少年事件と刑事事件の違い(目的、定義、刑罰)

人が犯罪を犯した場合、成人と少年では適用される法律や処罰に違いが出ます。
より具体的に言えば、罪を犯した者が14歳以上20歳未満の場合、「少年法」により、原則は少年審判手続の対象となります(※重大犯罪など一定のケースでは、成人と同様に刑事罰を与えるか否かを決める刑事裁判手続にかけられる場合があります)。
ここでは、少年事件と成年の刑事事件の違いについて、手続きや裁判の観点から解説していきます。
1.刑法と少年法の手続きの違い
(1) 成年の刑事事件(刑法)について
目的
刑法は、犯罪内容とその処罰について規定されています。
刑事事件は、犯罪行為に対して国家が刑罰を科すための手続きであり、刑法で法律で禁止されている行為を犯した人は、警察・検察官から捜査や取り調べを受け、必要があれば起訴され裁判所で審理されます(=刑事裁判)。
刑事事件の目的は、社会秩序を維持し、犯罪を抑止することにあると言えます。
また、成年の刑事事件では、手続きにおいて刑事訴訟法が適用されます。
被疑者が逮捕された場合、48時間以内に身柄を検察官に送られます。検察官は身柄を受け取ってから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に、裁判所に対し勾留を請求するかどうかを決めます。勾留が認められた場合、逮捕から最大23日間身柄が拘束されます。
検察官は、この期間内に起訴するか、それとも釈放するか決めなくてはなりません。
適用年齢
刑法は、満14歳以上の者を対象とし(同法41条)、14歳未満の者の行為を不可罰としています。
14歳に満たない少年が法に触れても、これを強く非難することはできない(犯罪が成立する要件のひとつである「責任」が欠けている)とされるので、処罰することはできないのです。
例えば、13歳の中学生が万引きをしても、窃盗罪は成立せず不可罰となります。
しかし、このような少年を放置することは望ましくないため、少年法が「保護処分」について規定しているのです。
刑罰・処分
成年の事件は、被告人に対し犯罪に対する制裁としての刑罰を科すことを目的としています。
そこで、裁判では検察官が犯罪事実を主張し、裁判所は、その検察官の主張が認められて有罪となるか否かを審査します。
多くの刑罰法令では、有罪の場合に科される刑の重さ、即ち量刑は一定の幅をもって裁判官の裁量に委ねられています。
(2) 少年法について
目的
少年法は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と規定しています。
少年法では、少年が行った過去の犯罪ないし非行に対する応報として少年を処罰するのではなく、その少年が将来二度と犯罪・非行を行わないように、その少年を改善教育することが目的であると理解することができます。
刑法が犯罪と刑罰を規定しているのに対し、少年法は非行(3条1項)と保護処分(24条1項)について規定しています。
適用年齢
先述の通り、14歳未満の者が刑罰法規に触れる行為を行っても、刑事責任年齢に達していないので、「犯罪」は成立しません。刑事手続の対象外であり、少年審判手続の対象となるに止まります(触法少年)。
しかし、行政機関のひとつである警察の「行政活動」としての「行政調査(触法調査)」を受けることにはなります。
他方、14歳以上の者が刑罰法規に触れる行為を行えば「犯罪」が成立します。犯罪を犯した14歳以上20歳未満の者は「犯罪少年」と呼びます。
犯罪である以上は刑事訴訟法が適用されることが原則ですが、刑訴法の特別法として少年法が定められているので、少年法に定めがある部分は、そちらが優先して適用されます(少年法第40条)。
なお、令和2年の少年法改正により、少年のうち18歳以上の者は特定少年とされ、その物が犯罪を犯した場合には、以前より厳しい処分が科される可能性が高くなりました。

[参考記事]
20歳未満の成人の少年法|18歳・19歳が罪を犯したらどうなる?
刑罰・処分
少年の事件は必ずしも処罰を目的としておりません。少年法は、基本的には、少年の健全な育成、性格の矯正、少年の環境調整を行うことを目的としています。
これは、少年の可塑性(人格の再形成が可能であること)を根拠としているといわれています。平たく言えば、少年審判の目的は、「再教育による再非行の防止」です。
そこで少年審判においては、犯罪事実(非行事実)の存否に加え、少年の要保護性の有無及び内容が審理の対象となります。
要保護性とは、少年が将来的に再非行に至る可能性をいいます。具体的には、犯罪的危険性(少年が将来非行を行う危険があるか)、矯正可能性(少年の性格を矯正して将来の非行可能性を除去できるか)、保護相当性(保護処分を行うことが問題解決のために有効適切であるか)の要素からなります。
つまり、「再教育による再非行の防止」の必要性・可能性・相当性というわけです。
家庭裁判所が少年の要保護性を十分に調査する必要があると判断すると、観護措置をとり、少年鑑別所に2週間、さらに延長すると2週間合計4週間収容して家庭裁判所調査官や鑑別所職員が少年の要保護性の調査をすることになります。
その調査結果は少年審判の有力な判断材料となります。観護措置が取られない場合は家庭裁判所が少年や保護者の両親を呼んで調査官が調査を行い、その調査結果を踏まえて少年審判の判断が決まることになります。

[参考記事]
家庭裁判所からの呼び出し|少年が呼び出される理由とその後の流れ
2.刑事事件と少年事件の手続きの流れ
(1) 刑事事件の流れ
刑事事件の流れについて、詳しくは以下のコラムをご覧ください。
成年の刑事事件は、刑事裁判となり、不公正な密室裁判による人権侵害を防止するため、原則として公開の法廷で裁判が行われます(例外として書類上の裁判だけで済む略式手続があります)。出席者は、裁判官、書記官、検察官、弁護人、被告人です。

[参考記事]
警察に逮捕されたらどうなる? 起訴・不起訴の決定までの流れ
(2) 少年事件の流れ
家庭裁判所への送致
犯罪少年については、警察が捜査をして罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があると判断したときは、警察は、検察ではなく家庭裁判所に事件を送致しなくてはなりません。
また、警察が拘禁刑以上の刑にあたる犯罪の嫌疑があると判断して事件を検察官に送致した場合、検察官も犯罪の嫌疑があると判断したときは、検察官は家庭裁判所に事件を送致しなくてはなりません。
後者の場合で少年が逮捕されている身柄事件は、成人の場合と同じく逮捕から48時間以内に身柄も検察官に送致されます。
しかし、その後の手続は、捜査の必要性の強度に応じて、次の3つのケースにわかれます。
- 検察官が24時間以内に少年を家庭裁判所に送致するケース(42条)
- 検察官が裁判所に勾留に代わる観護措置を求め、少年鑑別所での最大10日間の身柄拘束が行われるケース(43条1項、17条1項2号)
- 成人の事件と同様に検察官が裁判官に勾留請求を行い、最大23日間の身柄拘束が行われるケース(43条3項)但し、③はやむを得ない場合の例外とされています。
成人の刑事事件では、刑事裁判にかけるか否かは検察官が決めますが、これに対し、犯罪少年の事件は、上に述べた捜査機関での各ルートを経て家庭裁判所に送致され、家庭裁判所が少年審判にかけるかどうかを決めます。これを「全件送致」と呼びます。
送致を受けた家庭裁判所では、犯罪の有無、事件の悪質性や少年の要保護性(内容は後述します)を調査して、少年審判にかけるか否かを判断しますが、一定の場合には、成人と同様の刑事裁判手続にかけるために、事件を家裁から検察官に送致する場合があります。これを「逆送」と呼びます。
逆送は、次の場合に行われます。
- 死刑・拘禁刑に当たる罪の少年事件で、調査の結果、罪質・情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき
- 犯行時に16歳以上の少年が、故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪の事件
- 18歳、19歳のときに犯した死刑、無期又は短期1年以上の拘禁刑に当たる罪の事件
少年審判
少年審判は非公開で行われます。これは、
①少年、保護者など関係者のプライバシー保護
②人格的に未成熟な少年の情操保護
③審判過程の公開により生じる将来的不利益の回避
を理由とします。
また「審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。」とされており、対決的な刑事裁判とは異なって、教育的・福祉的な配慮を重視する場であることが求められています。
出席者は、裁判官、家庭裁判所調査官(主に要保護性を調査する専門職)、書記官、付添人(弁護士)、少年、保護者です。
少年事件では、原則として検察官は出席しません。例外として、死刑、無期、長期3年を超える懲役・禁錮に当たる犯罪で、否認事件のように、非行事実を認定する審判手続に検察官関与が必要と裁判官が認めるときは、検察官を出席させることができます。
少年審判による処分には、「保護処分(保護観察・少年院送致など)」「試験観察」「不処分」があります。
詳しくは以下のコラムをご覧ください。
→少年事件解決の流れと弁護士依頼の重要性
少年事件では、少年の周囲の環境を整える環境調整が重要です。これは、家庭環境や交友関係、職場環境に問題点が伏在している場合が多く見られるためです。
少年事件では、家族や少年の職場、学校の方に、なぜ今回の犯罪が起こったのか、犯罪を起こす兆候はなかったのか、自分たちにもできることがあったのではないか等を考えてもらいます。そのうえで、再犯防止のために、具体的に何ができるのかを考え、実行してもらいます。
このような環境調整は、家庭裁判所調査官と付添人の仕事であり、処分結果を大きく左右するので、審判の期日前までに進めておく必要があります。
3.泉総合法律事務所は少年事件の経験も豊富
このように、少年事件は成人の刑事事件とは異なる特別な手続きで進んでいきます。
少年のために真に有意義な保護処分を得るには、付添人活動の経験が十分ある弁護士に依頼することをお勧めします。

[参考記事]
少年事件における付添人の役割
泉総合法律事務所は少年事件の解決を得意としています。通常の刑事事件はもちろん、少年事件に多数取り組んでおりますので、未成年者であるお子さんが少年事件を起こしてしまった場合には、是非とも相談の上泉総合法律事務所にご依頼ください。
お子様の未来を守るため、保護者の方に寄り添いながら、最善の解決策をご提案いたします。