薬物事件 [公開日]2026年4月30日

覚せい剤・薬物事件でコントロールド・デリバリーにより逮捕されたら

覚せい剤・薬物事件でコントロールド・デリバリーにより逮捕されたら
弁護士 泉義孝
監修 弁護士 泉 義孝
所属:第二東京弁護士会
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覚せい剤・大麻・麻薬など、違法な薬物の取引を摘発する捜査方法に、コントロールド・デリバリー(監視付き移転:略称「CD」)という手法があります。

本コラムでは、この「コントロールド・デリバリー」について詳しく解説します。

1.コントロールド・デリバリーとは?

(1) コントロールド・デリバリーの具体例

コントロールド・デリバリーとは、覚せい剤・大麻・麻薬などの規制薬物、けん銃などの禁制品にかかわる犯罪を摘発するための捜査手法のひとつです。

捜査機関が、禁制品の不正取引が行われる事実を知りながら、あえて直ちには検挙せず、その監視のもとに禁制品の運搬などをさせて、これを追跡したうえ、禁制品の受取人などその不正取引に関与する人物を特定して検挙する捜査手法です。

まずは、Aさんが逮捕されたケースを見てください。

【Aさんが逮捕されたケース】

Aさんは、最近知り合った外国人の友人Bさんから、不在中の荷物の受け取りを頼まれました。

Bさん「来月、母国の母親からの荷物を受け取らなくてはならないのだけれど、ちょうど、仕事で他の国に出張しなくてはならない。申し訳ないけど、荷物を受け取っておいてほしい。引き受けてくれるなら、A君宛に発送させるから」

これを快諾したAさんの自宅に、翌月のある日、配達員が国際郵便物を配達してきました。
Aさんがこれを受け取り、ドアを閉めようとしたところ、突然、何名もの男が玄関になだれ込み、「麻薬特例法違反の現行犯逮捕する!」と叫びました。Aさんは手足を押さえ込まれ、手錠をかけられてしまいました。

この国際郵便の荷物には覚せい剤が隠されていることが税関で発覚しており、捜査機関の監視下で運搬され、最終的に配達を受け取ったAさんに犯罪の嫌疑がかけられ逮捕されたのです。

これがコントロールド・デリバリーです。

(2) コントロールド・デリバリーの目的

覚せい剤など、規制薬物の密輸・密売事件の多くは、外国人の犯罪組織や暴力団等による組織的なグループ犯罪です。
仮に荷物の受取人が犯罪組織の一員だったり、禁制品と知りながら組織からの依頼を引き受けた者であったりしても、その者を検挙しただけではグループの末端を摘発したに過ぎません。

トカゲの尻尾切りに終わることなく、組織の幹部やリーダーなど中枢部にまで捜査を及ばせるためには、コントロールド・デリバリーを活用し、禁制品が運ばれていく先の関係者を捕らえることが有用なのです。

2.コントロールド・デリバリーの種類

コントロールド・デリバリーには、①「ライブ・コントロールド・デリバリー」②「クリーン・コントロールド・デリバリー」の2種類があります。

(1) ライブ・コントロールド・デリバリー

禁制品が、そのままの状態で犯罪組織によって運搬されるのを監視する捜査手法です。

本来、規制薬物を不法に所持する者は入管において上陸を拒否され、禁制品の輸入も許可されませんが、捜査機関からの通報・要請があれば、上陸・輸入を許可する特例が定められています(麻薬特例法3条、4条)。

(2) クリーン・コントロールド・デリバリー

捜査機関が、禁制品を荷物から抜き取り、無害な品物(例:砂糖の粉末など)と取り替えて、その運搬を監視する捜査手法です。

禁制品を抜き取ることは、裁判所の捜索差押許可状を受けて行います。無害品を入れておくことは、必要かつ相当な任意捜査として実施されます。

ただ、この手法では、監視下で運搬された荷物に入っているのは無害品ですから、これを受け取っても、規制薬物を譲り受ける行為があったとは、直ちには言えません。「違法なものを受け取ってはいない」という言い訳をされてしまいます。

そこで、このような強弁を許さないために、たとえ無害品であっても、禁制薬物の譲り受けなどの罪を犯す意思で規制薬物として無害品を受け取る行為は、それ自体を犯罪として処罰できる特例が定められています(麻薬特例法8条2項:2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑)。

(3) 選択される手法はクリーン・コントロールド・デリバリーが多い

ライブ・コントロールド・デリバリーは、本物の規制薬物が入ったままですから、受け取り主も不審に思わず、計画どおりに組織の他の関係者に渡したり、分配したりする行動に出ます。
その機会をとらえて、組織関係者を一網打尽に検挙できる可能性があります。

しかし、もしも監視に失敗し、規制薬物の行方がわからなくなれば、犯人組織を逃すばかりか、当該の規制薬物が社会一般に流通することを助けてしまったことになります。チャンスも大きい反面、リスクも大きいのです。

そこで、多くの場合、クリーン・コントロールド・デリバリーが捜査手法として選択されます。

3.コントロールド・デリバリーと「おとり捜査」の違い

おとり捜査」とは、捜査機関や捜査機関からの依頼を受けた協力者が、その身分や意図を隠して、相手方に犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで検挙する捜査方法です。

このような捜査方法は、犯罪を犯す意思のない者をそそのかし、新たに犯意を生じさせる「犯意誘発型」と、すでに犯行を決意して機会を待っている者に犯行の機会を提供する「機会提供型」に分けられ、少なくとも「機会提供型」は、被害者がなく、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難な場合には許されるとするのが判例です(最高裁平成16年7月12日決定)。

他方、コントロールド・デリバリーは、すでに規制薬物の輸入等の犯罪行為が実行されている最中にその関係者を泳がせる捜査手法であって、犯意を誘発させたり犯行機会を提供したりするものではなく、「おとり捜査」とは区別されるべきものです。

4.コントロールド・デリバリーで逮捕される流れ

コントロールド・デリバリーで、被疑者として逮捕される流れについて説明しましょう。クリーン・コントロールド・デリバリーを例にとります。

(1) 税関での検査・発見

郵便物などに隠されて海外から送られた規制薬物は、日本の税関による荷物検査で発見されます。検査は、①X線による透視、②麻薬犬による臭気検査、③無作為抽出での開封などの方法があります。

(2) 捜査機関への通報・連携

規制薬物を発見した税関は、捜査機関へ通報します。

捜査機関から税関に対し、薬物犯罪の捜査を行うために、当該規制薬物を国内に入れるよう要請があり、かつ捜査機関と連携して、国内での散逸を防止する十分な監視体制が確保されていることを確認したならば、税関はその輸入を許可します。

(3) 荷物(規制薬物)を無害品とすり替え

さらに、クリーン・コントロールド・デリバリーの場合、裁判所の令状に基づき、規制薬物を押収し、無害品とすり替えておきます。

(4) 監視下での運搬と受取人の逮捕

無害品の隠された荷物は、捜査機関の監視のもと、郵便局員などの配達員によって、受取人として指定されている特定の人物のもとに配達されます。
その人物が配達先の自宅などで、荷物を受け取った際に、現行犯逮捕を行います。

監視の方法としては、①捜査員の肉眼による監視・張り込み・追跡(尾行)②荷物内に小型の電波発信器を装着しての電子的な追跡があります。

5.逮捕後の手続きの流れ

次に、逮捕後の手続きの流れを簡単に説明しましょう。

(1) 逮捕から起訴・不起訴までの流れ

逮捕されると、警察署の留置場に身柄を拘束され、取り調べを受けます。
拘束から48時間以内に、身柄は検察庁に送致され、検察官による取り調べを受けます。

検察官は身柄を受け取ってから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に、裁判官に勾留を請求します。

被疑者は裁判所で、裁判官による勾留質問を受け、嫌疑の存在と証拠隠滅・逃亡の恐れがあると判断されれば、勾留決定が下されます。
勾留は、検察官による勾留請求から10日間が期限です。しかし、通常は、検察官が捜査継続のために必要という理由で勾留期限延長の請求を行い、これを裁判官が認めると、さらに10日間を限度とした勾留がなされます。

このように、通常は逮捕から22日間の身体拘束期間があり、検察官は、この期間内に被疑者を起訴するか否かを決定し、もし、起訴しない場合は釈放しなくてはなりません。

【コントロールド・デリバリーは身柄拘束が長期になりがち】
コントロールド・デリバリーが行われた薬物犯罪は、逮捕者以外の共犯者の存在が明らかなため、証拠隠滅のおそれもあると判断されて勾留決定がなされることが通常です。
また、税関職員、配達員など捜査にかかわった関係者の供述調書作成なども必要なため、捜査完了までには時間がかかり、勾留期限は延長されることが通常です。

(2) コントロールド・デリバリー後の処分

コントロールド・デリバリーは、警察・検察・税関・郵便局が綿密な連携体制を構築し、そのうえで、荷物の保管・運搬・受渡しを常時監視するための人員を用意しなくては実施できません。

必然的に大規模な捜査体制となるので、すべての事案で実施できる訳ではなく、隠された規制薬物が大量で、営利目的や組織的な犯罪の危険性が高い事案に限られます。

したがって、コントロールド・デリバリーで逮捕された薬物事犯は、営利目的の輸入行為や組織的な犯罪の一端を担っている悪質な犯罪と評価され、起訴猶予処分を得ることは難しいことが通常です。

さらに起訴された場合、個別の事案にもよりますが、規制薬物の分量の多さから、営利目的が認定され、重い営利目的輸入罪で有罪とされ、執行猶予の付かない実刑判決となる場合が珍しくありません。

※覚醒剤取締法41条2項:法定刑は、無期もしくは3年以上の拘禁刑。情状により1000万円以下の罰金刑が併科される場合もあります。

6.コントロールド・デリバリー事件の弁護

コントロールド・デリバリー事件の弁護に弁護士を刑事弁護人として選任した場合、どのような弁護活動をするかを、いくつか説明します。

薬物事件で逮捕された!不起訴・実刑回避のためにするべきこと

[参考記事]

薬物事件で逮捕された!不起訴・実刑回避のためにするべきこと

(1)  故意を争う

規制薬物との認識がなければ犯罪とはならない

コントロールド・デリバリーが行われ、荷物を受け取った人物が逮捕されても、必ずしも、その人物が荷物に規制薬物が隠されていると知って受け取ったとは限りません。

冒頭のAさんのケースのように、犯罪者は、事情を知らない他人に荷物の受取りを依頼する場合が珍しくないです。
Bは、自身が検挙される危険を回避するためAさんを利用し、首尾よくAさんが郵便物を受け取れば、後日何食わぬ顔でAさんから郵便物を回収します。Aさんが検挙された場合は、Bは直ちに逃走してしまいます。

また、他人の名義を無断で受取先に指定して荷物を送らせ、無事に受け取ったことを確認してから、配達員を装い「誤配でした」と回収するケースもあります。

規制薬物の隠されている荷物を受け取った場合、その中に規制薬物が入っているとは知らなかったならば、犯罪事実の認識、すなわち犯罪の故意がなく、犯罪は不成立です。

クリーン・コントロールド・デリバリーによる無害品が隠された荷物受け取った場合も、規制薬物が入っていると思っていなかったならば、同じく犯罪の故意がなく、犯罪は不成立です。

規制薬物に対する故意の認定を左右する間接事実

荷物が規制薬物との認識があったか否かは、受け取った被疑者の内心の問題ですが、捜査機関側は、客観的な間接事実から、その認識があったと裏付けようとします。

【規制薬物との認識があったとの認定に傾く間接事実の例】

  • 事前に交わしていたメールに「くれぐれも周囲を注意してから受け取ってください」と捜査の手が入る危険性を告げたり、「頼まれていた品物を発送しました」など、ことさらに物品の名称を秘匿したりする内容があった
  • 配達員から荷物を受け取る際に、周囲の様子を再三見回し、警戒する素振りをしていた
  • 報酬をもらう約束で荷物の受取りを依頼されて引き受けたが、その約束した報酬の金額が不相当に高額である
  • 受取場所が、受け取った被疑者Aの住所ではなく、第三者の住居・事務所・店舗などの住所を受取場所として指定されていた など

これに対し、次の間接事実は、被疑者には規制薬物であるとの認識がなかったことを裏付けるものです。

【規制薬物との認識がなかったとの認定に傾く間接事実の例】

  • 事前に発送元や受取依頼者との間で交わしたメールに、規制薬物ではない送付物品に関するやりとりが続いていた
  • 配達員から荷物を受け取る際に、とくに警戒している素振りがなかった
  • 発送元や受取を依頼した者との間に長年の親交があり、これまでは違法行為を疑う事情もなかった など

弁護士としては、被疑者に規制薬物との認識がなかったことを推認させる間接事実を探しだして、故意を欠くことによる犯罪不成立を主張し、勾留請求・勾留延長の阻止、不起訴処分を得るための活動をします。

(2) 注意するべき取り調べの対応をアドバイス

被疑者が「覚せい剤だとは知らなかった」と故意を否定すると、捜査官が「はっきり覚せい剤だとは思わなくても、『覚せい剤も含まれるような、何か身体に有害で法律に違反する怪しい薬かもしれない』くらいは考えたのではないか?」というような誘導をする場合があります。

この誘いに乗って、「そのくらいは頭にありました。」などと供述してしまい、その内容の調書を作成されてしまうと万事休すです。「何か身体に有害で違法な薬物類」であるとの認識があれば、覚せい剤犯罪の故意があると認めるのが判例です(最高裁平成2年2月9日決定)。

このような調書を作成されてしまわないためには、早期に弁護士と面会(接見)し、取り調べを受ける際の注意点、保障されている黙秘権・供述拒否権の内容や、その行使方法などのアドバイスを受けることが重要です。

(3) 示談の代わりに贖罪寄付

刑事事件一般では、早期の釈放や起訴猶予処分を勝ち取るために、被害者との示談を成立させ、示談金を支払うことが重要です。しかし、覚せい剤事犯では、被害者が存在しません。

そこで、弁護士を通じて、弁護士会や育英会へ「贖罪寄付」を行い、犯罪被害者等の支援などに役立ててもらうことで、真摯な反省の意思を表明することができます。これにより、検察官・裁判官に、被疑者に有利な事情として考慮してもらえます。

贖罪寄付・供託の効果|本当に不起訴になるのか?

[参考記事]

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7.まとめ

コントロールド・デリバリーによって薬物事犯として逮捕された場合は、早期に弁護士を依頼することが大切です。

特に、身に覚えがなく、荷物が規制薬物だとは知らなかったという場合、故意を否認し、これを裏付ける事情を調査し、主張し、証拠をもって裏付ける弁護活動を徹底的に行うことが、早期の身柄釈放、不起訴処分につながります。

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