口座売買 [公開日]2025年8月5日

犯罪収益移転防止法とは?口座売買・譲渡で逮捕される事例

犯罪収益移転防止法とは?口座売買・譲渡で逮捕される事例

「銀行口座を買い取ります」「ご融資致しますから、口座の通帳やキャッシュカードの郵送をお願いします」
このようなネットの書き込みを見たことや、誘い文句を受けたことはありませんか?

預貯金口座の売買・譲渡は違法な犯罪行為なので、このような誘いに乗ってはいけません。
預貯金口座の売買・譲渡が頻発したことから、2004年には口座の売買・譲渡が禁止され、現在の「犯罪収益移転防止法」の規定に引き継がれています。

この記事では、口座の売買・譲渡につき、どのような行為が犯罪となるのか、「犯罪収益移転防止法」の内容や事例などについて解説していきます。

1.口座売買・譲渡と犯罪収益移転防止法について

(1) 犯罪収益移転防止法とは?

組織的犯罪やテロ犯罪には、犯罪行為のための資金が必要です。犯罪行為によって得られた収益は、さらなる犯行の資金となり、これらの犯罪を助長することになります。
また、犯罪の収益が事業活動に用いられると、健全な経済活動が圧迫・阻害されるなど悪影響が生じます。

本来、犯罪の収益はこれを被害者の救済に充てられるべきものですが、収益の移転はこれを困難にしてしまいます。

そこで、犯罪収益移転防止法は、犯罪の収益が移転することを防ぐための様々な方策を定めています。

金融機関の口座が売買・譲渡されると、それが犯罪収益の保管先となり、さらには口座間の送金などによって、犯罪収益を移転する手段として利用される危険性が高いです。
このため、犯罪収益移転防止法は、口座の売買・譲渡を禁止しています。

【マネーロンダリングと口座悪用の関係】
マネーロンダリング(資金洗浄)とは、犯罪によって得られた収益の出所をわからなくして、正当な資金であるかのように見せかけることです。捜査機関の追求や、裁判所からの差押えなどを逃れて、新たな犯罪資金などに利用するために行われます。
マネーロンダリングの手法としても、他人名義の口座や架空名義の口座を利用して資金を転々と移転させ、もともとの出所を不明にしてしまう方法があります。売買された口座は、このような手段の道具としても利用されるのです。

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(2) 犯罪収益移転防止法違反となる具体的行為

口座の売買・譲渡で、犯罪収益移転防止法違反となってしまう行為の例をいくつか挙げてみましょう。

  • 古くて利用していない自分名義の銀行口座の通帳やキャッシュカードを他人に売り渡した
  • 口座を買うと言われ、新たに自分名義の口座を開設して、その通帳やキャッシュカードを買い取ってもらった
  • 口座の通帳やキャッシュカードはいらないが、口座のネットバンキングに使うIDとパスワードの情報を教えてくれと言われ教えた。
  • 友人に、その名義で口座を開設させ、その通帳やキャッシュカードを譲り受けた
  • SNSやネットの掲示板で「口座を買います」と投稿した

これらの行為は、すべて犯罪収益移転防止法違反となる犯罪行為です。

2.口座売買・譲渡違反の刑罰と罰則

犯罪収益移転防止法は、28条で口座の売買・譲渡などを禁止し、違反に対する罰則を設けています。

(1) なりすまし目的での通帳等の譲受行為など

28条1項前段で禁止されるのは、他人名義の口座の「通帳」や「キャッシュカード」を譲り受けたり、交付を受けたりする行為です(=受け取る側の行為)。
また、他人名義のキャッシュカードの暗証番号、ネットバンキングの振込用IDやパスワードといった情報の提供を受けることも禁止されています。

ただし、本項においてこれらの行為が禁止されるのは、「他人になりすまして」、銀行・信用金庫などの金融機関等から、預貯金契約に基づくサービスを自らが受ける目的がある場合に限ります。
つまり、他人名義の口座を、その人のふりをして利用する目的です。

加えて、自分以外の第三者にサービスを受けさせる目的の場合も禁止されています。

なりすまし目的がある以上は、譲受・交付・情報提供が有償であるか否かを問いません。
対価を支払わず、無償で譲受・交付・情報提供を受けた場合も処罰されます。

これらに違反すると、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金刑となります。拘禁刑と罰金刑の両方が併科されるケースもあります。

(2) なりすまし目的での通帳等の譲渡行為など

また、28条2項前段では、相手にこのような目的があることを知りながら、相手に通帳やキャッシュカードを譲り渡したり、交付したりする行為、キャッシュカードの暗証番号、ネットバンキングの振込用IDやパスワードといった情報を提供する行為も禁止されています(=渡す側の行為)。
たとえ自分自身の名義の口座の通帳等であっても、このような目的を有する相手に渡してはならないのです。これも有償・無償を問いません。

これに違反すると、相手側と同様の刑罰(1年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金刑・併科あり)となります。

したがって、いわゆる「他人名義の口座売買」に留まらず、「自己名義の口座売買」も、犯罪収益移転防止法違反として犯罪となります。

(3) 正当な理由なき、有償による通帳等の譲り受けなど

正当な理由がないのに、有償で通帳・キャッシュカードを譲り受ける行為、交付を受ける行為、暗証番号・ID・パスワードの情報提供を受ける行為も禁止され、同様の刑で処罰されます。これは他人になりすます目的の有無を問いません(28条1項後段)。

さらに、正当な理由がないのに、有償で譲り渡し・交付・提供をした者も同じ刑で処罰されます(28条2項後段)。

正当な理由とは、

  1. 通常の商取引(例:営業譲渡に伴う屋号名義口座の譲渡など)
  2. 金融取引(例:「譲渡性預金」すなわち譲渡可能な定期預金など)
  3. 遺産分割に伴い共同相続人に代償金を支払って故人名義口座の通帳を譲り受ける場合

などがあります。

有償でなければ禁止行為には該当しませんが、金銭の支払いなどの利益供与を約束すれば足り、現実に金銭の支払いなどが履行されていなくても違反となります。

(4) 業として行う場合の刑の加重

これまでに説明した上記の禁止行為を、業として反復継続して行った場合は、罪が重くなります。

3年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金刑となり、併科もあります(28条3項)。

他人名義の口座を多数取得して、有償で売り渡す、いわゆる「口座屋」など、通帳売買を商売としている者を厳しく処罰するものです。

(5) 勧誘・広告・誘引行為の処罰

上記の禁止行為を行うよう、人を勧誘する行為、広告(新聞・雑誌など)や広告に類似する方法(チラシ・看板・はり紙など)で人を誘引する行為も禁止されています。
違反すると、やはり1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金刑となり、併科もあります(28条4項)。

したがって、SNSやネット上で口座売買を勧誘したり、募集したりすることは、犯罪収益移転防止法違反となります。

3.口座売買・譲渡で逮捕された実際の事例

では、口座売買・譲渡で逮捕された最近の事例を報道から見てみましょう。

【事例1】

X(旧ツイッター)に、口座の買取をする旨の投稿をおこない、応募した者を特殊詐欺の受け子、出し子に勧誘していた大学生が、犯罪収益移転防止法違反などの容疑で、愛知県警に逮捕されました。

警察は、口座の買取で得た個人情報を利用して、口座を売った者を詐欺犯罪の実行役に引き込む構図だと見ていると報じられています。

朝日新聞2025年5月8日記事「『闇バイト』のリクルーター役か 当時高校生の少年を逮捕 愛知県警

【事例2】

千葉県の男性が、自己の口座の情報を他人に提供したところ、その口座が、投資詐欺事件の被害金の振込先として利用され、詐欺罪の従犯として山口県警に逮捕されました。

※2:KRY山口放送ニュース2024年9月5日記事「SNS型投資詐欺に使われた口座情報提供の疑いで32歳の運送業の男を逮捕

【事例3】

不正アクセスを受けた銀行口座から流出した被害金が、あるコンサルタント会社名義の口座に送金されていたところ、そのコンサルタント会社名義の口座のキャッシュカードや暗証番号などを、知人と共謀して買い取ったとして、外国籍の男が、犯罪収益移転防止法違反容疑で大阪府警に逮捕されました。

警察は、この男が、いわゆるトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)に銀行口座などを提供する道具屋だったとみていると報じられています。

※3:産経新聞2025年5月21日記事「トクリュウにつながる『道具屋』か 法人口座買い取り容疑で男逮捕 大阪府警

4.口座売買・譲渡が詐欺罪となるケース

口座の売買・譲渡は、犯罪収益移転防止法違反に留まらず、以下のケースでは刑法の詐欺罪(刑法246条)となる場合があります。

(1) 架空名義の口座開設、借名口座の開設

実在しない架空の人物名義の口座を開設する行為、例えば「実際にはAが管理するための口座を別人Bの名義で開設する」という行為(借名口座)は、虚偽の事実を金融機関に告げて、通帳を取得し、預貯金契約に伴うサービスの提供を受ける行為です。

これは、詐欺罪として、10年以下の拘禁刑となります。

詐欺罪は未遂犯も処罰対象なので、架空名義口座・借名口座の開設を金融機関に申し込んだ時点で犯罪が成立します。

(2) 譲渡目的での口座開設

自分名義の口座であっても、預金通帳等を第三者に譲渡する意図を隠して開設を申し込み、通帳やキャッシュカードを受け取る行為は、詐欺罪となります。

金融機関は、口座や通帳、キャッシュカードを第三者に譲渡することを禁止しており、その意図を知ったなら、口座開設に応じることはありません。

預金通帳等を第三者に譲渡する意図を隠して口座の開設を申し込む行為は、虚偽の事実を告げて、相手を欺く詐欺行為に該当するのです(最高裁平成19年7月17日決定)。

(3) 口座開設の代行・仲介行為

他人名義の口座の開設を代行したり仲介したりする行為も、詐欺罪となります。

代行者・仲介者は、他人になりすます目的はありません。しかし、なりすましの目的を有するAからB名義の口座開設を依頼されて、それを知りつつ代行・仲介すれば、通帳等をAに渡した段階で犯罪収益移転防止法違反となり、また開設申込みの段階で金融機関に対する詐欺罪も成立します。

5.口座売買・譲渡をしてしまったら弁護士へ

これまで説明したように、口座の売買・譲渡は、有償・無償を問わず犯罪行為です。

他人に渡った口座は、オレオレ詐欺などの重大犯罪の振込先口座となったり、マネーロンダリングのための送金先として利用されたりする可能性が高いです。ただの名義人であっても、そのような悪質・重大な犯罪の関係者として嫌疑をかけられてしまう危険性があるのです。

また、売り渡した口座の個人情報を握った犯罪者グループによって、特殊詐欺の実行役に引きずり込まれる危険もあります。

目先の利益に惑わされて口座の売買・譲渡に応じてしまったなら、直ちに弁護士に相談してください。弁護士から法的アドバイスを受けながら、正直に捜査機関に自首したり、金融機関に報告するなどの対応策をとることで、検察官から起訴猶予処分を得たり、仮に刑事裁判となっても重い刑罰を避けることができる可能性が高くなります。

泉総合法律事務所では、口座売買・譲渡についても相談・依頼を受け付けております。

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