刑事弁護・裁判 [更新日]2025年10月10日

刑事事件と民事事件の違いをわかりやすく解説

刑事事件と民事事件の違いをわかりやすく解説

法律トラブルには「刑事事件」と「民事事件」という2つの大きな区分があります。
同じ法律に関わる問題でも、これらは目的も手続きも全く異なるものです。この2つの事件の違いを理解しておくことは、万が一のトラブルに備えるうえで非常に重要です。

一方、例えば傷害事件や交通事故では、被疑者(加害者)は刑事責任と民事責任の両方が問われます。

本コラムでは、両者の基本的な違いを説明した上で、自分や家族が起こした事件が刑事事件だとしたらどう対応したら良いのかを解説します。

1.刑事事件と民事事件の違い

「事件」とは、一般的な用語としては「殺人事件」「誘拐事件」のように、「犯罪事件」すなわち犯人が刑罰法規に違反した「刑事事件」を指します。
しかし、法律家の世界では、「事件」とは、単なる「案件」「事案」を意味する言葉として使われています。

このため、刑罰法規に違反し刑事裁判の対象となりうる案件を「刑事事件」、それ以外の民事裁判の対象となりうる案件を「民事事件」と称しています。

(1) 刑事事件・刑事裁判

刑事事件は、犯罪行為に対して国家が刑罰を科すための手続きです。代表的なものは、性犯罪、殺人、窃盗、詐欺、強盗、暴行・傷害など、刑法をはじめとする法律で禁止されている行為を犯した人に対し、警察・検察官が捜査や取り調べを行い、必要があれば起訴して裁判所で審理されます(=刑事裁判)。

下記の民事裁判で扱われるのは、対等な「私人と私人の争い」であるのに対し、刑事事件の手続きでは、当事者の関係は国家と一個人の被告人(被疑者)という関係性になります。犯罪者に刑罰を与えるのは「国家」ですから、刑事裁判は「国家対私人の争い」という大きな違いがあります。
有罪となれば拘禁刑や罰金刑などの刑罰が科されます。なお、罰金刑でも刑罰を与えられたということに変わりはありませんから「前科」がつきます

刑事事件の目的は、社会秩序を維持し、犯罪を抑止することにあります。そのため、警察や検察という国家機関が捜査を行い、証拠を集めて真実を明らかにしていくのです。
痴漢、盗撮、暴行事件などのように被害者がいる事件でも、訴えを起こすのは原則として検察官であり、被害者本人ではありません。

なお、刑事裁判には「裁判員裁判」が導入されていますが、民事事件にはありません。

(2) 民事事件・民事裁判

民事事件とは、私人間の権利や利益に関する争いを解決するための手続きです。
金銭の貸し借り、契約違反、不動産トラブル、離婚、相続など、個人や企業(法人)の間で生じた揉め事が対象となります。

民事の裁判手続きでは、被害を受けたと主張する側が原告として訴えを起こし、訴えられた側が被告となって争います。

民事事件の目的は、損害を受けた人に金銭的な賠償や特定の行為を命じることで、当事者間の公平を図ることです。
刑事事件のように法律違反に対し刑罰を科すことはなく、あくまで私的な権利関係の調整が中心となります。

判決では損害賠償金の支払いや、契約の履行、財産の返還などが命じられることになります。

なお、民事裁判は、弁護士に頼まずに自分だけで対応することも可能です。

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(3) 刑事事件と民事事件の両方に当てはまる例

例えば交通事故は、刑事事件と民事事件の両方が同時に進行する典型的な例です。

飲酒運転で人身事故を起こしたケースを考えてみましょう。

まず、刑事事件としては、加害者は道路交通法違反自動車運転処罰法違反(過失運転致傷罪など)の罪に問われます。
これらについては警察・検察が捜査を行い、処罰の必要性があると判断されれば検察官が起訴します。裁判所で有罪判決が下されれば罰金刑や拘禁刑などの刑罰が科されることになります。これは、いわゆる社会のルールを破ったことに対する国家からの制裁です。

一方で民事事件としては、被害者が加害者に対して損害賠償を請求することができます。治療費、休業損害、慰謝料など、事故によって受けた具体的な損害の補償を求めて民事訴訟を起こすのです。

刑事裁判で有罪になったとしても、それだけでは被害者への賠償は行われません。被害者自身が民事の手続きを通じて、失った利益や精神的苦痛に対する金銭的補償を求める必要があります。

このように、一つの交通事故から刑事責任と民事責任という二つの異なる法的責任が生じることになるのです。

他にも、加害者の暴力によって被害者が怪我を負ったという傷害事件では、刑事事件で傷害罪の罪に問われる他、民事事件として被害者が治療費・慰謝料などを請求することができます。

2.刑事裁判・民事裁判の流れの違い

刑事裁判と民事裁判では、手続きの開始から終結までの流れが大きく異なります。

刑事裁判は刑事事件の中で行われる裁判ですが、まずは裁判の前に警察による捜査から始まります。
事件が発生すると警察が証拠を収集し、被疑者を特定して取り調べを行います。その後、事件は検察官に送られ、検察官が起訴するかどうかを判断します。嫌疑が不十分である、諸事情を総合考慮して今回は起訴を見送るなどと判断されれば、不起訴となり刑事裁判は行われません。

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一方、検察官に起訴されて刑事裁判が開かれると、検察官が立証責任を負って被告人の有罪を証明していきます。
裁判では証拠調べや証人尋問が行われ、最終的に裁判官(裁判員裁判の場合は裁判官と裁判員)が有罪か無罪か、有罪であれば刑罰の内容を判断します。裁判では、無罪推定の原則により、検察官が合理的な疑いを超えて有罪を立証できなければ無罪となります。

一方、民事裁判は原告が訴状を裁判所に提出することから始まります。訴えを起こすかどうかは完全に当事者の自由であり、検察などの国家機関が介入することはありません。

裁判所から訴状が送達されると、被告は答弁書で反論を述べ、その後、民事裁判において双方が交互に主張を展開していきます。証拠の提出や証人尋問も行われますが、刑事裁判ほど厳格ではなく、立証責任は原則として主張する側が負います。
和解による解決も積極的に試みられ、実際に多くの民事事件は判決に至る前に和解で終結します。

最終的に判決が下される場合は、原告の請求を認めるか棄却するか、あるいは一部認容するかが判断され、金銭の支払いや特定の行為を命じる内容となります。

このように、刑事裁判が国家主導で進むのに対し、民事裁判は当事者主導で柔軟に進められるという違いがあります。

3.刑事事件と民事事件における示談の関係

「示談」とは、当事者間での話し合いによって紛争を解決することを指しますが、刑事事件と民事事件では示談が持つ意味合いが大きく異なります。

民事事件において示談は、裁判を経ずに当事者同士が合意して問題を解決する方法であり、示談が成立すれば民事上の責任は消滅します。よって、示談が成立すれば民事事件は終了する(民事裁判は開かれない)ということになるのが原則です。

一方、刑事事件は国家が犯罪者を処罰する手続きですから、被害者と加害者の間で示談が成立したとしても、それだけで刑事責任がなくなるわけではありません。
最終的な処罰を決めるのは検察官や裁判所であり、被害者が許しても国家による刑罰は別の問題として残ります。

しかしながら、刑事事件において示談が成立していることは、量刑を判断する上で非常に重要な要素となります。被害者との間で誠実に示談を行い、損害賠償を済ませ、被害者が加害者を許しているという事実は、加害者に有利な情状として考慮されるのです。
特に初犯の場合や比較的軽微な刑事事件では、示談成立によって不起訴処分になったり、起訴されても罰金刑や執行猶予付き判決にとどまる可能性が高まります。

痴漢・盗撮などの性犯罪、暴行事件、過失による交通事故などでは、示談の有無が処分を大きく左右することも珍しくありません。

つまり、刑事事件の被疑者や被告人にとって、被害者への謝罪と賠償という形で反省の態度を示し、示談を成立させて民事上の責任を果たすことは、刑事処分を軽減させるための有効的な手段となるのです。
※ただし、重大な犯罪や悪質な事案では、示談が成立していても厳しい刑罰が科されることもあります。

さらに言えば、親告罪の場合は、示談が成立して告訴を取り下げてもらうことで、例外なく不起訴処分で終わることになります。

このように、民事事件の示談は刑事事件の処分に間接的ながら大きな影響を与える関係にあるのです。

4.刑事事件で逮捕されてしまったら泉総合法律事務所へ

被害者のいる刑事事件は、同時に必ず民事事件の側面を持ちます。ほとんどのケースで示談の成否が刑事処分の結果に大きな影響を及ぼしますので、刑事事件で逮捕されてしまった場合には示談交渉について専門的な知識を持った弁護士に依頼し、減軽を目指しましょう。

刑事事件で逮捕されてしまったら、刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所までご相談ください。

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