東京都迷惑行為防止条例について|痴漢・盗撮・不当な客引き等の罪

「迷惑行為防止条例(迷惑防止条例)」とは、都道府県がそれぞれ定めている条例で、人に不快感を催させるような迷惑行為や暴力行為を禁止するものです。
各都道府県が定めるということもあり、迷惑防止条例の細かい内容は自治体によって異なります。
しかし、迷惑防止条例が適用される行為や罰則の内容については大きな違いはなく、「痴漢」「盗撮」「卑わいな言動」「つきまとい」「たかり」「不当な客引き行為」などを禁止しています。
本コラムでは、東京都の迷惑行為防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)の規定を解説していきます。
1.痴漢による条例違反
東京都の迷惑行為防止条例では、痴漢行為が禁止されていています。
東京都迷惑防止条例 第5条
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
1 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
痴漢の条例に違反すると罰則としては、「6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」(8条1項2号)、常習の場合は「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」(8条8項)という刑罰が科される可能性があります。
東京都迷惑行為防止条例では、痴漢行為で頻発する「撫でまわす」「揉む」という行為は条例違反の要件としていません。これは、埼玉県や神奈川県の迷惑防止条例も同様です。
文言としては、①「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる」こと、②「衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れる」ことの2点を禁止しています。
つまり、人を著しく羞恥させるものであれば、自身の身体の一部(手の甲や下半身の一部など)を相手の胸や下半身などに押し付けるだけの行為であっても、迷惑行為防止条例に抵触することになります。
被害者側からの視点でも「撫で回されたわけではないから」「胸やお尻を揉まれたわけではないから」などと躊躇する必要はなく、不快な方法で「触れられて」いれば被害の声を上げる行為は正当になります。
なお、迷惑防止条例は故意犯ですので、過失や不可抗力の場合には処罰の対象ではありません。
例えば、電車が急ブレーキをかけたために倒れかかってしまい、たまたま近くにいた女性の身体に触れた場合は、不可抗力(あるいは過失)と言えるでしょう。
また、網棚に上げた荷物を下ろす際に肘が隣にいた女性に触れてしまったというケースも過失にとどまります。
しかし、各条例は「触れる」ということを要件の1つとしているため、その人が「触れるつもりで」触れれば、条例の定める要件の1つに該当することになります。このようなケースでは、「満員電車だったから」等は言い訳になりません。
通勤時間帯の山手線や埼京線のように、車内が相当混雑している場合に周りの人達との身体的接触は避け難い状況であっても、行動には十分に注意しておくべきです。
もちろん、満員電車であってもなくても「女性に触れるつもりで触れ」、それが著しく人を羞恥させるものであれば迷惑防止条例に抵触し得ることになります。
一般的には、着衣の上から身体に触った場合は迷惑防止条例違反に、着衣や下着の中に手を差し入れて陰部や胸を触った場合は不同意わいせつに該当するといわれています。
しかし、近年は性犯罪の厳罰化の影響もあり、着衣の上からの痴漢であっても悪質性が高ければ不同意わいせつに問われると考えるべきです。

[参考記事]
痴漢は何罪になる?刑罰と逮捕後の流れを解説
2.盗撮による条例違反
駅構内などの公共の場所、電車内などの公共の乗物内で、通常衣服で隠されている部位を写真機などで撮影する行為(盗撮)については、迷惑行為防止条例が適用されます。
東京都迷惑行為防止条例では、以下のように広範に盗撮を禁止しています。
東京都迷惑防止条例 第5条1項2号
次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く)。
例えば、トイレ内において、①他人の下着や身体を撮影する行為、②カメラなど撮影機器を差し向ける行為、③撮影機器を設置する行為は禁止されます。
法定刑は以下の通りです。
- 人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影する行為(5条1項柱書、同2号)
1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(8条2項1号)、常習犯は2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(8条7項) - 人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影するために撮影機器を差し向け又は設置する行為(5条1項柱書、同2号)
6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(8条1項2号)、常習犯は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(8条8項)

[参考記事]
盗撮で逮捕されたらどうなる?流れと刑罰(懲役・刑期)について
また、盗撮をする目的で他人の家の敷地に侵入した場合には、上記に加えて刑法上の「住居侵入罪」(刑法130条)が成立し、「3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金」に処されます。
盗撮を犯す人は「軽い気持ちでやってしまった」というケースもありますが、上記の通り拘禁刑もある重い犯罪であることを肝に銘じるべきです。

[参考記事]
不法侵入・住居侵入罪の初犯で逮捕された!刑罰はどうなる?
3.客引き・ナンパも迷惑防止条例違反
(1) ナンパ行為
度が過ぎたナンパ行為は、各都道府県が定める迷惑防止条例が禁止する「つきまとい行為」に該当する可能性があります。
東京都の迷惑防止条例5条の2第1項第1号は、「つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと」を反復して行うことを禁止しており、これに違反すると1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます(同条例8条2項2号)。
また、ナンパに断られた腹いせなどで女性の身体(胸やお尻)に触る行為も、迷惑防止条例違反・不同意わいせつ罪になる可能性があります。
(2) 不当な客引き
客引きに関連する行為も禁止されている場合があります。
東京都の迷惑防止条例7条1項1号から4号では、以下の客引き行為が禁止されています。
- わいせつな見せ物などに関する客引き行為
- 売春類似行為を目的とする客引き行為
- 異性による接待をして酒類を伴う飲食をさせる行為などに関する客引き行為
- 執拗な客引き行為
これに違反して客引き行為を行うと、50万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処せられます(同条例8条4項5号)。
なお、客引き行為を規制する必要性が高い地域として東京都公安委員会が指定する地域において、わいせつな見せ物や性的なサービスに関する客引き行為を行った場合、さらに重い100万円以下の罰金に処せられます(同条3項2号)。
【参考】客引き等の相手方となるべき者を待つ行為を規制する区域の指定について|警視庁
4.東京都迷惑行為防止条例で逮捕・勾留される?
(1) 逮捕による身体拘束の可能性
痴漢や盗撮などの条例違反行為をした場合、その場で現行犯逮捕されるケースもあれば、被害届をきっかけとした捜査活動等により通常逮捕(後日逮捕)されるケースもあります。
しかし、犯行が警察にバレたら必ず逮捕されるというわけではありません。初犯かつ犯行内容が軽微であり、本人が反省している、住居や勤務先がはっきりしている等の事情があれば、逃走や罪証隠滅の可能性は低いとしてすぐに釈放されることも多いです。
他方、身体を拘束しないと罪証隠滅や逃亡の危険があるとして逮捕された場合、まずは警察署の留置場に身柄を拘束され、警察からの取り調べを受けます。
次いで、逮捕から48時間以内に身柄が検察官のもとに送致され、検察官による取り調べを受けます。
警察や検察官の取り調べの結果、証拠隠滅・逃亡のおそれがあり、さらに身柄の拘束を続けて捜査を行う必要があると判断されると、検察官は裁判所に対し長期の身体拘束である「勾留」を許可するよう請求を行います。この「勾留請求」は、検察官が身柄を受け取ってから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に行う必要があります。
裁判官が検察官の請求を認めると、勾留状が発布され、それが執行されることで逮捕から勾留に切り替わります。
要注意なのが、この逮捕期間中(勾留が決定する前まで)は、家族さえも逮捕されている本人に面会ができません。
逮捕の期間内に身柄拘束されている被疑者に会えるのは弁護士だけです。
(2) 最大20日間拘束される「勾留」
「勾留」では、逮捕と同様に身柄が拘束されます。その身柄の拘束期間は、通常10日間(延長が認められれば20日間)となっており、逮捕と比べてかなり長期間です。
つまり、欠勤・欠席が10日〜20日も続く可能性があるのです。
勤務先や学校に対して何らの理由も説明しないままこれだけの長期欠勤をすれば、当然に労働義務(服務義務)違反として懲戒解雇となったり、退学処分となったりするおそれがあります。
他方、痴漢や盗撮などで逮捕・勾留されたと正直に説明すれば、会社の信用を失墜させる行為として、やはり解雇・退学となってしまう危険があります。
実際は、痴漢・盗撮行為といえども会社の業務とは無関係な私生活上の問題行動ですから、痴漢行為を理由とした解雇は法的には許されません(※会社内の女子トイレなどを盗撮したケースは除く)。
しかし、法的に無効な解雇であっても、その効力を争って闘うことは多くの時間とコストがかかります。また、解雇が無効であっても、減給や出勤停止などの解雇に至らない程度の懲戒処分を受けてしまい、サラリーマン社会での致命傷となる危険性があります。
以上より、迷惑防止条例違反で逮捕・勾留されてしまったならば、早期に弁護士に相談・依頼を行い、早期釈放に向けた弁護活動に着手してもらうべきです。

[参考記事]
勾留とは?勾留要件・期間・流れ・対応策を解説
5.東京都迷惑行為防止条例の刑事弁護
盗撮・痴漢などの東京都迷惑行為防止条例違反に対しては、拘禁刑、罰金刑、拘留、科料という罰則が用意されています。いずれも刑罰であって、有罪判決が確定すれば前科となってしまいます。
ことに拘禁刑は、長期間刑務所に拘禁されて強制的に労働させられる刑であり、本人はもとより家族など周囲に与える精神的・経済的な打撃は測り知れません。
拘禁刑を避けるには、検察官に不起訴処分(起訴猶予)としてもらうか、最悪でも罰金刑となる略式起訴にとどめてもらう必要があります。
そのために最も重要なことは、被害者との示談を早期に成立させることです。
示談が成立したということは、被害者に示談金が支払われて精神的な被害が慰謝されたことを示します。
さらに、被害者が犯行を許して寛大な処分を望む旨を示談書に記載してもらえれば、被害者の処罰感情が消失したことも明らかとなります。
検察官は、このような事情を被疑者に有利な事情として考慮するので、示談書があることで起訴を控えてもらえる可能性が高まります。
起訴を避けるための示談は、検察官が起訴処分とするか否かの判断を下すまでの期間(逮捕されたときは、逮捕から最大23日)にする必要があります。
盗撮をしてしまった方やその家族は、なるべく早い段階で弁護士に相談しましょう。弁護士は、事件ごとに適切なアドバイスや弁護活動、示談交渉を行ってくれます。

[参考記事]
弁護士なしでの示談はリスク大!示談交渉を弁護士に依頼すべき理由
6.東京都迷惑行為防止条例も弁護士へ相談を
もし、東京都の迷惑行為防止条例違反で警察を呼ばれてしまった場合や、逮捕された場合は、すぐに弁護士に相談してください。
警察の捜査が続くと、いずれあなたは起訴されて罰金刑を言い渡されたり、裁判にかけられたりしてしまうかもしれません。
弁護士は、被疑者に対し、法律の専門的な観点から取り調べについてのアドバイスをすることが可能です。
そして、被害者との示談交渉や謝罪文作成のサポートなどを通じて、検察官に対して被疑者に良い情状があるということを訴え、不起訴(起訴猶予)にしてもらえるようにできる限りの弁護行動を行います。
こうした弁護活動により、痴漢、盗撮、付きまとい、客引き行為で警察沙汰になった場合であっても不起訴となった事例は数多くあります。
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