隠しカメラでの盗撮がバレたら逮捕されるのか?
宮城県の小学校の男性教師が、学校内に小型カメラを設置して学校関係者の着替える様子を盗撮したとして、2025年11月、逮捕されたと報道されています。
(※FNNプライムオンライン(2025年11月29日記事)「“学校内に小型カメラ”盗撮容疑で小学校の教師の男逮捕 教育委員会が緊急会見で事情説明〈宮城〉」
デジタルカメラやスマホの普及によって、このような盗撮犯罪は跡を絶ちません。
この記事では、隠しカメラでの盗撮が発覚した場合に、どのような刑事責任を問われるのかを解説し、逮捕されてしまった場合の対処方法も説明します。
1.隠しカメラでの盗撮は何罪?
隠しカメラでの盗撮は、複数の法律に違反する犯罪行為となります。①迷惑防止条例違反、②性的姿態撮影等処罰法違反、③軽犯罪法違反、④刑法の住居侵入罪です。ひとつずつ解説しましょう。
(1) 迷惑防止条例違反
盗撮行為は、都道府県など各地方自治体が定める通称「迷惑防止条例」に違反する行為です。禁止される盗撮行為の内容や罰則は各自治体によって異なりますので、以下では東京都の迷惑防止条例(東京都「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)で説明します。
東京都の迷惑防止条例では、たとえば、住居・トイレ・浴場・更衣室などで、通常は衣服で隠されている下着や身体の部分を、カメラやスマホ等で撮影することを禁止しています。
これに違反し実際に撮影したときは、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑となります(同条例8条2項1号)。常習の場合は、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑です(8条7項)。

[参考記事]
東京都迷惑行為防止条例について|痴漢・盗撮・不当な客引き等の罪
そして、東京都の迷惑防止条例では、撮影する目的で、カメラやスマホ等の撮影機器を設置することも禁止されています(同条例5条1項2号ロ)。
撮影する目的でカメラやスマホ等の撮影機器を設置しただけで、まだ撮影していなくとも、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑となります(8条1項2号)。

[参考記事]
「盗撮」とはどこから?カメラを向けた、設置しただけで犯罪なのか
(2) 性的姿態撮影等処罰法違反
デジカメやスマホの普及により盗撮被害は増加しました。
しかし、迷惑防止条例では、交通機関で移動中の盗撮行為のように、違法行為を実行した場所の特定が困難で、どの自治体の条例を適用するべきか判断できない場合がありました。
また軽犯罪法では、後述のように罰則が軽すぎて、犯罪の抑止に不十分でした。
そこで、盗撮被害の発生と拡大を防止するために制定されたのが「性的姿態撮影等処罰法(※正式名称:性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)」です。
性的姿態撮影等処罰法では、人の性的な部位(性器、肛門、これらの周辺部、臀部、胸部)や、人が身に着けている下着のうち、現に性的な部位を直接・間接に覆っている部分を、正当な理由なく、密かに撮影する行為を禁止しています。
これに違反すると「対象性的姿態等撮影罪=撮影罪」として、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑となります(同法2条1項1号イ)。
対象性的姿態等撮影罪は未遂でも処罰されますから、盗撮のためにカメラやスマホを設置しただけでも同罪で、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金刑となります(同法2条2項)。

[参考記事]
「撮影罪」の要件・刑罰|盗撮をするとどのような罪になるのか
(3) 軽犯罪法違反
軽犯罪法では、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を、拘留または科料に処するとしています(同法1条23号)。
※拘留は、30日未満の刑事施設拘置。科料は、千円以上1万円未満の財産刑。
これを「窃視(せっし)の罪」と呼び、いわゆる覗き見を罰するものですが、カメラなどで撮影する場合も処罰対象であると理解されています(※「軽犯罪法の解説(四訂版)」放送大学助教授:橋本裕藏著(一橋出版)67頁)。

[参考記事]
のぞきは犯罪行為になる?何罪に問われるのか
(4) 住居侵入罪
盗撮目的で隠しカメラを設置するために、他人の住居、更衣室、浴場、トイレなどに立ち入る行為は、住居侵入罪(刑法130条)として、3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金刑に処せられる場合もあります。
住居侵入罪は、正当な理由なく人の住居や建造物などに侵入する行為を処罰するものですが、「正当な理由なく」とは、その住居や建造物の居住者・管理者の意思に反する立ち入りを意味します。
盗撮目的で隠しカメラを設置するための立ち入りが、居住者・管理者の意思に反することは明らかです。
【判例】最高裁平成19年7月2日判決
ATM利用客の暗証番号などを盗撮するために、銀行のATM出張所に立ち入り、隠しカメラを設置するなどした行為について、最高裁は、管理者である銀行支店長の意思に反する立ち入りであるとして建造物侵入罪の成立を認めました。
(5) 恋人、友人、知人の家に隠しカメラを置いた場合
学校や職場のトイレや、更衣室に隠しカメラを置く行為が犯罪であることは常識的に理解できると思います。
では、恋人、友人、知人の家に招待された際に、隠しカメラを置いて帰ったという場合は、犯罪となるのでしょうか?
もちろん、犯罪となります。
東京都の迷惑防止条例でも、性的姿態撮影等処罰法でも、軽犯罪法でも、刑法の住居侵入罪でも、犯罪とされないためには、「正当な理由」があることが必要です。
「正当な理由」とは、たとえば性的姿態撮影等処罰法の場合、「医師が、救急搬送された意識不明の患者の上半身裸の姿を医療行為上のルールに従って撮影する場合など」が例とされています(※法務省サイト「性犯罪関係の法改正等Q&A」の「Q4:性的姿態等撮影罪で処罰されないこととなる「正当な理由」とは、どのようなものですか」)
たとえ、恋人、友人、知人に対してであっても、隠しカメラを設置して盗撮することに、このような「正当な理由」がないことは明らかですから、各法律違反として処罰されることになります。
2.隠しカメラの盗撮で逮捕されてしまうケース
盗撮のために隠しカメラを設置したことが発覚し、設置した者が判明した場合、盗撮の被疑者として逮捕されてしまうことが通常です。
身柄を拘束しないと、盗撮行為で取得した画像データやカメラ・スマホ等の撮影機器といった証拠類を廃棄したり、隠匿したりする危険があると判断され易いからです。
逮捕されてしまうと、警察の留置場に拘束され、48時間以内に検察庁に送られます。
検察庁に移ってから24時間以内(かつ逮捕から72時間以内)に、検察官が裁判官に、さらに長期の身体拘束である勾留を認めるよう請求し、これが認められると、その請求から10日間もの間(勾留延長が認められるとさらに10日間プラスされ、最大20日間)、身体を拘束されて、取り調べを受け続けることになります。
もちろん、通勤・通学は不可能ですから、事実上、退学や解雇の危険もあります。
最大20日間の勾留の間に、検察官が被疑者を起訴して刑事裁判にかけるか、それとも不起訴とするかを決定します。起訴された場合、裁判所によって保釈が認められない限り、身体拘束が続くことになります。

[参考記事]
盗撮で逮捕されたらどうなる?流れと刑罰(懲役・刑期)について
3.被害者との示談交渉のポイント
盗撮で逮捕された方ができるだけ有利な扱いを受けるには、被害者との示談を成立させることが肝要です。
慰謝料を支払う代わりに、被害届や刑事告訴状を取り下げてもらったり、寛大な処分を望む意思を表明してもらったりするのです。
そのためには、被害者と示談交渉を行い、合意した内容を記載した示談書を作成し、被害者の署名押印を得て、検察官や裁判官に提出するという一連の作業が必要となります。

[参考記事]
刑事事件の示談の流れ|示談をするメリット・効果とは?
隠しカメラに複数人の姿が盗撮されていたケースや、盗撮の余罪があり他にも複数の被害者の画像データを持っていることが捜査によって明らかとなっているケースでは、特定できるすべての被害者との間で示談を成立させることが望ましいです。
被害者の数が多く、すべてと示談することが困難なときでも、できる限り多くの被害者との示談成立を目指すべきです。
一方、公衆トイレに隠しカメラを設置した場合のように、盗撮の被害者が特定できないケース(氏名や連絡先が不明のとき)では、そもそも示談は困難です。
その場合は、弁護士を介して贖罪寄付をすることで、真摯な反省の態度を表すことがひとつの方法です。

[参考記事]
贖罪寄付・供託の効果|本当に不起訴になるのか?
4.隠しカメラ設置に関する実際の解決事例
風俗サービス時に隠しカメラを設置し軽犯罪→示談成立
Aさんは、仕事の休日にデリバリーヘルスを利用するためホテルに行きました。その際、Aさんは出来心から、カメラを室内に隠し、デリバリーヘルス譲(以下、相手方)とのやりとりを全て録画してしまいました。
しかし、隠しカメラのことがバレてしまい、Aさんは相手方から警察に連絡をすると言われてしまいました。
Aさんは、このことが警察沙汰になれば家族や勤務先にバレてしまい大変なことになると考え、相手方と口頭で合意して、一定額の現金を差し出すことを条件に、警察に被害届を出さないことにしてもらいました。
しかし、Aさんは相手方との間で「警察署に被害届を出さない」旨の書面をもらっていなかった(単なる口約束だった)ため、本当にその約束(警察に被害届を出さないこと)が守られるのか?と心配になってきました。
そこで、Aさんは、被害者(相手方)との間で示談書を作成し、今回の事件を完全に解決したいと思い、泉総合法律事務所へご依頼されました。
Aさんから依頼を受けた弁護士は、被害者である相手方に連絡を取り、話し合いの場を設けることができました。
もともと相手方は、Aさんの事件について示談書などの書面を作成することに否定的でした。しかし、弁護士が交渉した結果、示談書という「書面」で、①Aさんが解決金を支払っていること、②相手方がAさんを許すこと、③本件のことを被害届や告訴をしないこと、④本件のことを第三者に口外しないことなどを定めることができました。
この結果、Aさんは、盗撮のことが刑事事件として発展する可能性がなくなり、安心して生活を送ることができるようになりました。
5.まとめ
対象性的姿態等撮影罪などは、被害者の刑事告訴がなくとも捜査・起訴できる非親告罪ですが、実務では被害者の意向が尊重されます。
そこで、盗撮犯罪をしてしまったならば、真剣に反省し、示談を成立させることが肝要です。
刑事事件に注力する弁護士に依頼し、被害者との示談交渉を早く開始することをお勧めします。

