レジのお金を盗むと窃盗罪・業務上横領罪になる!?

最近のスーパーや百貨店、コンビニなどが導入しているレジスター機器は、商品名と代金額の入力はバーコードの読み取りで自動的になされ、客から受け取った金銭を投入口から機械内に投入すると自動的に金額を読み取り、その金額を機械が計算して自動的に釣り銭を排出する、という自動化がなされています。
また、特定の従業員がその機械を使用した日時、その従業員がその機械を使用している間に販売された商品とその代金額をすべて記録しています。
このシステムでは、商品バーコードの読み取りが間違いなくなされている限りは、機械への入金と出金は誤魔化しようがありません。
よって、およそ着服は不可能であり、仮に着服しても機械の記録が証拠となってすぐに犯人が判明します。
とはいえ、このような機能がないレジスターを使用している店舗もまだ多いです。
このような店舗では、店員が店舗のレジを着服(横領)してしまうという事件が発生することがあります。
この記事では、財産事件の中でも、特に弁護士が相談を受けることが珍しくない「店舗のレジにおける窃盗・業務上横領」について詳しく解説していきます。
1.レジのお金を盗むと何罪になる?
パート・アルバイト等の従業員や社員などが店舗内でレジのお金を盗む行為は、「窃盗罪」あるいは「業務上横領罪」に問われます。
刑法235条 窃盗罪
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。刑法253条 業務上横領罪
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
一般的なパート・アルバイト等の従業員がレジのお金を盗むと、「窃盗罪」に問われると思われます。
条文では「他人の財物」とありますが、この「他人」には店舗などの法人・団体も含まれているため、これを盗むことは当然ながら窃盗にあたります。
一方、正社員や店長、責任者といった立場にある者がレジのお金を盗めば「業務上横領罪」に問われます。
横領罪は、法律的な表現で説明すると、「他人との委託信任関係に基づいて占有している他人の財物を、委託の趣旨に反して領得する犯罪」となります。
ごく平たく言えば、「他人から預かった財産を着服する犯罪」です。
業務上横領罪の「業務」とは、これも法律的な表現で説明すると、「委託を受けて財物を管理(占有・保管)することを内容とする事務」となりますが、要するに「仕事として預かった場合」と理解すれば足ります。
よって、「店長、責任者などが店舗のレジ係を担い、その際に商品の販売代金を懐にいれてしまった」などの犯行は、業務上横領罪に該当します。
「横領は立証が難しい」「証拠が見つからない」といわれることがありますが、結論から言うとそんなことはありません。
預かったお金の使い込みですから、あるはずのお金がなければ着服は明白です。財産を預かった者が単数の場合は、むしろ窃盗罪や横領罪の立証は容易です。
ただ、同じ財産を着服する機会のあった者が複数存在する場合には、誰が着服したかを立証することが容易でないケースもあります。
2.店舗レジ係による窃盗行為の証拠について
さて、「店舗のレジ係が商品の販売代金を着服した」という犯罪では、どのような証拠が考えられるでしょうか?
(1) 目撃者・防犯カメラの映像(直接証拠)
「犯人のレジ係が、客から受け取った代金をレジに入れずにその場でポケットや自分の財布に入れてしまった」という現場を目撃した人間の証言や、これを撮影した防犯カメラの映像があるなら、ことは簡単です。
しかし、一般的に犯人は窃盗がバレないように気を配るものですから、そのような決定的な直接的な証拠を得られるのは偶然の所産です。
また、偶然現場の目撃証言や動画が得られたとしても、多くの場合、そのような着服行為は比較的長期間にわたって反復継続されていますから、すべての損害に対応する全犯行を裏付ける証拠としては不十分です。
(2) 間接証拠(犯人を推認できる事実)
では、店舗レジ係による窃盗行為について、目撃者や防犯カメラといった直接的な証拠がない場合、他に証拠となるものは何があるのでしょうか?
どのようなレジスターでも、売れた商品とその金額の記録は必ず残りますから、店舗側は「現金が足りない」ことにはすぐに(当日中に)気がつくことができます。
問題は「誰が着服したか」です。現実にレジ内に入った金額を自動記録できない機器では、この点がわからないことになります。
直接的な証拠がない以上、間接的な証拠に着目するしかありません。
間接的な証拠とは、その従業員が犯人であることを推認させる事実です。
従業員の金遣い
例えば、疑わしい従業員が「最近、高そうな服を着てくるようになった」とか「キャバクラでの遊び方が派手になった」などという事実もこれに含まれます。
「最近着てきた服の市販価格」や「行きつけのキャバクラで支払った金額」を調査し、給与水準に不相応な金銭を消費している事実があれば、犯人である可能性が高まるのです。
実際にスーパーの売上金が店員によって横領された事案で、その店員がキャバクラ嬢に50万円もする大画面高級テレビをプレゼントしたという噂が流れ、店舗側の調査によってそれが間違いなく事実であることが確認されて、犯人を特定する突破口となったという事件もありました。
その従業員が金銭に困っていたという事実があるなら、それも間接事実のひとつなのです。
日々のレジの集計記録からの推察
ただ、当然ですが、上記のような間接事実だけでは、着服行為を裏付けるには全く不十分です。
他に証拠として考えられるのは、例えば、現金の集計は毎日行っているのですから、現金が足りなくなる日にそのレジを使用した従業員が誰かは容易に判明します。何日間にもわたって調べれば、着服した可能性のある従業員の人数は絞れるはずです。
現金が不足した日の全てにわたってその機械を使用していた従業員がただ一人しかいないという記録があれば、その従業員こそが犯人であると推認する強力な間接事実となります。
現金の集計を1日のうちに複数回行なっていれば、現金が足りなくなった時間帯を細かく特定することが可能ですから、より推認が容易になります。
3.レジのお金を盗んだことが発覚したらどうする?
(1) 刑事処分・損害賠償の支払いが発生
このように、店舗側が「売り上げを着服されているらしい」という疑念を抱き、その実行犯を特定することは案外容易なものです。
犯罪が発覚した場合、パート・アルバイトによる窃盗事件で、かつ盗まれた金額が少なければ、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・解雇などを言い渡された上で、そのお金を賠償すれば警察沙汰にはならないケースもあります。
(※会社が行う懲戒処分は、各会社の就業規則に基づいて行われます。)
しかし、被害金額が高額で、業務上横領罪に当たるケースなどでは、警察の捜査が入り、逮捕・勾留される可能性があります。
逮捕・勾留がされずとも、在宅で捜査が続き、情状が悪ければそのまま起訴となります。
窃盗罪の場合、初犯かつ被害金額が少なければ、略式起訴で罰金刑となるケースも多くあります。しかし、罰金刑であっても前科として記録されてしまいます。
一方、業務上横領罪には罰金刑はありませんので、起訴をされれば必ず正式裁判となり、懲役刑となります(執行猶予がつく可能性はあります)。
有罪判決を避けるためには、そもそも不起訴を獲得することがとても重要です。
(2) 刑事罰・不当な処分を回避する方法
窃盗・横領事件では、被害者との示談が非常に重要です。
会社側との示談が成立し、犯罪によって生じた被害金額を賠償することで、会社側が被害届・告訴状の提出を見送ったり、検察官が不起訴の判断をしてくれたりする可能性が高まります。
また、懲戒解雇を回避して諭旨解雇や普通解雇としてもらえたり、解雇時に退職金の一部支給を受けることができたり、賠償金の一部減免を認めてもらえたりという有利な条件を引き出せる場合もあります。
窃盗・横領事件の示談交渉は弁護士に依頼をすることがおすすめです。
弁護士は、被疑者の代理人として会社側との示談交渉を迅速に進めてくれます。不当に不利な処分や、過大な賠償金請求などが会った場合も、これについて争うことができます。
4.まとめ
窃盗罪や業務上横領罪での刑事処罰を避ける、あるいは軽くするためには、対応を弁護士にお任せすることをお勧めします。
労働事件や窃盗事件(財産事件)に強い弁護士に依頼し、代理人として会社側との交渉を行ってもらうことができます。
会社の物を盗むのはもちろん犯罪ですが、過度の制裁を受けることは妥当ではありません。
不当な制裁を免れるべく、レジのお金を盗むなどの行為をしてしまった方は、泉総合法律事務所にご相談ください。