
13歳未満の被害者については、その同意があっても犯罪が成立します。
不同意性交等罪では、5年以上の有期懲役刑に処せられます。

[参考記事]
不同意性交等罪とは?|刑法改正による変更点と構成要件
2.小児性愛障害(ペドフィリア)について
(1) 小児性愛障害は精神障害の一種
小児性愛障害=ペドフィリアとは、子どもに対して性的欲求を抱く、精神障害の一種です。
小児性愛障害者は男性に多く、性的な欲求対象が女児だけの者、男児だけの者、両性が対象の者が存在します。
MSDマニュアル(※米国の製薬会社であるメルク・アンド・カンパニー社による、100年以上の歴史を誇る医学事典)によれば、小児性愛障害は、「通常13歳以下の小児を対象とした、反復的で性的な興奮をひき起こす、強い空想・衝動・行動を特徴とする障害」とされています。
同マニュアルにおける小児性愛の診断基準は以下のとおりです。
- 通常13歳以下の小児を対象とする、反復的で性的興奮を引き起こす強い空想、衝動、行動を経験していること
- 小児に対する関心のために強い苦痛を感じているか、日常生活に(職場、家庭内、または友人関係で)支障をきたしている、もしくは衝動を行動に移していること
- 本人が16歳以上で、かつ対象となる小児より5歳以上年上であること(例外あり)
- 以上のような状態が6カ月以上続いていること
なお、小児性愛障害者の多くは反社会的パーソナリティ障害を伴います。
小児に対する性的欲望を実現するために、他人に害を及ぼすことに無頓着で、他者の感情や利益、法律を軽視するとされています。
文部科学省の調査では、わいせつ行為やセクハラで懲戒処分を受けた公立学校教員は、2019年度が273人、2020年度は200人であり、そのうち児童生徒を被害者とするものが、2019年度は126人(46%)、2020年度は96人(48%)と半数近くを占めています(「わいせつ処分教員200人 前年度比減も、依然多く―文科省」時事ドットコムニュース)。
このような状況から、2021年「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」、通称「教育職員性暴力等防止法」が成立し、2022年4月1日から施行されています。
(2) 小児性愛障害の治療方法
「認知の歪み」を認識させる
小児性愛障害に対し、我が国で行われている治療方法の主流は「認知行動療法」です。
性犯罪者の多くには「認知の歪み」が認められます。「認知の歪み」とは、例えば、痴漢の犯人が「痴漢をされている女性が抵抗しないのは、痴漢をされたいからだ」「女性の中には、痴漢をされても平気な者が数多くいる」などと考るように、およそ常識的には考えられないような「歪んだ認識」を持っていることを指します。
小児性愛障害者の場合、「子どもは性的な行為をされることを喜んでいる」「子どもの方から自分を誘っているのだ」などと認識しているのです。
まずは、このような認識が誤りであることを小児性愛障害者に自覚させる必要があります。
行動を変容させる
そのうえで、「子どもに対する性的欲求を生じたときに自分でどのように対処するべきか?」「子どもに対する性的欲求を生じないようにするにはどうするべきか?」を考え、学ばせていきます。
例えば、電車内で子どもに性的欲求を感じたならば、「欲求を我慢する」のではなく、「直ちに電車を降りる」という回避行動を徹底するのです。
駅と駅の間が長くてすぐに降りることができない場合に子どもに性的欲求を感じたら、例えば、心の中で「自分は何もしないから大丈夫。」と繰り返しながら、深呼吸を50回行うことをルールとして、これを実践します。
欲望を感じたときに、自分が最悪の行動を選択してきた過去を認識し、別個の回避行動を選択できるよう訓練する、と言えばわかりやすいでしょう。
子どもに接触しない
小児性愛障害者による犯罪の再発を防止するためにもっとも重要なことは、そもそも「子どもを避ける」「子どもと接触する機会を持たない」ことに尽きます。
子どもへの欲求が生じる背景には、肉体的疲労、精神的ストレス、性的欲求不満などがあり、そのような状態が子どもへの性犯罪を生じさせる「トリガー(引き金)」となっています。しかし、最大のトリガーは子どもとの接触であることに間違いはありません。
そこで、再発を防止するには、最大のトリガーである「子どもと接触する機会」を持たないことが一番重要なのです。
3.小児性愛障害者の弁護方法
小児性愛障害者と診断されても、それが加害者に有利な事情として考慮され、不起訴処分となったり刑が減軽されたりすることはありません。
小児性愛障害との診断がなされたということは、当然、過去に小児に対して性的行為に及んだという事実があり、しかも今後も繰り返す危険性があるということです。有利な事情となるはずがなく、むしろ加害者に不利で刑事処分を重くする事情と言えます。
ただ、小児性愛障害であるという事実を自覚し、積極的に治療を受ける姿勢を示すことができるならば、それは有利な事情として斟酌してもらえる可能性はあります。
そこで、できれば検察官が起訴・不起訴の判断をする前の段階で、小児性愛障害の治療のために通院を開始していることが望ましいと言えます。
そのためには、当然、釈放されていなければなりません。早期に弁護士を選任し、勾留や勾留延長を阻止する、勾留満期において処分保留での釈放を獲得する、起訴されたなら保釈を実現するといった弁護活動を展開してもらうべきです。
その前提として、弁護士によって、速やかに子どもの保護者との示談を成立させることも重要です。
刑事弁護の経験が豊富な弁護士であれば、病院の選定・紹介もお願いできるでしょう。
4.まとめ
性犯罪に対する刑事処分は厳しさを増す一方です。小児性愛障害と思われるならば、早期に治療し罪を繰り返さないことを目指しましょう。
泉総合法律事務所は、性犯罪を含む刑事事件の弁護に注力しています。
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