痴漢の刑事弁護全般について
電車やバスでの痴漢事件は後を断ちません。
痴漢には、都道府県ごとの「迷惑行為防止条例違反」になる痴漢と、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)に問われる痴漢の2種類があります。
どちらの痴漢事件に当てはまるかにより、逮捕される可能性があるのか?逮捕に続く勾留となるのか?が異なってきます。
同様にして、痴漢の類型によって、弁護士の刑事弁護のあり方も異なってきます。
このコラムでは、痴漢をしてしまった被疑者とその家族のために、弁護士が行う弁護活動について解説をしていきます。
1.痴漢とは
痴漢とは、一般的には「相手方被害者が性的羞恥心を抱くようなわいせつ行為」を意味します。
具体例は、満員電車内やバス乗車中に他の乗客の下半身を触ることです。
泉総合法律事務所が弁護に当たった事案としては、「満員電車の乗車中に誰が行ったか分からないことに乗じて特定の女性のスカートの中に手を入れて局部を触る」「満員電車で長椅子の端に座り、手すりに上腕を乗せたところ被害女性の尻が上腕にあたり、そのまま乗車し続けることを頻繁に繰り返していた」「ホテル内で同意を得ずに女性の局部に触った」も痴漢として検挙されています。
痴漢を含む性犯罪は社会問題となり、2023年(令和5年)に性犯罪に関する刑法改正、盗撮に関する性的姿態撮影等処罰法の制定施行が行われました。これにより、性犯罪一般の厳罰化が進んでいます。
2.痴漢を処罰する法令
痴漢は、刑法上の不同意わいせつ罪に該当する場合と、不同意わいせつ罪には該当しないが都道府県の迷惑行為防止条例に違反する場合とがあります。
大雑把な言い方をすると、悪質な痴漢(電車内で下着に手を入れて女性の局部触った事案など)は不同意わいせつ罪、軽度な痴漢(電車内で着衣の上から局部、臀部、乳房等を触る事案など)は迷惑行為防止条例違反となります。

[参考記事]
痴漢は何罪になる?刑罰と逮捕後の流れを解説
(1) 不同意わいせつ罪の場合
不同意わいせつ罪は下記の刑法176条に規定されており、以下に該当する場合に成立します。
刑法176条の条文
1. 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2. 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3. 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。」
上記の刑法176条に該当する不同意わいせつ罪の実行行為である「わいせつな行為」とは、被害者が性的羞恥心を持つような行為を意味します。
不同意わいせつ罪は、2017年7月に刑法が改正されてから親告罪ではなくなりました。よって、示談が成立しても不起訴となるとは限りません。
前科があったり、犯行態様が悪質だったりすれば、示談が成立しても検察官の判断で起訴されることもあります。
しかし、必ず起訴されるというわけでもありません。弁護活動により被害者との示談が成立すれば、不起訴になったり執行猶予判決を得られたりする可能性はあります。
それだけに、不同意わいせつの痴漢を犯してしまった場合、刑事弁護経験豊富な弁護士に早期の刑事弁護を依頼されることを強くお勧めします。
不同意わいせつ罪を犯した場合は6月以上10年以下の拘禁刑となります。
(2) 都道府県の迷惑行為防止条例違反の場合
都道府県で規定の表現は異なりますが、東京都の迷惑行為防止条例(略称)では次のように規定されています。
東京都迷惑防止条例5条1項
「1. 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。」
当所で弁護した事案としては、電車内で近くにいる女性の局部や臀部、乳房を着衣の上から触るという事例が大半を占めます。
迷惑行為防止条例違反の場合は都道府県で若干異なりますが、東京都迷惑行為防止条例違反では、刑罰は「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」です。常習の場合には、「2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」が科されます。
3.痴漢で逮捕されるケース
痴漢に限らず、刑事事件を起こした際には必ず逮捕されるというわけではありません。
容疑を認めており、逃亡や証拠隠滅をするおそれがなく、身元がはっきりしており、かつ軽微な犯罪行為であった場合は、警察での初回の取調べが終わった後、家族などに身元引受人として警察に迎えに来てもらうことになるでしょう。
痴漢で逮捕されるケースというのは、不同意わいせつの痴漢である場合や、同一女性にストーカー的に痴漢を繰り返す悪質な事案の場合、痴漢を認めず否認した場合(酔っぱらって覚えていない場合も含む)などです。
また、通常なら逮捕されない比較的軽微な痴漢でも、警察への対応や態度によっては逮捕されることもありえます。
(1) 痴漢で逮捕されたらどうなるのか
痴漢で逮捕されたら、最初の2日間(48時間)以内は警察の留置場で身柄拘束されます。その間、家族は本人(被疑者)と面会することは通常できません。弁護士のみが被疑者と接見することができます。
その後、速やかに検察庁に事件を送検され、検察官の取調べを受けます。
検察官は、悪質な痴漢や否認している痴漢の場合には、通常、被疑者を10日間警察署に留置する「勾留」をするよう裁判所に請求します。

[参考記事]
痴漢で逮捕されるケース|逮捕された後の流れはどうなるか
(2) 逮捕されない在宅事件の場合
在宅事件の場合、警察で上申書と調書を作成し、捜査は一旦終了します。
警察での初回の取調べが終わった時、家族に身元引受人として警察に迎えに来てもらうのが通常ですが、家族と連絡が取れないなどの事情がある時には、上司が身元引受人として迎えに来てもらうために稀に警察が職場に連絡を入れることがあるので注意が必要です。
このような場合には、会社に痴漢事件が発覚することもあります。
よって、身元引受人に迎えに来てもらう時、警察には「会社に絶対連絡しないでほしい」と強く訴える必要があります。
このように逮捕・勾留をされない「在宅事件」では、警察での調書作成が終わると、検察庁に書類送検され、検察官が刑事処分を下します
この間、被疑者は自宅でこれまで通り生活することができますが、警察・検察からの呼び出しには応じる必要があります。

[参考記事]
痴漢で在宅事件になる場合|在宅捜査になったらどうする?
4.痴漢事案の弁護活動
弁護士による痴漢の刑事弁護活動について説明いたします。
逮捕をされると、本人が弁護士を探して直接依頼することができません。そこで、ほとんどの場合は被疑者の家族から刑事弁護の依頼を受けることになります。
(1) 勾留の阻止
依頼を受けた弁護士は、検察官の取り調べに先立ち、早急に被疑者に接見します。ここで事件内容を把握するとともに、検察官の取り調べへの対応につき助言をします。
ご家族には、家族の身元引受書や上申書、嘆願書を作成してもらいます。
さらに、検察官が勾留請求を思いとどまるような内容の弁護人意見書を作成し、これらを弁護人選任届とともに検察官に提出します。
このような釈放活動の結果、検察官が裁判所に勾留を請求せず、被疑者を早期に釈放することも多くあります。
検察官が裁判所に対して勾留請求をした場合には、書類を補充するなどして勾留質問担当の裁判官に提出します。書類だけでは伝えきれない事情などがある場合、必要に応じて裁判官と面会をすることもあります。
このような刑事弁護活動の結果、勾留請求後でも、裁判官が勾留決定をせずに釈放となることが多数あります。
→「家族・子どもが逮捕された」
(2) 早期釈放
不同意わいせつ罪など悪質な痴漢の場合、あるいは容疑を否認している場合には、10日間の勾留決定がされ、裁判所から家族へと勾留決定となった旨の連絡がいくことも多いです。
勾留決定がされた場合、担当弁護士は、「勾留取消請求」や、釈放を求める裁判「準抗告」を申し立てることができます。
実は、これらはなかなか認容されないのが実情です。特に否認の場合、原則として準抗告は却下されます。
しかし、当事務所の代表弁護士は、不同意わいせつの痴漢や悪質な痴漢のケースでも、準抗告認容や勾留決定取消・釈放を勝ち取ったことがあります。最後まで諦めないことが重要です。
【逮捕・勾留されない事件(在宅事件)の場合】
逮捕・勾留がない在宅事件で不同意わいせつ以外の比較的軽微な痴漢犯罪の場合、弁護士に刑事弁護を依頼せず放置していると通常は罰金刑となります。
しかし、罰金刑でも前科です。「お金を払うだけだ」などと安易に考えると大きな後悔をすることになります。前科は資格や就職に影響を与えることもありえますので、決して甘くは考えず、刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼して不起訴の獲得をめざすことを強くおすすめします。
(3) 被害者との示談交渉
被疑者が痴漢行為を認めている自白事案では、被害者から示談を取り付けて不起訴を目指すことが中心となります。
示談が取れないなどで起訴された場合は、迷惑行為防止条例違反の痴漢では初犯ならば略式起訴で罰金刑となります。
不同意わいせつ罪は法定刑に罰金刑がありませんので、不起訴処分を獲得するには被害者からの示談を取り付けることが極めて重要となります。
示談していれば起訴されても初犯ならば執行猶予が付きますが、示談がないと起訴されれば初犯でも実刑の可能性は否定できません。
弁護士に弁護を依頼する場合には、示談交渉に多数取り組み弁護経験豊富な弁護士に依頼されることを強くお勧めします。
一方、被疑者が否認している場合は、自白して罪を認めて行う示談をすることはできません。
この場合、弁護士が被疑者から取り調べ内容をその都度聴取して、取り調べに対する適切な対応方法を助言して嫌疑不十分による不起訴を目指します。刑事弁護経験ある弁護士が明確な見通しをもって被疑者と協議しながら弁護活動をすることが必要になります。
取り調べ内容などから起訴するだけの証拠が十分あるとなれば、否認から自白に転じて示談を取り付けることも考えなければなりません。この判断は弁護経験豊富な弁護士でないと難しいものと言えます。

[参考記事]
痴漢の示談金相場はいくら?示談交渉の流れとポイント
5.痴漢冤罪を主張する場合
(1) 痴漢冤罪の弁護方針
痴漢は満員電車など他人に発覚されにくい状況で行われることから 、被害者の証言以外に客観的証拠がないことが通常です。そのため、痴漢冤罪も少なからずあります。
当所で相談を受けた事例として、痴漢の犯人と人違いで誤解され警察署に連行されたが否認して、微物検査(手のひらに被害女性の衣服の繊維が付着していないかどうかの検査)やDNA検査(口腔に綿棒を入れて粘膜からDNAを採取して被害者に同じDNAが付着していないか調べる)を受けてそのまま帰宅した事案が少なからずあります。
相談では、被害者と相談者の電車内での立ち位置などを聞き取り、人違いの可能性が高いと判断した時は、「DNA検査や微物検査で陽性となり警察に呼び出されたら、また相談して下さい」と言って相談を終わることが多々あります。
その後、相談を受けた方で警察から呼び出しを受けて当所に再相談された方はおりません。警察も状況から人違いの可能性があるとして、被害者以外の目撃証言などがない場合には慎重に対応し、すぐ逮捕とすることはあまりないのではと思います。

[参考記事]
痴漢の証拠とは?繊維鑑定・DNA鑑定で逮捕されるか
逆に、被害者の証言供述が具体的で迫真性をもっており信用性が高い場合や、目撃者の目撃証言があるなどの事情があるのに被疑者が否認した場合には、性犯罪の厳罰化傾向から逮捕・勾留される可能性が高くなります。
不同意わいせつ罪に該当する場合で自白しても、逮捕・勾留される可能性は相当程度あると思われます。

[参考記事]
痴漢冤罪を証明したい場合の正しい対応方法
(2) 酔っ払って痴漢したケース(否認)
「酔っぱらっていて痴漢をしたことを覚えていない」という方がいらっしゃいます。
しかし、「覚えていないから痴漢行為をしていない」ということにはなりません。この場合、痴漢行為を否認したとして逮捕されることが多いです。
特に、被疑者が「覚えていない」と否認している一方で目撃証言などの確実な証拠があった場合には、逮捕・勾留の後に起訴となり、警察の留置場ないし拘置所に長期間勾留されるのが通常です。こうなると、最悪の場合には無断欠勤として会社を解雇されてしまう可能性があります。
さらに、正式裁判(公判)となれば無罪判決を勝ち取ることは難しいです。
このような事態を避けるためにも、酔っぱらって痴漢し逮捕されてしまった方の家族は、お早めに弁護士に刑事弁護をご依頼ください。
弁護士ならば、酔っ払ってした痴漢事件の対応についても、取り調べに関するアドバイスから可能です。
例えば、不同意わいせつの痴漢の場合、罰金刑はありませんので、否認を続けると示談交渉できず執行猶予付き判決が厳しくなる(=実刑判決になる)可能性が高くなります。
一方、迷惑行為防止条例違反では、判決は通常罰金刑となります。しかし、罰金系でも前科になります。
痴漢を争うことで失うもの(会社の解雇や罰金)と、痴漢を認めて示談が成立することで得られる結果(不起訴)を考えてもらい、否認を貫くかどうかをご本人に決めていただくことになります。
当初は痴漢を否定していても、痴漢行為を認め被害者と示談できれば不起訴となり、経歴に傷がつかないことが多いでしょう。
6.終わりに
刑事事件では、起訴前弁護で不起訴処分を取り付けることが極めて重要になります。その弁護には痴漢などの刑事弁護経験豊富な弁護士に依頼すべきです。
痴漢においては、被害者と示談をすることで通常は不起訴となります。不起訴で早期に釈放されれば、通常は解雇・退学にならず、経歴にも傷がつきません。

[参考記事]
痴漢で不起訴を目指す方法とは?
弁護士は、痴漢の形態や被疑者・家族の意向に従って弁護活動をすることになります。当事務所が今まで対応してきた事件では、ほとんどのケースで被害者との示談が成立し、検事調べの段階で釈放・不起訴となっています。
痴漢で逮捕されてしまった方やそのご家族は、どうぞ一度弁護士にご相談ください。

